社会保険

国保の自治体差は法人化の分岐点をほとんど動かさない。効くのは支部料率

結論

東京23区と政令指定都市19市の20市区では、国民健康保険の自治体差は事業所得600万円なら年22万1,003円(福岡市と堺市)ありますが、法人化の損益分岐点は協会けんぽを東京支部に固定すると1,266万円〜1,270万円の4万円しか動きません。同じ条件で協会けんぽの支部だけを動かすと1,237万円〜1,296万円の59万円動きます。分岐点の手前で国保が賦課限度額に達するためです(経費200万円・独身・40歳未満・青色申告・合同会社での当サイト試算)。

  • 東京23区と政令指定都市19市のどこでも、国保が頭打ちになる所得はその市区の損益分岐点より36万円以上手前にある
  • 自治体差と支部差の大小が入れ替わるのは事業所得1,100万円(収録63市区では1,150万円)。それ以下では自治体差のほうが大きい
  • 20市区×47支部の940通りでの分岐点の幅は65万円。支部だけで59万円、自治体だけでは4万円(収録63市区に広げても33万円)

国民健康保険料は自治体で大きく違います。それなら「国保が高い街に住んでいる人ほど法人化が有利」になりそうです。ところが東京23区と政令指定都市19市の20市区×47支部の940通りを計算すると、法人化の損益分岐点を動かしていたのは、住んでいる自治体ではなく会社を置いた都道府県の協会けんぽ料率のほうでした。

変わるものが2つあり、決まり方が違う

法人化の判定には、地域で変わる保険料が2つ入ります。

保険どちらの側かどこで決まるか
国民健康保険個人のままでいる側住民票のある市区町村
協会けんぽの健康保険法人化した側事業所の所在地を管轄する都道府県支部

協会けんぽで支部ごとに変わるのは健康保険料率だけです。介護保険料率1.62%(40歳以上65歳未満)と子ども・子育て支援金率0.23%は、協会けんぽが都道府県別の率を設けておらず1つの率だけを示しています。厚生年金保険料率18.3%も全国一律です。

協会けんぽの令和8年度の料率は、健康保険料率と介護保険料率が令和8年3月分(4月納付分)から、子ども・子育て支援金率が令和8年4月分(5月納付分)から適用されます。

自宅をそのまま本店にする一人会社なら、この2つは同じ都道府県になります。そこで以下では、まず住所と会社の所在地をそろえた現実的な20通りで計算します。

住所と会社の所在地をそろえた20通り

国保の実データがある主要20市区(東京23区と、広島市を除く政令指定都市19市)それぞれについて、その市区が属する都道府県の支部料率を当てて、法人化の損益分岐となる事業所得を出しました。

住所(国保)支部(協会けんぽ)健康保険料率損益分岐となる事業所得事業所得1,200万円の実質差額最適役員報酬
新潟市新潟県9.21%1,237万円−3.7万円月54万円
静岡市静岡県9.61%1,255万円−5.5万円月54万円
浜松市静岡県9.61%1,255万円−5.5万円月54万円
さいたま市埼玉県9.67%1,257万円−5.8万円月54万円
千葉市千葉県9.73%1,260万円−6.1万円月54万円
東京23区東京都9.85%1,266万円−6.6万円月54万円
京都市京都府9.89%1,266万円−6.8万円月54万円
川崎市神奈川県9.92%1,269万円−6.9万円月54万円
相模原市神奈川県9.92%1,269万円−6.9万円月54万円
名古屋市愛知県9.93%1,270万円−7.0万円月54万円
横浜市神奈川県9.92%1,272万円−7.3万円月54万円
岡山市岡山県10.05%1,274万円−7.5万円月54万円
熊本市熊本県10.08%1,276万円−7.7万円月54万円
福岡市福岡県10.11%1,277万円−9.1万円月54万円
北九州市福岡県10.11%1,277万円−7.8万円月54万円
仙台市宮城県10.10%1,277万円−7.7万円月54万円
神戸市兵庫県10.12%1,279万円−8.0万円月54万円
大阪市大阪府10.13%1,283万円−8.4万円月54万円
堺市大阪府10.13%1,283万円−8.4万円月54万円
札幌市北海道10.28%1,284万円−8.5万円月54万円

前提:経費200万円・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分 基準。「損益分岐となる事業所得」は売上から経費を引いた額で、青色申告特別控除を引く前です。実質差額は税理士報酬の差を引いた3期目以降の値で、マイナスは個人のままのほうが有利という意味です。

この表は健康保険料率の順にほぼ並んでいます。 国保の料率順ではありません。たとえば国保がいちばん高い部類の大阪市(事業所得600万円で年72万4,503円)と、この20市区でいちばん安い福岡市(同50万3,500円)は、国保だけで年22万円違います。それでも分岐点は大阪市1,283万円、福岡市1,277万円で、6万円しか離れていません。

片方ずつ固定して、寄与を分ける

どちらが効いているのかを分けるために、片方を固定してもう片方だけを動かしました。

動かすもの固定するもの分岐点の最小分岐点の最大幅
国保の自治体(20市区)支部は東京都に固定東京23区 1,266万円堺市 1,270万円4万円
協会けんぽの支部(47支部)国保は全国平均の概算に固定新潟県 1,237万円佐賀県 1,296万円59万円

自治体を20市区ぜんぶ動かしても4万円。支部を動かすと59万円です。差は約15倍あります。

当サイトが国保の料率を収録している63市区(この20市区に広島市と、県庁所在地・中核市など42市を加えたもの)に広げて同じ計算をすると、支部を東京都に固定した自治体だけの幅は、東京23区などの1,266万円から那覇市の1,299万円までの33万円になります。那覇市や市川市(1,281万円)は分岐点のあたりでも国保が上限に届いていないためです。それでも支部だけを動かしたときの59万円の半分ほどです。住所と所在地をそろえた63通りの幅は新潟市1,237万円から佐賀市1,299万円までの62万円で、20通りの47万円より広がりました。佐賀県支部の料率が47支部で最も高いためです。後で見る、自治体差と支部差の大小が入れ替わる事業所得は、63市区で計算し直すと1,100万円から1,150万円に上がりました(1,100万円で自治体差6.3万円、支部差6.1万円)。

20市区×47支部の940通りをすべて計算すると、次のようになりました。

組み合わせ損益分岐となる事業所得事業所得1,200万円の実質差額
最小東京23区+新潟県支部1,237万円−3.7万円
最大堺市+佐賀県支部1,302万円−10.3万円
幅—65万円6.6万円

全体の幅65万円のうち、59万円は支部料率、4万円が自治体差の寄与です。しかも940通りのうち実際に起こりうるのは住所と所在地がそろった20通りで、その幅は47万円でした。支部料率そのものの比較は協会けんぽの料率差で法人化の分岐点は59万円動くで扱っています。

なぜ自治体差が消えるのか

国民健康保険には賦課限度額があり、所得が一定を超えると保険料が増えなくなります。東京23区と政令指定都市19市のどこでも、頭打ちになる所得はその市区の損益分岐点より手前にありました(いちばん差が小さい熊本市でも36万円手前)。収録63市区に広げると、那覇市・市川市・徳島市・福井市・佐賀市・松山市・水戸市の7市は頭打ちになる所得が分岐点より後にあります。ただし分岐点の時点で上限までの残りは、那覇市で約6.5万円、市川市で約3万円、徳島市で約1.5万円、福井市で約1.2万円、ほかの3市は0.5万円未満です。

自治体事業所得600万円の国保料事業所得1,200万円の国保料頭打ちになる事業所得(控除前)同(控除後)
東京23区587,609円960,000円1,150万円1,085万円
横浜市611,488円960,000円1,050万円985万円
川崎市624,633円960,000円1,000万円935万円
相模原市550,312円960,000円1,110万円1,045万円
大阪市724,503円950,000円1,120万円1,055万円
堺市724,503円950,000円1,120万円1,055万円
名古屋市642,402円960,000円1,200万円1,135万円
札幌市635,361円960,000円1,080万円1,015万円
福岡市503,500円937,807円1,240万円1,175万円
北九州市662,217円960,000円1,120万円1,055万円
神戸市601,922円960,000円1,180万円1,115万円
京都市601,676円960,000円1,120万円1,055万円
さいたま市582,896円960,000円1,200万円1,135万円
千葉市581,124円960,000円1,020万円955万円
仙台市629,366円960,000円1,150万円1,085万円
新潟市581,584円960,000円1,160万円1,095万円
静岡市541,836円960,000円1,120万円1,055万円
浜松市554,096円960,000円1,140万円1,075万円
岡山市628,787円960,000円1,080万円1,015万円
熊本市540,844円959,000円1,240万円1,175万円

40歳未満・単身・青色申告(e-Tax)での計算です。「控除前」は売上から経費を引いた額、「控除後」はそこから青色申告特別控除65万円を引いた額です。国保の計算に使うのは控除後の金額をもとにした旧ただし書所得なので、2つの列を取り違えないでください。

この20市区では、事業所得600万円で福岡市503,500円から堺市724,503円まで年221,003円の開きがあります。ところが事業所得1,200万円では、最も安い福岡市937,807円と最も高い960,000円(東京23区など16市区)の差が年22,193円まで縮みます。この20市区すべてが事業所得1,240万円までに頭打ちになり、そこから先は所得が伸びても保険料が動かないためです。

頭打ちになる所得そのものには幅があります。この20市区でいちばん早いのは川崎市の1,000万円、いちばん遅いのは福岡市と熊本市の1,240万円で、240万円違います。所得割の料率が低い自治体ほど限度額に届くのが遅くなるためです。頭打ちの金額自体にも差があり、この20市区のうち18市区は96万円、大阪市と堺市だけが95万円です(いずれも40歳未満で介護分を含まない場合)。この構造そのものは国民健康保険が高いから法人化、は所得次第で逆効果になるで扱っています。

入れ替わるのは事業所得1,100万円

では自治体差はどこまで効いているのか。実質差額を動かす幅を所得帯ごとに出しました。

事業所得自治体差の幅(支部は東京都に固定)支部差の幅(国保は全国平均に固定)どちらが大きいか
400万円12.3万円3.3万円自治体差
600万円15.5万円4.9万円自治体差
800万円16.2万円6.1万円自治体差
1,000万円9.2万円6.0万円自治体差
1,100万円5.3万円6.1万円支部差
1,200万円1.3万円6.0万円支部差
1,500万円0.6万円6.0万円支部差
1,800万円0.6万円9.1万円支部差
2,100万円0.5万円9.6万円支部差
3,000万円0.5万円9.4万円支部差

大小が入れ替わるのは事業所得1,100万円です。 それより下では住んでいる自治体のほうが効き、それより上では会社を置いた都道府県のほうが効きます。

自治体差の幅は事業所得800万円の16.2万円を頂点に、そこから急に縮みます。国保料そのものの差が600万円の時点で22.1万円あるのに、手取りベースの幅が15.5万円にとどまるのは、国保料が社会保険料控除として所得税・住民税から引かれ、差の一部が税の減りで打ち消されるためです。

支部差の側が1,500万円の6.0万円から1,800万円の9.1万円へ段差を作っているのは、所得が上がって最適な役員報酬が上の等級に移り、料率を掛ける標準報酬月額そのものが大きくなるからです。計算の手順は当サイトの計算方法にまとめています。

自治体の順位は、別の場面では効く

ここまでの話は「法人化するかどうかの分岐点」に限った話です。個人事業主のままでいる前提で自治体ごとの保険料を比べるなら、順位も金額差も意味を持ちます。収録している市区の横並びは国民健康保険料が高い市・安い市を比較にあります。

また、ここでの計算はすべて40歳未満・独身の条件です。扶養家族がいると国保には人数分の均等割が乗るため、自治体差は単身より大きく出ます。協会けんぽ側は扶養家族が増えても保険料が変わらないので、家族が多いほど自治体差の寄与は戻ってきます。一般論の数字ではなく、自分の売上・経費・家族構成で確かめてください。

まとめ

  • 住所と会社の所在地をそろえた20通りでは、法人化の損益分岐となる事業所得は新潟市1,237万円から札幌市1,284万円までの47万円の幅だった
  • 協会けんぽを東京支部に固定して自治体だけを動かすと幅は4万円(収録63市区では33万円)、国保を全国平均に固定して支部だけを動かすと59万円。動かしているのは支部料率のほう
  • 東京23区と政令指定都市19市はすべて事業所得1,240万円(青色申告特別控除前)までに国保の頭打ちに達し、分岐点はその先にある。収録63市区に広げると那覇市・市川市など7市は分岐点でも上限の手前だが、残りは最大で那覇市の約6.5万円
  • 自治体差と支部差の大小が入れ替わるのは事業所得1,100万円(収録63市区では1,150万円)。それ以下の所得帯では住んでいる自治体のほうが効く

よくある質問

国保が安い自治体に住んでいると、法人化は不利になりますか。

この試算では、協会けんぽの支部をそろえた状態で自治体だけを変えても、損益分岐となる事業所得は東京23区と政令指定都市19市で4万円、当サイトが料率を収録している63市区全体でも33万円で、支部だけを動かしたときの59万円より小さくなりました。分岐点のあたりではほとんどの自治体で国保が頭打ちになっているためです。事業所得が1,000万円を下回る帯では自治体差のほうが大きく出ます。

住所と会社の所在地が違う場合、どちらの数字を見ればよいですか。

国民健康保険は住民票のある市区町村、協会けんぽは事業所の所在地を管轄する支部です。自宅を本店にしている一人会社では両方が同じ都道府県になりますが、別々の場合はそれぞれの地域の数字を使って計算します。

賦課限度額に達する所得は自治体ごとに違いますか。

違います。東京23区と政令指定都市19市の20市区では、青色申告特別控除前の事業所得で川崎市の1,000万円から福岡市・熊本市の1,240万円まで240万円の幅がありました。収録63市区に広げると、那覇市は控除後1,625万円(控除前1,690万円)、子ども・子育て支援金分を市独自に半額にしている徳島市は控除後2,455万円(控除前2,520万円)まで頭打ちになりません。限度額そのものの合計額にも自治体差があります。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。