税金の基礎
事業承継税制の特例措置は令和9年まで。一人会社で間に合うか
結論
特例措置は、特例承継計画を令和9年9月30日までに出し、令和9年12月31日までに贈与・相続があった場合に限られます。期限後は一般措置だけになり、猶予の対象は株の3分の2まで、相続では猶予割合80%です。株の評価額3,836.1万円の設例では、株に対応する相続税515.4万円のうち、特例措置なら全額、一般措置なら274.9万円が猶予の対象になります。
- 国税庁No.4148・No.4439(令和8年4月1日現在法令等)で、特例措置の計画提出期限は令和9年9月30日、適用期限は令和9年12月31日
- 特例措置の贈与では、後継者は贈与の直前に役員であればよい。一般措置では贈与の日まで引き続き3年以上の役員が要件になる
- 先代は贈与の時に代表権を外す必要がある。一人会社では、社長の交代そのものが制度の入口になる
事業承継税制は、後継者が受け継ぐ非上場株式にかかる相続税・贈与税を、条件付きで猶予する制度です。2つの措置があり、手厚いほうの特例措置には期限があります。
国税庁のタックスアンサー(令和8年4月1日現在法令等)では、特例承継計画の提出が令和9年9月30日まで、贈与・相続が令和9年12月31日までです。2026年9月の時点で、残りはおよそ1年です。
特例措置と一般措置は、猶予の厚さが違う
国税庁No.4148・No.4439の比較表を、一人会社の判断に効く項目に絞って並べます。
| 特例措置 | 一般措置 | |
|---|---|---|
| 事前の計画 | 特例承継計画の提出(平成30年4月1日〜令和9年9月30日) | 不要 |
| 適用期限 | 平成30年1月1日〜令和9年12月31日の贈与・相続等 | なし |
| 対象になる株 | 全株式 | 総株式数の最大3分の2まで |
| 納税猶予割合 | 100% | 相続等80%、贈与100% |
| 後継者の人数 | 最大3人 | 1人 |
| 雇用確保要件 | 弾力化 | 承継後5年間、平均8割の雇用維持 |
| 贈与の後継者の役員要件 | 贈与の直前に役員 | 贈与の日まで引き続き3年以上役員 |
一般措置の相続では、株の3分の2に80%を掛けるので、**株に対応する税のうち猶予されるのは約53%**です。特例措置なら100%です。
期限の日付は、税制改正で動いてきました。当初の特例承継計画の提出期限は令和8年3月31日で、国税庁の過去のパンフレットにはその日付が載っています。現行のタックスアンサーでは令和9年9月30日です。制度を検討する時点で、最新の期限を国税庁のページで確かめる必要があります。
一人会社の株で、猶予額を概算した
相続時精算課税の記事と同じ設例を使います。事業所得1,200万円(売上1,400万円・経費200万円)で法人化し、毎年の税引後利益353.6万円をすべて会社に残すと、株の評価額は年々増えます。株以外の課税価格を5,000万円、法定相続人を配偶者と子の2人としました。
| 法人化からの年数 | 株の評価額 | 相続税の総額 | うち株に対応する分 | 特例措置で猶予(全株・100%) | 一般措置で猶予(2/3・80%) | 一般措置で残る納税額 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 5年 | 2,068.1万円 | 330.2万円 | 250.2万円 | 250.2万円 | 133.4万円 | 196.8万円 |
| 10年 | 3,836.1万円 | 595.4万円 | 515.4万円 | 515.4万円 | 274.9万円 | 320.5万円 |
| 20年 | 7,372.2万円 | 1,234.4万円 | 1,154.4万円 | 1,154.4万円 | 615.7万円 | 618.7万円 |
※ 売上1,400万円・経費200万円・東京23区・65歳以上・配偶者あり・株式会社の最適報酬(毎年の税引後利益を全額法人に残す)/2026年(令和8年)分基準
※ 株の評価額は資本金300万円+税引後利益の累計(純資産価額で1対1と置いた概算)。株以外の課税価格5,000万円・法定相続人2人・配偶者の税額軽減前
※ 株に対応する相続税は「総額−株を除いた総額」で置いた概算で、実際の猶予税額の計算手順とは異なる。計算は scripts/jigyo-shokei-zeisei-kigen.mjs
10年目の相続では、特例措置と一般措置で猶予の対象が240.5万円違います。20年目なら538.7万円です。株の評価額が大きいほど、期限内に特例措置を使えたかどうかの差が広がります。
一方で、法人化して数年の一人会社では、株に対応する税そのものが大きくありません。5年目の設例では250.2万円です。制度を使うには担保の提供や継続届出が要るので、対象の税額が小さいうちは手間との釣り合いも見る必要があります。
一人会社では「社長交代」が入口になる
国税庁のパンフレットが挙げる贈与の主な要件は、一人会社の形と正面からぶつかります。
| 誰の要件か | 贈与の場合の主な要件 |
|---|---|
| 後継者(受贈者) | 贈与の時に会社の代表権を有していること |
| 後継者(受贈者) | 贈与の日に18歳以上であること |
| 後継者(受贈者) | 贈与の直前に会社の役員であること(一般措置は贈与の日まで引き続き3年以上) |
| 後継者(受贈者) | 後継者と特別の関係がある者で総議決権数の50%超を持ち、その中で最も多く持つこと |
| 先代(贈与者) | 会社の代表権を有していたこと |
| 先代(贈与者) | 贈与の時に会社の代表権を有していないこと |
社長が1人で役員も1人の会社では、贈与の前に子を役員に入れ、贈与の時点で代表権を子に移し、社長自身は代表権を外れます。株を渡すだけでなく、会社の代表を交代させる制度です。
期限との関係で効くのが役員要件です。特例措置なら、贈与の直前に役員であれば足ります。令和9年12月31日を過ぎて一般措置しか残らなくなると、贈与の日まで3年以上役員を続けている必要があります。子がまだ役員でないなら、一般措置で贈与を使えるのは早くても役員就任の3年後です。
相続の場合は要件の形が違います。後継者は相続開始の翌日から5か月を経過する日に代表権を持っていればよく、相続開始の直前に役員であることは、特例承継計画に記載された後継者である場合や、被相続人が70歳未満で亡くなった場合には求められません。
相続時精算課税と組み合わせる
国税庁の比較表には、相続時精算課税の適用範囲の違いも載っています。
| 特例措置 | 一般措置 | |
|---|---|---|
| 相続時精算課税を使える贈与 | 60歳以上の贈与者から18歳以上の者への贈与 | 60歳以上の贈与者から18歳以上の推定相続人(直系卑属)・孫への贈与 |
特例措置では、推定相続人でない後継者(たとえば親族外の役員)への贈与にも相続時精算課税を使えます。一般措置では、子や孫などへの贈与に限られます。
相続時精算課税そのものの効き方は、相続時精算課税で法人成り直後の株を子へで計算しています。株の評価額が低い時期に移すほど効く、という点は事業承継税制とも共通です。株の評価方法は法人化すると相続税評価は下がるのかで扱っています。
猶予の後にも、守る条件がある
納税猶予は免除ではありません。国税庁のパンフレットによると、適用を受けた後も次の手続きと条件が続きます。
- 担保の提供:猶予される税額と利子税の額に見合う担保を税務署に提供する
- 継続届出書:経営承継期間(申告期限から5年)は毎年、その後は3年ごとに提出する
- 株の保有と代表権:経営承継期間内に後継者が株を譲渡したり代表権を外れたりすると、原則として猶予税額の全額と利子税を納めることになる
特例措置には、事業の継続が困難な事由が生じた場合に、譲渡対価などで再計算した税額を納めて差額を免除する仕組みもあります。一般措置にはこの仕組みがありません。
一人会社で子が事業を継ぐかどうかは、法人化の時点では決まっていないことが多いでしょう。ただ、特例措置を使う可能性が少しでもあるなら、令和9年9月30日までに特例承継計画を出しておくかどうかは、その前に決める必要があります。
まとめ
- 特例措置は、特例承継計画の提出が令和9年9月30日まで、贈与・相続が令和9年12月31日まで(令和8年4月1日現在法令等)
- 期限後に残る一般措置は、対象が株の3分の2まで・相続の猶予割合80%で、株に対応する税の約53%しか猶予されない
- 株の評価額3,836.1万円の設例では、猶予の対象は特例措置515.4万円、一般措置274.9万円で、差は240.5万円
- 一人会社では、子を役員にし、贈与の時に代表権を移すことが入口になる。一般措置の贈与は3年以上の役員要件がある
株の評価額は、法人に毎年いくら残るかで決まります。一般論の数字ではなく、自分の売上と経費で「法人に残る額」を確かめ、何年後にどれだけの株になるかから、この制度を検討する価値があるかを見てください。
よくある質問
特例承継計画は、贈与や相続の後から出しても間に合いますか?
国税庁のパンフレットは、贈与後でも円滑化法の認定申請時までは特例承継計画を提出できるとしています。ただし提出期限(令和9年9月30日)そのものを越えることはできません。
納税猶予を受けた税は、最終的に払わなくてよくなるのですか?
猶予は免除とは別です。後継者の死亡など一定の場合に免除されますが、後継者が代表権を外れる・株を譲渡するなど要件を欠くと、猶予税額と利子税を納めることになります。適用には担保の提供と、継続届出書の定期的な提出が必要です。
合同会社の持分も対象になりますか?
国税庁のパンフレットは、対象の「非上場株式等」を中小企業者である非上場会社の株式または出資としています。議決権に制限のないものに限られます。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。