インボイス・消費税

宛名なしのレシートでもインボイス?適格簡易請求書を使える業種の線

結論

適格簡易請求書は、小売業・飲食店業・写真業・旅行業・タクシー業・駐車場業(不特定かつ多数向け)と、これらに準ずる事業で不特定かつ多数の者に資産の譲渡等を行う事業だけが交付できます(消費税法施行令70条の11)。適格請求書と比べ、受け取る人の氏名・名称(宛名)の記載が不要で、「税率ごとの消費税額等」か「適用税率」のどちらか一方で足ります。準ずる事業かどうかは個々の事業の性質で判断され、宿泊・航空・レンタカーは当たり、相手を一意に特定して契約する電気・ガス・電話料金などは一般的には当たりません。

  • 小売業・飲食店業・写真業・旅行業・タクシー業は「不特定かつ多数」の限定がなく、事業者向けの販売でも適格簡易請求書を交付できる(国税庁 インボイスQ&A 問24)
  • 会員限定のセミナーでも、相手方を一意に特定せず多数を対象にしていれば適格簡易請求書でよいとされた例がある(同 問24-2)
  • 法人成りすると登録番号が変わるため、レシートや領収書の発行者名と登録番号を会社のものに差し替える必要がある

インボイス制度では、請求書に宛名が必要だと説明されることが多くあります。ところが、コンビニやスーパーのレシートには宛名がなく、それでも仕入税額控除に使えます。このレシートが「適格簡易請求書」です。

ただし、適格簡易請求書は、どの事業者でも使えるわけではありません。使えるのは、不特定かつ多数の者を相手にする一定の事業だけです。この記事では、その線引きと記載事項を国税庁のインボイスQ&Aで確認し、法人成りのときに気をつける点を整理します。

使えるのは、不特定かつ多数を相手にする7つの事業

国税庁 インボイスQ&A 問24によると、適格請求書発行事業者が次の事業を行う場合は、適格請求書に代えて適格簡易請求書を交付できます(消費税法57条の4第2項、消費税法施行令70条の11)。

事業「不特定かつ多数」の限定
① 小売業なし
② 飲食店業なし
③ 写真業なし
④ 旅行業なし
⑤ タクシー業なし
⑥ 駐車場業不特定かつ多数の者に対するものに限る
⑦ これらに準ずる事業不特定かつ多数の者に資産の譲渡等を行うものに限る

①から⑤には「不特定かつ多数」の限定がありません。同じQ&Aは、例えば小売業として行う課税資産の譲渡等なら、その形態を問わず適格簡易請求書を交付できるとしています。事業者向けに商品を売る小売店でも使えるということです。

「準ずる事業」かどうかは、相手を一意に特定するかで分かれる

⑦の「準ずる事業」に当たるかは、個々の事業の性質で判断します。国税庁 インボイスQ&A 問24は、次のような事業が該当するとしています。

  • 相手方の氏名などを確認せず、取引条件をあらかじめ示して、相手を問わず広く資産の譲渡等を行うことが常態である事業
  • 事業の性質上、相手方の氏名などを確認するとしても、相手を問わず広く一般を対象に行っている事業(取引のたびに相手を特定し、相手ごとに個別に行う取引が常態の事業を除く)

問24-2は具体例を挙げています。

当たる例当たらない例(一般的に)
ホテル・旅館などの宿泊サービス通常の事業者間取引
航空サービス電気・ガス・水道水の供給
レンタカー事業電話料金
会員の中から広く参加者を募るセミナー相手方を一意に特定して契約し、契約内容に応じて個々に行う取引

同じQ&Aは、参加者が会員に限られるセミナーでも、相手方を一意に特定したうえで開催するものではなく、対象者も多数に上ることから、適格簡易請求書を交付できる事業に当たるとしています。限られた範囲の相手でも、一人ひとりと個別に契約していなければ当たり得るという線です。

自分の事業に当てはめると

予約制のサロンや教室、スクール、整体のように、一般の客を広く受け付けて、決まった料金表でサービスを提供する事業は、⑦の性質に近いと考えられます。一方、顧客ごとに見積もりを出して個別に契約する受託開発、デザイン、コンサルティングは、相手を一意に特定する取引なので、通常の適格請求書を交付する形になります。迷う場合は、「取引のたびに相手を特定して個別に契約しているか」を基準に考えてください。

記載事項の違いは「宛名」と「税率か税額か」

国税庁 インボイスQ&A 問58によると、適格簡易請求書の記載事項は次の5つです。

  1. 適格請求書発行事業者の氏名または名称と登録番号
  2. 課税資産の譲渡等を行った年月日
  3. 資産または役務の内容(軽減税率の対象なら、その旨)
  4. 税抜価額または税込価額を税率ごとに区分して合計した金額
  5. 税率ごとに区分した消費税額等、または適用税率

適格請求書との違いは2点です。受け取る事業者の氏名または名称(宛名)の記載が不要な点と、消費税額等と適用税率のどちらか一方で足りる点です。両方を書いてもかまいません。

問24-2は、宛名として会員名を書いた場合でも適格簡易請求書であることに変わりはないとしています。宛名を書いたからといって、税額と税率の両方を書かなければならなくなるわけではありません。

「宛名がないとインボイスにならない」は半分だけ正しい

この誤解は、適格請求書の記載事項に「書類の交付を受ける事業者の氏名または名称」があることから生まれています。通常の取引ではその通りですが、上の7つの事業には適格簡易請求書という別の様式が用意されています。逆に、受託開発やデザインの請求書で宛名を省くと、適格請求書の記載事項が欠けることになります。宛名を省けるかどうかは、自分の事業が7つに当たるかで決まります。

法人成りでは、発行者名と登録番号を差し替える

適格簡易請求書でも、発行者の氏名または名称と登録番号は必須です。個人事業主が法人成りすると、発行者は会社になり、登録番号も会社のものに変わります。レジやPOS、領収書の印刷を、会社として登録を受けた日に合わせて切り替える必要があります。

登録の申請時期と、設立日から登録を受ける方法は法人成りでインボイス番号は変わる。設立日から登録する方法で整理しています。切り替え前の個人の登録番号のまま会社の売上のレシートを出すと、記載事項を満たさないレシートになります。

まとめ

  • 適格簡易請求書を交付できるのは、小売業・飲食店業・写真業・旅行業・タクシー業・駐車場業と、これらに準ずる不特定多数向けの事業だけ
  • 小売業など5つは「不特定かつ多数」の限定がなく、事業者向けの販売でも使える
  • 準ずる事業かは、相手を一意に特定して個別に契約するかで分かれる。宿泊・航空・レンタカー・広く募るセミナーは当たり、電気・ガス・電話料金は一般的に当たらない
  • 記載事項の違いは、宛名が不要な点と、消費税額等か適用税率のどちらかで足りる点
  • 法人成りでは、発行者名と登録番号を会社のものに差し替える

インボイスの書類の形は業種で決まりますが、登録するかどうか、法人化するかどうかは手取りの差で決まります。自分の売上と経費で確かめてください。

よくある質問

宛名を書いたら、適格簡易請求書ではなくなりますか?

なりません。国税庁 インボイスQ&A 問24-2は、宛名として会員名を記載した場合でも適格簡易請求書であることに変わりはなく、消費税額等か適用税率のいずれかの記載があれば問題ないとしています。

適格簡易請求書を受け取った側は、仕入税額控除ができますか?

できます。適格簡易請求書は適格請求書に代えて交付されるもので、記載事項がそろっていれば仕入税額控除の要件となる書類として保存できます。

個人事業のときのレシートを、法人成り後もそのまま使えますか?

使えません。適格簡易請求書には発行者の氏名・名称と登録番号の記載が必要で、法人成りすると発行者は会社に、登録番号は会社の番号に変わります。レジやレシートの設定を設立日に合わせて切り替える必要があります。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。