法人化の判断

職業別の法人化率。システムコンサル52.5%、デザイナー25.9%、美容師8.4%(国勢調査)

結論

令和2年国勢調査で、会社の役員を役員と業主(個人事業主)の合計で割った「法人化率」は全職業で39.7%でした。職業別では、システムコンサルタント・設計者52.5%、ソフトウェア作成者43.3%、建築技術者42.0%と技術職が高く、デザイナー25.9%、写真家・映像撮影者19.4%、税理士17.1%、美容師8.4%、著述家7.2%、理容師3.0%と、個人の客を相手にする職業や一人で完結する職業ほど低くなります。令和4年就業構造基本調査でも全職業41.0%と、ほぼ同じ水準です。

  • 法人化率が高い職業は、取引先が会社で、案件の単価と所得が大きい。低い職業は個人客が中心で、業主の所得の中央値が法人化の分岐点に遠い
  • 医師は43.1%と高いが、役員の多くは医療法人の理事長。歯科医師17.3%、弁護士8.5%と、同じ資格職でも法人の作り方の制約で差がつく
  • 東京23区・40歳未満・単身では、法人化で手取りが増え始めるのは事業所得1,266万円から。法人化率の低い職業の大半は、この線に届いていない

同じ仕事をしている人のうち、どれくらいが会社を作っているのか。個人事業主の集まりで「周りはみんな法人にしている」と聞くことがありますが、職業によってその実態は大きく違います。国勢調査は職業ごとに、会社の役員と個人事業主の人数を分けて数えているので、職業別の「法人化率」を計算できます。

全職業の法人化率は39.7%

国勢調査の従業上の地位は、雇用者、役員、雇人のある業主、雇人のない業主、家族従業者、家庭内職者に分かれています。ここでは、独立して働く人のうち会社の役員として働く人の割合を「法人化率」と呼び、次の式で計算しました。

法人化率 = 役員 ÷(役員 + 雇人のある業主 + 雇人のない業主)

全職業では、役員314.1万人、雇人のある業主105.7万人、雇人のない業主371.8万人で、法人化率は**39.7%**です。独立して働く人の4割が会社の役員、6割が個人事業主という構図です。

令和4年の就業構造基本調査で同じ計算をすると41.0%で、2つの調査はほぼ一致します(就業構造基本調査は業主を分けていないため、役員÷(役員+自営業主)で計算)。

職業別に並べると、3.0%から67.0%まで

独立して働く人が多い職業を中心に、法人化率の高い順に並べました。

職業役員雇人のある業主雇人のない業主法人化率(国勢調査2020)法人化率(就業構造2022)
全職業3,141,1401,056,6703,718,14039.7%41.0%
不動産仲介・売買人31,3902,84012,61067.0%69.5%
システムコンサルタント・設計者23,7101,59019,90052.5%47.7%
ソフトウェア作成者17,8801,46021,95043.3%35.1%
医師34,54043,5002,10043.1%49.2%
建築技術者32,5807,14037,93042.0%47.6%
電気工事従事者55,30016,56076,87037.2%36.7%
自動車運転従事者28,4009,18060,67028.9%25.4%
公認会計士2,4202,5703,54028.4%28.7%
デザイナー18,0103,49047,95025.9%23.4%
写真家,映像撮影者6,5302,96024,14019.4%25.2%
歯科医師10,27045,4403,82017.3%21.9%
税理士8,58024,11017,53017.1%18.1%
保険代理・仲立人(ブローカー)3,1502,95012,37017.1%18.6%
調理人39,51093,870131,63014.9%15.5%
大工24,18025,100129,22013.5%14.3%
社会保険労務士1,9704,56010,55011.5%13.1%
弁理士,司法書士1,9907,8609,17010.5%7.5%
個人教師(学習指導)5,43016,93029,63010.4%10.8%
音楽家1,96095016,50010.1%15.2%
裁判官,検察官,弁護士2,12012,9709,7608.5%10.2%
美容師13,43038,220107,6208.4%8.7%
著述家1,81084022,4807.2%5.8%
個人教師(音楽)2,0002,84048,9203.7%2.7%
理容師2,43019,03059,1503.0%4.2%

※ 総務省統計局「令和2年国勢調査」第10表、「令和4年就業構造基本調査」第21表(e-Stat)から当サイトが計算。国勢調査は15歳以上就業者、就業構造基本調査は有業者。就業構造基本調査は役員÷(役員+自営業主)で、自営業主に内職者を含む

2つの調査は調査方法も年も違いますが、職業の並び順はほとんど変わりません。ソフトウェア作成者(43.3%と35.1%)や写真家(19.4%と25.2%)のように数ポイントずれる職業もありますが、技術職が高く、個人客を相手にする職業が低いという構図は同じです。

国勢調査の職業は、その人が実際に従事した仕事の種類で分類し、仕事が2つ以上あれば主に従事した仕事で分けます(用語の解説)。会社の業務運営の決定や執行が主な仕事の人は「会社役員」という別の職業になります(職業分類)。上の表でソフトウェア作成者やデザイナーとして数えられている役員は、その仕事を主に自分でしている役員です。社員を何十人も抱える会社の社長より、小さな会社で自ら手を動かす社長が多いと考えられます。

法人化率が高い職業の共通点:取引先が会社

法人化率が4割を超えるのは、不動産仲介、システムコンサルタント、ソフトウェア作成者、建築技術者です。いずれも取引先の多くが会社で、1件あたりの金額が大きい仕事です。

取引先が会社だと、法人との契約を条件にする発注元や、与信の審査で法人格を求める相手がいます。案件の単価が大きいと所得も大きくなりやすく、法人化で手取りが増える所得帯に入りやすいという面もあります。不動産仲介の67.0%は、宅地建物取引業の免許や営業保証金・保証協会への加入といった事業の立ち上げの手間が大きく、最初から会社で始める人が多いことも影響していると考えられます(宅建業の法人成りは免許の取り直し)。

低い職業の共通点:個人客が中心で、所得が分岐点に遠い

1割を下回るのは、美容師、著述家、音楽の個人教師、理容師です。お客の多くが個人で、法人格がないと取引できないという場面がほとんどありません。

もう1つの理由は所得です。当サイトの計算エンジンで、法人化で手取りが増え始める事業所得(損益分岐点)を出すと、次のとおりです。

条件損益分岐となる事業所得
基本(独身・インボイス登録済み)1,266万円
配偶者あり(無収入)1,016万円
40〜59歳(介護保険あり)1,243万円
白色申告793万円

※ 経費200万円・東京23区(特別区統一保険料率)・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準。3年目以降の定常状態

雇人のない業主全体の収益の中央値は150万〜199万円の階級で、1,250万円以上は1.0%しかいません(一人で働く業主の所得分布)。一人で施術や執筆をする職業は、売上の上限が自分の稼働時間で決まりやすく、分岐点の手前にとどまる人が大半です。法人化率の低さは、税と社会保険の損得から見ても自然な結果です。

資格職は、法人の作り方の制約で差がつく

資格が必要な職業は、法人化率が職業ごとにばらついています。医師43.1%、公認会計士28.4%、歯科医師17.3%、税理士17.1%、社会保険労務士11.5%、弁理士・司法書士10.5%、弁護士8.5%です。

医師が高いのは、医療法人の理事長が役員として数えられるためです。診療所の医療法人化は所得の大きい開業医で進んでいて、診療所の医療法人化の推移でも確かめられます。士業は、株式会社ではなくそれぞれの法律が定める士業法人でしか業務を法人化できず、税理士法人は今も一人では作れません。士業ごとの条件は一人で作る士業法人で条文から確かめています。

自分の職業の率より、自分の所得で判断する

法人化率は「その職業で会社を選んでいる人の割合」で、法人化したほうが得かどうかを示す数字ではありません。法人化率が5割を超える職業でも、所得が分岐点に届かなければ、法人化で手取りは減ります。逆に、法人化率が1割に満たない職業でも、所得が大きく家族を扶養していれば、法人化で手取りが増えることがあります。

都道府県別の法人化率は都道府県別の法人化率で計算しています。2015年からの変化は法人化率の5年間の変化にまとめています。

業種によって個人事業税の税率や源泉徴収の扱いも違い、分岐点そのものが動きます。業種ごとの分岐点の違いは職種別の法人化の分岐点で、所得別の判断の目安は法人化の目安となる所得で整理しています。計算の前提は計算方法にまとめています。

まとめ

  • 令和2年国勢調査の法人化率(役員÷(役員+業主))は全職業で39.7%。令和4年就業構造基本調査でも41.0%
  • システムコンサルタント52.5%、ソフトウェア作成者43.3%、建築技術者42.0%と、会社を相手にする技術職が高い
  • デザイナー25.9%、写真家19.4%、美容師8.4%、著述家7.2%、理容師3.0%と、個人客中心・一人で完結する職業ほど低い
  • 低い職業の大半は、業主の所得が法人化の分岐点(東京23区・単身で事業所得1,266万円)に遠い
  • 職業の法人化率ではなく、自分の売上と経費で法人化したときの手取りを確かめるのが判断の出発点になる

よくある質問

法人化率はどう計算していますか。

国勢調査の職業別の就業者のうち、従業上の地位が「役員」の人数を、「役員」「雇人のある業主」「雇人のない業主」の合計で割りました。会社に雇われている雇用者や家族従業者は分母に入れていません。独立して働く人のうち、会社の役員として働く人の割合という意味です。

役員には大企業の役員も入っていますか。

入り得ますが、国勢調査の職業は主に従事した仕事で分類され、会社の業務運営の決定や執行が主な仕事の役員は「会社役員」という別の職業になります。ソフトウェア作成者やデザイナーとして数えられている役員は、その職業の仕事を自分でしている役員で、小さな会社の社長が多いと考えられます。

法人化率が高い職業なら、法人化したほうが得ですか。

そうとは限りません。法人化率は、その職業で会社を選んでいる人の割合で、損得の結果ではありません。手取りが増えるかどうかは所得と家族構成などで決まり、東京23区・40歳未満・単身なら事業所得1,266万円が分かれ目です。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。