インボイス・消費税
飲食料品の消費税1%案で、免税事業者と新設法人は還付を取り逃がす
結論
閣議決定された大綱(法案は未成立)では、令和9年4月1日から令和11年3月31日まで飲食料品の消費税率が1%になります。飲食料品の売上1,000万円・食材の仕入400万円・家賃などの経費200万円の店なら、一般課税の課税事業者は年14万円の還付を受けられますが、免税事業者は0円です。法人化して設立1期目・2期目を免税で過ごすと、この還付を取り逃がします。
- 1%の対象は現在8%の飲食料品と同じ範囲。外食(イートイン)・酒類・ケータリングは10%のまま。テイクアウト・出前は1%
- 還付を受けるには課税事業者で一般課税であることが必要。簡易課税と2割特例・3割特例では、飲食料品の売上税額と同額を仕入税額とするため0円になる
- 免税事業者は、令和9年4月1日を含む課税期間中に課税事業者選択届出書を出せば、その課税期間から課税事業者になれる特例が予定されている。原則2年間は課税事業者を続ける
「法人化すれば、設立から2期は消費税が免除される」。法人化の利点としてよく挙がるこの話が、飲食料品を売る事業者にとっては逆に損になる2年間がやってきます。令和8年9月15日に閣議決定された大綱が、令和9年4月1日から2年間、飲食料品の消費税率を1%に下げる改正案を示したからです。
この記事の内容は、閣議決定された大綱と、それを説明する国税庁の資料(令和8年9月)にもとづきます。国税庁は、法案が国会に提出され、可決・成立した場合の内容だとしています。成立した時点で、この記事を更新します。
1%になるのは「いま8%の飲食料品」だけ
国税庁のリーフレットによると、令和9年4月1日から令和11年3月31日までの2年間、飲食料品の譲渡に係る消費税率は1%(国0.78%・地方0.22%相当)になります。対象の範囲は、令和9年3月31日まで8%の対象である飲食料品と同じです。
| 取引 | 令和9年3月31日まで | 令和9年4月1日〜令和11年3月31日 |
|---|---|---|
| 飲食料品の販売(テイクアウト・出前・宅配を含む) | 8% | 1% |
| 新聞の定期購読 | 8% | 8% |
| 外食(店内飲食)・酒類・ケータリング等 | 10% | 10% |
| それ以外(家賃・包材・設備・光熱費など) | 10% | 10% |
※ 一定の定期供給契約や通信販売に基づく販売には、4月1日以後も8%が適用される経過的な取扱いがある(国税庁Q&A問1-6)
この表の右の列が、還付が生まれる仕組みそのものです。売上にかかる税率は1%に下がりますが、家賃や包材、設備にかかる10%はそのままです。売上税額より仕入税額のほうが大きくなる事業者が出てきます。
食品を売る店の消費税は、納付から還付に変わる
飲食料品を販売する店の1年間の消費税を、一般課税で計算しました。食材の仕入は売上の4割、10%の経費(家賃・包材・光熱費など)は売上の2割としています。
| 飲食料品の売上(税抜) | 食材の仕入(1%) | 10%の経費 | 現行(8%)の納付額 | 引下げ後(1%)の納付額 |
|---|---|---|---|---|
| 1,000万円 | 400万円 | 200万円 | 28.0万円 | 14.0万円の還付 |
| 1,500万円 | 600万円 | 300万円 | 42.0万円 | 21.0万円の還付 |
| 3,000万円 | 1,200万円 | 600万円 | 84.0万円 | 42.0万円の還付 |
※ 一般課税で、1年間すべてが引下げ期間の場合。売上税額−食材の仕入税額−経費の仕入税額で計算。仕入先がインボイス発行事業者であることが前提
1,000万円の店は、いまは年28万円を納めています。税率が1%になると、売上税額は10万円まで下がる一方、家賃などの10%の仕入税額20万円はそのまま控除できるため、差し引き14万円が戻ってきます。
ただし、還付を受けられるのは課税事業者で、一般課税で申告する場合だけです。
免税・簡易課税・3割特例では、還付は0円
同じ1,000万円の店でも、消費税の立場によって受け取れる額が変わります。
| 消費税の立場 | 引下げ期間の1年間の消費税 |
|---|---|
| 免税事業者(個人で売上1,000万円以下・設立1期目と2期目の法人など) | 0円(還付なし) |
| 課税事業者・一般課税 | 14.0万円の還付 |
| 課税事業者・簡易課税 | 0円 |
| 2割特例・3割特例 | 0円 |
※ 売上1,000万円・食材400万円・経費200万円の例
簡易課税には、引下げに合わせた計算の特例が予定されています。業種区分にかかわらず、飲食料品の売上(1%対象)に係る売上税額と同額の仕入税額を計上するというもので、国税庁は2割特例・3割特例を適用する場合も同様としています。飲食料品の部分の税額は差し引き0円になり、納めることも戻ることもありません。
簡易課税を選んでいる事業者には、令和9年4月1日を含む課税期間中に簡易課税制度選択不適用届出書を出せば、その課税期間から一般課税に戻れる特例も予定されています。通常の「2年間は続けなければやめられない」という縛りも、この課税期間には適用されません。
「法人化で2年免税」が、この2年間は損になる
ここが法人化の判断に直接かかわる点です。新たに設立した法人は、1期目と2期目に基準期間がないため、資本金1,000万円未満などの条件を満たせば免税事業者になります(国税庁 No.6503)。インボイスが不要な消費者向けの食品販売なら、法人化の利点として「2期分の消費税が浮く」と数えられてきました。
引下げ期間に設立1期目・2期目が重なると、話が逆になります。上の1,000万円の店なら、免税で過ごす1年ごとに14万円の還付を取り逃がします。法人化で浮くはずだった消費税は、もともと還付になる年には存在しません。
対処の方法は2つです。
- 課税事業者を選択する:法人の設立事業年度は、その期中に課税事業者選択届出書を出せば、その期から課税事業者になれます。国税庁のQ&Aは、飲食料品の譲渡を行う免税事業者について、令和9年4月1日を含む課税期間中に届出書を出せばその課税期間から課税事業者になれる特例も示しています
- インボイスに登録する:登録すれば課税事業者になります。ただし2割特例(令和8年9月30日を含む課税期間まで)や3割特例(個人のみ・令和9年分と10年分)を使うと、飲食料品の部分の還付は0円です
課税事業者を選択すると、原則として2年間は課税事業者を続ける必要があります。期間中に100万円以上の固定資産(調整対象固定資産)を一般課税で取得すると、免税に戻れない期間が3年に延びます。選択の縛りの仕組みは課税事業者選択の3年縛り、設立直後の免税の条件は新設法人の免税の条件で扱いました。
個人のまま課税を選ぶ場合は、期間をそろえる
個人事業主のまま免税事業者を続けている人が、課税事業者を選ぶ場合の流れを国税庁のQ&A(問3-2・問3-4)から整理しました。個人の課税期間は暦年なので、令和9年1月1日から課税事業者になり、1月〜3月の飲食料品の売上には8%がかかります。
| 期間 | 税率 | 1,000万円の店の消費税(年換算の按分) |
|---|---|---|
| 令和9年1月〜3月 | 8% | 7.0万円の納付 |
| 令和9年4月〜12月 | 1% | 10.5万円の還付 |
| 令和9年分の合計 | — | 3.5万円の還付 |
| 令和10年分 | 1% | 14.0万円の還付 |
※ 売上・食材・経費が1年を通じて均等に発生するとした按分。令和11年以降も課税事業者のままだと、8%に戻った後は納付になる
課税事業者を選んだ後にやめるには、課税事業者選択不適用届出書を出します。2年の縛りがあるため、この例では令和10年中に出せば令和11年から免税に戻れます。国税庁のQ&Aは、課税期間の短縮を使って、課税事業者でいる期間を税率引下げの終了日(令和11年3月31日)にそろえる方法も示しています。
インボイスに登録して課税事業者になる場合は、課税期間の途中(たとえば令和9年4月1日)から課税事業者になれる経過措置があり、1月〜3月の8%の期間を避けられます。登録希望日の15日前までに申請が必要です。
判定ツールはこの改正を織り込んでいない
当サイトの判定ツールは、売上・経費の消費税を一律10%で概算しています。飲食料品の1%・8%の区分も、引下げ期間の還付も計算に入っていません。食品を販売する事業者が法人化を考えるときは、ツールの結果に加えて、引下げ期間に免税で過ごす年数と、上の表の還付額を差し引いて見てください。計算の前提は計算方法にまとめています。
まとめ
- 令和8年9月15日閣議決定の大綱(法案は未成立)で、令和9年4月1日から令和11年3月31日まで飲食料品の消費税率が1%になる案が示された。外食・酒類は10%のまま
- 売上1%・経費10%となる食品販売の店は、一般課税なら還付になる。売上1,000万円・食材400万円・経費200万円なら年14.0万円
- 免税事業者・簡易課税・2割特例・3割特例では、飲食料品の部分の還付は0円
- 法人化して設立1期目・2期目を免税で過ごすと、この還付を取り逃がす。課税事業者選択届出書の特例や、インボイス登録の経過措置で課税事業者になる方法がある
- 課税事業者を選ぶと原則2年続ける必要がある。8%に戻った後の納付も含めて、課税事業者でいる期間をそろえる
よくある質問
飲食店の店内飲食も1%になりますか。
なりません。国税庁のQ&Aは、1%の対象を令和9年3月31日まで8%の対象だった飲食料品の範囲と同じとしており、外食・酒類・ケータリング等は対象外(10%)です。テイクアウトや出前・宅配は1%の対象です。
この税率引下げは決まったのですか。
令和8年9月15日に大綱が閣議決定された段階です。国税庁の特設サイトも、内容は今後法案が国会に提出され、可決・成立した場合のものだとしています。成立前に契約や届出を進める場合は、その前提を確認してください。
課税事業者を選んで還付を受けた後、税率が8%に戻ったらどうなりますか。
課税事業者選択届出書を出すと原則2年間は課税事業者を続ける必要があり、税率が8%に戻った後も課税事業者のままなら、売上税額が仕入税額を上回って納税が生じます。国税庁のQ&Aは、課税期間の短縮を使って課税事業者の期間を令和11年3月31日までにそろえる方法を示しています。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。