法人化の判断
法人化が有利な個人事業主は何%か。国税庁の統計で約6%
結論
単身の場合、法人化で手取りが増えるのは合計所得金額が約1,200万円を超えたあたりからで、国税庁の申告所得税標本調査(令和5年分)ではこの線を超える事業所得者は9万8,380人、事業所得者全体の5.9%です。配偶者(収入なし)がいる世帯は分岐点が合計所得800万〜951万円に下がり、該当するのは7.7〜11.0%になります。
- 統計の対象は申告納税額がある人だけ。納税額のない個人事業主を含めれば、割合はさらに小さくなる
- 令和6年分は1,000万円超が12.0%に跳ねるが、定額減税で納税額が0円になった低所得の人が統計から抜けたとみられ、人数の増え方は前年比10.2%
- 合計所得1,200万円超の事業所得者は令和元年分8万1,441人から令和5年分9万8,380人へ、4年で21%増えた
法人化の損益分岐点を計算すると、単身の場合で事業所得(売上−経費)1,266万円、配偶者がいれば1,016万円でした(当サイトの計算エンジン、東京23区・40歳未満の場合)。この数字を見て「自分はまだ遠い」と感じた人は多いはずです。
では実際に、その線を超えている個人事業主はどれくらいいるのか。国税庁の「申告所得税標本調査」には、事業所得者を所得の階級別に数えた表があります。この記事では、公式のExcelから事業所得者の分布を取り出し、損益分岐点を重ねて、法人化が手取りで有利になる層の割合を出しました。
使う統計:申告所得税標本調査の「事業所得者」
国税庁の申告所得税標本調査は、所得税の申告をした人を所得の種類と階級ごとに推計する統計です。使ったのは第1表(総括表)のうち、事業所得者の合計所得階級別の人員です。
読む前に、3つの定義を押さえておきます。
| 項目 | 国税庁の定義 | この記事での扱い |
|---|---|---|
| 調査対象 | 申告納税額がある人(申告納税者)。還付申告など納税額のない人は除く | 税額がない個人事業主は数に入っていない |
| 事業所得者 | 事業所得の金額が他の各種所得の金額の合計額より大きい人 | 副業で事業所得がある会社員は含まない |
| 合計所得金額 | 各種所得の合計から繰越損失を引いた額(青色申告特別控除の後) | 計算エンジンの「売上−経費」から青色65万円を引いて合わせる |
1つめが重要です。この統計に出てくるのは税金を納めた個人事業主だけで、赤字や所得の低い人の多くは入っていません。以下で出す割合は、個人事業主全体に対する割合より高めに出ていると考えてください。
事業所得者の8割は合計所得500万円以下
令和元年分・令和5年分・令和6年分の事業所得者を、合計所得金額の帯ごとに集計しました。
| 合計所得金額(〜は以下) | 令和元年分 | 令和5年分 | 令和6年分 |
|---|---|---|---|
| 500万円以下 | 1,338,753人(80.2%) | 1,263,591人(75.9%) | 744,246人(63.4%) |
| 500万円超〜800万円 | 180,813人(10.8%) | 216,623人(13.0%) | 226,192人(19.3%) |
| 800万円超〜1,000万円 | 43,939人(2.6%) | 55,376人(3.3%) | 62,406人(5.3%) |
| 1,000万円超〜1,200万円 | 24,200人(1.4%) | 29,785人(1.8%) | 34,052人(2.9%) |
| 1,200万円超〜1,500万円 | 22,139人(1.3%) | 26,717人(1.6%) | 30,394人(2.6%) |
| 1,500万円超〜2,000万円 | 21,229人(1.3%) | 25,267人(1.5%) | 28,507人(2.4%) |
| 2,000万円超 | 38,073人(2.3%) | 46,396人(2.8%) | 48,268人(4.1%) |
| 計 | 1,669,146人 | 1,663,755人 | 1,174,065人 |
※ 国税庁「申告所得税標本調査」第1表 総括表(その1)の事業所得者を当サイトで集計。推計値。元データと集計手順は data/official/shinkoku-hyohon/ と scripts/shinkoku-hyohon-jigyo.mjs
令和5年分で、事業所得者の75.9%は合計所得500万円以下です。800万円を超えるのは11.0%、1,000万円を超えるのは7.7%にとどまります。
令和6年分の数字は別に扱う必要があります。国税庁の概要によると、令和6年分の申告納税者は前年から22.8%減りました。概要は減少の理由を書いていませんが、令和6年分には定額減税(特別税額控除)があり、税額控除の総額の57.6%を占めています。調査対象は申告納税額がある人だけなので、定額減税で納税額が0円になった人は統計から外れます。実際に減ったのは500万円以下の事業所得者(126万人→74万人)で、この見方と合います。その結果、令和6年分の構成比は高所得側に偏って見えます。当サイトの集計で令和6年分の1,000万円超が12.0%になることは、国税庁の概要に書かれた数字と一致しました。
損益分岐点を合計所得金額に直すと、単身1,201万円・配偶者あり951万円
計算エンジンの損益分岐点は「売上−経費」で出しています。統計の合計所得金額は青色申告特別控除の後なので、65万円を引いて合わせます。
| 世帯 | 損益分岐点(売上−経費) | 合計所得金額に換算 |
|---|---|---|
| 単身・40歳未満 | 1,266万円 | 1,201万円 |
| 単身・40〜64歳 | 1,243万円 | 1,178万円 |
| 配偶者あり(収入なし)・40歳未満 | 1,016万円 | 951万円 |
| 配偶者あり(収入なし)・40〜64歳 | 865万円 | 800万円 |
※ 経費200万円・東京23区・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社・税理士報酬の差を含む/2026年(令和8年)分基準。計算の前提は計算方法のページ
損益分岐点の考え方と、これが一般に言われる「所得800万円」とずれる理由は法人化の目安の記事で説明しています。配偶者がいると分岐点が大きく下がるのは、配偶者の国民年金保険料と国保の均等割が法人化で不要になるためです(配偶者と法人化の記事)。
単身なら5.9%、配偶者ありでも1割前後
統計の階級の境目は800万円・1,000万円・1,200万円・1,500万円です。単身の分岐点1,201万円は1,200万円の境目とほぼ重なるので、その上にいる人数がそのまま「法人化で手取りが増える層」の近似になります。
| 合計所得金額 | 令和元年分 | 令和5年分 | 令和6年分 |
|---|---|---|---|
| 800万円超 | 149,580人(9.0%) | 183,541人(11.0%) | 203,627人(17.3%) |
| 1,000万円超 | 105,641人(6.3%) | 128,165人(7.7%) | 141,221人(12.0%) |
| 1,200万円超 | 81,441人(4.9%) | 98,380人(5.9%) | 107,169人(9.1%) |
| 1,500万円超 | 59,302人(3.6%) | 71,663人(4.3%) | 76,775人(6.5%) |
| 2,000万円超 | 38,073人(2.3%) | 46,396人(2.8%) | 48,268人(4.1%) |
定額減税の影響がない令和5年分で見ると、次のようになります。
- 単身(分岐点1,201万円):1,200万円超は9万8,380人、事業所得者の5.9%
- 配偶者あり・40〜64歳(分岐点800万円):800万円超は18万3,541人、11.0%
- 配偶者あり・40歳未満(分岐点951万円):800万円超の11.0%と1,000万円超の7.7%の間
つまり、税金を納めている個人事業主のうち、法人化で単年の手取りが増えるのは単身で約6%、配偶者がいる世帯でも1割前後です。納税額のない人まで含めれば、割合はさらに下がります。
「法人化すれば節税になる」という話が広く流通している割に、損益分岐点を超えている人はこれだけ少数です。多くの人にとって、法人化は手取りを増やす手段ではなく、所得が伸びた後に検討する選択肢だということが、統計からも読み取れます。
人数は増えている。4年で21%
一方で、分岐点を超える人の数は増えています。合計所得1,200万円超の事業所得者は、令和元年分の8万1,441人から令和5年分の9万8,380人へ、4年で21%増えました。事業所得者の総数はほぼ横ばい(166.9万人→166.4万人)なので、分布が上に伸びていることになります。
令和6年分でも1,200万円超の人数は10万7,169人で、前年から8.9%増えています。構成比は定額減税で見かけ上跳ねていますが、人数の増加は定額減税の影響をほとんど受けない高所得の層で起きているので、実態として増えていると読めます。1,000万円超でも前年比10.2%増(12万8,165人→14万1,221人)です。
同じ期間に合同会社の数も増えています。一人会社の受け皿になっている合同会社の推移は合同会社は増えているかの記事で、国税庁の会社標本調査から集計しています。
この割合を読むときの注意
最後に、この数字の限界を3つ挙げておきます。
- 損益分岐点は前提で動く。 経費の額、住んでいる自治体、インボイス登録の有無、年齢で分岐点は変わります。上の表は東京23区・経費200万円の例です
- 単年の手取りだけの比較。 厚生年金の上乗せや加給年金など、将来の給付は入っていません。これらを入れると分岐点は下がります(加給年金の記事)
- 統計は推計値で、納税者だけ。 国税庁自身も、標本の影響が大きく表れる箇所があり実態と乖離する可能性があると注記しています
自分がどちら側にいるかは、割合ではなく自分の数字で決まります。
まとめ
- 国税庁の申告所得税標本調査(令和5年分)では、事業所得者の75.9%が合計所得500万円以下
- 計算エンジンの損益分岐点を合計所得金額に直すと、単身1,201万円、配偶者あり951万円(40歳未満)
- 単身で分岐点を超える事業所得者は5.9%(9万8,380人)、配偶者がいる世帯でも1割前後
- 令和6年分は申告納税者が22.8%減り(定額減税の影響とみられる)、構成比が高く見える。人数で見ると1,000万円超は前年比10.2%増
- 分岐点を超える人の数は令和元年分から4年で21%増えている
一般論の数字ではなく、自分の売上と経費で確かめてください。統計で6%の側にいるかどうかは、判定ツールに売上と経費を入れれば数十秒で分かります。
よくある質問
「事業所得者」には、副業で事業所得がある会社員も入りますか。
入りません。国税庁の定義では、事業所得の金額が他の各種所得の金額の合計額より大きい人が事業所得者です。給与所得のほうが大きい会社員は給与所得者に分類されます。
法人化した人はこの統計に入っていますか。
入っていません。法人化した後の本人は役員報酬を受け取るので、申告するとしても給与所得者に分類されます。この統計は、ある年に個人事業主として事業所得を申告し、税額があった人の分布です。
なぜ令和6年分ではなく令和5年分を主に使うのですか。
令和6年分は申告納税者数が前年から22.8%減りました。国税庁は理由を説明していませんが、令和6年分には定額減税があり、調査対象は申告納税額がある人に限られるため、納税額が0円になった人が外れたとみられます。減ったのは主に所得の低い層で、構成比が高所得側に偏って見えるので、分布の形は令和5年分で見ています。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。