役員報酬
業種別に見た小さい会社の役員給与。情報通信業は1人317万円で利益30万円
結論
財務省の法人企業統計で資本金1千万円未満の会社を業種別に見ると(2023〜2025年度の3年度平均)、役員1人あたり役員給与は不動産業262万円から生活関連サービス業489万円まで開きます。一人会社に近い情報通信業は1社あたり従業員2.0人・役員給与317万円・経常利益30万円で、計算エンジンでこの役員給与が最適報酬になるのは事業所得390万円、法人化すると年48.4万円不利な水準です。
- 従業員が1社あたり3人未満の業種(不動産・広告・情報通信・卸売・専門技術サービス)は、役員1人あたり役員給与が262万〜469万円
- 情報通信業の役員1人あたり役員給与は2013〜2015年度の461万円から2023〜2025年度の317万円へ144万円下がった。全産業は19万円上がっている
- 全産業平均の397万円も、最適報酬になる事業所得は480万円。統計の平均的な小さな会社は、判定ツールの損益分岐点1,266万円よりずっと低い水準にある
このテーマの全体像 役員報酬の決め方(最適額の計算)
資本金1千万円未満の会社全体では、役員1人あたりの役員給与は404.5万円、利益の約7割を報酬に回していました。ただ、建設業の会社とITの一人会社とでは、売上の規模も人の数も違います。法人化を考える人が知りたいのは、自分と同じような会社の数字です。同じ財務省の法人企業統計を業種別に開き直しました。
従業員の少ない業種ほど、一人会社の数字に近い
法人企業統計の時系列データには、資本金1千万円未満の会社の業種別の値があります。標本が少なく単年度では振れるので、2023〜2025年度の3年度分を合算してから、社数や役員数で割りました。表は1社あたりの従業員数の少ない順に並べています。
| 業種 | 社数(年平均) | 1社あたり役員数 | 1社あたり従業員数 | 1社あたり売上高 | 役員1人あたり役員給与 | 1社あたり経常利益 | 役員給与÷(役員給与+経常利益) |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 全産業 | 215.2万社 | 1.51人 | 4.3人 | 7,811万円 | 397万円 | 241万円 | 71.3% |
| 不動産業 | 28.0万社 | 1.44人 | 0.7人 | 3,081万円 | 262万円 | 327万円 | 53.6% |
| 広告業 | 2.9万社 | 1.17人 | 1.4人 | 4,586万円 | 469万円 | 121万円 | 82.0% |
| 情報通信業 | 10.3万社 | 1.28人 | 2.0人 | 2,424万円 | 317万円 | 30万円 | 93.2% |
| 卸売業 | 13.9万社 | 1.47人 | 2.4人 | 12,717万円 | 390万円 | 242万円 | 70.3% |
| その他の学術研究、専門・技術サービス業 | 24.0万社 | 1.33人 | 2.6人 | 4,030万円 | 425万円 | 223万円 | 71.7% |
| 建設業 | 36.0万社 | 1.78人 | 3.4人 | 8,868万円 | 446万円 | 265万円 | 75.0% |
| 製造業 | 17.1万社 | 1.69人 | 5.3人 | 7,648万円 | 442万円 | 202万円 | 78.7% |
| その他のサービス業 | 10.9万社 | 1.61人 | 5.3人 | 7,913万円 | 462万円 | 326万円 | 69.5% |
| 小売業 | 25.3万社 | 1.55人 | 6.1人 | 15,383万円 | 401万円 | 262万円 | 70.4% |
| 飲食サービス業 | 11.9万社 | 1.32人 | 6.2人 | 6,346万円 | 296万円 | 10万円 | 97.5% |
| 生活関連サービス業 | 9.8万社 | 1.46人 | 8.9人 | 7,070万円 | 489万円 | 101万円 | 87.6% |
| 医療、福祉業 | 6.6万社 | 1.40人 | 12.5人 | 8,750万円 | 462万円 | 344万円 | 65.3% |
※ 財務省「法人企業統計調査」時系列データ(年次別・原数値)から当サイトが計算。3年度分の合計を3年度分の社数・役員数の合計で割った値。役員数は常勤・非常勤を問わず給与を受ける人数、従業員数は臨時従業員を換算して含む
フリーランスが法人成りして作る会社に近いのは、1社あたり従業員が3人未満の業種です。エンジニアやデザイナーは情報通信業や専門・技術サービス業、Webマーケティングは広告業に入ることが多くなります。この5業種の役員1人あたり役員給与は262万〜469万円でした。
不動産業は報酬を抑え、利益を会社に残す
業種ごとの違いが最も大きいのは、役員給与と経常利益の分け方です。
不動産業は役員1人あたり262万円と最も低く、利益の46.4%を会社に残しています(役員給与の割合53.6%)。従業員はほぼいません(0.7人)。不動産を法人で持ち、家族を役員にして少しずつ報酬を払う資産管理会社の形が多い業種で、その性格が数字に出ています。資産管理会社の仕組みは不動産管理会社の方式で扱っています。
情報通信業と飲食サービス業は反対に、利益のほぼすべてを役員給与に回しています。情報通信業は1社あたり経常利益30万円、飲食サービス業は10万円で、会社に残る利益はわずかです。
情報通信業の役員給与は10年で144万円下がった
10年前の3年度平均と比べると、業種によって動きが逆向きでした。
| 業種 | 2013〜2015年度 | 2023〜2025年度 | 増減 |
|---|---|---|---|
| 全産業 | 378万円 | 397万円 | +19万円 |
| 建設業 | 369万円 | 446万円 | +77万円 |
| 製造業 | 396万円 | 442万円 | +46万円 |
| 卸売業 | 411万円 | 390万円 | −21万円 |
| 小売業 | 359万円 | 401万円 | +42万円 |
| 不動産業 | 301万円 | 262万円 | −39万円 |
| 広告業 | 437万円 | 469万円 | +32万円 |
| 生活関連サービス業 | 369万円 | 489万円 | +120万円 |
| 情報通信業 | 461万円 | 317万円 | −144万円 |
| その他のサービス業 | 389万円 | 462万円 | +73万円 |
| 飲食サービス業 | 325万円 | 296万円 | −29万円 |
| 医療、福祉業 | 462万円 | 462万円 | +1万円 |
| その他の学術研究、専門・技術サービス業 | 438万円 | 425万円 | −13万円 |
※ 役員1人あたり役員給与(資本金1千万円未満)。それぞれ3年度分の合計を役員数の合計で割った値
全産業では19万円上がったのに、情報通信業は144万円下がりました。建設業(+77万円)や生活関連サービス業(+120万円)とは逆の動きです。
この統計は会社の合計を役員数で割った平均なので、報酬の低い新しい会社が大量に加われば、既存の会社の報酬が変わらなくても平均は下がります。情報通信業の資本金1千万円未満の会社は、この間に年平均6.8万社から10.3万社へ1.5倍に増えています(業種ごとの社数の増え方は小さい会社が増えた業種)。ただ、統計から報酬が下がった理由を特定することはできません。
統計の役員給与は、事業所得400万〜500万円台の一人社長の水準
では、この役員給与の水準を、一人社長が最適な報酬を選んだ場合と比べるとどうなるか。判定ツールの計算エンジンで、事業所得を10万円刻みで上げ、手取りが最大になる役員報酬(年額)が統計の役員給与に届く事業所得を探しました。最適報酬の決まり方は役員報酬はいくらが最適かで説明しています。
| 業種 | 役員1人あたり役員給与 | 最適報酬がその額に届く事業所得 | そのときの最適報酬(月) | 法人化の実質差額(3期目以降・年) |
|---|---|---|---|---|
| 全産業 | 397万円 | 480万円 | 34万円 | −49.4万円 |
| 情報通信業 | 317万円 | 390万円 | 28万円 | −48.4万円 |
| その他の学術研究、専門・技術サービス業 | 425万円 | 500万円 | 36万円 | −49.8万円 |
| 広告業 | 469万円 | 580万円 | 42万円 | −39.5万円 |
| 建設業 | 446万円 | 530万円 | 39万円 | −49.3万円 |
※ 東京23区・40歳未満・単身・インボイス登録済み・合同会社・経費200万円。実質差額は法人化後の手取りから個人のままの手取りを引いた額で、税理士報酬の増加分を含む
統計の役員給与は、事業所得390万〜580万円の一人社長の最適報酬と同じ水準でした。この所得帯で法人化すると、個人のままより年40万〜50万円手取りが少なくなる計算です。判定ツールの損益分岐点(同じ条件で1,266万円)には遠く届きません。
もちろん、統計の会社には役員が複数いる会社や従業員を雇う会社も含まれ、法人化の理由も税だけではありません。取引先の要件、信用、許認可、将来の事業拡大のために法人を選ぶ人もいます。ただ「同業の小さな会社の社長はこのくらい取っている」という数字を、そのまま自分の法人化の目安にすると、損益分岐点のずっと手前で法人化してしまうおそれがあります。職種ごとの分岐点の違いはライター・エンジニア・デザイナーで法人化の分岐点は932万円違うで計算しています。
まとめ
- 資本金1千万円未満の会社の役員1人あたり役員給与は、業種によって262万(不動産業)〜489万円(生活関連サービス業)と開く(2023〜2025年度平均)
- 従業員が少なく一人会社に近い5業種は262万〜469万円。情報通信業は317万円で、利益の93.2%を報酬に回している
- 不動産業は報酬を抑えて利益の46.4%を会社に残す。資産管理会社の形が多い
- 情報通信業の役員1人あたり役員給与は10年で144万円下がった。全産業は19万円上がっている
- 統計の役員給与は、事業所得390万〜580万円の一人社長の最適報酬と同じ水準で、損益分岐点1,266万円を大きく下回る
同業の平均ではなく、自分の売上と経費で、法人化した場合の最適報酬と手取りの差を判定ツールで確かめてください。
よくある質問
なぜ3年度の平均にしているのですか。
法人企業統計は標本調査で、資本金1千万円未満の会社は社数に比べて標本が少なく、業種まで細かく分けると年度ごとに値が振れます。3年度分の合計を3年度分の社数・役員数で割ることで、単年度の振れを小さくしています。
情報通信業の役員給与が下がったのは、IT業界の報酬が下がったということですか。
そうとは言えません。この統計は会社単位の合計を役員数で割った平均なので、報酬の低い新しい会社が多く加わるだけでも平均は下がります。統計からは、どちらの要因かを分けられません。
自分の業種の平均より役員報酬が高いと、税務署に否認されますか。
役員報酬が不相当に高額として損金にならないかは、業務の内容や会社の収益、同種・同規模の会社の支給状況などから個別に判断されます。統計の平均を上回っただけで否認されるわけではありません。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。