税金の基礎
相続した一人会社の株を会社に売る。3年以内なら税が70万円軽い
結論
相続税がかかった人が、相続税の申告期限の翌日以後3年以内に非上場株式をその発行会社へ売ると、みなし配当課税をせず全額を譲渡所得(20.315%)で課税する特例があり、相続税の取得費加算も併用できます。評価額1,000万円分を売る設例では、所得税・住民税は特例の期間内なら173.6万円、期間を過ぎてみなし配当になると243.6万円で、差は70.0万円です。
- 国税庁No.1477:特例を受けるには、株を会社へ譲渡する日までに届出書を会社へ出し、会社は翌年1月31日までに税務署へ出す
- 取得費加算は、その人の相続税額のうち売った株に対応する部分を取得費に足す(国税庁No.3267)。設例では67.4万円
- 会社が株を買い取れるのは分配可能額の範囲まで(会社法461条)。利益を法人に残していない会社では、この方法自体が使えない
一人会社の社長が亡くなると、子は会社の株を相続します。法人に利益を残してきた会社ほど株の評価額は高く、相続税もかかります。ところが相続したのは株で、現金ではありません。
相続税を払う現金は、会社の中にあります。それを子に移す方法の1つが、子が相続した株の一部を会社に買い取らせることです。会社にとっては自己株式の取得で、子には売却代金が入ります。この売却代金にかかる税が、売る時期で変わります。
原則は「みなし配当」で総合課税
株を発行会社に売ると、受け取った代金は2つに分かれます。国税庁No.1477・No.1536によると、代金のうちその株に対応する資本金等の額を超える部分は、配当所得とみなされます。残りの部分は株式の譲渡の収入です。
一人会社で利益を積み上げてきた株では、資本金等の額は設立時の出資程度にとどまり、代金のほとんどがみなし配当になります。みなし配当は総合課税で、給与など他の所得と合算した累進税率がかかります。
申告期限後3年以内なら、譲渡所得になる
これに対して、国税庁No.1477の特例は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象者 | 相続または遺贈で財産を取得し、納付すべき相続税額がある個人 |
| 期間 | 相続開始の翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日まで |
| 対象 | その相続税の課税対象となった非上場株式を発行会社に譲渡した場合 |
| 効果 | みなし配当課税を行わず、全額を非上場株式の譲渡所得の収入金額とする |
| 税率 | 所得税・復興特別所得税15.315%(住民税5%と合わせて20.315%) |
| 手続き | 譲渡の日までに届出書を発行会社へ提出。発行会社は翌年1月31日までに税務署へ提出 |
さらに、相続税の取得費加算(国税庁No.3267)を併用できます。相続税のうち売った株に対応する部分を、取得費に足せる制度です。期間の要件も同じで、相続開始の翌日から申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売ることが条件です。
1,000万円分を売った場合で比べた
相続時精算課税の記事と同じ設例を使います。事業所得1,200万円(売上1,400万円・経費200万円)の株式会社で、最適報酬をとった後の税引後利益を10年間残すと、株の評価額は3,836.1万円です。子がその株をすべて相続し、配偶者が他の財産5,000万円を相続した場合、相続税の総額は595.4万円、うち子の分は258.5万円です。
子が評価額1,000万円分の株を会社に売ったとして、所得税・住民税を比べました。
| 特例の期間内(申告期限後3年以内) | 期間を過ぎた後 | |
|---|---|---|
| 会社から受け取る額 | 1,000.0万円 | 1,000.0万円 |
| 取得費(資本金等の額に対応する部分) | 78.2万円 | 78.2万円 |
| 取得費加算(相続税のうち売った株の分) | 67.4万円 | — |
| 課税の区分 | 譲渡所得(分離課税)854.4万円 | みなし配当(総合課税)921.8万円 |
| 所得税・住民税 | 173.6万円 | 243.6万円 |
| 手元に残る額 | 826.4万円 | 756.4万円 |
※ 売上1,400万円・経費200万円・株式会社の最適報酬で10年間利益を留保/2026年(令和8年)分基準。時価=相続税評価額と置く
※ 子の他の課税総所得金額400万円。みなし配当は所得税の配当控除(10%/5%)と住民税の配当控除(2.8%/1.4%)を反映。計算は scripts/souzoku-kabushiki-jiko-kaitori.mjs
期間内なら所得税・住民税は173.6万円、期間を過ぎると243.6万円で、差は70.0万円です。
差の出どころは2つあります。1つは税率です。みなし配当921.8万円が子の他の所得400万円に上乗せされると、所得税の33%の税率帯に入ります。配当控除で一部は戻りますが、分離課税の20.315%より重くなります。もう1つは取得費加算の67.4万円で、これは特例の期間内にしか使えません。
子の他の所得が少なければ、みなし配当でも税率帯が下がり、差は縮みます。逆に子が高所得の会社員なら、差はさらに開きます。
会社が買い取れるのは、分配可能額の範囲まで
株を買い取る会社の側には、会社法の制限があります。会社法461条は、自己株式の取得で株主に交付する金銭の帳簿価額の総額が、効力を生ずる日の分配可能額を超えてはならないとしています。分配可能額は、おおまかには剰余金の額を基礎に計算します。
つまり、この方法が使えるのは、利益を法人に残してきた会社だけです。判定ツールが「法人に残る額」として数えている税引後利益は、ここで初めて相続人の現金に変わります。利益をすべて役員報酬で取り出してきた会社では、株の評価額も低く相続税も小さい代わりに、買い取りの原資もありません。
もう1つ、売却代金は会社の現金から出ます。分配可能額があっても、預金がなければ払えません。株の評価額は純資産で決まり、純資産には車や設備も含まれるからです。
「法人に残る額」の20%という前提を確かめる
判定ツールは、法人に残した利益を個人へ取り出すコストを20%と置いて評価しています。この記事の設例で、取り出したときの実際の負担を見ると次のようになります。
| 取り出し方 | 税負担(1,000万円あたり) | 負担率 |
|---|---|---|
| 相続後3年以内に会社へ売る(特例+取得費加算) | 173.6万円 | 17.4% |
| 期間を過ぎて会社へ売る(みなし配当) | 243.6万円 | 24.4% |
※ 子の他の課税総所得金額400万円の場合。受け取る人の他の所得で変わる
相続の場面に限って言えば、特例の期間内なら20%を下回り、期間を過ぎると上回ります。ただし、この取り出しの前に相続税がかかっています。法人に残した利益は、株の評価額を通じて相続税の課税対象になり、そのうえで取り出すときにもう一度課税されます。取得費加算は、この二重の負担を一部調整する仕組みです。
株の評価額がどう決まるかは法人化すると相続税評価は下がるのか、社長が生前に株を移す方法は相続時精算課税で法人成り直後の株を子へで扱っています。
まとめ
- 一人会社の株を発行会社に売ると、原則は資本金等の額を超える部分がみなし配当(総合課税)になる
- 納付すべき相続税がある人が、相続税の申告期限の翌日以後3年以内に売れば、全額が譲渡所得(20.315%)になり、取得費加算も使える
- 評価額1,000万円分を売る設例では、期間内173.6万円、期間後243.6万円で、差は70.0万円
- 特例には、譲渡の日までに会社へ届出書を出す手続きが必要
- 会社が買い取れるのは分配可能額の範囲まで。法人に利益を残していない会社ではこの方法は使えない
法人に毎年いくら残るかで、株の評価額も、相続人が会社から受け取れる額も決まります。一般論の数字ではなく、自分の売上と経費で「法人に残る額」を確かめてください。
よくある質問
相続税がかからなかった場合も、この特例は使えますか?
使えません。国税庁No.1477の対象者は「相続または遺贈について納付すべき相続税額がある個人」です。取得費加算(No.3267)も、その財産を取得した人に相続税が課税されていることが要件です。
3年の期間はいつから数えますか?
相続の開始があった日の翌日から、相続税の申告書の提出期限の翌日以後3年を経過する日までです。申告期限は相続開始を知った日の翌日から10か月以内なので、亡くなってから3年10か月程度が目安になります。
会社への売却の代わりに、配当で相続税の資金を受け取るとどうなりますか?
配当は株主全員に持株数に応じて支払われ、総合課税の配当所得になります。相続税の取得費加算のような調整はありません。自己株式の取得は、特定の株主から必要な分だけ買い取れる点が違います。
出典
- 国税庁 タックスアンサー No.1477 相続により取得した非上場株式をその発行会社に譲渡した場合の課税の特例
- 国税庁 タックスアンサー No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
- 国税庁 タックスアンサー No.1536 株式等に係る譲渡所得等の収入金額とみなされる場合(自己株式の取得等の場合)
- 国税庁 A2-31 相続財産に係る非上場株式をその発行会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例に関する届出
- 国税庁 タックスアンサー No.1250 配当所得があるとき(配当控除)
- e-Gov法令検索 地方税法(附則第5条 個人の道府県民税及び市町村民税の配当控除)
- e-Gov法令検索 会社法(第461条 配当等の制限)
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。