税金の基礎

役員借入金は社長の相続財産。会社が赤字でも額面で課税される

結論

社長が会社に貸した1,000万円は、財産評価基本通達204により元本1,000万円(+既経過利息)で相続財産になり、設例では相続税が80.0万円から180.0万円に増えます。黒字の会社で生前に債務免除すると法人税等が295.3万円かかり、相続税の減少は29.5万円にとどまります。債務超過で繰越欠損金がある会社なら、法人税等は増えずに相続税が100.0万円減ります。

  • 財産評価基本通達205が元本から外す例示は、破産・民事再生などの手続開始や6か月以上の休業など。会社が赤字でも営業を続けていれば例示に当たらない
  • 債務免除すると、会社に債務免除益(益金)が立つ。黒字の会社では法人税等が相続税の減少を大きく上回る
  • 社長以外に株主がいる会社で債務免除して株価が上がると、相続税法基本通達9-2により他の株主への贈与として扱われる

法人化した直後は、運転資金として社長が自分の会社にお金を貸すことがよくあります。会社の帳簿では「役員借入金」、社長の側では会社への貸付金です。返済を急ぐ理由がないので、何年も残ったままになりがちです。

この貸付金は、社長が亡くなると社長の相続財産になります。しかも評価は額面です。会社が赤字で返せる見込みがなくても、それだけでは減りません。

貸付金は、額面で相続財産になる

国税庁の財産評価基本通達204は、貸付金などの債権を次のように評価するとしています。

  • 元本の価額:その返済されるべき金額
  • 利息の価額:課税時期現在の既経過利息として支払を受けるべき金額

会社への貸付金1,000万円なら、元本は1,000万円です。利息を付けていなければ、利息の価額は加わりません。

相続人が会社を継ぐなら、会社に対して1,000万円を請求できる権利を相続したことになります。ところが一人会社では、請求する側も請求される側も同じ家族です。実際には返してもらうつもりのないお金に、相続税がかかります。

会社が赤字でも、営業している限り減らない

額面から外せる場合は、通達205が決めています。例示は次のとおりです。

債務者(会社)の状態元本に算入しない
手形交換所(これに準ずる機関を含む)で取引停止処分を受けた担保されていない部分
更生手続・再生手続の開始決定、特別清算の開始命令、破産手続の開始決定があった担保されていない部分
業況不振などで事業を廃止し、または6か月以上休業している担保されていない部分
更生計画・再生計画などで債権の切捨て・棚上げが決まった切り捨てられる部分など

通達には「その他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるとき」という文言もあります。ただ、例示されているのは法的な手続きや事業の停止で、赤字や債務超過で営業を続けている会社は、この表のどれにも当たりません。

一人会社で社長が亡くなると、会社をどうするかは相続人が決めます。相続の時点ではまだ会社が動いていることが多く、貸付金は額面のまま評価されます。

生前に債務免除すると、会社に法人税がかかる

貸付金を減らす方法としてまず浮かぶのが、生前に債務を免除することです。免除すれば社長の財産から貸付金が消えます。ただし会社の側では、返さなくてよくなった借入金が債務免除益として益金になります。

事業所得1,200万円(売上1,400万円・経費200万円)の株式会社で、当サイトの計算エンジンの最適報酬をとった場合、通常の税引前利益は459.5万円です。これに債務免除益を上乗せして法人税等の増加を出し、社長が株を100%持っている場合の相続税と並べました。

貸付金そのまま相続:相続税債務免除の法人税等株価の増加(社長が100%株主)債務免除後:相続税相続税の減少相続税の減少−法人税等
500.0万円130.0万円127.5万円372.5万円117.2万円12.8万円−114.7万円
1,000.0万円180.0万円295.3万円704.7万円150.5万円29.5万円−265.8万円
2,000.0万円320.0万円631.2万円1,368.8万円225.3万円94.7万円−536.5万円

※ 売上1,400万円・経費200万円・東京23区・株式会社の最適報酬/2026年(令和8年)分基準。債務免除益は通常の利益に上乗せ(繰越欠損金なし) ※ 貸付金以外の課税価格5,000万円・法定相続人2人(配偶者と子1人)・配偶者の税額軽減前の総額。株の評価は純資産価額で1対1と置いた概算。計算は scripts/yakuin-kariirekin-souzoku.mjs

黒字の会社では、債務免除は割に合いません。貸付金1,000万円を免除すると、法人税等が295.3万円増えます。その一方、会社の純資産が増えて株の評価額が上がるので、相続財産は貸付金の分だけ減るわけではありません。相続税の減少は29.5万円で、法人税等を差し引くと265.8万円の持ち出しです。

債務超過の会社なら、話が変わる

債務免除が効くのは、会社が債務超過で繰越欠損金がある場合です。社長の貸付金が積み上がっている会社は、実際にはこちらの形が多いでしょう。赤字を社長の貸付けで埋めてきた結果として借入金が残っているからです。

貸付金(=債務超過額・繰越欠損金)そのまま相続:相続税債務免除の法人税等株価の増加債務免除後:相続税相続税の減少
500.0万円130.0万円0.0万円0.0万円80.0万円50.0万円
1,000.0万円180.0万円0.0万円0.0万円80.0万円100.0万円
2,000.0万円320.0万円0.0万円0.0万円80.0万円240.0万円

※ 繰越欠損金は中小法人等として所得の全額と相殺できる前提。貸付金以外の課税価格5,000万円・法定相続人2人・配偶者の税額軽減前の総額

債務免除益は繰越欠損金と相殺されるので、法人税等は増えません。免除した後も純資産は0円で、株の評価額は上がりません。相続財産からは貸付金がそのまま消え、1,000万円なら相続税が100.0万円減ります。

2つの表の違いは、会社の中にある「含み」の違いです。黒字の会社では、貸付金を免除しても、その価値が株に移るだけです。債務超過の会社では、貸付金の額面に見合う財産が会社の中にもともとないので、免除しても株に何も移りません。額面で課税されていた「返ってこないお金」を、課税の対象から外すことになります。

繰越欠損金の繰越期間と相殺の上限は繰越欠損金は10年で扱っています。欠損金が期限切れになっていると、債務免除益に法人税がかかります。

他に株主がいると、みなし贈与になる

債務免除には、もう1つ見落としやすい点があります。相続税法基本通達9-2は、対価を受けないで同族会社の債務の免除をした結果、その会社の株式の価額が増加した場合、株主は増加した部分を免除をした者から贈与で取得したものとして扱うとしています。

社長が株を100%持っていれば、増えた株価は社長自身のものなので、この問題は起きません。配偶者や子が株を持っている会社では、黒字の会社で債務免除をすると、株価の増加分が配偶者や子への贈与になります。

同じ通達は、会社が資力を喪失した場合に取締役等が債務の免除をしたときは、会社の債務超過額に相当する部分を贈与として扱わないとしています。債務超過の会社で、債務超過額の範囲で免除するなら、株価は上がらず、贈与の問題も出ません。

貸付金を積み上げない役員報酬の決め方

役員借入金が増える典型は、役員報酬を高く設定しすぎて会社の資金が足りなくなり、社長が受け取った報酬の一部を会社に貸し戻す形です。報酬には所得税と社会保険料がかかっているので、この往復は税と保険料を払ってお金を回しているだけになります。

判定ツールの最適報酬は、手取りが最大になる額を1万円刻みで探したものです。会社の資金繰りまでは見ていないので、最適報酬を払うと会社の資金が足りなくなる月があるなら、報酬を下げて会社に残すほうが借入金を積み上げずに済みます。役員借入金を返済してもらうときの扱いは役員借入金の返済と利息にまとめています。

まとめ

  • 社長の会社への貸付金は、財産評価基本通達204により元本の額面で相続財産になる
  • 通達205が元本から外す例示は、破産などの手続開始や6か月以上の休業など。赤字でも営業している会社は当たらない
  • 黒字の会社で債務免除すると、1,000万円で法人税等が295.3万円増え、相続税の減少は29.5万円にとどまる
  • 債務超過で繰越欠損金がある会社なら、法人税等は増えずに相続税が100.0万円減る
  • 社長以外に株主がいる会社では、債務免除で株価が上がった部分がその株主へのみなし贈与になる

役員借入金は、毎年の手取りの計算には出てきません。一般論の数字ではなく、自分の売上と経費で会社に毎年いくら残るかを確かめ、社長の貸付金が積み上がらない報酬の水準を見てください。

よくある質問

会社が債務超過なら、社長の貸付金は0円で評価できますか?

財産評価基本通達205は、手形交換所の取引停止処分、更生・再生・特別清算・破産の手続開始、業況不振で事業を廃止または6か月以上休業している場合などを例示しています。債務超過というだけで営業を続けている会社は、この例示には当たりません。

役員借入金を少しずつ返してもらえば、相続財産は減りますか?

返済を受けた現金は社長の手元に残るので、それだけでは相続財産の合計は変わりません。返済された現金を生活費や贈与に使った分だけ減ります。返済と利息の扱いは役員借入金の返済の記事で扱っています。

社長が会社に貸したお金に利息を付けていない場合、相続税の評価はどうなりますか?

財産評価基本通達204は、利息の価額を課税時期現在の既経過利息として支払を受けるべき金額としています。無利息の契約で受け取るべき利息がなければ、元本の額面だけで評価されます。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。