税金の基礎
経営セーフティ共済は法人成りで会社に引き継げる。3か月を過ぎると解約扱い
結論
経営セーフティ共済は、法人成り(事業の全部譲渡)から3か月以内に新しい会社が中小機構に申し出れば、契約を会社に引き継げます(承継)。掛金総額と納付月数は引き継がれ、40か月で全額が戻る線も続きから数えます。引き継がないと「みなし解約」となり、たとえば月10万円を24か月納めた240万円なら、90%の216万円が解約手当金として個人の事業所得の収入になります。
- 承継の要件は、事由発生から3か月以内の申し出、会社が中小企業者で加入資格があること、旧契約者の貸付金の償還義務などを引き受けること
- 法人設立時に個人事業主本人が役員として登記されていないと「法人成り」とは扱われず、必要書類が変わる
- 令和6年10月1日以後に解約して再加入すると、解約から2年間の掛金は必要経費・損金にならない。承継なら解約にならない
個人事業主のときに経営セーフティ共済に入っていた人が法人成りすると、その契約をどうするかを決める必要があります。選択肢は「会社に引き継ぐ(承継)」か「解約して受け取る」かです。何もしないと、事業の全部譲渡の時点で解約されたものとみなされます。
法人成りは「事業の全部譲渡」。何もしないと解約扱い
中小機構は、共済契約者の死亡、解散、会社分割、事業の全部譲渡があった場合、その時点で解約されたものとみなす(みなし解約)としています。個人事業の法人成りは、この事業の全部譲渡に当たります。ただし、共済契約の承継が行われたときは解約になりません。
承継を選んだ場合と、みなし解約になった場合の違いは次のとおりです。
| 項目 | 承継した場合 | みなし解約になった場合 |
|---|---|---|
| 契約者 | 新しい会社 | 契約が終わる |
| 掛金総額・納付月数 | 会社にそのまま引き継がれる | 解約手当金として個人に支給 |
| 40か月で全額が戻る線 | 個人時代の月数の続きから数える | — |
| 解約手当金の課税 | まだ発生しない | 個人の事業所得の収入金額に算入 |
| 会社で改めて加入する場合 | 不要 | 新規加入。12か月未満は掛け捨てに戻る |
解約手当金の税務上の扱いについて、和歌山県が公表している制度案内は、解約した時点で法人なら益金、個人なら事業所得の収入金額に算入するとしています。
承継の要件は3つ。期限は3か月
中小機構が示す承継の要件は次の3つです。
- 新しい契約者(法人成りした会社)が、事由が生じてから3か月以内に、登録取扱機関を通じて中小機構に申し出ること
- 新しい契約者が中小企業者で、この共済に加入できる資格があること
- 新しい契約者が、旧契約者の共済金・一時貸付金の償還と、それに関する違約金の納付の義務を引き受けること
3か月を過ぎると、遅延した理由書の提出が必要になります。承継の手続きが終わるまでは、現在の契約者である個人に掛金が請求されます。
もう1つ注意したいのが、「法人成り」として扱われる条件です。中小機構は、法人設立時に個人事業主(被承継者)が役員として登記されていない場合や、すでに設立済みで事業を行っている法人に事業を譲渡した場合は、「事業の全部譲渡(法人成り)」ではなく「事業の全部譲渡(法人成り以外)」として扱うとしています。家族を代表にして本人は役員にならない形で法人成りすると、手続きの区分が変わります。
法人成りの承継で用意する書類
| 書類 | 注意点 |
|---|---|
| 承継申出者(会社)の印鑑証明書 | 発行後3か月以内の原本 |
| 被承継者(個人事業主)の印鑑証明書 | 発行後3か月以内の原本 |
| 共済契約締結証書 | 紛失した場合は紛失届 |
| 会社の商業登記簿謄本または履歴事項全部証明書 | 発行後3か月以内の原本。現在事項全部証明書は不可 |
| 設立時の役員が確認できる登記事項証明書 | 上の書類で設立時の役員が確認できない場合 |
※ 中小機構「事業の全部譲渡(法人成り)」の手続きページ。新設会社で、事由発生日から3か月以内に申し出る場合は納税証明書などの提示は不要
申出書(契約承継申出書)は資料請求フォームで取り寄せ、届くまで1週間程度かかります。設立登記が終わってから請求すると、3か月の期限のうち1か月近くを書類の準備に使うことになります。法人成りの手続き全体の順番は法人成りで個人の資産・契約をどう移すかにまとめています。
みなし解約の戻り率は、任意解約より高い
みなし解約は、自分から解約する任意解約より解約手当金の支給率が高く設定されています。
| 掛金を納付した月数 | 任意解約 | みなし解約 |
|---|---|---|
| 1〜11か月 | 0% | 0% |
| 12〜23か月 | 80% | 85% |
| 24〜29か月 | 85% | 90% |
| 30〜35か月 | 90% | 95% |
| 36〜39か月 | 95% | 100% |
| 40か月〜 | 100% | 100% |
※ 中小機構「共済契約の解約」。掛金総額は共済金貸付額の10分の1などを差し引いた額
月10万円を納めてきた人が、法人成りの時点でどうなるかを月数別に計算しました。
| 納付月数 | 掛金総額 | みなし解約の解約手当金 | 元本との差 |
|---|---|---|---|
| 11か月 | 110万円 | 0円 | −110万円 |
| 18か月 | 180万円 | 153万円 | −27万円 |
| 24か月 | 240万円 | 216万円 | −24万円 |
| 36か月 | 360万円 | 360万円 | 0円 |
| 40か月 | 400万円 | 400万円 | 0円 |
加入して1年たたないうちに法人成りすると、承継しなければ掛金は全額戻りません。 承継すれば月数がそのまま続くため、この損は生じません。
解約手当金は、法人成りの年の個人の所得に乗る
みなし解約で受け取る解約手当金は、個人の事業所得の収入金額になります。法人成りの年の個人の確定申告には、1月から法人成りまでの事業所得に、この解約手当金が加わります。
この年の個人には、法人成りした後の役員報酬(給与所得)も同じ年に入ります。事業所得と給与所得、解約手当金が1年分の所得税の計算に並ぶため、累進税率の高いところに解約手当金が乗りやすい年です。法人成りの年の確定申告の組み立ては法人成りした年の確定申告で扱いました。
一方で、法人成りによって国民健康保険から抜けるため、この年の所得は翌年度の国民健康保険料の計算には使われません(加入していれば計算の対象になります)。解約手当金の負担の中心は、所得税・住民税と個人事業税です。
承継した場合は、この課税は会社に移ります。会社が将来解約すると、解約手当金は会社の益金になります。その年に役員退職金などの大きな損金を合わせる設計にできるのは、承継して会社に残した場合だけです。積立と解約の負担の比較は経営セーフティ共済で負担は年100万円減る。ただし出口がないで計算しています。
承継か解約か、判断の目安は3つ
どちらが有利かは、納付月数・法人成りの年の個人の所得・会社での使い道で変わります。
| 判断の軸 | 承継に向く場合 | みなし解約でもよい場合 |
|---|---|---|
| 納付月数 | 40か月未満、とくに11か月以下(解約すると元本割れ) | 36か月以上(みなし解約でも100%戻る) |
| 法人成りの年の個人の所得 | 年の後半に法人成りし、事業所得と役員報酬で所得が厚い | 年の前半に法人成りし、事業所得が少なく解約手当金を吸収できる |
| 会社での使い道 | 取引先の倒産に備えた借入枠を会社で持ちたい | 会社では使う予定がない |
借入枠は、承継すると会社に移ります。経営セーフティ共済の共済金貸付は、回収困難になった売掛金債権等の額と、**納付した掛金総額の10倍(最高8,000万円)**のいずれか少ない額までです。個人時代に積んだ掛金総額が、そのまま会社の借入枠の計算に使われます。会社で新規に加入し直すと、この枠もゼロから積み直しになります。
解約して会社で入り直すと、2年間は掛金が損金にならない
「個人で解約して受け取り、会社で新しく入り直せばよい」と考えると、令和6年10月からの制限に当たる可能性があります。中小機構は、令和6年10月1日以降に共済契約を解約し、再度共済契約を締結(再加入)する場合、解約の日から2年を経過する日までの間に支出する掛金は、必要経費または損金に算入できないとしています。
個人の契約を解約した後に会社が新たに加入することが、この「再加入」にどう当てはまるかは、契約者が個人から法人に変わるため、加入前に中小機構か専門家に確認する価値があります。承継であれば、そもそも解約にならないので、この制限を考える必要がありません。
会社での掛金は損金になりますが、個人のときに効いていた国民健康保険料と個人事業税の軽減はなくなります。法人化した後も共済を続けるかどうかは、会社の利益と役員報酬の配分で変わります。自分の売上と経費で、法人化後に会社に残る利益がどれくらいかを判定ツールで確かめてから判断してください。計算の前提は計算方法にまとめています。
まとめ
- 法人成りは「事業の全部譲渡」に当たり、承継しなければその時点でみなし解約になる
- 承継は事由発生から3か月以内に会社が申し出る。設立時に個人事業主本人が役員登記されていないと「法人成り」として扱われない
- 承継すると掛金総額と納付月数が会社に引き継がれ、40か月で全額が戻る線も続きから数える
- みなし解約の戻り率は任意解約より高いが、11か月以下は0%。月10万円・24か月なら216万円が個人の事業所得の収入になる
- 令和6年10月以後の解約・再加入は、解約から2年間の掛金が損金にならない。承継なら解約にならない
よくある質問
承継の手続きが終わるまでの掛金は、誰が払いますか。
中小機構は、承継の手続きが完了するまでは、現在の共済契約者(個人事業主)に掛金を請求するとしています。法人成りの後に個人の口座から引き落とされる掛金をどちらの経費として扱うかは、承継の時期とあわせて整理しておく必要があります。
会社でもすでに経営セーフティ共済に入っている場合はどうなりますか。
契約者同士の承継になり、承継後の掛金月額は両方を合算した額(20万円が上限)、掛金総額も合算(800万円を超えた分は返還)されます。契約期間と納付月数は、契約が古いほうの契約の期間に応じたものになります。
3か月を過ぎてしまったら、もう承継できませんか。
中小機構は、3か月以上たった場合は遅延した理由書の提出が必要としています。期限を過ぎると手続きの負担が増えるため、法人を設立する前に取扱機関へ相談しておくのが確実です。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。