税金の基礎
社長の土地を法人に貸す。借地権の認定課税と地代の決め方
結論
社長個人の土地に法人の建物が建つと、権利金を取らない部分について法人に借地権の認定課税が行われます。実務では「土地の無償返還に関する届出書」を土地所有者と法人の連名で提出して防ぎます。地代は0円でも届出できますが、売上1,500万円・経費500万円の例では、地代を年26万円から27万円へ上げると基礎控除の段差に乗り、世帯の手取りが年3.8万円減ります。
- 相当の地代は更地価額のおおむね年6%。法人税基本通達13-1-2の「年8%」は平成元年の個別通達で年6%に読み替えられている
- 地代0円(使用貸借)で届出を出しても、貸宅地の相続税評価は自用地としての価額のまま。8割評価になるのは公租公課を超える地代を取る賃貸借のときだけ
- 土地の貸付けは消費税の非課税取引。地代を払っても法人の仕入税額控除は増えない
法人成りのとき、建物だけを法人名義にして土地は個人名義のまま残す形がよく取られます。登記費用も不動産取得税も建物の分で足りるからです(移すときの税額は法人成りで建物・土地を法人名義にで計算しています)。ただしこの形にした瞬間、それまで存在しなかった土地の貸借が社長個人と法人の間に生まれます。
個人事業のままなら、自分の土地を自分の事業に使っているだけなので貸借は起きません。固定資産税をそのまま必要経費にして終わりです。法人化すると社長と会社は別人格になるため、土地を使わせる契約と、その対価をいくらにするかを決めなければなりません。
権利金を取らないと、法人に借地権の認定課税が行われる
建物の所有を目的として土地を借りるとき、地域によっては借地権の設定の対価として権利金を支払う慣行があります。国税庁は、この権利金を収受する慣行があるにもかかわらず権利金を収受しないときは、権利金の認定課税が行われるとしています(No.5730)。
社長個人の土地に法人の建物が建つ場合、この認定課税を受けるのは法人側です。無償で借地権という財産を受け取ったとみなされ、その分が益金になります。現金は1円も動いていないのに、法人税の課税所得が増えるという形の課税です。
ただし例外があります。No.5730が挙げているのは次の2つです。
- その土地の価額からみて、相当の地代を収受している場合
- 契約書に将来借地人が土地を無償で返還することが定められており、かつ**「土地の無償返還に関する届出書」**を借地人と連名で遅滞なく提出している場合
もう1つ、通達側の例外もあります。法人税基本通達13-1-5は、土地の使用の目的が単に物品置場・駐車場等として更地のまま使用するものや、仮営業所・仮店舗等の簡易な建物の敷地として使用するものであるなど、通常権利金の授受を伴わないと認められるときは、権利金の認定を行わないとしています。資材置場として貸すだけなら、この論点は起きません。
権利金を収受する慣行がない地域では、そもそも認定課税の前提が成立しません。自分の土地がどちらなのかは、路線価図の借地権割合が設定されているかどうかが手がかりになります。
相当の地代は「更地価額の年6%」。通達の年8%は読み替えられている
相当の地代の水準は、法人税基本通達13-1-2に定められています。条文を読むと「おおむね年8%程度」と書かれていますが、この数字をそのまま使ってはいけません。
平成元年3月30日の個別通達(直法2-2)が、13-1-2に定める「年8%」は「年6%」とすると定めています。「当分の間」という前置きのまま現在まで続いており、タックスアンサーNo.5732も相当の地代を「その土地の更地価額のおおむね年6パーセント程度の金額」と説明しています。通達の本文だけを読んで8%で計算すると、地代を3分の1ほど多く払うことになります。
分母になる更地価額は、その土地の更地としての通常の取引価額です。ただし次のものでも差し支えないとされています。
| 更地価額として使えるもの | 根拠 |
|---|---|
| 近傍類地の公示価格等から合理的に算定した価額 | 法人税基本通達13-1-2の(注) |
| 財産評価基本通達第2章の例により計算した価額(相続税評価額) | 同 |
| その相続税評価額の過去3年間における平均額 | 平成元年直法2-2(平成3年課法2-4により追加) |
相続税評価額が3,000万円の土地なら、相当の地代は年180万円です。売上1,500万円・経費500万円の会社にとって、年180万円の地代は軽くありません。しかも相当の地代を収受することにした場合は、その後の改訂方法を契約書に定め、おおむね3年以下の期間ごとに見直す必要があります(13-1-7の注、13-1-8)。
実務の答えは「土地の無償返還に関する届出書」
相当の地代を払わずに認定課税を避ける方法が、法人税基本通達13-1-7の届出です。要件は2つです。
- 借地権の設定等に係る契約書に、将来借地人が土地を無償で返還することを定める
- その旨を借地人との連名の書面により、遅滞なく所轄税務署長に届け出る
手続の詳細は国税庁の手続案内(C1-63)にあります。読者の立場で重要なのは次の4点です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 提出時期 | 土地を無償で返還することが定められた後、遅滞なく |
| 提出先 | 土地所有者の納税地の所轄税務署長 |
| 提出者 | 土地所有者と借地人の連名 |
| 添付書類 | 契約書の写し、土地の価額の計算の明細その他参考となる事項を記載した書類 |
提出はe-Taxソフトでも、書面を1部持参・送付する形でもできます。そして案内には「なお、この届出者は、土地所有者が個人である場合であっても、提出することができます」と明記されています。法人が地主のケースを想定した書き方の通達なので迷いやすい点ですが、社長個人が地主でも使える手続です。
13-1-7は、使用貸借契約により土地を使用させた場合についても同様とすると定めています。つまり地代を1円も取らない形でも届出はできます。
届出のもう1つの効果は、将来の出口にあります。法人税基本通達13-1-14は、借地を返還するときに立退料等を収受しなかった場合、原則として通常収受すべき額を相手方に贈与したものとして取り扱うとしつつ、契約書で将来無償返還することが定められ、その旨が届け出られている場合はこれを認めるとしています。入口で届出をしておくと、会社をたたむときの精算も同じ考え方で通せます。
地代を1万円上げると、世帯の手取りが年3.8万円減る帯がある
ここからは金額の話です。地代は法人の損金になり、同額が社長個人の不動産所得になります。法人の実効税率と社長個人の限界税率の差だけ、世帯全体の負担が動きます。
計算エンジンで、売上1,500万円・経費500万円(地代を除く)の会社が地代を変えたときの世帯の手取りを出しました。土地の自用地としての価額は3,000万円、固定資産税・都市計画税は年12万円としています。
売上1,500万円・経費500万円(地代を除く)/自用地としての価額3,000万円・固定資産税等 年12万円
| 年間の地代 | 貸借の区分 | 最適な役員報酬 | 法人税等 | 個人の不動産所得 | 個人の所得税・住民税の増加 | 世帯の手取り | 地代0円との差 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 0万円 | 使用貸借 | 月54万円 | 62.4万円 | 0.0万円 | 0.0万円 | 662.4万円 | — |
| 12万円 | 使用貸借 | 月54万円 | 59.8万円 | 0.0万円 | 0.0万円 | 666.9万円 | +4.5万円 |
| 15万円 | 賃貸借 | 月54万円 | 59.2万円 | 3.0万円 | 0.6万円 | 667.4万円 | +5.0万円 |
| 30万円 | 賃貸借 | 月54万円 | 56.0万円 | 18.0万円 | 7.9万円 | 665.6万円 | +3.2万円 |
| 60万円 | 賃貸借 | 月54万円 | 49.6万円 | 48.0万円 | 17.1万円 | 667.6万円 | +5.2万円 |
| 120万円 | 賃貸借 | 月54万円 | 36.8万円 | 108.0万円 | 35.3万円 | 671.6万円 | +9.2万円 |
| 180万円(相当の地代) | 賃貸借 | 月54万円 | 23.9万円 | 168.0万円 | 53.6万円 | 675.6万円 | +13.2万円 |
※ 東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準 ※ 固定資産税等は地代の有無にかかわらず個人が負担するため、世帯の手取りからは除いている ※ 土地の貸付けは消費税の非課税取引なので、地代を増やしても課税仕入れは増えない前提で計算している ※ 法人に残る額は退職金・配当で引き出すコスト20%を控除した後の金額。地代は個人が直接受け取るため、この控除はかからない ※ 土地1か所の貸付けを前提にしており、不動産貸付業としての個人事業税は含めていない
最適な役員報酬は地代をいくらにしても月54万円で動きません。地代は法人の経費として先に抜けるので、報酬の最適解には触らないということです。役員報酬の決め方そのものは役員報酬は月いくらが最適かにまとめています。
注目すべきは差額の列です。地代を増やすほど世帯の手取りが増えるはずなのに、30万円のところだけ+3.2万円まで落ち込んでいます。地代15万円のときより手取りが少ないのです。
基礎控除の段差を、不動産所得がまたいでいる
段差の位置を細かく追うと、こうなります。
| 年間の地代 | 個人の不動産所得 | 合計所得金額 | 基礎控除(所得税) | 個人の税の増加 | 世帯の手取り |
|---|---|---|---|---|---|
| 15万円 | 3.0万円 | 477.4万円 | 104.0万円 | 0.6万円 | 667.4万円 |
| 20万円 | 8.0万円 | 482.4万円 | 104.0万円 | 1.6万円 | 668.2万円 |
| 25万円 | 13.0万円 | 487.4万円 | 104.0万円 | 2.6万円 | 669.1万円 |
| 26万円 | 14.0万円 | 488.4万円 | 104.0万円 | 2.8万円 | 669.2万円 |
| 27万円 | 15.0万円 | 489.4万円 | 67.0万円 | 7.0万円 | 665.4万円 |
| 30万円 | 18.0万円 | 492.4万円 | 67.0万円 | 7.9万円 | 665.6万円 |
| 40万円 | 28.0万円 | 502.4万円 | 67.0万円 | 11.0万円 | 666.3万円 |
| 50万円 | 38.0万円 | 512.4万円 | 67.0万円 | 14.0万円 | 666.9万円 |
役員報酬が月54万円(年648万円)なら給与所得は474.4万円です。合計所得金額が489万円を超えると所得税の基礎控除が104万円から67万円に下がるため、あと14.6万円の余白しかありません。固定資産税等12万円を足した年26.6万円が段差の位置です。
結果として、地代を年26万円から27万円へ1万円上げるだけで、世帯の手取りは年3.8万円減ります。減った分を取り戻すには、地代を年85万円まで、つまり3.3倍まで上げる必要があります。地代の水準を検討するときは、この段差をまたぐかどうかを先に見ておく価値があります。
104万円という基礎控除は、令和8年分と9年分に限られた特例加算を含む額です。令和10年分以降は加算が縮小する予定なので、段差の位置も変わります。基礎控除の構造は令和8年分の基礎控除は104万円で扱っています。
地代0円だと、相続税の8割評価は使えない
地代の額は、相続税の評価にも効きます。ここで分かれ目になるのは、その貸借が賃貸借なのか使用貸借なのかです。
昭和48年直資2-189は使用貸借の範囲について、土地の借受者と所有者との間にその土地の公租公課に相当する金額以下の金額の授受があるにすぎないものは使用貸借に該当すると定めています。固定資産税・都市計画税と同額しか受け取っていなければ、それは賃貸借ではありません。
そのうえで昭和60年直資2-58は、無償返還届出書が提出されている場合の評価を次のように定めています。
- 借地権の価額は零(5)
- 貸宅地の価額は、その土地の自用地としての価額の100分の80に相当する金額(8)
- ただし使用貸借に係る土地について届出書が提出されている場合の貸宅地の価額は、自用地としての価額によって評価する(8の注)
さらに、被相続人が同族関係者となっている同族会社に土地を貸し付けている場合は、昭和43年直資3-22の適用があるとされています。この通達は、自用地としての価額からその価額の20%に相当する金額(借地権の価額)を控除して貸宅地を評価する一方、その借地権の価額を同族会社の株式の評価上、純資産価額に算入するとしています。理由として「土地の評価額が個人と法人を通じて100%顕現することが、課税の公平上適当」と書かれています。
自用地としての価額3,000万円で並べると、こうなります。
| 地代の水準 | 無償返還届出書 | 貸宅地の評価 | 同族会社の株式に加算 | 個人+法人の合計 |
|---|---|---|---|---|
| 0円(使用貸借) | 提出 | 3,000万円 | 0万円 | 3,000万円 |
| 公租公課以下(使用貸借) | 提出 | 3,000万円 | 0万円 | 3,000万円 |
| 公租公課超・相当の地代未満(賃貸借) | 提出 | 2,400万円 | 600万円 | 3,000万円 |
| 相当の地代 180万円(賃貸借) | 不要 | 2,400万円 | 600万円 | 3,000万円 |
読み取れることは2つあります。
1つは、地代を固定資産税等の額以下にしていると、貸宅地の600万円の評価減が使えないことです。土地の評価を下げる意図で届出を出しても、地代0円のままでは目的を果たしません。
もう1つは、「届出を出せば土地の評価が2割下がる」という説明が、社長が株主である一人会社では片面だけを見ていることです。下がった20%は同族会社の株式の純資産価額へ移るため、個人と法人を合わせた評価額は変わらない設計になっています。ただし株式の評価は純資産価額だけで決まるわけではなく、会社の規模区分と評価方式によって最終的な上乗せ額は変わります。株式側の評価は法人化すると株式の相続税評価が必要になるで扱っています。
地代に消費税はかからない。申告義務は年32万円から
最後に、見落としやすい2つの実務です。
土地の貸付けは消費税の非課税取引です。 国税庁のNo.6201は、土地の譲渡および貸付け(借地権などの土地の上に存する権利を含む)を非課税取引として挙げています。ただし1か月未満の土地の貸付けおよび駐車場などの施設の利用に伴って土地が使用される場合は、非課税取引に当たりません。貸付期間の判定は契約で定められた貸付期間によります。
これは、同じ社長個人から法人が借りる場合でも、建物の家賃とは扱いが違うということです。事務所として使う建物の家賃は課税取引なので、一般課税の法人なら仕入税額控除ができます。地代にはそれがありません。上の表で、地代を増やしても課税仕入れを増やさずに計算しているのはこのためです。建物側の扱いは自宅を法人に貸して家賃を受け取るにまとめています。
地代が一定額を超えると、社長は確定申告が必要になります。国税庁のNo.1900は、給与を1か所から受けていて給与の全部が源泉徴収の対象となる場合、各種の所得金額の合計額が20万円を超える人は確定申告が必要としています。固定資産税等12万円を必要経費にできるなら、不動産所得が20万円になる地代は年32万円です。月2万6,600円あたりが境目になります。
年末調整だけで済ませていた社長が、地代を受け取り始めた年から確定申告に変わる形です。一人社長の年末調整については一人社長の年末調整を参照してください。
まとめ
- 建物だけを法人名義にすると土地の貸借が発生し、権利金を収受する慣行のある地域で権利金を取らなければ、法人側に借地権の認定課税が行われる
- 認定課税を避ける現実的な方法は「土地の無償返還に関する届出書」。契約書に将来の無償返還を定め、土地所有者と法人の連名で、土地所有者の納税地の所轄税務署長へ遅滞なく提出する
- 相当の地代は更地価額のおおむね年6%。通達本文の「年8%」は平成元年の個別通達で読み替えられている
- 地代を年26万円から27万円へ上げると、不動産所得が合計所得489万円の段差をまたぎ、世帯の手取りは年3.8万円減る(売上1,500万円・経費500万円の例)
- 相続税では、公租公課を超える地代を取る賃貸借でなければ貸宅地の8割評価は使えない。ただし下がった20%は同族会社の株式の純資産価額に移る
ここで示した数字は、売上1,500万円・経費500万円・土地の価額3,000万円という1つの条件での概算です。地代の段差がどこに来るかは役員報酬と給与所得の水準で動きます。一般論の数字ではなく、自分の売上と経費で確かめてください。
よくある質問
土地の無償返還に関する届出書は、土地の所有者が個人でも出せますか?
出せます。国税庁の手続案内は「この届出者は、土地所有者が個人である場合であっても、提出することができます」と明記しています。提出先は土地所有者の納税地の所轄税務署長で、土地所有者と借地人である法人の連名で提出します。
地代を0円にしても届出書は使えますか?
使えます。法人税基本通達13-1-7は、使用貸借契約により土地を使用させた場合についても同様に取り扱うとしています。ただし相続税の評価では、使用貸借のままだと貸宅地が自用地としての価額で評価されます。
届出書を出し忘れたまま何年も経っていた場合はどうなりますか?
届出は「土地を無償で返還することが定められた後遅滞なく」提出するものとされています。提出がない状態では権利金の認定課税の対象になり得るため、契約内容と経過を確認したうえで、個別の事情を専門家と税務署に確認する必要があります。
出典
- 国税庁 タックスアンサー No.5730 権利金の認定課税について
- 国税庁 タックスアンサー No.5732 相当の地代及び相当の地代の改訂
- 国税庁 法人税基本通達 第13章 借地権の設定等に伴う所得の計算
- 国税庁 法人税の借地権課税における相当の地代の取扱いについて(平成元年直法2-2)
- 国税庁 C1-63 土地の無償返還に関する届出
- 国税庁 相当の地代を支払っている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取扱いについて(昭和60年直資2-58)
- 国税庁 相当の地代を収受している貸宅地の評価について(昭和43年直資3-22)
- 国税庁 使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱いについて(昭和48年直資2-189)
- 国税庁 タックスアンサー No.6201 非課税となる取引
- 国税庁 タックスアンサー No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。