設立の手続き

行政書士・社労士の法人化は株式会社にできない。一人で作る士業法人の費用

結論

行政書士や社労士の業務は、行政書士法人・社会保険労務士法人でなければ受けられず、株式会社や合同会社では業として行えません(行政書士法19条・社労士法27条)。どちらも今は社員1人で設立できます。登録免許税と定款の印紙税はかかりませんが、定款認証5万円が必要です。日行連の例示(東京会)では、入会金20万円を含めて設立に27.6万円、毎年の法人会費は7.2万円です。社員は合名会社と同じく無限連帯責任を負います。

  • 令和8年1月施行の行政書士法改正で、無資格の業務の禁止に「いかなる名目によるかを問わず」が加わり、法人にも100万円以下の罰金が科されるようになった
  • 一人で設立できるのは行政書士法人・社労士法人・司法書士法人・弁理士法人。税理士法人は2人以上が必要で、1人になって6か月続くと解散する
  • 経費200万円・東京23区・40〜64歳では、損益分岐は合同会社の前提の1,243万円から、法人会費で1,313万円、初年度は入会金も含めて1,585万円に上がる

税理士のブログで「法人化すれば節税になる」と読んで合同会社の設立を調べ始めた行政書士・社労士は、最初の段階で止まります。**士業の業務は、その士業のための法人でしか受けられません。**会社を作っても、許認可の申請書類や社会保険の届出書類を報酬を得て作る主体にはなれないのです。

この記事では、行政書士と社会保険労務士を中心に、株式会社ではいけない理由を条文で確かめます。そのうえで、一人で作れるかどうか、設立費用、社員の責任、社会保険と印紙税の扱いを整理し、最後に士業法人の固定費で損益分岐がどれだけ上がるかを計算エンジンで出します。

行政書士・社労士の業務は、会社では受けられない

行政書士法19条は、行政書士または行政書士法人でない者が、他人の依頼を受けて報酬を得て、官公署に出す書類などを業として作ることを禁じています。社会保険労務士法27条も同じ構造で、社労士または社労士法人でない者が報酬を得て労働社会保険の書類作成や手続の代行を業とすることを禁じています。

株式会社や合同会社は「行政書士法人」でも「社労士法人」でもありません。会社が依頼を受けて報酬を受け取れば、実際に書類を作るのが資格者の従業員でも、この制限に触れます。

この線は、令和8年1月1日施行の改正(令和7年法律第65号)でさらに明確になりました。行政書士法19条に「いかなる名目によるかを問わず」の文言が加わり、コンサル料や会費の名目でも報酬に当たることが条文に書かれました。両罰規定(23条の3)の対象にも19条違反が加わり、違反した者の法人にも100万円以下の罰金が科されます。社労士法は27条違反(32条の2第1項6号)がもともと両罰規定(36条)の対象です。

法人の形行政書士業務・社労士業務を受けられるか根拠
株式会社・合同会社受けられない行政書士法19条・社労士法27条
行政書士法人行政書士業務を受けられる行政書士法13条の3・13条の6
社会保険労務士法人社労士業務を受けられる社労士法25条の6・25条の9

士業法人ができる業務も、各法が列挙した範囲に限られます。行政書士法人なら行政書士業務と、総務省令で定める準ずる業務などです(13条の6)。

一人で作れる士業法人、作れない士業法人

士業法人は、かつては2人以上の資格者が共同で設立するものでした。今は多くの士業で一人法人が認められています。日本行政書士会連合会(日行連)の手引によれば、行政書士法人は令和元年の改正法(令和3年6月4日施行)で一人での設立が可能になりました。

条文で見分けるポイントは2つです。設立の条文が「共同して」定款を定めるとしているか、解散事由が「社員の欠亡」(社員が一人もいなくなること)か「社員が一人になって6か月」か、です。

士業法人一人で設立解散の基準定款認証社員の責任
行政書士法人できる社員の欠亡(13条の19)必要(13条の8)無限連帯(13条の21で会社法580条1項を準用)
社会保険労務士法人できる社員の欠亡(25条の22)必要(25条の11)無限連帯(25条の15の3)
司法書士法人できる(令和2年8月施行の改正から)社員の欠亡(44条)必要(32条)無限連帯(38条)
弁理士法人できる社員の欠亡(52条)必要(43条)無限連帯(47条の4)
税理士法人できない社員が1人になり6か月(48条の18第2項)必要(48条の8)無限連帯(48条の21で会社法580条1項を準用)

税理士法人だけは、今も税理士が「共同して」設立する法人です(48条の2)。一人の税理士は、税理士法人による法人成りができません。法人化の判断材料として税理士のブログを読むときは、この違いを頭に置いておくと混乱しません。

設立費用:登録免許税と印紙税はゼロ、代わりに会の入会金

士業法人の設立登記は、会社の商業登記ではなく組合等登記令で行います。登録免許税は別表第一に掲げる登記に課されますが(登録免許税法2条)、別表第一の24号は会社と一般社団法人等の登記で、士業法人の登記はどこにも載っていません。日行連の手引も、行政書士法人の登記は課税範囲に入らず登録免許税は不要としています。

定款の印紙税4万円も、印紙税法の別表第一6号が「会社の設立のときに作成される定款」に限っているため、紙の定款でもかかりません。一方で、士業法人の定款には会社法30条1項が準用され、公証人の認証が必要です。手数料は公証人手数料令35条の「株式会社以外」の区分で5万円です。合同会社にはなかった費用です。

代わりに乗ってくるのが、士業の会への届出と入会の費用です。行政書士法人は成立の時に主たる事務所の所在地の行政書士会の会員になり(16条の6)、成立から2週間以内に日行連へ届け出ます(13条の10)。入会金と法人の会費は、社員である行政書士個人の会費とは別に納めます。

項目一人の行政書士法人
社員資格証明書の発行手数料(日行連)2,000円
定款認証の手数料(公証人)50,000円
定款の印紙税0円
設立登記の登録免許税0円
成立の届出手数料(日行連)20,000円
行政書士名簿の変更登録手数料(社員1人分)4,000円
法人としての入会金(東京会)200,000円
合計276,000円
参考:毎年の法人会費(東京会・月6,000円)72,000円
参考:当サイトが合同会社に置いている設立費用100,000円

※ scripts/shigyo-houjin-hitori.mjs で再生成。日行連「行政書士法人の手引」(令和5年12月改訂版)の設立費用の例示(東京会・令和元年10月1日現在、社員3名)を社員1人に置き換えた。印鑑証明書・定款謄本・登記事項証明書などの数千円の実費は含めない

登録免許税6万円がなくなっても、入会金があるため合同会社より高くつきます。入会金と会費の額は行政書士会ごとに会則で決まり、手引の例示も令和元年時点の数字です。設立前に、事務所を置く都道府県の会で現在の額を確かめてください。

社労士法人も、定款認証が必要で(25条の11)、登記は組合等登記令によるので、登録免許税と印紙税の構造は同じです。法人の入会金・会費は各都道府県の社会保険労務士会の会則で決まるため、当サイトでは金額を確認していません。

合名会社と同じ「無限連帯責任」と、社員が亡くなったときの継続

士業法人は、組織の規定の多くを会社法の合名会社から借りています。日行連の手引も、行政書士法人は合名会社に準じた組織だと説明しています。

いちばん大きな違いは責任です。合同会社の社員は出資額までの有限責任ですが(会社法580条2項)、士業法人の社員は、法人の財産で債務を払いきれないとき、連帯して弁済する責任を負います(社労士法25条の15の3、行政書士法は会社法580条1項を準用)。業務上の賠償責任を法人に移して個人財産を守る、という一般の法人成りの発想は、そのままでは成り立ちません。

一方で、一人法人の社員が亡くなったときの扱いは、合同会社より手当てされています。社員がいなくなると法人は解散しますが、死亡が理由のときに限り、清算人が相続人の同意を得て新しい社員を加入させれば法人を継続できます(行政書士法13条の19の2、社労士法25条の22の2)。新しい社員も資格者でなければなりません。一人合同会社では、定款に相続の定めがなければ社長の死亡で解散が確定します。その違いは一人合同会社の社長が亡くなると会社は解散するで扱いました。

もう1つ、法人成りした後は個人の事務所を残せません。行政書士法人の社員は自分の業務のための事務所を設けられず(行政書士法8条3項)、法人の業務の範囲に属する業務を自分のために行うことも禁じられています(13条の16)。社労士法人の社員も同じです(社労士法18条2項)。個人の事業は廃業し、売上はすべて法人に入り、社員は法人から受け取る報酬で給与所得になります。

社会保険・個人事業税・印紙税:法人化で変わる3つ

社会保険:社員1人でも強制適用

士業法人も法人なので、社員1人だけでも健康保険・厚生年金の適用事業所です(日本年金機構は「事業主のみの場合を含む」としています)。個人の士業事務所は、令和4年10月から法律・会計の士業も強制適用の業種に加わり、従業員5人以上なら適用事業所になりました。ただしこの場合も事業主本人は被保険者になりません。経緯は個人事業所の社会保険の適用拡大にまとめています。法人成りで初めて、本人が厚生年金に入ります。

個人事業税:第3種の5%がなくなる

個人事業税は、行政書士業・社会保険労務士業・司法書士業がいずれも第3種事業で、税率5%、事業主控除は年290万円です。業種ごとの一覧は個人事業税は業種でいくら変わるかにあります。法人化すればこれはなくなり、代わりに法人の事業税と法人住民税の均等割(年7万円から)がかかります。

印紙税:法人の領収書には印紙が要る

印紙税は、法人化で増える数少ない税です。日行連の手引は、個人の行政書士の業務は営業行為とされないため受取書(領収書)に収入印紙は要らないが、行政書士法人の受取書には必要に応じて貼るとしています。国税庁の質疑応答は、税理士法人が会社法621条(利益の配当)を準用していることを理由に、その受取書を「営業に関する受取書」としています。行政書士法(13条の21)も社労士法(25条の25)も同じ条文を準用しています。受取金額5万円以上の領収書を紙で出せば、100万円以下で1通200円の印紙が要ります。

損益分岐:法人会費と入会金でいくら上がるか

経費200万円、東京23区・単身・40〜64歳、インボイス登録済みの条件で、売上ごとの実質差額を出しました。個人事業税は第3種の5%で計算しています。「合同会社の前提」は当サイトの判定ツールと同じ固定費(設立費用10万円・税理士報酬の差)で、右の2列は行政書士法人の設立費用27.6万円と法人会費7.2万円に差し替えたものです。

売上個人事業税(第3種5%)合同会社の前提:2年目以降行政書士法人(東京会):初年度行政書士法人:2年目以降
800万円15.5万円−34.0万円−68.8万円−41.2万円
1,000万円25.5万円−18.9万円−53.7万円−26.1万円
1,200万円35.5万円−10.0万円−44.8万円−17.2万円
1,400万円45.5万円−4.3万円−39.1万円−11.5万円
1,600万円55.5万円+16.0万円−18.8万円+8.8万円
1,800万円65.5万円+35.8万円+1.0万円+28.6万円
2,000万円75.5万円+45.5万円+10.7万円+38.3万円

※ 当サイトの計算エンジン(scripts/shigyo-houjin-hitori.mjs で再生成)で算出。経費200万円・東京23区・単身・40〜64歳・青色申告(電子申告65万円控除)・インボイス登録済み・個人事業税は第3種(5%)。法人の税理士報酬年35万円・個人15万円の前提。法人会費と入会金は税引き後の支出として差し引き、損金算入による税の減少は織り込んでいない。2026年(令和8年)分基準の概算

法人化の差がプラスに転じる事業所得(青色申告特別控除前)は次のとおりです。

固定費の前提40歳未満40〜64歳
合同会社の前提:2年目以降(税理士報酬の差のみ)1,266万円1,243万円
行政書士法人:2年目以降(+法人会費7.2万円)1,336万円1,313万円
合同会社の前提:初年度(+設立費用10万円)1,364万円1,341万円
行政書士法人:初年度(+設立費用27.6万円+法人会費)1,680万円1,585万円

**毎年の法人会費7.2万円だけで、損益分岐は70万円上がります。**差額が小さい帯では固定費が少し動くだけで分岐点が大きく動くためです。初年度は入会金20万円が乗り、40〜64歳でも事業所得1,585万円まで法人化の差がプラスになりません。

判定ツールは合同会社・株式会社の設立費用で計算しています。士業の方が使うときは、ツールの差額から法人会費と入会金の差を差し引いて読んでください。会費は行政書士会・社労士会ごとに違います。自分の会の金額と、自分の売上・経費で確かめてください。

まとめ

  • 行政書士・社労士の業務は、行政書士法19条・社労士法27条により、株式会社・合同会社では報酬を得て受けられない。令和8年1月からは行政書士法でも法人に罰金が科される
  • 行政書士法人・社労士法人・司法書士法人・弁理士法人は社員1人で設立できる。税理士法人だけは2人以上が必要
  • 設立登記の登録免許税と定款の印紙税はかからないが、定款認証5万円と会の入会金がかかる。日行連の東京会の例示では設立27.6万円、法人会費は年7.2万円
  • 社員は無限連帯責任を負い、個人の事務所は残せない。死亡で社員がいなくなっても、相続人の同意で資格者を加入させれば継続できる
  • 経費200万円・40〜64歳では、損益分岐は合同会社の前提1,243万円から法人会費で1,313万円、初年度は1,585万円に上がる

よくある質問

行政書士が株式会社を作り、社員として雇った行政書士に許認可申請をさせることはできますか。

行政書士法19条は、行政書士または行政書士法人でない者が報酬を得て業として書類作成を行うことを禁じています。会社が依頼を受けて報酬を得れば、作業する人が行政書士でもこの制限に触れます。令和8年1月からは両罰規定で会社にも罰金が科されます。

行政書士法人を作ったあとも、個人の行政書士事務所を残せますか。

残せません。行政書士法人の社員である行政書士は、自分の業務のための事務所を設けてはならず(8条3項)、法人の業務の範囲に属する業務を自分のために行うことも禁じられています(13条の16)。個人の事務所は税務署に廃業を届け出ます。社労士法人の社員も同じです(社労士法18条2項)。

一人の社労士法人で、社員が亡くなったら法人はどうなりますか。

社員がいなくなると解散しますが(社労士法25条の22第1項7号)、死亡が理由の場合に限り、清算人が相続人の同意を得て新しい社員(社労士)を加入させ、法人を継続できます(25条の22の2)。合同会社と違って、定款に定めがなくても法律がこの道を用意しています。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。