法人化の判断
会社の滞納税を社長が払う「第二次納税義務」。有限責任でも届く4つの経路
結論
会社が税金を滞納し、会社の財産で払いきれないとき、①解散時に残余財産の分配を受けた・分配をした清算人、②会社の事業に欠かせない財産を持つ同族会社の株主・社員、③会社から財産を無償や著しい低額で受け取った人、④偽りその他不正の行為で税を免れた同族会社の役員は、第二次納税義務を負います(国税徴収法34条・37条・39条・40条、地方税法11条の3・11条の6・11条の8・11条の9)。東京都の答申では、会社の生命保険の契約者を社長に変えたことで、解約返戻金806万円を限度に会社の都税の第二次納税義務が認められました。
- 第二次納税義務は、本来の納税者(会社)に滞納処分をしてもなお徴収不足と認められる場合に限って、限度額を定めて課される
- 無償譲受人の第二次納税義務は、法定納期限の1年前の日以後の処分が対象。社長など特殊関係者は、受けた利益の全額が限度になる
- 東京都の答申(令和4年7月8日)は、契約書も金銭のやり取りもない保険の契約者変更を無償譲渡と認め、社長個人が出した国税の予納金を対価とする主張を退けた
このテーマの全体像 個人事業主の法人化の目安と損益分岐点
法人化のメリットとしてよく挙げられるのが有限責任です。会社の借金は会社のもので、株主や社員は出資額の範囲でしか責任を負わない。ただし、銀行融資の経営者保証と並んで、この原則の外側にあるのが税金の第二次納税義務です。会社が払えなかった税金が、一定の場合には社長個人に回ってきます。
第二次納税義務は「徴収不足」と「限度額」が前提
第二次納税義務は、本来の納税者が滞納し、その財産に滞納処分をしてもなお徴収すべき額に不足すると認められる場合に限り、その納税者と一定の関係にある人に、限度額を定めて負わせる義務です。会社の税金に関係する主な経路は次の4つです。国税は国税徴収法、地方税は地方税法に、ほぼ同じ内容の規定があります。
| 経路 | 国税徴収法 | 地方税法 | 誰が負うか | 限度額 |
|---|---|---|---|---|
| ① 税を払わずに解散・残余財産を分配 | 34条 | 11条の3 | 清算人、分配を受けた人 | 分配した・受けた財産の価額 |
| ② 会社の事業に欠かせない財産を持つ | 37条2号 | 11条の6第2号 | 同族会社の判定の基礎となった株主・社員 | その財産 |
| ③ 会社から無償・著しい低額で財産を受け取る | 39条 | 11条の8 | 権利を取得した人、債務を免れた人 | 受けた利益(特殊関係者は利益の全額) |
| ④ 偽りその他不正の行為で税を免れる | 40条 | 11条の9 | 不正の行為をした役員・業務執行社員(その人を判定の基礎とすると特定同族会社に当たる場合) | 免れた税額、または移転を受けた財産の価額 |
※ e-Gov法令検索 国税徴収法34条・37条・39条・40条、地方税法11条の3・11条の6・11条の8・11条の9
一人会社の社長は、ほぼすべての経路で当事者になりえます。社長は同族会社の判定の基礎となる株主・社員であり、会社から財産を受け取るのも、会社を清算するのも社長自身だからです。
東京都の答申:保険の名義変更で806万円
令和4年7月8日の東京都行政不服審査会の答申は、③の経路の事案です。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 平成29年9月 | 社長が国税3,000万円を予納(査察の調査で追徴が見込まれたため) |
| 平成30年1月23日 | 会社の生命保険契約の契約者を、会社から社長に変更(解約返戻金は合計806万4,984円) |
| 平成30年10月31日まで | 会社の法人事業税・法人都民税などの法定納期限 |
| 令和2年3月12日 | 都が社長に第二次納税義務を告知(滞納は本税865万円・加算金116万円・延滞金222万円) |
※ 東京都行政不服審査会 答申(令和4年7月8日)
都は会社の敷金・現金・預金を差し押さえて取り立てましたが、滞納額には届きませんでした。そこで、保険の名義変更を無償譲渡とみて、社長に第二次納税義務を告知しました。
答申は、地方税法11条の8の4つの要件をすべて満たすと判断しています。
- 無償譲渡等の処分があった:名義変更に契約書はなく、金銭のやり取りもないと社長自身が回答していた
- 法定納期限の1年前の日以後の処分:最も遅い法定納期限が平成30年10月31日で、その1年前の平成29年10月31日より後の名義変更だった
- 会社に滞納処分をしても徴収不足:差し押さえた財産では足りず、ほかに実効性のある財産も見つからなかった
- 徴収不足が名義変更に起因する:名義変更がなければ、保険を差し押さえて解約返戻金806万円を徴収できた
社長は同族会社の判定の基礎となった株主として特殊関係者に当たるため、限度額は受けた利益の全額、806万4,984円とされました。
「個人のお金で国税を払った分の代物弁済」は通らなかった
社長は、名義変更の前に自分の預金から国税3,000万円を予納しており、保険はその見返りの代物弁済だと主張しました。答申は、予納が社長個人の出捐だったとしても、それが名義変更の対価だったことまでは裏付けられないとし、聴取の際に代物弁済とは述べていなかったことも挙げて退けました。会社の決算書にあった1,866万円の立替金も、相手先に営業実態がなく弁済資力があるといえないとして、徴収できる財産とは認められていません。
会社と社長の間でお金や財産を動かすなら、その時点で契約書と対価の記録を残しておくことが、後から説明できる唯一の方法です。保険の名義変更そのものの税務(社長への給与課税の評価額)は法人保険を社長へ名義変更で扱っています。
一人社長が気をつけたい3つの場面
会社をたたむとき:税を残して分配しない
①の経路は、会社の税金を払わないまま残余財産を分配した場合に、清算人と分配を受けた人に及びます。一人会社では、清算人も分配を受けるのも社長です。清算中に法人税・消費税・均等割の申告と納付を済ませてから分配する順番を守れば、この経路は生じません。解散・清算の手順は法人の解散・清算は登記だけで4.1万円にまとめています。
自宅や車を会社に使わせているとき
②の経路は、社長が持つ財産が会社の事業に欠かせない重要な財産で、その財産から生じる所得が会社の所得になっている場合です。社長個人の土地・建物を会社の店舗や工場に使わせているような場合が典型です。会社がその事業に係る税を滞納すると、その財産を限度に社長が第二次納税義務を負います。社長の土地を会社に貸すときの地代と税務は社長の土地を法人に貸すで扱っています。
資金繰りが苦しいときに、会社から財産を移さない
③の経路は、滞納している税の法定納期限の1年前の日以後に、会社が無償や著しく低い対価で財産を譲ったり、債務を免除したりした場合です。社用車を社長に安く売る、社長への貸付金を免除する、保険の名義を変える、といった行為が該当しえます。社用車を社長に安く売ったときの役員給与の扱いは社用車を社長に安く売るとで説明しています。
法人化の前の滞納とは、向きが逆
個人事業のときの滞納を残したまま法人成りすると、今度は会社の側が個人の税金の第二次納税義務を負うことがあります。こちらは法人成り前の滞納税は会社へ移る?第二次納税義務の2経路で整理しました。銀行融資の経営者保証については「法人化すれば有限責任」は本当かで扱っています。
法人化で何が守られ、何が守られないかは、税金と社会保険の損得とあわせて判断する材料です。法人化の判断の全体像は個人事業主の法人化の目安は「所得800万円」?にまとめています。
まとめ
- 会社が滞納し、会社の財産で払いきれないとき、一定の関係にある人に限度額付きで第二次納税義務が課される
- 会社の税金に関係する主な経路は、解散時の分配、事業に欠かせない財産、無償・低額の譲受け、偽り不正による免脱の4つ。一人会社の社長はほぼすべての当事者になりうる
- 東京都の答申は、契約書も対価もない保険の名義変更を無償譲渡とし、解約返戻金806万円を限度に社長の第二次納税義務を認めた
- 無償・低額の譲受けは、法定納期限の1年前の日以後の処分が対象。社長は受けた利益の全額が限度
- 会社と社長の間の財産の移動は、その時点で契約書と対価の記録を残す
有限責任は、会社と社長のお金を分けて管理している限りで働く仕組みです。法人化を考えるときは、自分の売上と経費で損得を確かめるのと同時に、会社と個人の財布を分ける運用まで想定しておいてください。
よくある質問
会社の税金を社長個人が払う義務は、いつでもあるのですか?
ありません。第二次納税義務は、会社に滞納処分をしてもなお徴収すべき額に不足すると認められる場合に限り、法律が定める経路に当たる人に、限度額を決めて課されます。株主や役員であるというだけで、会社の税金を払う義務が生じるわけではありません。
会社の財産を社長に移したのが滞納の1年以上前なら、関係ありませんか?
無償または著しい低額の譲受人の第二次納税義務(国税徴収法39条、地方税法11条の8)は、滞納している税の法定納期限の1年前の日以後に行った処分が対象です。それより前の処分はこの規定の対象外ですが、他の経路(解散時の分配や事業用財産など)は別の要件で判断されます。
社会保険料の滞納でも、社長が負担することはありますか?
この記事で扱ったのは国税と地方税の規定です。社会保険料の滞納処分は国税滞納処分の例によるとされていますが、社長個人への請求がどの範囲で及ぶかは、年金事務所に個別に確認が必要です。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。