法人化の判断

一人会社で元勤務先へ常駐|偽装請負を二段階で判定

結論

一人会社の代表者が元勤務先へ常駐するだけで、直ちに労働者派遣法上の偽装請負になるわけではありません。代表者が自社の雇用労働者でなければ、通常の派遣の三者関係を欠くためです。ただし、元勤務先が仕事の諾否、方法、時間、場所を支配し、報酬も労務の対価なら、法人契約という名称にかかわらず元勤務先との労働者性が問題になります。

  • 偽装請負と労働者性は同じ指揮命令を手掛かりにするが、法的な判定は別
  • 代表取締役は通常、自社の労働者ではないため派遣法の三者関係を先に確認する
  • 契約書だけでなく、依頼を断れるか、手順・時間・場所を誰が決めるかを実態で確認する

会社員が退職し、自分一人の会社を作って、翌月から元の部署に常駐する。この形は、契約当事者だけ見れば「元勤務先と法人の業務委託」ですが、仕事内容も上司も勤務時間も退職前と同じなら、法人化した意味が現場に現れていません。

ただし、この場面を一律に「偽装請負」と断定するのも正確ではありません。労働者派遣法上の偽装請負と、業務をする本人が元勤務先の労働者に当たるかは、分けて確認する必要があります。法人登記の有無で安全になるわけでも、常駐という一事実だけで違法になるわけでもありません。

まず偽装請負と労働者性を分ける

労働者派遣は、派遣元が自己の雇用する労働者を、派遣先の指揮命令を受けて働かせる三者関係です。請負会社が雇用する従業員を注文者の現場へ出し、注文者がその従業員へ直接指示すれば、契約名が請負でも実態は労働者派遣となり、無許可派遣などの問題が生じます。これが典型的な偽装請負です。

一人会社では、現場で働く人が代表取締役や代表社員本人です。会社法上の業務執行権を持つ代表者は、通常、自社に「雇用される労働者」ではありません。そのため、法人と元勤務先の契約が請負で、法人代表者本人だけが業務をするケースは、それだけで典型的な派遣の三者関係になるとは限りません。

ここで確認を止めるのは危険です。厚生労働省のガイドは、個人事業主への再委託でも、その実態から個人事業主が労働基準法上の労働者と判断されるなど、契約形式と実態が一致しないものを、一般に「偽装請負」と呼ぶ場合があると説明しています。一人会社を間に置いたケースでも、法人契約が実態を伴わず、本人が元勤務先の指揮監督下で労務を提供しているなら、元勤務先との労働者性を別に検討します。

判定確認する関係中心となる問い
労働者派遣法上の偽装請負派遣元・派遣先・派遣元が雇用する労働者元勤務先が、受託会社の雇用労働者へ直接指揮命令しているか
元勤務先に対する労働者性業務をする本人・元勤務先本人が元勤務先に使用され、その労務の対価として報酬を得ているか
適正な法人間委託一人会社・元勤務先法人が自己の裁量と責任で独立して業務を処理しているか

「法人だから労働者性はゼロ」「常駐だから必ず派遣」のどちらも早計です。まず現場に自社の雇用労働者がいるのかを確認し、その次に本人と元勤務先の使用従属性を確認します。

元勤務先の労働者と判断される要素

厚生労働省は、労働基準法上の労働者性を、契約の名称ではなく「使用従属性」で総合判断するとしています。中心は、指揮監督下の労働か、報酬がその労務の対価かです。さらに事業者性、特定の取引先への専属性などが補強要素になります。

仕事を断る自由

元勤務先から割り当てられた仕事を、納期や能力を理由に断れるか。他案件との兼ね合いで着手時期を交渉できるかを見ます。部署の一員として当然に全ての指示へ従うなら、退職前の雇用との差が小さくなります。

一方、委託契約で合意した業務範囲に限り依頼を受け、追加作業は見積りと納期を協議する運用なら、独立性を示しやすくなります。単に契約書へ「諾否の自由あり」と書くだけでなく、追加依頼を承諾・拒否した履歴を残します。

業務方法への具体的な指示

発注者は、成果物の仕様、納期、品質、情報セキュリティなどを注文条件として示せます。問題になりやすいのは、元上司が本人へ、今日どの作業をどの順番で行うか、誰と組むか、どの手順を使うかを日常的に指示し、進捗だけでなく作業過程を社員と同じように管理する状態です。

打合せへの参加や仕様変更の連絡があるだけでは、直ちに指揮命令とはいえません。目的が成果物の調整か、本人の労働そのものの管理かを区別します。一人会社側が自ら作業計画を作り、方法を選び、成果を説明できる状態が必要です。

時間・場所の拘束

顧客情報を扱うため指定場所でしか作業できない、社員がいる時間帯でなければ設備を使えないなど、業務の性質上必要な制約はあり得ます。2025年の厚生労働省通知も、安全衛生上必要な指示は、それだけで直ちに労働者性や偽装請負を決めるものではないと整理しています。

しかし、出退勤を社員と同じ勤怠システムへ入力し、遅刻・早退・休暇に元上司の承認が必要で、所定時間を超えると「残業」として加算されるなら、拘束性と労務対償性を強く示します。常駐の理由、コアタイムの必要性、時間記録の目的を契約と運用で説明できるようにします。

代替性と事業者としてのリスク

本人以外の担当者への交代や補助者の利用が契約上・実態上可能かも判断要素です。一人会社では現実に代替要員がいないことが多いため、代替できないという事実だけで労働者になるわけではありません。ただし、本人の技能ではなく「元社員であるその人を毎日8時間確保する」こと自体が契約の目的なら、労務提供の色が濃くなります。

成果が仕様を満たさなければ自社負担で修正する、必要なソフト・保険・教育を自社で負担する、納期と品質の責任を負うなど、会社としてのリスクがあるかも確認します。

37号告示を一人会社へ機械的に当てはめない

労働省告示第37号は、請負事業主が自己の雇用する労働者を自ら直接利用し、注文者から独立して業務を処理しているかを判定する基準です。具体的には、業務遂行方法、労働時間、配置、服務規律などを請負事業主自身が管理し、資金・設備・法律上の責任などを負って自己の業務として処理することを求めます。

一人会社の代表者本人は通常「自己の雇用する労働者」ではないため、この告示の各項目へチェックを入れるだけで結論は出ません。それでも、告示が示す独立性の観点は、法人間委託の実態を整える手掛かりになります。

現場の事項元勤務先が決める運用一人会社が独立して決める運用
当日の作業順序元上司が朝会で個人へ割当て成果・期限を受け、自社で計画
作業方法社員用手順を逐一命令仕様を満たす方法を自社で選択
稼働時間出退勤・休暇・残業を承認会議時間等を除き自社で配分
追加業務断れず通常業務として実施範囲・報酬・納期を再合意
品質不良働いた時間分は常に請求自社負担で補修・再実施
報告社員と同じ人事・勤怠報告成果・進捗・検収に必要な報告

左側の数が何個なら労働者という点数表ではありません。業務の性質上必要な制約を除き、全体として元勤務先に労働力を提供しているのか、一人会社が業務を引き受けているのかを総合します。

契約から請求まで一貫して直す

業務委託契約書には、業務範囲、成果または役務の内容、納期・期間、報酬、検収、修補、知的財産、秘密保持、情報機器、再委託、損害負担、契約終了を具体的に書きます。準委任なら完成義務がないことを踏まえつつ、月間の業務内容や報告単位を明確にします。

現場では、次の順に運用を確認します。

  1. 元勤務先からの依頼を法人の窓口で受ける
  2. 契約範囲外の依頼は、見積り・納期・優先順位を再協議する
  3. 一人会社が作業計画と方法を決める
  4. 時間管理ではなく、進捗・成果・品質を報告する
  5. 元勤務先が契約に沿って検収し、法人が請求書を発行する
  6. 月次で、契約とチャット・勤怠・会議運用のずれを点検する

同じ部署、同じ座席、同じメールアドレス、同じ肩書、同じ上司のままでは、第三者から社員との違いを説明しにくくなります。アカウント表示を外部委託と分かる形にし、社員の人事評価、休暇承認、残業命令の対象から外します。名刺、組織図、Webサイトでも、元勤務先の社員であるかのような表示は避けます。

なお、元勤務先が直接指示する必要がある仕事なら、請負に見せるのではなく、雇用や適法な労働者派遣など別の契約形態を検討します。ただし、派遣には厚生労働大臣の許可、派遣元・派遣先の各種義務があり、派遣先が離職後1年以内の元従業員を派遣労働者として受け入れることにも制限があります。契約名だけを派遣へ変える対応では足りません。

税務上の外注費・給与の区分は別の論点です。外注費と給与の判定では消費税・源泉徴収・社会保険への影響を扱っています。また、従業員のいない一人会社は一定の条件でフリーランス新法の保護対象になります。詳しくは法人化してもフリーランス新法の対象かを確認してください。

法人化の損得より先に契約変更コストを見る

標準条件における法人化の損益分岐は次のとおりです。表はnpm run calc:table -- breakevenで再現できます。業務委託契約の見直し費用、保険料、機器費、作業場所、自社で負う修補リスクは計算に含みません。

条件損益分岐となる事業所得
基本(独身・インボイス登録済み)1,266万円
株式会社で設立1,266万円
配偶者あり(無収入)1,016万円
配偶者あり+扶養1人1,066万円
インボイス未登録1,266万円
40〜59歳(介護保険あり)1,243万円
大阪市1,283万円
名古屋市1,270万円
白色申告793万円

※ 経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準

税額だけを比べると法人化が有利でも、元勤務先が社員同様の働き方しか認めないなら、前提となる法人間取引が不安定です。別の取引先を持つ、成果責任を負う、機器や保険を自社で用意するための費用も経費へ加えて再計算します。法人化の目安と損益分岐点と合わせて判断してください。

まとめ

  • 一人会社の代表者が常駐するだけで、直ちに労働者派遣法上の偽装請負になるわけではない
  • 自社の雇用労働者を派遣する三者関係と、本人の元勤務先に対する労働者性を分けて判定する
  • 仕事の諾否、具体的指示、時間・場所、代替性、報酬、事業者リスクを実態で確認する
  • 安全・機密保持・設備利用に必要な指示だけで直ちに結論を出さない
  • 契約書、依頼経路、勤怠、会議、検収、請求まで同じ方針で運用する

退職前と何が変わるのかを、契約条項ではなく一日の仕事の流れで書き出すと、問題点が見えます。元上司が直接割り当てる仕事を断れず、勤務時間を承認され、時間分の報酬を受けるだけなら、法人設立より先に契約形態を見直すべきです。

よくある質問

元勤務先のパソコンや入館証を使うと、それだけで偽装請負ですか?

それだけでは決まりません。情報セキュリティや施設管理上の合理的な指定なのか、機器の負担、業務方法への指示、時間・場所の拘束などと合わせて判断します。

準委任契約なら時間単価で請求しても問題ありませんか?

時間単価だけで労働者とは決まりませんが、勤怠と同じ方法で時間を管理し、欠勤控除や残業相当の加算があり、依頼を断れない実態は労務対償性や拘束性を補強します。

業務委託契約書を作り直せば安全ですか?

契約と実際の運用が一致して初めて意味があります。日々の依頼、承認、会議、作業指示、検収、請求の流れまで変え、開始後も記録を点検してください。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。