役員報酬

一人会社の中間配当|取締役会なしでも期中配当できる

結論

取締役会のない一人株式会社は、定款と取締役会決議による会社法454条5項の「中間配当」は使えません。ただし、分配可能額の範囲で、その都度、株主総会により剰余金配当を決議できます。一人株主でも決議書・議事録、分配可能額計算、準備金、20.42%の源泉徴収を省略できません。

  • 454条5項の中間配当は、取締役会設置会社が定款に定めた場合の年1回の特則
  • 株主総会による通常の剰余金配当は年1回に限られないが、その都度決議が必要
  • 非上場会社から個人株主への配当は20.42%を源泉徴収し、原則として総合課税で精算する

一人会社で決算前に現金を取り出したいとき、「中間配当なら役員報酬を変えずに受け取れる」と考えがちです。しかし会社法上の中間配当は、単に期中に行う配当の総称ではありません。会社法454条5項が定める中間配当と、株主総会で決める通常の剰余金配当は、決議機関と要件が異なります。

また、会社口座に現金があることと、配当できることも同じではありません。分配可能額、純資産額、準備金、源泉徴収まで確認して初めて支払えます。社長一人、株主一人でも、この手続は省略されません。

取締役会なしでも株主総会による期中配当はできる

会社法454条1項は、株式会社が剰余金を配当するたびに、株主総会で次の事項を決めるとしています。

  1. 配当財産の種類と帳簿価額の総額
  2. 株主に対する配当財産の割当て
  3. 配当が効力を生ずる日

「その都度」と規定されており、定時株主総会で年1回しか決められない制度ではありません。取締役会を置かない一人株式会社でも、臨時株主総会を開催するか、株主全員の同意による書面決議を用いて、期中の剰余金配当を決議できます。

一方、454条5項の中間配当は特則です。取締役会設置会社が、定款に中間配当をできる旨と基準日を定めた場合に、一事業年度の途中で1回だけ、取締役会決議により金銭配当を行えます。取締役一人の会社は取締役会を設置できないため、この特則は使えません。

方法決議機関回数・条件取締役会なし一人会社
株主総会による剰余金配当株主総会その都度決議利用できる
454条5項の中間配当取締役会定款の定めを前提に事業年度中1回利用できない
459条の取締役会決議取締役会会計監査人設置など厳格な機関要件通常の一人会社では利用しない

したがって「取締役会がないから決算まで一切配当できない」も、「一人株主だから代表取締役の判断だけで払える」も誤りです。一人株主が会社法上の株主総会決議を行い、その証拠を残すのが基本です。

配当額は預金残高ではなく分配可能額で決まる

株式会社が配当できる上限は、会社法461条の分配可能額です。ざっくりした「繰越利益剰余金が配当額以上ある」という確認だけでは足りません。剰余金を起点に、自己株式の帳簿価額、最終事業年度後に処分した自己株式の対価、評価差額、のれん等調整額、臨時計算書類を作った場合の期間損益などを会社計算規則に従って調整します。

効力発生日における配当財産の帳簿価額が分配可能額を超えてはいけません。さらに、会社法458条により、純資産額が300万円を下回る場合は配当できません。預金が500万円あっても、資本金・負債・欠損の状況によっては配当可能額がゼロということがあります。

途中の業績を反映したい場合は、一定の期間を臨時決算日として臨時計算書類を作成し、承認する方法があります。ただし、試算表を印刷しただけでは臨時計算書類になりません。中小会社が期中配当を行うときは、税理士等に効力発生日の分配可能額計算書を作成してもらい、決議資料と一緒に保存するのが安全です。

分配可能額を超えて配当すると、金銭の交付を受けた株主だけでなく、配当に関する職務を行った業務執行者等が会社へ支払義務を負うことがあります。一人会社では決めた人・受け取った人が同じでも、責任が消えるわけではありません。

利益準備金と議事録を配当ごとに処理する

会社法445条4項は、剰余金の配当により減少する剰余金の10分の1を、資本準備金または利益準備金として計上するよう定めています。会社計算規則により、配当日の準備金合計が資本金の4分の1以上なら積立額はゼロです。未満なら、原則として次の小さい方まで積み立てます。

  • 配当により減少する剰余金の10分の1
  • 資本金の4分の1から現在の準備金合計を引いた額

たとえば資本金100万円、準備金0円、利益剰余金から100万円を配当するなら、資本金の4分の1は25万円です。配当額の10分の1である10万円の方が小さいため、利益準備金10万円を積み立てます。現金100万円を株主へ払うだけでなく、利益剰余金から配当100万円と準備金10万円を振り替える処理が必要です。

一人株主の臨時株主総会議事録には、少なくとも決議日、開催または書面決議の方法、株主、配当総額、1株当たり配当額、効力発生日を記載します。併せて、次の資料を一つの束で保存します。

  • 分配可能額計算書
  • 直近の計算書類または臨時計算書類
  • 株主名簿と基準日の確認資料
  • 株主総会議事録または書面決議書
  • 配当計算書、振込記録、源泉所得税の納付記録
  • 仕訳と利益準備金の計算資料

基準日を新たに定める場合は、定款と公告手続も確認します。一人株主だから株主を特定できる、という事実だけで会社法上の基準日手続が不要になるとは限りません。

非上場会社の配当は20.42%を源泉徴収する

一人株式会社が個人株主である社長へ配当するとき、会社は支払額の20.42%を源泉徴収します。これは所得税20%と復興特別所得税0.42%で、非上場株式の配当には支払時の地方税源泉徴収はありません。

配当総額源泉徴収20.42%株主への振込額
30万円61,260円238,740円
50万円102,100円397,900円
100万円204,200円795,800円
300万円612,600円2,387,400円

会社は原則として、配当を支払った月の翌月10日までに源泉所得税を納付します。給与の源泉所得税について納期の特例を受けていても、配当の源泉税はその特例の対象ではありません。給与と同じ7月・1月の納付だと思い込まないようにします。

株主側では、非上場株式の配当は原則として総合課税です。20.42%は最終税率ではなく前払いであり、給与所得などと合算して所得税を計算し、国内法人からの配当について要件を満たせば配当控除を反映し、源泉徴収済額を差し引きます。所得水準によっては追加納付にも還付にもなります。

会社側では配当は損金になりません。税引後利益を株主へ分ける行為なので、配当を100万円増やしても法人税の課税所得は100万円減りません。役員報酬は要件を満たせば損金になり、受取側では給与所得控除と社会保険料が関係します。配当と役員報酬は、手取率だけで単純比較できません。

合同会社の利益配当は株式会社と別の制度

合同会社に株式や株主総会はなく、出資者は「社員」です。会社法621条により社員は持分会社へ利益配当を請求でき、請求方法などを定款で定められます。株式会社の454条5項にいう中間配当を使うのではありません。

合同会社の配当額は、配当日における利益額を超えられません。超過配当を行えば、業務執行社員と配当を受けた社員が責任を負う場合があります。さらに会社法631条は、配当した事業年度末に欠損が生じた場合の責任も定めています。期中に利益が出ていると見込んで多額を配り、年度後半に赤字へ転落するケースは特に注意が必要です。

項目株式会社合同会社
受取人株主社員
基本規定453条・454条621条
財源規制分配可能額、純資産300万円規制配当日の利益額
準備金積立条件により必要株式会社と同じ制度ではない
期末欠損時の責任分配可能額超過等の責任631条の欠損填補責任に注意

法人税・所得税上は、合同会社から個人社員が受ける利益配当も配当所得として扱います。「合同会社なら会社利益がそのまま社員の所得になる」という米国LLCのようなパススルー課税ではありません。

生活費は役員報酬、配当は利益処分として設計する

売上1,200万円・経費200万円の標準条件で、役員報酬を変えたときの結果は次のとおりです。npm run calc:table -- salary --revenue 1200 --expenses 200で再現できます。

役員報酬手取り合計役員個人の手取り法人に残る額社会保険料(労使計)
月10万円632.5万円102.8万円529.6万円33.4万円
月20万円642.4万円196.3万円446.1万円68.1万円
月30万円650.8万円289.1万円361.6万円102.2万円
月40万円654.8万円378.8万円276.1万円139.6万円
月50万円659.7万円468.6万円191.1万円170.3万円
月54万円 ←最適662.4万円504.8万円157.6万円180.5万円
月60万円653.6万円547.8万円105.8万円200.9万円
月70万円646.8万円625.4万円21.4万円228.6万円
月80万円615.8万円704.8万円-89.0万円238.3万円
月90万円570.0万円784.4万円-214.4万円249.2万円
月100万円519.7万円860.2万円-340.4万円261.3万円

※ 東京23区・40歳未満・独身・インボイス登録済み・合同会社/2026年分。法人に残る額は将来の配当・退職金等で引き出すコスト20%を控除した評価額

この試算では月54万円が最適ですが、毎月の生活費、会社の運転資金、将来の退職金設計で適額は変わります。定期同額給与を先に決め、予想を上回る税引後利益が確定した後に配当を検討する方が、月次配当を生活費代わりにするより管理しやすくなります。詳しくは役員報酬はいくらが最適かと役員報酬と配当はどちらが得かを確認してください。

まとめ

  • 取締役会なしの一人株式会社でも、株主総会決議による期中配当はできる
  • 会社法454条5項の「中間配当」は、定款の定めがある取締役会設置会社の年1回の特則
  • 配当ごとに分配可能額、純資産額、準備金、議事録を確認する
  • 個人株主への非上場株式配当は20.42%を源泉徴収し、原則翌月10日までに納付する
  • 合同会社は621条・628条以下の制度で、期末欠損時の責任にも注意する
  • 毎月の生活費は役員報酬で確保し、配当は税引後利益の処分として分けて設計する

期中配当を決める前に、効力発生日の分配可能額計算書、株主総会議事録、源泉税の納付予定表を先に作ります。金額を振り込んでから議事録を後付けする運用は避けてください。

よくある質問

一人株主なら株主総会を開かず、口座振替だけで配当できますか?

できません。株主が一人でも、配当財産の種類と総額、割当て、効力発生日を決議し、会社の意思決定を議事録または書面決議の記録として残します。

今期の試算表で利益が出ていれば、その金額を配当できますか?

今期利益と分配可能額は同じではありません。最終事業年度後の自己株式取得、欠損、評価差額なども計算へ影響するため、効力発生日現在の分配可能額を会社法・会社計算規則に従って確認します。

配当の20.42%を引けば納税は終わりますか?

非上場株式の配当は原則として総合課税です。20.42%は会社が支払時に預かる所得税・復興特別所得税で、株主は確定申告で他の所得と合算し、配当控除と源泉税額を反映して精算します。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。