法人化の判断

法人化の分岐点を超える個人事業主は4.9%。住民税の全数データで数える

結論

総務省の令和7年度 市町村税課税状況等の調では、営業等所得者(事業所得が最も大きい納税義務者)は2,184,805人で、住民税の課税標準額が1,000万円を超えるのは107,393人・4.9%です。判定ツールの損益分岐点(独身・東京23区で事業所得1,266万円)は課税標準額1,040.5万円に当たるので、法人化が有利に傾く層はおおむねこの4.9%に重なります。配偶者に収入がなければ分岐点は1,016万円に下がり、該当する層は8.2%に広がります。

  • 第6表は所得割を払う営業等所得者だけが対象で、均等割のみの納税義務者は調査から除かれている。分布の下側が切られている
  • 課税標準額1,000万円超の割合は営業等所得者4.92%・給与所得者2.04%。個人事業主が豊かだからではなく、下側が切られているため
  • 分岐点にあたる段階(課税標準額1,000万〜2,000万円)の1人あたり小規模企業共済等掛金控除は45.0万円。全体平均12.3万円の3.7倍

法人化の判断で最初に出てくるのは「所得がいくらを超えたら」という線です。では、その線を超えている個人事業主は実際に何人いるのか。総務省の市町村税課税状況等の調は、全市町村の個人住民税の課税状況を集計したもので、納税義務者を所得の種類ごとに分けて、課税標準額の段階別に数えています。標本調査ではなく、課税の実績を全部足した数字です。

この記事では、その第6表(営業等所得者)を再集計し、判定ツールの計算エンジンが出す損益分岐点を同じ尺度に換算して、何人がその上にいるかを数えました。表は node scripts/shichoson-kazei-eigyo-shotoku.mjs で再生成できます。

「営業等所得者」は、事業所得が一番大きい納税義務者

この調査では、納税義務者を4つの所得者区分に分けています。「この表の見方」に定義があります。

区分定義
給与所得者各所得金額のうち、給与所得の金額が最も大きい者
営業等所得者各所得金額のうち事業所得が最も大きく、かつ事業所得のうち製造業・卸売業・小売業・サービス業・漁業その他の事業から生じる所得が最も大きい者
農業所得者事業所得が最も大きく、かつそのうち農業所得が最も大きい者
その他の所得者上記以外の者

法人化を検討している個人事業主は、この営業等所得者に入ります。ただし定義どおり、人を雇っている事業主も含まれますし、給与所得のほうが大きい兼業の人は給与所得者に数えられます。

分母の性質に、先に2つ断りが必要です。

  1. 第5表から第14表は、所得割の納税義務者だけが対象です。 均等割のみの納税義務者は調査から除かれています。所得が少なくて所得割が出ない事業主は、この218万人に入っていません
  2. 分離課税がある人は第6表から抜けます。 長期・短期の譲渡所得、株式等の譲渡所得等、上場株式等の配当所得、先物取引の雑所得等がある場合は第10表に回されます。令和7年度は第11表(合計)62,206,393人のうち1,100,091人、全体の1.8%がこの第10表です

つまりこの表は、所得割を払っている営業等所得者の分布です。個人事業主全体の分布ではありません。この点は後でもう一度出てきます。

営業等所得者218万人の課税標準額は、36.1%が100万円以下

課税標準額の段階別に並べると次のようになります。令和7年度の市町村民税分、全国の合計です。

住民税の課税標準額の段階納税義務者数構成比この段階以上の累計1人あたり総所得金額等1人あたり所得控除額
10万円以下97,806人4.5%100.0%92.6万円87.4万円
10万円超100万円以下690,949人31.6%95.5%155.0万円102.9万円
100万円超200万円以下503,024人23.0%63.9%266.2万円119.7万円
200万円超300万円以下310,193人14.2%40.9%379.5万円134.0万円
300万円超400万円以下181,950人8.3%26.7%494.0万円148.4万円
400万円超550万円以下145,381人6.7%18.3%629.2万円163.0万円
550万円超700万円以下76,111人3.5%11.7%794.9万円177.0万円
700万円超1,000万円以下71,998人3.3%8.2%1,020.2万円191.8万円
1,000万円超2,000万円以下70,307人3.2%4.9%1,587.2万円221.7万円
2,000万円超5,000万円以下29,762人1.4%1.7%3,205.2万円223.0万円
5,000万円超1億円以下5,638人0.3%0.3%6,913.0万円236.3万円
1億円超1,686人0.1%0.1%19,546.6万円228.5万円
合計2,184,805人100.0%—440.3万円129.7万円

※ 総務省「令和7年度 市町村税課税状況等の調」第6表(営業等所得者)の市町村民税分から集計。人数と金額は公式Excelの値で、1人あたりは段階ごとの金額を人数で割ったもの ※ 令和7年度の個人住民税は令和6年分の所得に対する課税。所得税の納税義務「あり」「なし」の内訳は、令和6年分の所得税における定額減税の影響で本年度は記載がない

課税標準額が100万円以下の層が36.1%、200万円以下で59.1%を占めます。1人あたりの所得控除額は、最下段では総所得金額等92.6万円に対して87.4万円、94.4%に達し、課税標準額がほとんど残りません。

所得控除額は段階が上がるほどおおむね増えますが、増え方は緩やかです。全体では総所得金額等9.62兆円に対して所得控除額が29.5%。1人あたりで見ると、最下段の87.4万円に対していちばん大きい段階でも236.3万円で、2.7倍にしかなりません。国民健康保険料には賦課限度額があり、国民年金保険料は定額、基礎控除と扶養関係の控除も定額だからです。

判定ツールの分岐点を、同じ尺度に換算する

ここで問題になるのは尺度です。判定ツールが出す損益分岐点は事業所得(売上−経費、青色申告特別控除の前)ですが、この表の段階は住民税の課税標準額です。間に青色申告特別控除と所得控除が入るので、そのまま並べられません。

そこで計算エンジンに損益分岐点の事業所得を入れ、同じ条件での住民税の課税標準額を出しました。

条件損益分岐となる事業所得(売上−経費)青色控除後の事業所得住民税の課税標準額人数を数えた境目境目を超える営業等所得者割合
基本(独身・インボイス登録済み)1,266万円1,201万円1,040.5万円1,000万円超107,393人4.9%
配偶者あり(無収入)1,016万円951万円758.2万円700万円超179,391人8.2%
配偶者あり+扶養1人1,066万円1,001万円786.0万円700万円超179,391人8.2%
40〜59歳(介護保険あり)1,243万円1,178万円1,000.5万円1,000万円超107,393人4.9%
大阪市1,283万円1,218万円1,058.5万円1,000万円超107,393人4.9%
白色申告793万円793万円642.4万円550万円超255,502人11.7%

※ 損益分岐点は経費200万円・東京23区(特別区統一保険料率)・40歳未満・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準。「大阪市」の行だけ自治体を変えている ※ 課税標準額は同条件で計算エンジンが出した住民税の課税標準額。人数は、その課税標準額が入る段階の下限を境目として、第6表の令和7年度の人数を足したもの ※ 境目は段階の区切りなので、分岐点そのものと一致しない。たとえば基本条件の1,040.5万円は「1,000万円超2,000万円以下」の段階の中にあるため、107,393人には課税標準額1,000万〜1,040万円の人も含まれる(人数はわずかに多めに出る)

独身・東京23区の基本条件では、分岐点は課税標準額1,040.5万円。**その上にいる営業等所得者は107,393人で、所得割を払う営業等所得者の4.9%**でした。

条件が変わると、この割合は大きく動きます。配偶者に収入がなければ分岐点は1,016万円に下がり、課税標準額では700万円の境目をまたぐので8.2%。青色申告をしていなければ分岐点は793万円まで下がり、11.7%になります。同じ母集団を数えているのに、前提の置き方で割合が2倍以上変わるわけです。分岐点が条件でどう動くかは個人事業主の法人化の目安と損益分岐点にまとめてあります。

なおこの換算は、年の違いをまたいでいます。公式データは令和7年度(令和6年分の所得)で、計算エンジンは令和8年分基準です。それでも物差しがずれにくいのは、個人住民税の基礎控除が令和3年度分から43万円で据え置かれているためです。令和8年度税制改正では所得税の基礎控除が62万円に引き上げられましたが、個人住民税で対応したのは給与所得控除で、基礎控除は検討課題として残っています。残る差は国民健康保険料率と国民年金保険料の年による変動で、そこは社会保険料控除として課税標準額に効きます。

給与所得者より上位層が厚く見えるのは、下側が切られているから

同じ表の第5表(給与所得者)と並べると、直感と逆の結果が出ます。

住民税の課税標準額の段階営業等所得者構成比給与所得者構成比
10万円以下97,806人4.5%1,400,703人2.8%
10万円超100万円以下690,949人31.6%12,267,660人24.4%
100万円超200万円以下503,024人23.0%14,808,733人29.5%
200万円超300万円以下310,193人14.2%9,701,047人19.3%
300万円超400万円以下181,950人8.3%5,158,628人10.3%
400万円超550万円以下145,381人6.7%3,480,150人6.9%
550万円超700万円以下76,111人3.5%1,301,202人2.6%
700万円超1,000万円以下71,998人3.3%1,104,619人2.2%
1,000万円超2,000万円以下70,307人3.2%791,234人1.6%
2,000万円超5,000万円以下29,762人1.4%198,219人0.4%
5,000万円超1億円以下5,638人0.3%26,287人0.1%
1億円超1,686人0.1%7,403人0.0%
合計2,184,805人100.0%50,245,885人100.0%

課税標準額1,000万円を超える割合は、営業等所得者が4.92%、給与所得者が2.04%。営業等所得者のほうが2.4倍高く出ます。700万円超でも8.21%対4.23%で、やはり営業等所得者が上です。

これは個人事業主のほうが稼いでいるという話ではありません。分母の作り方が違うからです。 第6表は所得割の納税義務者しか数えていません。給与所得者は源泉徴収で広く課税の網に入り、所得の低い人も納税義務者として数えられます。一方、所得の少ない事業主は所得割が出ずに均等割だけの納税義務者となり、この表から落ちます。営業等所得者の分布は下側が切り落とされた形になっており、残った人の中では上位層の比率が高く出ます。

この見方は、同じ論点を別の統計で見た一人で働く個人事業主の収益、1,250万円以上は1.0%と照らすと分かりやすくなります。就業構造基本調査は申告や納税の有無に関係なく働く人を数えるので、雇人がいない業主397.7万人のうち1,250万円以上は1.0%でした。課税データの4.9%とは、分母の性質がまったく違います。分岐点を超える人の割合は、どの母集団で数えるかで1.0%から4.9%まで動きます。

分岐点のあたりの層は、すでに個人側の控除を積んでいる

第6表には内訳表があり、所得控除の中身が段階別に出ています。社会保険料控除と小規模企業共済等掛金控除を1人あたりで見ます。

住民税の課税標準額の段階1人あたり社会保険料控除1人あたり小規模企業共済等掛金控除
10万円以下25.2万円4.4万円
10万円超100万円以下34.1万円5.8万円
100万円超200万円以下46.1万円8.0万円
200万円超300万円以下55.7万円10.9万円
300万円超400万円以下64.7万円14.8万円
400万円超550万円以下72.7万円19.8万円
550万円超700万円以下80.0万円25.3万円
700万円超1,000万円以下88.0万円32.6万円
1,000万円超2,000万円以下101.2万円45.0万円
2,000万円超5,000万円以下119.0万円56.5万円
5,000万円超1億円以下131.3万円60.5万円
1億円超130.7万円50.6万円
合計51.7万円12.3万円

※ 第6表(2) 内訳表(調査表第52表)の市町村民税分から集計。段階ごとの控除額を、総括表の同じ段階の納税義務者数で割ったもの

分岐点が入る課税標準額「1,000万円超2,000万円以下」の段階では、1人あたりの小規模企業共済等掛金控除が45.0万円です。全体平均12.3万円の3.7倍。この控除の対象は、小規模企業共済法の共済契約の掛金、確定拠出年金の企業型年金加入者掛金または個人型年金加入者掛金(iDeCo)、心身障害者扶養共済制度の掛金の3種類です。法人化を考える水準の事業主は、個人のままでできる所得の圧縮をかなり使っていることになります。

これは判定の前提に影響します。判定ツールは個人側の控除を基礎控除と社会保険料控除だけで組んでいて、この掛金は個人側にも法人側にも見込んでいません。小規模企業共済は法人成りした後も条件を満たせば続けられる一方、拠出できる額の枠は加入している制度で変わります(小規模企業共済は法人成りしても続けられるか)。満額近く積んでいる人は、法人成り後も同じ額を続けられるかを確かめてから、試算の分岐点を当ててください。

社会保険料控除のほうは、計算エンジンの概算と突き合わせられます。東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)で事業所得1,266万円のとき、エンジンの国民健康保険料は96万円、国民年金保険料は21.5万円、合計117.5万円です。公式データの同じ段階の1人あたりは101.2万円で、16.3万円低い。

この差は、公式の数字が全国・全世帯構成の平均であることから出ます。国民健康保険料は自治体で大きく違い(国民健康保険料の自治体別比較)、世帯の国保を世帯主以外が払っている場合はその人の控除になります。国民年金に免除や学生納付特例の期間がある人、年の途中まで会社員で協会けんぽに入っていた人も混じります。方向としては、東京23区・独身で単独に計算したエンジンの値が、実績の平均より1割強(14%)高めに出ると読めます。計算の前提は計算根拠にまとめてあります。

この数字を自分の判断に使うときの注意

割合の数字は、母集団と尺度を確かめないと意味が反転します。この記事の4.9%についても、次の3点は外せません。

  • 分母は「所得割を払っている営業等所得者」。均等割のみの人と、分離課税のある人(全体の1.8%)が入っていない
  • 尺度は住民税の課税標準額で、事業所得や売上ではない。事業所得から課税標準額への換算は、配偶者・扶養親族・加入している共済の有無で変わる
  • 令和7年度は令和6年分の所得への課税。所得の水準は1年半ほど前のもの

そして、分岐点を超えているかどうかは、法人化すべきかどうかの答えではありません。超えていても設立費用と税理士報酬で初年度は逆転しますし、法人住民税の均等割は赤字でも毎年かかります。超えていなくても、厚生年金や傷病手当金の将来価値は単年の手取り比較には出てきません。一般論の割合ではなく、自分の売上と経費と家族構成で確かめてください。

まとめ

  • 令和7年度の市町村税課税状況等の調では、所得割を払う営業等所得者は2,184,805人。課税標準額が1,000万円を超えるのは107,393人・4.9%
  • 判定ツールの損益分岐点(独身・東京23区で事業所得1,266万円)は課税標準額1,040.5万円。配偶者に収入がなければ1,016万円・8.2%、白色申告なら793万円・11.7%まで広がる
  • 課税標準額1,000万円超の割合は営業等所得者4.92%・給与所得者2.04%。個人事業主が豊かだからではなく、第6表から均等割のみの納税義務者が除かれ、分布の下側が切られているため
  • 分岐点にあたる段階の1人あたり小規模企業共済等掛金控除は45.0万円で、全体平均12.3万円の3.7倍。個人のままでできる控除をすでに使っている層
  • 同じ段階の1人あたり社会保険料控除101.2万円に対し、計算エンジンの東京23区・独身の概算は117.5万円。独身・単独計算の試算は実績の平均より高めに出る

よくある質問

「営業等所得者」は個人事業主と同じ意味ですか。

完全には同じではありません。各所得のうち事業所得が最も大きく、かつ事業所得のうち製造業・卸売業・小売業・サービス業・漁業その他の事業から生じる所得が最も大きい納税義務者を指します。農業所得が最も大きい人は農業所得者として別に数えられ、人を雇っている事業主も含まれます。

なぜ個人事業主の数が218万人しかないのですか。

この表は所得割を払っている人だけを数えているためです。均等割だけの納税義務者は調査対象から外れ、所得が少なくて所得割が出ない人は入りません。また分離課税(株式の譲渡や不動産の譲渡など)がある人は第10表へ回され、第6表から抜けます。

課税標準額と事業所得はどう違いますか。

課税標準額は、総所得金額等から社会保険料控除・基礎控除などの所得控除を引いた後の金額です。事業所得(売上−経費)より小さくなります。この記事では判定ツールの計算エンジンで事業所得を課税標準額に換算してから、段階別の人数と突き合わせています。

令和7年度のデータは、今年の判断に使えますか。

令和7年度の個人住民税は令和6年分の所得に課税されたものです。所得の水準は1年半ほど前のものになりますが、個人住民税の基礎控除は令和3年度分から43万円で据え置かれているため、課税標準額という物差し自体はほぼ変わっていません。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。