設立の手続き

残業代は1分単位?15分切り捨てが違法になる理由と許される端数処理

結論

残業時間は原則1分単位で数えます。日ごとに15分未満を切り捨てる運用は労働基準法違反で、認められる例外は、1か月の時間外・休日・深夜の各合計の1時間未満を「30分未満切捨て・30分以上切上げ」にする方法と、日ごとに切り上げる方法です。月給25万円・毎日1時間台の残業なら、日ごとの15分切り捨ては3年で約16.3万円、月単位の処理は差がほぼ0(+0.3万円)でした。

  • 厚労省のリーフレットは、勤怠システムの丸め機能で1日の時間外のうち15分未満を切り捨てる運用、30分単位でしか残業申請を認めない運用を、どちらも労働基準法違反の例として挙げている
  • 1か月合計の30分ルールは、切捨てと切上げが半々で起きるため、36か月の試算で1分単位との差は月平均3分。日ごとの15分切捨ては月平均151分の取りこぼし
  • 日ごとの15分切捨ての取りこぼしは1日平均7分。「毎日15分漏れる」前提の試算(3年35.2万円)の半分弱になる(当サイト試算)

「タイムカードは15分単位で締めるもの」と思っている経営者は少なくありません。勤怠システムの初期設定に丸め機能があり、前の勤め先でもそうだった、という理由で引き継がれやすい運用です。ここでは、どの丸め方が違反になり、どれが認められるのかを整理し、差額を実際に計算します。

なぜ1分単位が原則になるのか

労働基準法24条は、賃金をその全額を支払わなければならないと定めています(全額払いの原則)。37条は、時間外・休日・深夜の労働に割増賃金を払うよう定めています。働いた時間を切り捨てれば、その分の賃金と割増賃金が払われないことになり、どちらの条文にも反します。

厚労省のリーフレット(R6.9)は、労働時間は毎日適正に把握し、それに基づいて賃金を計算し支払う必要があるとし、次の運用を違反の例として挙げています。

違反とされる運用(リーフレットの例)何が切り捨てられているか
勤怠システムの端数処理機能で、1日の時間外のうち15分未満を一律に切り捨てる毎日の残業の端数
残業申請を30分単位に限り、30分未満の残業を申請させない申請単位に満たない残業
タイムカード打刻前の着替え・清掃・朝礼を労働時間と扱わない始業前の作業時間

2つ目は見落とされがちです。勤怠の記録が1分単位でも、申請のルールで30分未満を出させなければ、実質的に切り捨てているのと同じになります。3つ目は、そもそも労働時間に数えるかどうかの問題で、使用者の指示で行う準備や後始末は労働時間に当たるとされています。記録の仕方そのものは労働時間の把握義務の記事で扱っています。

認められる端数処理は2つだけ

リーフレットが例外として認めているのは次の2つです。

  1. 1か月の合計での処理:1か月の時間外労働・休日労働・深夜業の各々の時間数の合計に1時間未満の端数があるとき、30分未満を切り捨て、30分以上を1時間に切り上げる
  2. 日ごとの切り上げ:1日の労働時間について、一定時間に満たない時間を切り上げたうえで、その分の賃金を払う

1は昭和63年の通達(基発150号)に由来する取扱いで、リーフレットは「常に労働者の不利となるものではなく、事務簡便を目的としたもの」として認められると説明しています。切り捨てだけでなく切り上げもセットになっている点が要件の核心です。日ごとの時間に30分ルールを当てはめることはできません。

2は労働者に有利な方向なので問題になりません。ただし会社の負担は増えます。どれくらい増えるかは次の表で示します。

なお、時間外・休日・深夜は「各々の」合計で処理します。時間外と深夜を足してから丸めるのではなく、区分ごとに丸める点に注意が必要です。

ある1か月で比べると、差はどれくらいか

当サイトの再現スクリプト(scripts/zangyodai-1pun-tani.mjs)で、月21日勤務、毎日の残業が「60分+0〜59分の端数」という1か月を作り、丸め方ごとに月の残業時間を出しました。端数は固定シードの乱数なので、同じスクリプトで同じ結果が再現できます。

方法月の残業時間1分単位との差
1分単位(原則)34.10時間(2,046分)0分
日ごとに15分未満切捨て31.50時間(1,890分)-156分
日ごとに30分未満切捨て28.00時間(1,680分)-366分
月合計で30分未満切捨て・30分以上切上げ34.00時間(2,040分)-6分
日ごとに15分単位で切上げ36.75時間(2,205分)+159分

日ごとの15分切り捨ては、1か月で2.6時間分の残業を消します。これに対して、月合計の30分ルールで動くのは最大でも30分です。この月はたまたま6分の切り捨てでしたが、別の月なら切り上げになります。月単位の処理は誤差が1か月に1回しか生じず、方向もランダムなので、長く続けても偏りが積み上がらないのが、通達で認められている理由と読めます。

3年分にすると、いくら未払いになるか

同じ条件の月を36か月分発生させ、1分単位との差を金額にしました。時間単価は週40時間から求めた1か月平均所定労働時間(173.8時間)で月給を割り、残業は全て2割5分増しの時間外労働とみなしています。賃金請求権の時効は、労働基準法115条と附則143条3項により当分の間3年です。

月給25万円(割増後の時間単価 1,798円)

方法1分単位との差(月平均)年時効3年分
日ごとに15分未満切捨て-151分-5.4万円-16.3万円
日ごとに30分未満切捨て-307分-11.0万円-33.1万円
月合計で30分未満切捨て・30分以上切上げ+3分+0.1万円+0.3万円
日ごとに15分単位で切上げ+143分+5.2万円+15.5万円

月給30万円(割増後の時間単価 2,158円)

方法1分単位との差(月平均)年時効3年分
日ごとに15分未満切捨て-151分-6.5万円-19.6万円
日ごとに30分未満切捨て-307分-13.3万円-39.8万円
月合計で30分未満切捨て・30分以上切上げ+3分+0.1万円+0.4万円
日ごとに15分単位で切上げ+143分+6.2万円+18.5万円

前提:週5日・月21日勤務、所定労働時間=法定労働時間、毎日の残業60分+端数0〜59分(一様乱数・固定シード)、時間単価の円未満は丸めない。遅延損害金・付加金は含まない概算です。

36か月の試算では、月合計の30分ルールはわずかに労働者側へ振れました(3年で+0.3万円)。認められている処理を使う限り、会社が得をする仕組みにはなっていません。

「毎日15分漏れる」試算との違い

労働時間の把握義務の記事では、月給25万円で1日15分の記録漏れが3年で35.2万円になると試算しました。今回の15分切り捨ては3年で16.3万円で、半分弱です。

違いは、切り捨てで消える時間が毎日15分ではないことです。端数が0〜14分のどこに来るかが均等なら、日ごとの15分切り捨てで消えるのは1日平均7分、月21日で2.45時間です。30分切り捨てなら1日平均14.5分、月5.08時間になります。

運用1日に消える時間月給25万円・3年分
始業前の作業を毎日15分記録しない15分35.2万円
日ごとに15分未満切捨て平均7分16.3万円
日ごとに30分未満切捨て平均14.5分33.1万円

金額の大小よりも、消える時間が見えにくいことが問題です。15分切り捨ては「残業15分未満の日」だけでなく、残業が1時間14分の日にも14分を消します。毎日少しずつ残業がある職場ほど、丸めの影響を受けます。

一人会社が人を雇ったときの設計

社長や役員は労働者ではないので、自分の労働時間を1分単位で数える義務はありません。従業員を1人雇った時点で、その人について全額払いと割増賃金のルールが適用されます。設計の選択肢は次の3つです。

方法事務の手間会社の負担(1分単位比・月給25万円)
1分単位で計算する勤怠システムなら手間は変わらない0
月合計で30分ルールを使う月1回の丸めで済む3年で+0.3万円
日ごとに15分単位で切り上げる計算は簡単年+5.2万円

勤怠システムを使うなら、丸め機能を切って1分単位で集計するのが最も単純です。丸め機能を残す場合は、日ごとの切り捨てになっていないかを設定画面で確認してください。定額で残業代を払う設計を考えているなら、固定残業代と最低賃金の記事で超過分の精算の考え方を、賃金から差し引ける範囲は賃金支払いの5原則の記事を参照してください。

丸め設定を見直すときに確認すること

すでに日ごとの切り捨てで運用していた場合、設定を直すだけでは過去の分は残ります。賃金請求権の時効は3年なので、さかのぼって精算するかどうか、どの期間をどう計算するかは、個別の事情で変わります。判断が必要な場合は社会保険労務士など専門家に確認する価値があります。

見直しの際は、次の3点を合わせて確認すると漏れが減ります。

  • 勤怠システムの丸め設定が「日ごと」か「月ごと」か、切り捨てか切り上げか
  • 残業申請の単位(15分・30分単位の申請ルールが残っていないか)
  • 始業前・終業後の準備や片付けが、打刻の外に出ていないか

残業代は会社の人件費として、法人化した場合の損益にもそのまま効きます。人件費を経費に含めたうえで、自分の売上と経費で法人化の判定を確かめてください。

まとめ

  • 残業時間は原則1分単位。日ごとに15分・30分未満を切り捨てる運用や、30分単位でしか申請させない運用は、厚労省リーフレットで労働基準法違反の例とされている
  • 認められる例外は、1か月の時間外・休日・深夜の各合計で「30分未満切捨て・30分以上切上げ」と、日ごとの切り上げの2つ
  • 月給25万円・毎日1時間台の残業で、日ごとの15分切り捨ては3年で16.3万円、30分切り捨ては33.1万円の未払いになる(当サイト試算)
  • 月合計の30分ルールは36か月で1分単位との差が+0.3万円。会社が得をする仕組みではない
  • 15分切り捨てで消えるのは1日平均7分で、「毎日15分漏れる」試算の半分弱

よくある質問

勤怠システムの「15分単位で丸める」設定を使うのは違法ですか?

1日の時間外労働のうち15分未満を一律に切り捨て、その分の賃金を払わない運用は、厚労省のリーフレットで労働基準法違反の例として示されています。切り上げる方向の丸めであれば問題ないとされています。

1か月の残業時間を30分単位で丸めてもよいですか?

1か月の時間外労働・休日労働・深夜業それぞれの合計に1時間未満の端数がある場合、30分未満を切り捨て、30分以上を1時間に切り上げる処理は、事務簡便のためとして認められています。日ごとの時間に当てはめることはできません。

社長自身の労働時間も1分単位で記録する必要がありますか?

社長や役員は労働者ではないため、残業代や労働時間の端数処理のルールは適用されません。従業員を1人でも雇うと、その従業員について適用されます。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。