設立の手続き

貨物利用運送の法人成り|第一種は承継届、第二種は認可

結論

貨物利用運送事業の法人成りは、個人の登録・許可証の名義変更ではありません。第一種は事業全部の譲渡により法人が地位を承継し、承継日から30日以内に届出ます。第二種は譲渡前に譲渡譲受の認可が必要です。荷主契約、実運送事業者との契約、約款、運賃料金、保険も承継日に合わせます。

  • 第一種は事業全部の譲受人が地位を承継し、承継日から30日以内に届け出る
  • 第二種の譲渡・譲受は国土交通大臣の認可を受けなければ効力が生じない
  • 荷主に運送責任を負う利用運送と、取次ぎ・自ら運ぶ軽貨物を先に区別する

貨物利用運送事業の法人成りでは、「個人の登録番号を会社名へ書き換える」と考えると順序を誤ります。個人と新設法人は別の事業者であり、個人から法人へ事業全部を譲渡したうえで、貨物利用運送事業法に沿って地位を移します。

特に重要なのは、第一種と第二種で手続の時期が違うことです。第一種は譲渡によって地位が承継され、その日から30日以内に届出ます。一方、第二種は譲渡・譲受について事前に認可を受けなければ効力が生じません。名称変更届や法人の新規申請だけで処理せず、現在の登録・許可の種類を確認するところから始めます。

まず利用運送・取次ぎ・実運送を区別する

貨物利用運送事業とは、荷主の需要に応じて有償で、鉄道、船舶、航空、トラックなど実運送事業者の運送を利用し、自らが荷主に対して運送責任を負う事業です。荷主とは自社名義で運送契約を結び、実運送事業者とは別の運送契約を結びます。

似ているのが貨物取次事業です。取次事業者は荷主と実運送事業者の契約を取り次ぎますが、荷主に対する運送責任を負いません。貨物取次事業の規制は2003年に廃止されました。しかし、契約書で「取次手数料」と書けば取次ぎになるわけではありません。荷主に対して運送の完成、滅失・毀損、遅延の責任を引き受け、自社が運賃を決めているなら、実態は利用運送に近づきます。

また、自社のトラックや軽自動車で荷物を運ぶ実運送は、一般貨物自動車運送事業または貨物軽自動車運送事業です。利用運送の登録・許可だけで自社車両による有償運送はできません。逆に、黒ナンバーの届出だけで、他社便を使い自社が荷主へ運送責任を負う利用運送が当然にできるわけでもありません。

現在の事業実態主な制度法人成りで確認する手続
他社のトラックを利用し、荷主に運送責任を負う第一種貨物利用運送事業事業全部の譲渡と地位承継届
船・航空・鉄道の幹線輸送と前後の集配を一貫して請け負う第二種貨物利用運送事業譲渡前の譲渡譲受認可
荷主と運送会社の契約を仲介し、運送責任を負わない貨物取次事業契約実態を確認。利用運送との混同に注意
自社の軽自動車で有償運送する貨物軽自動車運送事業法人名義の経営届出、車両・運賃等の手続
自社の普通・小型トラックで有償運送する一般貨物自動車運送事業別制度の譲渡譲受認可等

複数の形態を兼業しているなら、一つの承継届で全てが移るとは考えません。利用運送、一般貨物、軽貨物、倉庫業などの許認可を一覧にして、それぞれの管轄部署へ相談します。軽貨物ドライバーが法人成りする手続も切り分けに使ってください。

第一種は全部譲渡後30日以内に承継届を出す

貨物利用運送事業法14条1項は、第一種貨物利用運送事業者が事業の全部を譲渡したとき、譲受人がその地位を承継すると定めています。個人事業主が自分で設立した法人も別人格なので、個人を譲渡人、法人を譲受人とする事業譲渡契約を作ります。

法人が地位を承継する日は、契約で定めた事業譲渡日です。承継した法人は、その日から30日以内に国土交通大臣へ地位承継届を提出します。実務上の提出先・部数は管轄運輸局により案内が異なるため、主たる営業所を管轄する運輸支局等へ事前に確認します。

北陸信越運輸局の手引きでは、譲渡の場合、譲渡譲受契約書の写しなど譲渡の事実を証する書類が必要です。譲受法人が第一種貨物利用運送事業を営んでいなかった場合は、定款、登記事項証明書、役員の欠格事由に関する宣誓書、事業に必要な施設や財産に関する資料など、登録審査に相当する書類も求められます。

法人成りでは、会社を設立しないと譲受人となる法人が存在しません。そのため、会社設立日、事業譲渡日、承継届の提出期限を一本の工程表にします。譲渡前に法人名義で運送を受注するのではなく、個人が営業する最終日と法人が承継する初日を契約で明確にします。

「事業の全部」の譲渡であることも重要です。荷主契約だけ法人へ移し、利用運送の営業所、実運送事業者との契約、運送責任、帳簿を個人に残すと、全部譲渡を説明しにくくなります。譲渡対象には少なくとも次を整理します。

  • 荷主との運送契約、見積書、運賃表、継続案件
  • 実運送事業者・利用運送事業者との契約
  • 営業所の賃借権、電話、システム、配車情報
  • 利用運送約款、事故・苦情・貨物追跡の記録
  • 売掛金、前受金、未払運賃、保証金の帰属
  • 屋号、ウェブサイト、顧客情報、業務マニュアル

事業の一部だけを法人へ移す計画、輸送機関や利用運送区域も変更する計画なら、承継届以外の変更登録・変更認可が必要かを先に確認します。

第二種は譲渡前に認可を受ける

第二種貨物利用運送事業は、船舶、航空、鉄道の幹線輸送と、その前後のトラックによる集荷・配達を組み合わせ、荷主から戸口までの一貫運送を引き受ける事業です。貨物利用運送事業法29条1項により、第二種事業の譲渡・譲受は国土交通大臣の認可を受けなければ効力が生じません。

第一種の承継届とは違い、「先に譲渡して30日以内に報告」ではありません。法人設立後に譲渡譲受認可を申請し、認可日と契約上の効力発生日を調整します。認可前に個人の許可を使って法人が荷主と第二種の運送契約を結ぶと、許可主体と契約主体が一致しません。

申請では、譲渡譲受契約、譲渡価格や資産負債、法人の定款・登記、役員、営業所、利用する運送機関、利用運送区域・区間、集配拠点、集配の体制などを確認されます。実運送事業者または他の利用運送事業者との契約書も、許可された輸送機関と区間を裏付ける資料になります。

第二種の集配を自社で行う場合と、一般貨物自動車運送事業者へ委託する場合では、集配事業計画の記載が異なります。法人化に合わせて集配拠点、委託先、営業所を変えるなら、譲渡譲受認可だけで足りるか、事業計画・集配事業計画の変更手続を併せて確認します。

なお、委託先が航空や鉄道の許可を持っていても、自社にその輸送機関の登録・許可がなければ、その輸送機関を使った利用運送を自由に受注できるわけではありません。法人が承継する許可の輸送機関、区域・区間と、実際の運送商品を照合します。

約款・運賃・二つの契約を同じ日に切り替える

利用運送には、荷主との運送契約と、実運送事業者との運送契約があります。行政上の地位を承継しても、民間契約が全て自動で法人名義へ変わるとは限りません。契約上の地位移転、譲渡禁止条項、相手方の承諾、保証金、相殺、秘密保持、個人情報の扱いを契約ごとに確認します。

荷主には、法人名、法人番号、譲渡日、請求書の名義、振込口座、適格請求書発行事業者の登録番号、事故・問い合わせ先を通知します。個人の登録番号やインボイス番号を法人が使うことはできません。譲渡日前後にまたがる輸送は、運送契約が成立した日、貨物を受け取った日、運送を完了した日、請求日を記録し、売上と責任の帰属を決めます。

実運送事業者側では、法人との基本契約を締結し、運賃、燃油サーチャージ、附帯作業料、待機時間料、支払サイト、貨物事故時の報告経路を更新します。個人が差し入れた保証金や連帯保証は、契約書に定めがなければ当然に法人へ移りません。

利用運送約款については、国土交通大臣の認可を受けた約款または適用する標準利用運送約款を確認します。国土交通省は、標準貨物自動車利用運送約款について2024年8月30日以降適用の様式を掲載しています。古い約款の会社名だけを機械的に直すのではなく、承継する認可内容、現行の標準約款、荷待ち・附帯作業等の料金区分と契約実態を照合します。

運賃・料金を法人で新たに設定・変更する場合の届出様式も国土交通省・各運輸局が公開しています。承継によって従前の地位を引き継ぐ部分と、法人化を機に変更する部分を分け、必要な手続と実施日を担当窓口に確認します。利用運送約款、運賃料金表、ウェブ表示、見積書の内容を同じにすることが大切です。

保険・帳簿・事故対応に空白を作らない

運送業者貨物賠償責任保険などの保険は、許認可とは別契約です。個人契約を法人が当然に使えるとは限らないため、譲渡日の午前0時から法人を被保険者とする契約へ切り替えます。補償する貨物、輸送手段、保管中・積卸中、再委託、免責金額、海外輸送の有無を運送実態に合わせます。

譲渡日前に受け取った貨物を譲渡日後に法人が引き渡す場合、事故発生時点と運送契約の主体がずれる可能性があります。切替日に輸送中の貨物を一覧化し、個人・法人・保険会社・実運送事業者のどこが対応するかを書面で決めます。

また、貨物利用運送事業者には事業報告書・事業実績報告書などの定期報告があります。個人の最終期間と法人の開始後を分けて、取扱実績、売上、利用運賃、事故・苦情の記録を引き継ぎます。過去の記録を法人が閲覧できない状態にすると、荷主からの照会や行政報告に対応できません。

実務では、次の順序で一つずつ進めると名義の空白を避けやすくなります。

  1. 現在の登録通知書・許可書から第一種か第二種か、輸送機関、区域・区間を確認する
  2. 管轄運輸局へ法人化、譲渡予定日、同時変更の内容を相談する
  3. 会社設立を自分で行う手順に沿って法人を設立する
  4. 事業譲渡契約と譲渡資産・契約・債権債務の一覧を作る
  5. 第二種なら譲渡前に認可を得る。第一種なら譲渡後30日以内の届出を準備する
  6. 荷主、実運送事業者、営業所、保険、約款、運賃、口座を切替日にそろえる
  7. 輸送中貨物を棚卸しし、個人の最終日と法人の初日の記録を保存する

法人成りの採算に切替費用を加える

標準条件の損益分岐は次のとおりです。npm run calc:table -- breakevenで再現できます。表の経費には、行政書士報酬、認可待ちの資金負担、契約書改定、保証金、保険、システム名義変更などの一時費用は自動で含まれません。

条件損益分岐となる事業所得
基本(独身・インボイス登録済み)1,266万円
株式会社で設立1,266万円
配偶者あり(無収入)1,016万円
配偶者あり+扶養1人1,066万円
インボイス未登録1,266万円
40〜59歳(介護保険あり)1,243万円
大阪市1,283万円
名古屋市1,270万円
白色申告793万円

※ 経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年分

利用運送では、法人化そのものより、荷主・実運送事業者双方の審査や契約更新に時間がかかることがあります。主要荷主が法人との契約締結に求める決算書、保証、保険金額を確認し、売上が途切れる期間と追加費用をシミュレーターの経費へ足してください。

まとめ

  • 第一種は事業全部の譲渡で法人が地位を承継し、承継日から30日以内に届け出る
  • 第二種の譲渡・譲受は事前認可であり、認可前に法人事業を始めない
  • 利用運送、取次ぎ、一般貨物、軽貨物を契約上の責任と輸送実態から区別する
  • 荷主契約と実運送契約、約款、運賃料金、保険、口座を同じ承継日にそろえる
  • 輸送中貨物と過去の帳簿・事故記録まで事業譲渡の対象として管理する

最初に登録通知書・許可書、事業計画、荷主契約、実運送契約を並べ、現在の事業範囲を一枚にまとめてください。その資料と事業譲渡契約書案を管轄運輸局へ示し、第一種の承継届か第二種の事前認可か、同時に変更手続が必要かを確認してから譲渡日を確定するのが安全です。

よくある質問

個人の第一種貨物利用運送事業は法人へ承継できますか?

事業の全部を法人へ譲渡すれば、法人が第一種貨物利用運送事業者の地位を承継します。法人は承継日から30日以内に、管轄運輸支局等を通じて国土交通大臣へ地位承継届を提出します。

第二種も譲渡してから届ければよいですか?

いいえ。第二種の譲渡・譲受は事前認可です。認可を受けなければ効力が生じないため、認可前に法人名義で第二種貨物利用運送事業を開始しないよう、希望日から逆算して申請します。

軽貨物の黒ナンバーも同じ手続ですか?

同じではありません。自社の軽自動車で荷物を運ぶ貨物軽自動車運送事業と、他の運送事業者を利用して荷主に運送責任を負う貨物利用運送事業は別制度です。両方を営む場合は、それぞれの手続を行います。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。