役員報酬
小さい会社の内部留保は1社1,222万円。15年前はマイナスだった(法人企業統計)
結論
財務省の法人企業統計では、資本金1千万円未満の会社221.3万社の利益剰余金は2025年度に27.05兆円、1社あたり1,222万円でした。2010年度は全体でマイナス1.13兆円(1社あたりマイナス68万円)で、15年間で積み上がった計算です。1社あたりの当期純利益は141万円で、残高は売上高の1.9か月分にあたります。当サイトの計算エンジンでは、事業所得1,200万円の一人会社が手取り最大の役員報酬(月54万円)を取ると、会社に残る税引後利益は年353.6万円で、3.5年で平均の1,222万円に届きます。
- 利益剰余金は欠損の会社も含めた平均。業種別では不動産業2,179万円から生活関連サービス業410万円まで5倍の開きがある
- 資本金1千万円未満の会社の純資産のうち73.2%が利益剰余金。資本金ではなく、残してきた利益が会社の体力になっている
- 会社に残した利益は、配当や退職金で取り出すときにもう一度税金がかかる。残す額は役員報酬とセットで決める
このテーマの全体像 役員報酬の決め方(最適額の計算)
一人会社の社長が毎年決めることの1つが、利益のうちどれだけを役員報酬で受け取り、どれだけを会社に残すかです。実際の小さな会社は、どれくらいの利益を会社に積み上げているのか。財務省の法人企業統計で、貸借対照表の利益剰余金(いわゆる内部留保の残高)を確かめます。
資本金1千万円未満の会社は、1社あたり1,222万円
法人企業統計は、標本の会社の財務諸表から全体を推計しています。2025年度の利益剰余金を資本金階級別に1社あたりで並べました。
| 資本金 | 社数 | 1社あたり利益剰余金 | 利益剰余金÷純資産 | 利益剰余金÷売上高(か月分) | 1社あたり当期純利益 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1千万円未満 | 2,213,455社 | 1,222万円 | 73.2% | 1.9か月 | 141万円 |
| 1千万〜2千万円 | 593,691社 | 9,106万円 | 52.9% | 3.2か月 | 885万円 |
| 2千万〜5千万円 | 194,094社 | 34,680万円 | 83.2% | 4.2か月 | 2,892万円 |
| 5千万〜1億円 | 65,186社 | 88,632万円 | 69.4% | 3.8か月 | 7,198万円 |
| 1億〜10億円 | 26,317社 | 400,069万円 | 72.5% | 3.6か月 | 52,988万円 |
| 全規模 | 3,097,309社 | 21,142万円 | 66.7% | 4.6か月 | 3,120万円 |
※ 財務省「法人企業統計調査」時系列データ(年次別・金融業、保険業以外の業種・原数値、e-Stat)から当サイトが計算。1社あたりは総額÷母集団の社数。資本金10億円以上は省略
資本金1千万円未満の会社の利益剰余金は、1社あたり1,222万円でした。売上高と比べると1.9か月分で、資本金が大きい階級(3〜4か月分)より薄くなっています。
一方で、純資産に占める利益剰余金の割合は73.2%です。小さい会社は資本金が数十万〜数百万円しかないことが多く、会社の純資産のほとんどは、設立後に残してきた利益でできています。
2010年度はマイナスだった。15年で28兆円積み上がった
資本金1千万円未満の会社の利益剰余金を年度別に並べると、15年前とは様子がまったく違います。
| 年度 | 社数 | 利益剰余金(総額) | 1社あたり利益剰余金 | 利益剰余金÷純資産 | 1社あたり当期純利益 |
|---|---|---|---|---|---|
| 2005年度 | 1,541,151社 | 1.00兆円 | 65万円 | 12.5% | 31万円 |
| 2010年度 | 1,658,225社 | −1.13兆円 | −68万円 | −18.0% | −24万円 |
| 2013年度 | 1,702,125社 | 8.86兆円 | 521万円 | 43.2% | 65万円 |
| 2015年度 | 1,757,917社 | 9.19兆円 | 523万円 | 59.0% | 99万円 |
| 2018年度 | 1,858,904社 | 13.04兆円 | 702万円 | 55.3% | 122万円 |
| 2020年度 | 1,925,375社 | 18.03兆円 | 936万円 | 71.7% | 80万円 |
| 2022年度 | 2,032,488社 | 21.02兆円 | 1,034万円 | 73.1% | 167万円 |
| 2023年度 | 2,090,998社 | 22.21兆円 | 1,062万円 | 67.6% | 141万円 |
| 2024年度 | 2,152,605社 | 25.47兆円 | 1,183万円 | 70.8% | 111万円 |
| 2025年度 | 2,213,455社 | 27.05兆円 | 1,222万円 | 73.2% | 141万円 |
※ 出典は上の表と同じ。利益剰余金は各年度末の残高
2010年度は、小さい会社全体で利益剰余金がマイナス1.13兆円でした。リーマン・ショック後で当期純利益も1社あたりマイナス24万円です。そこから2025年度の27.05兆円まで、15年間で約28兆円積み上がりました。社数も166万社から221万社に増えているので、1社あたりで見てもマイナス68万円から1,222万円です。
小さい会社の統計は標本が少なく、年度ごとの振れが大きい点には注意が要ります。2010年度から2013年度への急な増加は、景気の回復だけでなく標本の入れ替わりの影響も含まれている可能性があります。それでも2013年度以降は、ほぼ一貫して残高が増えています。
業種によって410万円から2,179万円まで違う
資本金1千万円未満の会社について、業種別の1社あたり利益剰余金を3年度平均で出しました。小さい業種の単年度の振れをならすためです。
| 業種 | 社数(2025年度) | 1社あたり利益剰余金 | 利益剰余金÷純資産 | 1社あたり当期純利益 |
|---|---|---|---|---|
| 不動産業 | 287,659社 | 2,179万円 | 63.1% | 166万円 |
| その他のサービス業 | 111,463社 | 1,869万円 | 85.5% | 224万円 |
| 製造業 | 169,797社 | 1,778万円 | 83.2% | 114万円 |
| 医療、福祉業 | 68,968社 | 1,347万円 | 83.8% | 195万円 |
| 卸売業 | 142,905社 | 1,181万円 | 79.0% | 132万円 |
| 建設業 | 367,333社 | 1,059万円 | 76.0% | 167万円 |
| 専門・技術サービス業 | 254,335社 | 962万円 | 79.0% | 145万円 |
| 小売業 | 254,722社 | 584万円 | 64.7% | 134万円 |
| 飲食サービス業 | 122,447社 | 535万円 | 63.2% | −39万円 |
| 情報通信業 | 108,946社 | 450万円 | 50.7% | −32万円 |
| 生活関連サービス業 | 102,572社 | 410万円 | 62.2% | −9万円 |
※ 財務省「法人企業統計調査」資本金1千万円未満の業種別(e-Stat)から当サイトが計算。2023〜2025年度の総額の平均を社数の平均で割った値。専門・技術サービス業は「その他の学術研究、専門・技術サービス業」
一人で稼ぐ業種が多い情報通信業は450万円で、平均の半分以下です。当期純利益も3年度平均でマイナス32万円でした。情報通信業の小さい会社は、利益の大半を役員報酬として社長に払っていることが、業種別の役員給与の集計からも分かっています。会社に利益が残らない形です。
不動産業が2,179万円と最も多いのは、賃貸物件を持つ資産管理型の会社が多く含まれるためと考えられます。利益を報酬で取り出さず、物件の借入れの返済に回すと、利益剰余金として積み上がります。
一人会社が最適な報酬を取ると、毎年いくら残るか
統計の平均1,222万円は、一人会社の社長がどれくらいの期間で積み上げる額なのでしょうか。当サイトの計算エンジンで、手取りが最大になる役員報酬を取ったとき、会社に残る税引後の利益を出しました。
| 事業所得(青色申告特別控除前) | 手取り最大の役員報酬 | 会社に残る税引後利益(年) | 1,222万円に届くまで |
|---|---|---|---|
| 1,000万円 | 月54万円 | 197.1万円 | 6.2年 |
| 1,200万円 | 月54万円 | 353.6万円 | 3.5年 |
| 1,500万円 | 月54万円 | 584.1万円 | 2.1年 |
| 2,000万円 | 月90万円 | 609.5万円 | 2.0年 |
※ 経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準。会社に残る額は法人税・地方法人税・法人住民税・法人事業税を引いた後で、取り出すときの税は引いていない
事業所得1,000万〜1,500万円では、役員報酬は月54万円にとどまり、残りを会社に残すのが手取り最大になります。この条件では、報酬を月54万円より増やした分にかかる所得税・住民税・社会保険料の割合が、会社に残した利益にかかる法人の税(法人税は年800万円以下の部分が15%)を上回るためです。報酬の決め方は役員報酬の最適額で詳しく扱っています。
事業所得1,200万円なら、3.5年で統計の平均に届きます。法人化して数年たった一人会社に1,000万円を超える利益剰余金があるのは、珍しいことではありません。
残した利益は、取り出すときにもう一度税金がかかる
ただし、会社に残した利益は社長個人のお金ではありません。個人で使うには、配当か役員退職金として取り出す必要があり、そこでもう一度課税されます。計算エンジンは取り出しコストを20%と置いて手取りを評価しています。
取り出し方によって負担は大きく変わります。配当は総合課税で配当控除を差し引いても税率が高くなりやすく、役員退職金は退職所得控除と2分の1課税で負担が軽くなります。取り出し方ごとの負担と法人化の判定への影響は、法人に残した利益を退職金で引き出す場合で試算しています。
統計の平均は、会社に残すことを前提にした小さい会社の姿です。自分の売上と経費で役員報酬を変えたとき、手取りと会社に残る額がどう分かれるかを確かめてください。計算の前提は計算方法にまとめています。
まとめ
- 資本金1千万円未満の会社の利益剰余金は2025年度に27.05兆円、1社あたり1,222万円。売上高の1.9か月分
- 2010年度は全体でマイナス1.13兆円で、15年間で約28兆円積み上がった。純資産の73.2%が利益剰余金
- 業種別では不動産業2,179万円から生活関連サービス業410万円まで。情報通信業は450万円で、利益を報酬で払い切る形
- 事業所得1,200万円の一人会社は、手取り最大の役員報酬(月54万円)で年353.6万円が会社に残り、3.5年で平均に届く
- 会社に残した利益は取り出すときにも課税される。残す額は役員報酬と取り出し方をセットで決める
よくある質問
利益剰余金と現金は同じですか。
違います。利益剰余金は会社がこれまで残してきた利益の累計額で、貸借対照表の純資産の部に載る数字です。その利益が現金のまま残っているとは限らず、設備や売掛金、貸付金などに形を変えていることもあります。
1社あたり1,222万円は、典型的な小さい会社の姿ですか。
典型とは言えません。総額を社数で割った平均なので、利益剰余金が大きい会社に引っ張られ、繰越欠損を抱えたマイナスの会社も含まれます。業種別でも410万円から2,179万円まで大きく違います。
一人会社は利益を会社に残したほうが得ですか。
条件によります。法人税の軽減税率が個人の所得税・住民税より低い所得帯では、会社に残すと当面の税は減ります。ただし残した利益を配当や役員退職金で取り出すときにも課税されるため、取り出し方と時期まで含めて比べる必要があります。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。