法人化の判断
「法人化すれば有限責任」は本当か。経営者保証の実態
結論
有限責任は「会社の債務を出資額の範囲で負う」という会社法上の建前で、法人化すれば当然に成立します。しかし銀行融資の実務では、この有限責任とは別の契約として社長個人の経営者保証を求められるのが標準です。経営者保証に関するガイドライン(平成26年2月1日適用)には法的拘束力がなく、保証を外せるかどうかは法人と経営者の資産分離など3つの条件しだいです。2024年3月からは保証料を0.25%または0.45%上乗せすれば法人が保証なしを選べる制度も始まりましたが、対象は法人に限られます。
- 合同会社の社員(出資者)は全員有限責任社員で、会社法580条2項により出資額を限度に会社の債務を負う。個人事業主にはこの上限がない
- 経営者保証に関するガイドラインは平成26年2月1日から適用。法的拘束力はなく、自発的な遵守が期待される準則(平成25年12月策定)
- 2024年3月15日開始の新制度では、保証料を0.25%(両要件を満たす場合)または0.45%(一方のみの場合)上乗せすれば、法人は経営者保証なしを選べる。個人事業主は対象外
法人化のメリットとして必ず挙がるのが「有限責任」です。会社が倒産しても、社長は出資した分しか責任を負わない、という説明です。これは会社法上正しいのですが、銀行から融資を受ける場面では、この有限責任とは別の契約で社長個人が保証人になるのが実務の標準です。 法人化しても、融資に関する個人の責任は簡単には外れません。
有限責任は「出資額まで」。会社法580条2項
会社法580条2項は、有限責任社員の責任を「その出資の価額を限度として、持分会社の債務を弁済する責任を負う」と定めています。当サイトが既定にしている合同会社の社員は全員が有限責任社員です。会社が事業に失敗して債務を残しても、社員が追加で会社の借金を背負う義務はありません。
個人事業主にはこの上限がありません。事業のために組んだ借入は、そのまま個人の借金です。事業用の資産だけでなく、個人の財産全体が返済の対象になります。この違いだけを見れば、法人化には明確なメリットがあります。
しかし、この有限責任が効くのは「会社の債務について、会社の債権者が社員個人の財産に直接請求できるか」という場面です。銀行融資では、多くの場合、会社との融資契約に加えて、社長個人が保証人になる別の契約が結ばれます。有限責任の建前と、保証契約による責任は別物です。
銀行融資では経営者保証が実務上の標準
中小企業庁と金融庁は平成25年1月に「中小企業における個人保証等の在り方研究会」を設置し、その報告を踏まえて日本商工会議所と全国銀行協会が「経営者保証に関するガイドライン」を策定しました。このガイドラインは平成26年2月1日から適用されています。
ガイドラインは自らの位置づけを明確にしています。中小企業団体と金融機関団体の関係者が協議して策定した準則であり、「法的拘束力はないものの、主たる債務者、保証人及び対象債権者によって、自発的に尊重され遵守されることが期待されている」としています。守らなくても法律違反にはなりません。
経営者保証を求めない可能性を検討する材料として、ガイドラインは3つの状況を挙げています。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| 資産・経理の分離 | 法人と経営者個人の資産・経理が明確に分離されている |
| 資金やりとりの適切性 | 法人と経営者の間の資金のやりとりが社会通念上適切な範囲を超えない |
| 返済可能性 | 法人のみの資産・収益力で借入の返済が可能と判断できる |
3つとも「満たせば必ず外れる」という基準ではなく、金融機関が総合的に判断する材料です。特に3つ目の「法人のみの資産・収益力で返済可能」は、創業から数年の法人には証明しづらい条件です。ガイドラインができた後も、経営者保証を求める融資が実務の主流であることに変わりはありません。
2024年から、保証料を払えば法人は外せる選択肢ができた
2024年3月15日、信用保証協会は新しい制度を始めました。一定の要件を満たす法人が、保証料率の上乗せを条件に、経営者保証なしの信用保証を選べる制度です。
対象になるには、法人から代表者への貸付がないこと、決算書等を提出できること、そして「債務超過でない」か「減価償却前経常利益が直近2期連続して赤字でない」のいずれかに該当することが必要です。
保証料の上乗せ率は、要件の満たし方で変わります。
| 要件の満たし方 | 保証料の上乗せ率 |
|---|---|
| 両方を満たす | 0.25% |
| いずれか一方のみ、または設立後2期の決算がない | 0.45% |
この上乗せ分には国の補助があり、時限的に軽減されています。2025年3月31日までは上乗せ分から0.15%、2025年4月〜2026年3月は0.10%、2026年4月〜2027年3月は0.05%を国が補助します。2026年9月時点では、実質の上乗せは0.20%または0.40%です。
この制度は法人向けです。個人事業主は対象になりません。信用保証協会の保証は、法人と経営者個人の関係を前提に組み立てられており、法人と個人が同一である個人事業主には、外すべき「経営者保証」という別枠の契約自体が生じません。
個人事業主には、そもそも「経営者保証」という概念がない
ここが構造として見落とされがちな点です。個人事業主が事業のために融資を受けるとき、契約の当事者は最初から「個人事業主本人」です。事業の債務と個人の債務は最初から同じものなので、それを追加で保証する契約は必要ありません。
法人化すると、会社という別の法人格ができ、会社の債務と社長個人の債務が制度上分かれます。有限責任はこの分離によって生まれるメリットです。ただし融資の実務では、この分離をいったん認めたうえで、金融機関が経営者保証という別の契約でもう一度つなぎ直すのが標準的な対応になっています。法人化で得られるのは「分離された状態」であって、「保証から自由な状態」ではありません。
判定に効くのは、融資を使うかどうか
有限責任は、会社の債務について何らかの請求が生じたときにしか働きません。自己資金だけで事業を続け、金融機関からの借入をしない事業者にとっては、法人化してもこの項目が手取りや資金繰りに影響する場面はほとんどありません。
一方、事業拡大のために融資を使う予定があるなら、経営者保証は法人化後も続く固定的な個人リスクとして残ります。2024年からの新制度は、保証料という追加コストを払えばそのリスクを外せる選択肢を増やしましたが、無条件で有限責任が実現するわけではありません。法人化のメリットを金額にするで計算した給与所得控除や消費税免税といった数字に出るメリットとは違い、有限責任は「使う場面が来て、かつ金融機関が認めたときに効く」種類のメリットです。
まとめ
- 有限責任は会社法580条2項による「出資額を限度とした責任」で、法人化すれば当然に成立する
- ただし銀行融資では、有限責任とは別に社長個人の経営者保証を求められるのが実務の標準
- 経営者保証に関するガイドライン(平成26年2月1日適用)には法的拘束力がなく、保証を外せるかは金融機関の総合判断による
- 2024年3月からの新制度では保証料0.25%または0.45%(2026年9月時点は国庫補助により実質0.20%・0.40%)を払えば法人は保証なしを選べるが、対象は法人のみ
- 個人事業主は事業の債務と個人の債務が最初から同じで、外すべき「経営者保証」という別枠の契約自体が生じない
よくある質問
経営者保証に関するガイドラインに従わないと銀行は違反になりますか?
なりません。ガイドラインは法人個人・金融機関団体の関係者が協議して策定した自主的な準則で、法的拘束力はありません。金融機関が自発的に尊重・遵守することが期待されているだけです。
個人事業主も経営者保証を外せる制度を使えますか?
使えません。2024年3月から始まった保証料上乗せの制度は法人が対象です。個人事業主は事業の債務がそのまま個人の債務であり、そもそも「会社の債務」と「個人の債務」を分けて保証を外すという構造自体が成立しません。
経営者保証を外すために資産分離以外に何が必要ですか?
ガイドラインは3つの状況を示しています。法人と経営者個人の資産・経理が明確に分離されていること、法人と経営者の間の資金のやりとりが社会通念上適切な範囲を超えないこと、法人のみの資産・収益力で借入の返済が可能と判断できることです。すべてを金融機関が総合的に判断します。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。