社会保険
飲食店など個人事業所も2029年10月から社会保険の対象に。既存店は当分対象外
結論
令和7年6月に公布された年金制度改正法により、常時5人以上を使用する個人事業所の非適用業種(飲食サービス業・宿泊業・農林漁業など)が解消され、2029年10月から健康保険・厚生年金の適用事業所になります。ただし施行時に既に存在する事業所は当分の間対象外です。新たに対象になる事業所では、月給25万円の従業員5人で事業主負担が年227.0万円かかります。事業主本人は引き続き被保険者になりません。
- 対象は2029年10月以後に開業する、常時5人以上を使用する個人事業所。5人未満は今までどおり対象外
- これまでも法律で定める17業種(製造・小売・士業など)の個人事業所は、5人以上なら強制適用だった
- 個人事業所では事業主本人は国保・国民年金のまま。本人が厚生年金に入る方法は法人化しかない
「従業員を5人以上雇っても、飲食店なら個人事業のうちは社会保険に入らなくてよい」。これは今の制度では正しいのですが、2029年10月から変わります。変わるのは新しく開業する事業所で、既にある事業所は当分の間そのままです。
何が変わるのか:非適用業種の解消
令和7年6月20日に公布された年金制度改正法(令和7年法律第74号)は、被用者保険の適用拡大の1つとして、常時5人以上を使用する個人事業所の非適用業種を解消し、適用事業所にすると定めました。施行は2029年(令和11年)10月1日です。
今の制度と改正後を比べると次のとおりです。
| 個人事業所の区分 | 現行 | 2029年10月以後 |
|---|---|---|
| 常時5人以上・法律で定める17業種 | 強制適用 | 強制適用(変わらない) |
| 常時5人以上・それ以外の業種(農業・林業・漁業・宿泊業・飲食サービス業など) | 対象外(任意適用は可) | 強制適用(施行時に存在する事業所は当分の間対象外) |
| 常時5人未満 | 対象外(任意適用は可) | 対象外(変わらない) |
17業種は、製造、土木・建設、運送、物の販売、金融・保険、教育・研究、医療、社会福祉などです。令和4年10月には弁護士・税理士・社会保険労務士などの法律・会計の士業も加わりました。今回の改正で、業種による区別そのものがなくなります。
既存の事業所は、期限を定めず対象外
厚生労働省の資料は、施行時に存在する事業所は「当面期限を定めず適用除外」としています。2029年9月までに開業している飲食店などは、当分の間、今までどおりです。対象になるのは、2029年10月以後に開業する事業所です。
この改正は成立・公布済みで、施行日も法律で決まっています。一方で、既存事業所の経過措置がいつまで続くかは決まっていません。
新たに対象になると、事業主負担はいくらか
社会保険の適用事業所になると、従業員の健康保険料・厚生年金保険料のうち事業主負担分を払う必要があります。従業員の月給ごとに年額を計算しました。
| 従業員の月給 | 1人あたり事業主負担(年) | 5人(年) | 8人(年) |
|---|---|---|---|
| 20万円 | 34.9万円 | 174.6万円 | 279.4万円 |
| 25万円 | 45.4万円 | 227.0万円 | 363.2万円 |
| 30万円 | 52.4万円 | 261.9万円 | 419.0万円 |
※ 健康保険(協会けんぽ東京支部)・厚生年金保険の事業主負担分。従業員は全員40歳未満(介護保険料なし)、賞与なし。健康保険料には子ども・子育て支援金を含み、事業主だけが負担する子ども・子育て拠出金も含む。雇用保険・労災保険は含まない。当サイトで計算(scripts/kojin-jigyosho-shaho-tekiyo.mjs)
月給25万円の従業員を5人雇う飲食店なら、年227.0万円です。この額は、従業員が国民健康保険・国民年金から切り替わることで生じる、事業主側の新しい負担です。
「常時5人」は従業員の数で数える
常時5人以上かどうかは、事業主本人を除いた、常時使用される従業員の数で判断します。日本年金機構の士業向けの資料では、正社員に加えて、週の所定労働時間と月の所定労働日数が正社員の4分の3以上のパート・アルバイトも数に入るとしています。日々雇い入れられる人など、常時使用されない人は含みません。
事業主本人は、個人事業のままでは加入できない
見落とされやすいのがここです。個人事業所が適用事業所になっても、事業主本人は厚生年金保険・健康保険の被保険者になりません(日本年金機構)。従業員だけが加入し、事業主は国民健康保険・国民年金のままです。
事業主本人が厚生年金に入り、傷病手当金などの保障を受けるには、法人化して役員になるしかありません。今の制度の下での法人と個人の違いは法人化すると社会保険の加入は義務になるで整理しています。
法人化の判断はどう変わるか
これまで、従業員5人以上の飲食店が法人化をためらう理由の1つは、法人になると従業員全員の社会保険料がかかることでした。法人は従業員の数や業種にかかわらず強制適用だからです。個人事業のままなら、この負担を避けられました。
2029年10月以後に開業する事業所では、この差がなくなります。個人事業でも5人以上なら従業員の社会保険料はかかるため、法人化で新たに増えるのは次の部分に絞られます。
- 事業主本人の社会保険料(役員報酬に応じた健康保険・厚生年金。会社負担分を含む)
- 従業員が4人以下の間の、従業員の社会保険料(個人事業なら対象外、法人なら対象)
- 法人住民税の均等割や税理士報酬などの固定費
つまり、新規開業で5人以上を雇う計画なら、「従業員の社会保険料」は法人化するかどうかの判断材料から外れます。残る比較は、事業主本人の税・社会保険料と固定費です。
当サイトの判定ツールは、事業主本人(一人社長)の税と社会保険料を比較しています。従業員の社会保険料は計算に含めていないため、従業員を雇う事業では、上の表の事業主負担を別に見積もってください。
既存の事業所は、今の比較のまま
2029年9月までに開業している事業所は、当分の間は対象外です。既存の飲食店が法人化すると、従業員の社会保険料が新たにかかる構図は変わりません。法人化で従業員を社会保険に入れると、一人あたりの負担は上の表のとおりです。
まとめ
- 常時5人以上を使う個人事業所の非適用業種(飲食サービス業・宿泊業・農林漁業など)は、2029年10月から強制適用になる
- 施行時に既に存在する事業所は、期限を定めず当分の間対象外
- 新たに対象になると、月給25万円の従業員5人で事業主負担は年227.0万円
- 個人事業所の事業主本人は被保険者にならない。本人が厚生年金に入るには法人化が必要
- 2029年10月以後の新規開業で5人以上を雇うなら、従業員の社会保険料は法人化の判断材料から外れる
事業主本人の税と社会保険料の比較は、売上と経費で大きく変わります。一般論の数字ではなく、自分の条件で確かめてください。
よくある質問
2029年10月より前から営業している飲食店は、いつから対象になりますか
改正法は、施行時に存在する事業所を経過措置として当分の間適用しないとしており、期限は定められていません。今の時点で、既存の事業所が対象になる時期は決まっていません。
既存の店が2店目を出すと、新しい店は対象になりますか
適用は事業所ごとに判断されますが、支店の新設が「施行時に存在する事業所」に当たるかどうかの細目は、現時点で公表されている概要資料からは読み取れません。出店の計画がある場合は、施行前に示される運用を確認する必要があります。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。