税金の基礎
相続時精算課税で法人成り直後の株を子へ。20年で相続税1,135万円差
結論
相続時精算課税で足し戻すのは贈与時の価額なので、資本金300万円の株を法人成り直後に子へ移すと、相続時の加算額は300万円から基礎控除110万円を引いた190万円で固定されます。事業所得1,200万円で毎年353.6万円が法人に残る設例では、移さずに20年後に相続した場合の相続税1,234.4万円に対し、移しておくと99.0万円で、差は1,135.4万円です。
- 相続時精算課税の贈与税は、年110万円の基礎控除と累計2,500万円の特別控除を超えた部分に一律20%。令和6年以後の贈与は、基礎控除分を相続時にも足し戻さない
- 相続時に加算するのは贈与時の価額。移した後に法人へ積み上がった利益は、贈与者の相続財産にならない
- 同じ株を10年目に移すと加算額は3,726.1万円になり、贈与時に245.2万円の贈与税を前払いする。移す時期が早いほど効く
法人化すると、事業の利益の一部は「法人に残る額」として会社の中に積み上がります。判定ツールもこの額を手取りの一部として数えています。ただし、その積み上がった利益は株式・持分の価値を押し上げ、社長が亡くなったときには相続財産になります。
相続時精算課税は、その積み上がりを相続財産の外に出せる制度です。相続時に足し戻すのが「贈与時の価額」だからです。 株の評価が最も低いのは、設立した直後です。
相続時精算課税は、贈与時の価額で固定する
国税庁No.4103の仕組みを、要点だけ並べます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 贈与者 | 贈与をした年の1月1日において60歳以上の父母または祖父母など |
| 受贈者 | 贈与を受けた年の1月1日において18歳以上の子・孫など(推定相続人または孫) |
| 贈与税 | 年110万円の基礎控除の後、特別控除(累計2,500万円)を超えた部分に一律20% |
| 相続時 | 贈与時の価額を相続財産に加算(令和6年以後の贈与は、年分ごとに基礎控除110万円を差し引いた残額) |
| 納めた贈与税 | 相続税から控除し、控除しきれない分は還付 |
| 選択の撤回 | できない。その贈与者からの贈与はその年分以降すべてこの制度 |
名前のとおり「相続時に精算する」制度なので、節税にならないと説明されることがあります。財産の価値が変わらないなら、そのとおりです。ただし加算するのは贈与時の価額で、相続時の価額ではありません。贈与した後に価値が増える財産なら、増えた分は相続税の計算に入りません。
法人成り直後の株式・持分は、まさにその性質を持っています。設立時の純資産は資本金程度で、その後、毎年の税引後利益が積み上がっていくからです。
20年で、相続税は1,234.4万円と99.0万円に分かれる
事業所得1,200万円(売上1,400万円・経費200万円)の一人社長で、当サイトの計算エンジンの最適な役員報酬は月54万円です。このとき、法人税等を払った後に毎年353.6万円が法人に残ります。
資本金300万円の株式会社をつくり、残った利益をすべて会社に置いておくと、株の評価額は毎年353.6万円ずつ増えます。株以外の課税価格を5,000万円、法定相続人を配偶者と子の2人として、相続税を比べました。
| 相続までの年数 | 相続時の株の評価額 | 移さない:相続税の総額 | 設立直後に精算課税で移す:加算額 | 同:相続税の総額 | 差 |
|---|---|---|---|---|---|
| 5年 | 2,068.1万円 | 330.2万円 | 190.0万円 | 99.0万円 | 231.2万円 |
| 10年 | 3,836.1万円 | 595.4万円 | 190.0万円 | 99.0万円 | 496.4万円 |
| 15年 | 5,604.2万円 | 880.8万円 | 190.0万円 | 99.0万円 | 781.8万円 |
| 20年 | 7,372.2万円 | 1,234.4万円 | 190.0万円 | 99.0万円 | 1,135.4万円 |
※ 売上1,400万円・経費200万円・東京23区・65歳以上・配偶者あり・株式会社の最適報酬/2026年(令和8年)分基準
※ 株の評価額は資本金+毎年の税引後利益の累計(純資産価額で1対1と置いた概算)。株以外の課税価格5,000万円・法定相続人2人・配偶者の税額軽減前の総額。計算は scripts/seisan-kazei-mochibun.mjs
設立直後に移すと、贈与税は0円です。300万円から基礎控除110万円を引いた190万円が、特別控除2,500万円の範囲に収まるからです。相続時に足し戻すのもこの190万円だけで、何年たっても変わりません。20年後には差が1,135.4万円になります。
この表の株の評価額は、利益をすべて会社に残し、評価を純資産の額と1対1で置いた概算です。実際の取引相場のない株式の評価は、会社の規模によって類似業種比準価額との併用になり、同じ純資産でも評価額は変わります。評価方法は法人化すると相続税評価は下がるのかで扱っています。株を相続した側が相続税の資金を会社から受け取る方法は、相続した一人会社の株を会社に売るで計算しています。
10年待ってから移すと、効き目は小さくなる
同じ制度を、10年目に使った場合と比べます。
| 相続までの年数 | 設立直後に移す:税の総額 | 10年目に移す:加算額 | 10年目に移す:税の総額(贈与時の前払いを含む) | 移さない:相続税の総額 |
|---|---|---|---|---|
| 15年 | 99.0万円 | 3,726.1万円 | 578.9万円(うち贈与時に245.2万円) | 880.8万円 |
| 20年 | 99.0万円 | 3,726.1万円 | 578.9万円(うち贈与時に245.2万円) | 1,234.4万円 |
10年目の株の評価額は3,836.1万円です。基礎控除110万円と特別控除2,500万円を引いても1,226.1万円が残り、その20%の245.2万円を贈与の翌年に納めます。この贈与税は相続税から差し引かれるので二重にはなりませんが、払う時期が相続より前に来ます。
移さない場合より税は小さくなりますが、設立直後に移した場合との差は479.9万円です。固定されるのは「移した時点までの積み上がり」を含んだ価額なので、効くのは移した後の増加分だけです。
暦年課税の110万円とは、足し戻しの扱いが逆
生前贈与といえば、暦年課税の年110万円の基礎控除がよく知られています。相続時精算課税にも令和6年から110万円の基礎控除ができましたが、2つは相続時の扱いが違います。
| 暦年課税の110万円 | 相続時精算課税の110万円 | |
|---|---|---|
| 贈与税 | かからない | かからない |
| 相続時の足し戻し | 加算対象期間内の贈与は、110万円以下でも加算する | 加算しない |
| 加算対象期間 | 令和6年以後の贈与は相続開始前7年以内(令和8年中の相続までは3年以内、令和9年から段階的に延長) | 期間の定めなし(基礎控除を超えた部分は全期間) |
国税庁No.4161は、暦年課税では「基礎控除額110万円以下の贈与財産」も加算対象期間内なら加算すると明記しています。相続人になる子へ毎年110万円ずつ株を渡しても、亡くなる前の数年分は相続財産に戻ります。
もう1つ、暦年課税で株を少しずつ移す方法は、評価額が毎年上がっていく株とは相性がよくありません。移すたびにその時点の評価額で計算するので、後になるほど同じ110万円で移せる株数が減ります。一度に移して価額を固定する相続時精算課税とは、この点で性格が違います。
株式会社と合同会社で、移し方の手間が違う
株式会社の株は、社長が取締役を続けたまま子へ移せます。株主であることと取締役であることが別だからです。
合同会社の持分は事情が違います。会社法585条により、社員は他の社員全員の承諾がなければ持分を譲渡できません。一人合同会社なら承諾は自分だけで済みますが、持分会社では出資者(社員)が業務を執行する立場を兼ねるのが原則なので、持分をすべて子へ移すと親が社員でなくなります。社長を続けながら移すなら、一部を残す形になり、定款の変更も伴います。
法人形態の違いそのものは合同会社と株式会社の費用の差で扱っています。事業を子へ継がせる前提がある場合、この点が形態選びの材料の1つになります。株にかかる税の納税を猶予する事業承継税制もあり、手厚い特例措置には令和9年までの期限があります(事業承継税制の特例措置は令和9年まで)。
選ぶ前に確かめること
相続時精算課税には、選んだ後に戻れない性質があります。
- 撤回できない:その贈与者からの贈与は、以後すべて相続時精算課税になる。暦年課税の110万円は、その贈与者からは使えなくなる
- 価値が下がっても加算額は下がらない:業績が悪化して株の価値が落ちても、相続時には贈与時の価額を足し戻す
- 届出の期限:最初の贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までに「相続時精算課税選択届出書」を出す
- 年齢要件:贈与者は贈与の年の1月1日に60歳以上。法人成りの時点で60歳未満なら、設立直後には使えない
最後の点は、この記事の設例が「65歳以上」の社長を置いている理由でもあります。60歳前に法人成りした場合、60歳になるまでの間にも株の評価額は積み上がります。
まとめ
- 相続時精算課税は、相続時に贈与時の価額で足し戻す。移した後に株の価値が増えた分は相続財産に入らない
- 法人成り直後の株は資本金程度の評価で、事業所得1,200万円の設例では毎年353.6万円ずつ増える
- 設立直後に移すと加算額は190万円で固定され、20年後の相続税は移さない場合の1,234.4万円に対し99.0万円
- 10年待ってから移すと加算額は3,726.1万円になり、贈与時に245.2万円を前払いする
- 暦年課税の110万円は加算対象期間内なら相続時に足し戻すが、相続時精算課税の110万円は足し戻さない
法人に毎年いくら残るかは、売上・経費・役員報酬で大きく変わります。一般論の数字ではなく、自分の売上と経費で「法人に残る額」を確かめたうえで、それが何年分積み上がるかを見てください。
よくある質問
相続時精算課税は途中で暦年課税に戻せますか?
戻せません。国税庁No.4103によると、一度選択すると、その贈与者から受ける財産にはその年分以降すべて相続時精算課税が適用され、暦年課税へ変更することはできません。選択は贈与者ごとに行います。
相続時精算課税を選ぶには、いつまでに何を出せばよいですか?
最初の贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までに、戸籍の謄本などを添付した「相続時精算課税選択届出書」を所轄税務署に提出します。贈与額が110万円を超えて贈与税の申告書を出す場合は、申告書に添付します。
株を移した後に会社の業績が悪化したらどうなりますか?
相続時に加算するのは贈与時の価額なので、その後に株の価値が下がっても、加算額は下がりません。この制度は、移した財産の価値が上がる場合に効き、下がる場合には不利に働きます。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。