法人化の判断
一人で働く個人事業主の収益、1,250万円以上は1.0%。会社役員は11.6%
結論
総務省の令和4年就業構造基本調査では、人を雇わずに事業をしている「雇人がいない業主」は397.7万人で、主な仕事からの年間収益の中央値は150万〜199万円の階級でした。判定ツールの損益分岐点(単身・事業所得1,266万円)を含む1,250万円以上は1.0%(4.0万人)、配偶者に収入がない場合の分岐点1,016万円を含む1,000万円以上でも2.1%です。会社などの役員は中央値が400万〜499万円の階級で、1,250万円以上が11.6%でした。
- 自営業主の「収益」は売上から必要経費を引いた額で、判定ツールの事業所得(青色申告特別控除前)にほぼ対応する
- フリーランス(実店舗も雇人もない自営業主か一人社長)209.4万人も中央値は150万〜199万円で、1,250万円以上は1.3%
- この調査は申告や納税の有無に関係なく働く人を数えるため、申告所得税の統計(法人化の線を超える事業所得者5.9%)より割合が低く出る
このテーマの全体像 個人事業主の法人化の目安と損益分岐点
法人化が話題になるのは、所得がある程度の水準を超えてからです。では、人を雇わずに一人で事業をしている人のうち、その水準にいるのはどのくらいか。総務省が5年ごとに行う就業構造基本調査は、確定申告をしているかどうかに関係なく、働いている人を従業上の地位ごとに数え、年間の収入・収益の分布を出しています。個人事業主と会社役員、フリーランスを同じ物差しで並べられる数少ない統計です。
自営業主の「所得」は、売上から経費を引いた収益
就業構造基本調査の「所得」は、主な仕事から得た1年間の収入・収益です。用語の解説によると、区分ごとに中身が違います。
| 区分 | 「所得」の中身 |
|---|---|
| 自営業主 | 過去1年間に事業から得た収益(売上総額から必要な経費を差し引いたもの) |
| 雇用者(会社などの役員を含む) | 賃金・給料・諸手当・ボーナスなど過去1年間に得た税込みの給与総額 |
自営業主の収益は、青色申告特別控除や所得控除を引く前の額です。判定ツールの入力でいえば**売上から経費を引いた事業所得(青色申告特別控除前)**に近く、損益分岐点とそのまま重ねられます。
区分の定義も確認しておきます。
- 雇人がいない業主:自営業主のうち、ふだん有給の従業員を雇わず、自分一人で又は家族と事業を営んでいる者
- 雇人がいる業主:自営業主のうち、ふだん有給の従業員を雇っている者
- 会社などの役員:会社の社長・取締役・監査役、団体・公益法人や独立行政法人の理事・監事など
- フリーランス:実店舗がなく、雇人もいない自営業主又は一人社長であって、その仕事で収入を得る者(別掲)
雇人がいない業主397.7万人、中央値は150万〜199万円
令和4年の表03001(全国)から、区分ごとの分布を計算しました。
| 区分 | 人数 | 中央値が入る階級 | 300万円未満 | 500万円以上 | 1,000万円以上 | 1,250万円以上 | 1,500万円以上 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 雇人がいない業主 | 397.7万人 | 150~199万円 | 73.5% | 10.9% | 2.1% | 1.0% | 0.7% |
| 雇人がいる業主 | 103.7万人 | 300~399万円 | 46.4% | 32.4% | 13.8% | 8.9% | 6.8% |
| 会社などの役員 | 354.7万人 | 400~499万円 | 31.8% | 46.5% | 19.0% | 11.6% | 8.7% |
| フリーランス | 209.4万人 | 150~199万円 | 67.2% | 14.3% | 2.5% | 1.3% | 0.9% |
| 正規の職員・従業員 | 3,611.5万人 | 400~499万円 | 25.1% | 37.0% | 4.6% | 1.5% | 0.7% |
※ 総務省「令和4年就業構造基本調査」表03001(e-Stat)から当サイトが計算。割合の分母は所得不詳を除いた人数。人数は不詳を含む総数
一人で事業をしている業主の73.5%は収益300万円未満です。中央値は150万〜199万円の階級に入り、正規の職員・従業員(400万〜499万円)の半分以下です。兼業や年金を受け取りながらの小さな事業、家族と営む商店なども含まれるため、専業のフリーランスだけの分布よりは低く出ています。
損益分岐点を超えるのは1.0〜2.1%
判定ツールの損益分岐点は、東京23区・40歳未満・インボイス登録済みの条件で、単身なら事業所得1,266万円、配偶者に収入がない場合は1,016万円です。雇人がいない業主の上のほうの階級を、上から積み上げると次のようになります。
| 収益の階級 | 人数 | 累積(上から) |
|---|---|---|
| 1500万円以上 | 2.6万人 | 2.6万人(0.7%) |
| 1250~1499万円 | 1.4万人 | 4.0万人(1.0%) |
| 1000~1249万円 | 4.0万人 | 8.0万人(2.1%) |
| 900~999万円 | 3.2万人 | 11.3万人(2.9%) |
| 800~899万円 | 4.3万人 | 15.5万人(4.0%) |
| 700~799万円 | 5.5万人 | 21.1万人(5.4%) |
| 600~699万円 | 7.6万人 | 28.7万人(7.4%) |
※ 雇人がいない業主。割合の分母は所得不詳を除いた人数
単身の分岐点1,266万円は1,250万〜1,499万円の階級に入るので、それより上にいる業主は**多くても1.0%(4.0万人)**です。配偶者に収入がない世帯の分岐点1,016万円で見ても、1,000万円以上は2.1%(8.0万人)にとどまります。
当サイトでは、国税庁の申告所得税標本調査から「法人化が有利な事業所得者は約6%」と計算した記事もあります(法人化が有利な個人事業主は何%か)。数字が違うのは母集団の違いです。申告所得税の統計は申告納税額がある人だけを数えるのに対し、就業構造基本調査は納税額のない人や確定申告をしていない人も含めて、働いている人全員を数えます。分母が大きく、所得の低い人を多く含むぶん、割合は小さく出ます。
個人住民税の課税データで同じ線を数えた記事もあります(法人化の分岐点を超える個人事業主は4.9%)。こちらは所得割を払う営業等所得者218万人が分母で、分岐点を超えるのは4.9%。均等割だけの納税義務者が除かれているため、分布の下側が切られています。同じ「分岐点を超える人の割合」が、母集団の作り方で1.0%から4.9%まで動きます。
会社などの役員は中央値400万〜499万円
会社などの役員354.7万人は、中央値が400万〜499万円の階級で、1,000万円以上が19.0%でした。雇人がいない業主とは分布の形がまったく違います。厚生労働省の国民生活基礎調査でも、役員の平均所得は自営業主の約2倍で、この差は20年間ほぼ変わっていません(会社役員と自営業主の平均所得の推移)。
ただし、この区分には大企業の役員や団体の理事も含まれます。法人成りした一人社長だけの分布ではないので、「法人にすれば役員報酬がこの水準になる」という意味ではありません。報酬の額は会社の利益から自分で決めるもので、手取りが最大になる額は事業所得によって変わります(役員報酬の決め方)。小さな会社に絞った役員給与の統計は、財務省の法人企業統計で別に集計しています(資本金1千万円未満の会社の役員給与)。
フリーランス209.4万人も、中央値は同じ階級
この調査は令和4年に初めて「フリーランス」を把握しました。実店舗がなく、雇人もいない自営業主か一人社長で、その仕事で収入を得る人です。一人社長も含む定義である点が、法人化を考える人にとっては重要です。
フリーランス209.4万人の中央値は150万〜199万円の階級で、雇人がいない業主と同じでした。1,250万円以上は1.3%、1,000万円以上は2.5%で、業主全体よりわずかに高いだけです。一人社長を含めても、分布の大部分は法人化の分岐点のはるか手前にあります。
フリーランスの取引には、令和6年11月からフリーランス・事業者間取引適正化等法が適用されています。一人会社として受注する場合にこの法律がどう関わるかはフリーランス法と一人会社で整理しています。
「みんなが法人化している」わけではない
人数の推移で見ても、自営業主は2002年の670万人から2025年の499万人に減り、会社などの役員も同じ期間に48万人減っています(自営業主と会社役員の推移)。
周りの同業者が法人化した話を聞くと、自分も早く法人にすべきかと考えがちです。けれども統計で見ると、一人で働く個人事業主の大多数は、税と社会保険の損得だけで見れば個人のままのほうが有利な所得帯にいます。法人化の判断の全体像は法人化の目安は所得いくらかにまとめています。
逆に、分岐点を超える1〜2%の層は、個人のままでいると毎年の手取りで差が開き続けます。自分がどちら側にいるかは、統計の平均ではなく、自分の売上と経費で確かめるしかありません。
所得の階級ごとに、役員と自営業主のどちらが多いかを数えた結果は所得別の法人化率にまとめています。
まとめ
- 雇人がいない業主397.7万人の年間収益は、中央値が150万〜199万円の階級で、73.5%が300万円未満(令和4年就業構造基本調査)
- 単身の損益分岐点1,266万円を含む1,250万円以上は1.0%(4.0万人)、配偶者に収入がない場合の1,016万円を含む1,000万円以上は2.1%
- 会社などの役員354.7万人は中央値が400万〜499万円の階級で、1,250万円以上が11.6%。大企業の役員も含む
- 一人社長を含むフリーランス209.4万人も中央値は150万〜199万円の階級で、1,250万円以上は1.3%
- 申告所得税の統計(約6%)より低いのは、申告・納税の有無に関係なく働く人全員を数えているため
自分の売上と経費で判定ツールにかけ、分岐点のどちら側にいるかを確かめてください。
よくある質問
就業構造基本調査の「所得」は、確定申告の所得と同じですか。
同じではありません。自営業主については「過去1年間に事業から得た収益、すなわち売上総額からそれに必要な経費を差し引いたもの」で、青色申告特別控除や所得控除を引く前の額です。主な仕事からの収益だけで、副業や不動産収入は含みません。
「会社などの役員」には、大企業の役員も入っていますか。
入っています。会社の社長・取締役・監査役のほか、団体・公益法人や独立行政法人の理事・監事も含みます。一人社長だけの分布ではないので、法人化した後の自分の水準の目安としては高めに出ます。
令和4年の調査は古くないですか。
就業構造基本調査は5年ごとの調査で、令和4年(2022年)が最新です。次回は令和9年に行われる予定です。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。