税金の基礎
国外中古建物の減価償却は損益通算できない。法人なら使える理由と限界
結論
個人が国外中古建物を簡便法で償却して出た不動産所得の赤字のうち、償却費に当たる部分は令和3年分から「生じなかったもの」とみなされ、事業所得などと損益通算できません。法人税にはこの特例がないため、法人なら本業の利益と相殺できます。築22年超の木造3,000万円(償却年750万円)・家賃差引で赤字650万円の例では、本業の利益800万円の法人の税額が年184.8万円から39.0万円に下がります(東京23区・概算)。
- 簡便法の耐用年数は、法定耐用年数を全部経過した木造住宅(22年)なら22年×20%で4年。建物3,000万円なら定額法で年750万円を償却する
- 個人では、この赤字は国内不動産の黒字とも、事業所得・給与所得とも相殺できない(措法41条の4の3)
- 法人で減るのは税の「繰延べ」に近い。4年で償却が終わると以後は経費がなく、売却時は簿価が小さいぶん譲渡益が大きくなる
このテーマの全体像 個人事業主の法人化の目安と損益分岐点
海外の中古木造住宅を買い、短い耐用年数で減価償却して大きな赤字を作り、給与や事業の所得と相殺する。この節税策は、令和3年分の所得税から個人では使えなくなりました。
一方で、法人税にはこの制限がありません。「海外不動産は法人で持てばまだ使える」と言われるのはこのためです。ただし法人で減るのは、税の総額というより税を払う時期です。この記事では、制限の中身と、法人で持った場合に何がどこまで変わるのかを、計算エンジンの数字で確かめます。
何が損益通算できなくなったのか
国税庁の説明では、令和3年以後の各年に国外中古建物から不動産所得があり、その年の不動産所得が赤字になった場合、赤字のうち耐用年数を「簡便法」で計算した減価償却費に当たる部分は、生じなかったものとみなされます。
その結果、次の2つがどちらもできません。
| 相殺したい相手 | 令和3年分以後(個人) |
|---|---|
| 国内の不動産から生じる不動産所得の黒字 | できない(所得内通算も不可) |
| 事業所得・給与所得など、不動産所得以外の所得 | できない(損益通算も不可) |
根拠は租税特別措置法41条の4の3で、所得税(個人)の特例として置かれています。法人税の所得計算には同じ規定がありません。
対象は「赤字のうち償却費に当たる部分」です。家賃収入から管理費・修繕費などを引いた段階での赤字ではなく、償却費を足したことで生じた赤字が切り捨てられる、という形になります。
なぜ短い耐用年数で大きな赤字が出るのか
この節税策が広がったのは、中古資産の耐用年数の「簡便法」と、日本の木造住宅の法定耐用年数の組み合わせによるものです。
減価償却資産の耐用年数等に関する省令の別表第一では、住宅用の建物の法定耐用年数は木造で22年、鉄筋コンクリート造で47年です。中古資産は、使用可能期間の見積りが難しい場合に簡便法で耐用年数を決められます。国税庁が示す計算は次のとおりです。
| 中古資産の状態 | 簡便法の耐用年数 |
|---|---|
| 法定耐用年数の全部を経過 | 法定耐用年数 × 20% |
| 法定耐用年数の一部を経過 | (法定耐用年数 − 経過年数)+ 経過年数 × 20% |
| 共通 | 1年未満は切捨て。2年に満たなければ2年 |
築22年を超えた木造住宅なら、22年×20%=4.4年で、耐用年数は4年です。建物部分が3,000万円なら、定額法の償却率0.250(耐用年数4年)で年750万円を償却できます。
日本の税法の物差しで「法定耐用年数を過ぎた木造」と扱われれば、建物の実際の状態にかかわらず4年で償却できます。所得の高い個人が、この大きな償却費を給与や事業の所得と相殺する使い方を封じたのが、令和3年分からの特例です。
個人と法人で、同じ赤字はどう扱われるか
具体的な数字で比べます。築22年超の木造住宅を、建物部分3,000万円で取得した例です。
- 家賃収入から管理費等を引いた手残り:年100万円
- 減価償却費:年750万円(耐用年数4年・定額法)
- 不動産所得:100万円 − 750万円 = −650万円
この650万円はすべて償却費から生じた赤字です。
| 持ち方 | 650万円の赤字の扱い | ほかの所得への影響 |
|---|---|---|
| 個人 | 生じなかったものとみなす | なし(給与・事業所得の税は変わらない) |
| 法人 | 法人の所得計算でそのまま損金 | 本業の利益と相殺される |
法人で本業の利益が年800万円ある場合の税額を、当サイトの計算エンジンで出すと次のとおりです(東京23区・資本金1,000万円以下の中小法人、均等割7万円込み)。
| 法人の税引前利益 | 法人税等の合計 | うち法人税 | うち事業税・特別法人事業税 |
|---|---|---|---|
| 800万円(物件なし) | 184.8万円 | 113.3万円 | 44.9万円 |
| 150万円(800万円 − 650万円) | 39.0万円 | 21.5万円 | 6.9万円 |
| 差 | −145.8万円 | −91.8万円 | −38.0万円 |
法人なら、この例で年145.8万円の税が減ります。個人で同じ物件を持っても、所得税・住民税は1円も変わりません。
本業の利益より赤字が大きい年は、法人では欠損金になります。国税庁の説明では、青色申告の法人の欠損金は10年間繰り越して、以後の所得から差し引けます。
法人で減るのは「税」ではなく「税を払う時期」に近い
上の145.8万円を、そのまま法人化の得と見るのは早計です。理由は3つあります。
4年で償却は終わる
耐用年数4年なら、5年目以降は償却費がありません。家賃収入の手残り100万円がそのまま利益になり、本業の利益と合わせて課税されます。前半に前倒しした経費の分、後半の課税所得は大きくなります。
売却時に簿価が小さい
4年で償却し終えた建物の簿価はほぼゼロです。売却すると、売却価額と簿価の差が法人の利益になります。償却で減らした利益は、売却した期にまとめて戻ってきます。前半に節税した税率と、売却した期にかかる税率の差が、最終的な損得を決めます。
法人には毎年の固定費がかかる
法人は赤字でも法人住民税の均等割(標準で年7万円)がかかり、決算・申告を税理士に頼めば報酬も毎年かかります。物件を持つためだけに法人を作ると、この固定費が償却の効果を食います。
「法人なら使える」が成り立つ条件
この論点を判断に使うなら、問いは「法人化すべきか」ではなく「本業を法人化する人が、国外不動産をどちらで持つか」です。
- 法人に相殺する相手がいる:本業の利益が法人に立っていて、償却費を当てる相手がある
- 個人から移さず、法人で取得する:個人で持っている物件を会社に移すと、個人側で譲渡所得の計算が要り、法人側では移転時点の経過年数で耐用年数を決め直す
- 売却までの期間と税率を見込める:償却で減らした利益は売却時に戻るので、何年持つかで結論が変わる
本業の法人化そのものが有利かどうかは、国外不動産とは別に決まります。こちらは役員報酬の水準と社会保険料で大きく動くので、まず本業の数字で判定し、そのうえで不動産をどこで持つかを考える順番が安全です。家賃収入のある人が管理会社を作る方式の比較は不動産管理会社の3方式で、中古資産の耐用年数の決め方は中古車の4年落ちと耐用年数で詳しく扱っています。個人と法人の減価償却の違いは減価償却は法人と個人でどう違うかにまとめています。
まとめ
- 令和3年分から、個人が簡便法で償却した国外中古建物の赤字のうち償却費に当たる部分は、損益通算も所得内通算もできない
- 法人税にはこの特例がなく、法人なら本業の利益と相殺できる。本業の利益800万円の法人で赤字650万円なら、税額は年184.8万円から39.0万円に下がる(概算)
- ただし償却は4年で終わり、売却時には簿価が小さいぶん利益が戻る。減るのは税の総額より、払う時期に近い
- 個人の物件を会社に移すと譲渡になる。法人で持つなら取得の段階から考える必要がある
国外不動産をどこで持つかの前に、本業を法人にした場合の手取りがどう変わるかを、一般論の数字ではなく自分の売上と経費で確かめてください。
よくある質問
国外中古建物の赤字は、翌年以降に繰り越せますか?
個人の場合、簡便法で計算した償却費に当たる部分の損失は「生じなかったもの」とみなされるため、損益通算だけでなく繰り越しの対象にもなりません。国内の不動産所得の黒字との相殺もできません。
新築の海外不動産や、耐用年数を見積もった場合も対象ですか?
国税庁の説明では、対象は耐用年数を「簡便法」で計算した国外中古建物の減価償却費に当たる部分です。新築の建物や、法定耐用年数で償却する場合は、この特例の書きぶりからは外れます。個別の物件が当たるかどうかは、取得時の資料で専門家に確認してください。
個人で持っている海外不動産を自分の会社に移せば、法人で償却できますか?
会社への移転は個人から法人への譲渡になり、個人側で譲渡所得の計算が必要です。法人側では取得価額と取得時点の経過年数で改めて耐用年数を決めます。移転そのものに税がかかるため、償却の効果だけで判断しないことが大切です。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。