法人化の判断

法人化率は5年で36.4%→39.7%。IT・電気工事は8ポイント上がり、デザイナーは横ばい

結論

平成27年(2015年)と令和2年(2020年)の国勢調査で、役員÷(役員+業主)で計算した法人化率は全職業で36.4%から39.7%へ3.3ポイント上がりました。ソフトウェア作成者は34.9%から43.3%(+8.4ポイント)、システムコンサルタント・設計者は44.2%から52.5%(+8.3ポイント)、電気工事従事者は29.0%から37.2%(+8.2ポイント)と大きく上がった一方、デザイナー(+0.6ポイント)、写真家・映像撮影者(+1.9ポイント)、著述家(+1.6ポイント)はほぼ横ばいです。同じ期間、計算上の法人化の損益分岐点は法人税率が下がっても動いていません。

  • 独立して働く人が1万人以上いる職業149のうち142で法人化率が上がった。役員が増え、業主が減る形が多い
  • ソフトウェア作成者は役員が7,250人から17,880人へ2.5倍、業主も1.7倍に増えた。業主が増えても役員の伸びのほうが大きい
  • 2015年は従業上の地位が不詳の人が225.5万人と、2020年(109.4万人)の2倍いた。率の水準を比べるときは、この違いに注意が要る

職業別の法人化率では、令和2年国勢調査で独立して働く人のうち会社の役員の割合を計算しました。同じ計算を5年前の平成27年国勢調査でもすると、どの職業で会社を選ぶ人が増えたのかが分かります。両年の職業小分類は項目も並びも同じなので、301の職業をそのまま比べられます。

全職業で36.4%→39.7%。5年で3.3ポイント上がった

法人化率は、役員÷(役員+雇人のある業主+雇人のない業主)で計算しました。家庭内職者は両年とも業主に含めていません。

職業2015年2020年変化役員(2015→2020)業主(2015→2020)
全職業36.4%39.7%+3.3ポイント2,924,310→3,141,1405,112,690→4,774,810
不動産仲介・売買人53.3%67.0%+13.7ポイント19,220→31,39016,810→15,450
型枠大工23.0%33.4%+10.4ポイント2,700→3,7009,030→7,380
自動車運転従事者20.4%28.9%+8.5ポイント20,540→28,40080,330→69,850
ソフトウェア作成者34.9%43.3%+8.4ポイント7,250→17,88013,500→23,410
システムコンサルタント・設計者44.2%52.5%+8.3ポイント14,660→23,71018,540→21,490
電気工事従事者29.0%37.2%+8.2ポイント39,910→55,30097,590→93,430
建築技術者36.2%42.0%+5.8ポイント28,350→32,58050,070→45,070
医師37.3%43.1%+5.8ポイント29,560→34,54049,720→45,600
歯科医師11.9%17.3%+5.3ポイント7,120→10,27052,580→49,260
社会保険労務士7.3%11.5%+4.3ポイント1,160→1,97014,810→15,110
税理士12.9%17.1%+4.2ポイント6,270→8,58042,380→41,640
大工10.6%13.5%+3.0ポイント21,010→24,180177,650→154,320
調理人12.0%14.9%+2.9ポイント35,080→39,510258,010→225,500
美容師6.3%8.4%+2.1ポイント9,560→13,430142,470→145,840
写真家,映像撮影者17.6%19.4%+1.9ポイント5,110→6,53023,980→27,100
著述家5.6%7.2%+1.6ポイント1,210→1,81020,370→23,320
デザイナー25.4%25.9%+0.6ポイント16,830→18,01049,540→51,440
理容師2.6%3.0%+0.4ポイント2,450→2,43090,850→78,180

※ 総務省統計局「平成27年国勢調査」「令和2年国勢調査」職業(小分類)×従業上の地位(e-Stat、全国・15歳以上就業者)から当サイトが計算。業主は雇人のある業主と雇人のない業主の合計

全職業では、役員が292.4万人から314.1万人へ21.7万人増え、業主は511.3万人から477.5万人へ33.8万人減りました。会社の役員が増えて個人の業主が減る、という両方の動きで法人化率が上がっています。

独立して働く人(役員+業主)が2020年に1万人以上いる職業149のうち、142の職業で法人化率が上がりました。特定の職業だけでなく、ほぼ全体で会社を選ぶ人の割合が増えています。

IT・電気工事は8ポイント台、デザイナー・写真家・著述家は横ばい

上がり方には、職業による差がはっきり出ています。

大きく上がったのは、会社を相手に仕事をする技術職です。ソフトウェア作成者は役員が7,250人から17,880人へ2.5倍になりました。業主も13,500人から23,410人へ増えていますが、役員の伸びのほうが大きく、法人化率は8.4ポイント上がりました。電気工事従事者は役員が4割増え、業主が少し減って8.2ポイント上がっています。

ほとんど動かなかったのは、個人で作品や原稿を納めるクリエイター職です。デザイナーは25.4%から25.9%、写真家・映像撮影者は17.6%から19.4%、著述家は5.6%から7.2%で、いずれも業主の数も増えています。会社に移る人より、新たに個人で始める人のほうが多かったと考えられます。

国勢調査からは理由までは分かりません。ただ、法人化率が大きく上がった職業は、元請けや発注元が会社で、取引先から法人との契約や与信の審査を求められやすい職業です。クリエイター職は、個人のまま複数の取引先と仕事をする形が続いていると読めます。

法人税率は下がったが、損益分岐点は動いていない

この5年の間に、法人税の基本税率は23.9%から23.4%、23.2%へ下がりました。法人化率の上昇を、法人税が安くなったからと考えたくなります。

しかし当サイトの計算エンジンで、法人税率以外を令和8年の制度に固定して計算すると、法人化の損益分岐点はどの時期の税率でも事業所得1,266万円で変わりません(東京23区・40歳未満・単身、法人税率の推移と法人化の分岐点)。一人会社の法人の所得は、多くが年800万円以下の軽減税率(15%)の範囲に収まるため、基本税率の引き下げはほとんど効かないからです。

法人化率の上昇は、税の損得よりも、取引先との関係や会社という器の使いやすさといった、税以外の要因で進んでいると考えるのが自然です。合同会社のように設立費用が安く手続きが軽い器が広まったことも、その一つです(合同会社が増えた業種)。

統計を読むときの注意:2015年は不詳が2倍

2015年の国勢調査は、従業上の地位が「不詳」の人が225.5万人で、2020年の109.4万人の2倍いました。不詳の人は法人化率の分母にも分子にも入らないため、不詳がどちらの立場に偏っていたかによって、率の水準は変わり得ます。

ただ、職業の間の差(技術職が大きく上がり、クリエイター職が横ばい)は、不詳の多寡では説明しにくい形です。率の水準より、職業ごとの上がり方の違いに注目するのが安全です。

周りが法人化しているかより、自分の所得で判断する

法人化率が上がっている職業でも、法人化で手取りが増えるかどうかは個人の条件で決まります。損益分岐点は5年前も今も、東京23区・単身で事業所得1,266万円です。周りに会社を作る人が増えていても、所得がこの線に届いていなければ、法人化で手取りは減ります。

判定ツールで自分の売上と経費を入れて確かめてください。所得別の判断の目安は法人化の目安となる所得に、計算の前提は計算方法にまとめています。

まとめ

  • 国勢調査の法人化率(役員÷(役員+業主))は、2015年36.4%から2020年39.7%へ3.3ポイント上昇。役員が21.7万人増え、業主が33.8万人減った
  • 独立して働く人が1万人以上いる149職業のうち142で上昇
  • ソフトウェア作成者+8.4、システムコンサルタント+8.3、電気工事従事者+8.2ポイントと技術職が大きく上がり、デザイナー+0.6、写真家+1.9、著述家+1.6ポイントはほぼ横ばい
  • 法人税率は下がったが、計算上の損益分岐点は1,266万円のまま。法人化率の上昇は税以外の要因によるとみられる
  • 2015年は不詳が225.5万人と多く、率の水準の比較には注意が要る。職業ごとの上がり方の差に注目する

よくある質問

2015年と2020年の職業分類は同じですか。

職業小分類の項目と並びは両年で同じで、301の職業の名前が一致します。この記事では名前で突き合わせて同じ職業どうしを比べています。

法人化率が上がったのは、法人税が安くなったからですか。

法人税の基本税率は下がりましたが、ほかの制度を固定して計算すると、法人化の損益分岐点はどの時期の税率でも事業所得1,266万円で変わりません(東京23区・40歳未満・単身)。法人化率の上昇は、税率以外の要因で起きていると考えられます。

法人化率が上がっている職業なら、自分も法人化したほうがよいですか。

周りの割合で決めるものではありません。法人化で手取りが増えるかは、所得、家族、住んでいる自治体の国保、業種で決まります。判定ツールで自分の条件を入れて確かめてください。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。