法人化の判断
法人化してもフリーランス新法の対象?配偶者を役員にすると外れる
結論
法人化しても、代表者のほかに役員がおらず従業員もいない一人会社なら、フリーランス・事業者間取引適正化等法の「特定受託事業者」として保護されます(2条1項2号)。ただし同居の配偶者を役員にすると「他の役員」がいることになり、対象から外れます。配偶者を従業員として使うだけなら、同居親族のみの使用は「従業員を使用」に当たらないため、保護は続きます。
- 保護対象の法人は「一の代表者以外に他の役員がなく、かつ、従業員を使用しないもの」。一人会社はそのまま対象になる
- 公正取引委員会のQ&Aは、同居親族が役員なら「他の役員」に当たる(Q18)一方、同居親族のみを使用している場合は「従業員を使用」に当たらない(Q16)としている
- 対象かどうかは業務委託をした時点で判断する。後から役員を外しても、その委託には法が適用されない(Q8)
2024年11月1日に施行されたフリーランス・事業者間取引適正化等法(フリーランス新法)は、発注事業者に対し、取引条件の書面での明示や、60日以内の報酬の支払などを義務づけています。
「フリーランス」と呼ばれるので個人事業主向けの法律だと思われがちですが、保護の対象には法人も含まれます。法人化を考えている人にとって気になるのは、会社にした後もこの保護が続くかどうかです。答えは会社の役員構成で決まります。
一人会社は、法人化してもフリーランス新法の対象
この法律は、保護する相手を「特定受託事業者」と呼んでいます。2条1項の定義は次の2つです。
- 個人であって、従業員を使用しないもの
- 法人であって、一の代表者以外に他の役員がなく、かつ、従業員を使用しないもの
社長1人だけの会社で、従業員もいなければ、2号にそのまま当てはまります。個人事業主のときに受けていた保護は、法人化しても形を変えずに続きます。保護される「人」の書き方も、法人の場合は代表者本人に置き換えられています(2条2項・13条)。
ここでいう「役員」は、条文上「理事、取締役、執行役、業務を執行する社員、監事若しくは監査役又はこれらに準ずる者」です。合同会社の業務執行社員や、株式会社の監査役も含まれます。
同居の配偶者を「役員」にすると対象から外れる
法人化の設計でよくあるのが、配偶者を役員にして役員報酬を払う形です。所得を夫婦で分けられるためですが、この形はフリーランス新法の定義とぶつかります。
公正取引委員会のQ&Aは、2つの場合をはっきり分けています。
| 配偶者の立場 | フリーランス新法の判定 | 根拠(公取委Q&A) |
|---|---|---|
| 同居の配偶者を役員にする | 「他の役員」に当たり、会社は対象外 | Q18 |
| 同居の配偶者を従業員として使う(同居親族のみ) | 「従業員を使用」に当たらず、会社は対象のまま | Q16 |
| 個人事業で同居の配偶者を青色事業専従者にする | 「従業員を使用」に当たらず、対象のまま | Q17 |
| 同居していない親族や他人を週20時間以上・31日以上雇う | 「従業員を使用」に当たり、対象外 | Q3 |
Q&Aは、同居親族を「居住と生計が同一の親族」としています。
つまり、同じ配偶者でも、役員にするか従業員として雇うかで結論が逆になります。役員にした時点で、会社は「代表者以外に他の役員がいる法人」になり、フリーランス新法の保護から外れます。
配偶者への給与が法人税法上どう扱われるか(役員でなくても「みなし役員」になる条件)は、家族への給与が「みなし役員」になる3条件で扱っています。税法上のみなし役員と、フリーランス新法上の役員は別の物差しです。フリーランス新法の「役員」は、条文が列挙する理事・取締役・業務を執行する社員・監査役など(これらに準ずる者を含む)です。
判定するのは、業務委託をした時点
対象かどうかは、取引先が業務委託をする時点の状態で決まります。Q&Aは、委託の時点で従業員を使っていて対象外だった取引は、その後従業員がいなくなっても対象にならないとしています(Q8)。
裏返すと、配偶者を役員にしたまま受けた仕事は、あとで配偶者が役員を退任しても、その仕事についてはフリーランス新法の保護を受けられません。新しく受ける仕事から、改めて判定されます。
Q&Aは、発注事業者は業務委託の時点で受注側の従業員の有無を確認し、電子メールなど記録が残る方法で確認するのが望ましいとしています(Q7)。法人化した後に取引先から役員や従業員の有無を聞かれたら、正確に答える必要があります。
外れると何を失うか
発注事業者の義務は、相手の規模によって2段階になっています。従業員を使っているか、役員が2人以上いる発注事業者(特定業務委託事業者)には、重い義務が課されます。
| 発注事業者の義務 | 対象になる業務委託 | 条文 |
|---|---|---|
| 給付の内容・報酬の額・支払期日などを書面や電子メールで明示 | すべて | 3条 |
| 報酬を給付の受領から60日以内のできる限り短い期間内に支払う | すべて | 4条 |
| 受領拒否・報酬の減額・返品・買いたたきなどの禁止 | 1か月以上の業務委託 | 5条 |
| 妊娠・出産・育児・介護への配慮 | 6か月以上の業務委託(それ未満は努力義務) | 13条 |
| 契約を解除・更新しない場合の30日前予告 | 6か月以上の業務委託 | 16条 |
※ 3条の明示は、従業員を使っていない発注事業者にも課される。4条以下は特定業務委託事業者の義務。期間は公正取引委員会のQ&Aによる
会社が特定受託事業者から外れると、この表の義務はすべて、その会社との取引には適用されなくなります。発注側から見れば、書面で条件を明示する義務も、60日以内の支払期日の決まりもない相手になります。
もっとも、法人の取引は別の法律で守られる場合があります。2026年1月1日から、下請法は取適法(製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律)に改められ、資本金に加えて従業員数でも対象が決まるようになりました。取引の内容と双方の規模によって、どちらの法律が使えるかは変わります。取適法の概要はインボイス未登録で値引き要請。何%までなら登録と同じ手取りかで触れています。
所得分散の得と、保護を失うことを並べる
配偶者を役員にする理由は、たいてい所得の分散です。社長1人に役員報酬を集めるより、夫婦に分けたほうが所得税・住民税の累進が緩やかになります。
ただしその得は、フリーランス新法の保護と引き換えです。取引先が大企業の1社に偏っている、支払サイトが長い、契約の打ち切りが収入に直結する、という働き方ほど、保護を失う影響は大きくなります。配偶者を従業員として雇う形なら、保護を保ったまま給与を払うことができます。
当サイトの判定ツールの「配偶者あり」は、配偶者が扶養に入り報酬を受け取らない前提です。会社は代表者1人の一人会社になり、フリーランス新法の保護を保ったままの法人化を計算していることになります。
| 売上 | 最適な役員報酬(月額) | 法人化の差額(2年目以降) | 初年度 |
|---|---|---|---|
| 800万円 | 42.0万円 | −23.0万円 | −33.0万円 |
| 1,000万円 | 54.0万円 | −8.4万円 | −18.4万円 |
| 1,200万円 | 54.0万円 | −1.4万円 | −11.4万円 |
| 1,400万円 | 54.0万円 | +12.7万円 | +2.7万円 |
| 1,600万円 | 54.0万円 | +33.0万円 | +23.0万円 |
※ 経費200万円、東京23区・40歳未満・配偶者あり(扶養)・インボイス登録済み・青色申告(e-Tax)・合同会社。税理士報酬の差を控除後、初年度は設立費用も控除/2026年(令和8年)分基準。スクリプト:scripts/freelance-hou-hitori-kaisha.mjs
この条件では、売上1,400万円から一人会社のままでも法人化が得になります。配偶者を役員にして所得を分けるのは、この差額にさらに上乗せを狙う選択です。まず配偶者に報酬を払わない形で法人化の損得を出し、そのうえで配偶者を役員にするか、従業員として雇うか、扶養のままにするかを、取引先との関係も含めて比べてください。一般論ではなく、自分の売上と経費で確かめるのが出発点です。
まとめ
- フリーランス新法は、代表者のほかに役員がなく従業員もいない法人も保護する。一人会社は法人化後も対象
- 同居の配偶者を役員にすると「他の役員」に当たり、会社は対象から外れる
- 同居の配偶者を従業員として使うだけなら「従業員を使用」に当たらず、対象のまま
- 判定は業務委託の時点。役員がいる間に受けた仕事は、あとから保護の対象にならない
- 外れると、60日以内の支払や減額の禁止、30日前の解除予告などの保護が、その会社との取引に及ばなくなる
よくある質問
パートやアルバイトを1人雇ったら、フリーランス新法の対象から外れますか?
1週間の所定労働時間が20時間以上で、かつ31日以上雇用される見込みの労働者を雇うと「従業員を使用」に当たり、外れます。短時間・短期間の一時的な雇用は「従業員を使用」に含まれません。
取引先は、こちらが対象かどうかをどう確認するのですか?
公正取引委員会のQ&Aは、発注事業者が業務委託をする時点で従業員の有無を確認し、口頭でもよいが電子メールなど記録が残る方法が望ましいとしています。役員の有無も含め、聞かれたら正確に答える必要があります。
自分が役員になっている他社との取引は、この法律の業務委託に当たりますか?
株式会社とその取締役・監査役などとの契約関係は、会社内部の関係にすぎず「業務委託」に当たらないとQ&Aは示しています。自分が役員を務める会社から受ける仕事は、この法律の保護の外です。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。