社会保険
国保の負担率9.5%は協会けんぽ7.2%より重い?一人社長は労使合計で13%台
結論
厚生労働省の統計(令和4年度)で保険料負担率は市町村国保9.5%、協会けんぽ7.2%ですが、協会けんぽの数字は本人負担分だけで、事業主負担を含めると14.3%です。一人社長は会社負担分も自分の会社が払うため、同じ物差しで計算すると最適な役員報酬での健康保険料の負担率は13.2〜14.8%となり、国保(全国平均の概算で4.8〜11.5%)より高く出ます。ただし分母が給与所得に縮むためで、円で比べると事業所得1,500万円までは健康保険のほうが年3.5万〜30.4万円安くなります。
- 統計の「負担率」は保険料÷加入者一人当たり平均所得。協会けんぽの平均所得は「標準報酬総額−給与所得控除相当額」で数えている
- 国保の負担率は賦課限度額のため所得が上がるほど下がり、事業所得2,000万円では4.8%になる
- 負担率の比較で分かるのは制度ごとの重さで、法人化するかどうかは保険料の円の差と税金を合わせて見る必要がある
このテーマの全体像 国民健康保険料の自治体別比較
「国保は高い」という話の根拠としてよく使われるのが、厚生労働省が公表している保険者別の保険料負担率です。市町村国保9.5%、協会けんぽ7.2%という数字を見ると、法人化して協会けんぽに移れば負担が軽くなりそうに見えます。ところがこの7.2%は、会社が払う半分を含んでいません。
厚労省の「各保険者の比較」を読む
厚生労働省の「我が国の医療保険について」には、保険者ごとの加入者数・平均年齢・平均所得・平均保険料を並べた比較表があります。令和4年度の数字を抜き出しました。
| 保険者 | 加入者一人当たり平均所得 | 平均保険料(本人) | 事業主負担込み | 保険料負担率(公表) | 事業主負担込みの負担率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 市町村国保 | 96.0万円 | 9.1万円 | — | 9.5% | — |
| 協会けんぽ | 175.0万円 | 12.5万円 | 25.1万円 | 7.2% | 14.3% |
| 組合健保 | 245.0万円 | 13.9万円 | 30.4万円 | 5.7% | 12.4% |
| 共済組合 | 246.0万円 | 14.4万円 | 28.7万円 | 5.8% | 11.7% |
| 後期高齢者医療制度 | 93.0万円 | 7.9万円 | — | 8.6% | — |
※ 令和4年度。保険料は介護分を含まない。「事業主負担込みの負担率」は事業主負担込みの保険料÷平均所得で当サイトが計算。元データは data/official/hokensha-hikaku-r04/、PDFからの抽出は scripts/hokensha-hikaku-r04.py(保険料÷所得が公表の負担率と合うことを検算している)
公表されている負担率は本人負担分だけの数字です。協会けんぽは保険料を労使で半分ずつ払うので、事業主負担を含めると負担率は14.3%と、国保の9.5%を上回ります。
もう1つ注意したいのは、分母の「平均所得」の数え方です。厚労省の注記では、国保は総所得金額(収入から必要経費・給与所得控除・公的年金等控除を引いた額)で、協会けんぽは「標準報酬総額から給与所得控除に相当する額を除いたもの」です。つまりどちらも控除後の所得に対する比率で、額面の年収に対する比率ではありません。
一人社長にとって「本人負担分だけ」の比較は意味がない
会社員なら、会社負担分は自分の給与明細に出てこないお金です。しかし一人社長の場合、会社負担分を払うのも自分の会社です。会社のお金が減れば、そのぶん自分が会社から受け取れるお金も減ります。一人社長が社会保険料を労使合計で見る理由はここにあります(一人社長の社会保険料は会社負担込みでいくらか)。
統計の14.3%は協会けんぽの加入者全体の平均で、役員報酬の額によって変わります。そこで、厚労省と同じ物差しを使って、法人化前の国保と、法人化後の健康保険の負担率を計算エンジンから出しました。
同じ物差しで計算した負担率
国保は「保険料÷総所得金額(青色申告特別控除の後の事業所得)」、健康保険は「保険料÷(役員報酬−給与所得控除)」で、どちらも介護分を除きます。令和4年度の統計には子ども・子育て支援金がないので、支援金分も両方から外しました。
| 事業所得(青色控除前) | 国保(医療分+支援金分) | 国保の負担率 | 最適役員報酬 | 健康保険(本人) | 本人分の負担率 | 健康保険(労使合計) | 労使合計の負担率 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 300万円 | 27.1万円 | 11.5% | 月20万円 | 11.8万円 | 7.4% | 23.6万円 | 14.8% |
| 400万円 | 37.8万円 | 11.3% | 月28万円 | 16.5万円 | 7.3% | 33.1万円 | 14.6% |
| 600万円 | 59.0万円 | 11.0% | 月42万円 | 24.2万円 | 6.7% | 48.5万円 | 13.5% |
| 800万円 | 80.2万円 | 10.9% | 月54万円 | 31.3万円 | 6.6% | 62.6万円 | 13.2% |
| 1,000万円 | 93.0万円 | 9.9% | 月54万円 | 31.3万円 | 6.6% | 62.6万円 | 13.2% |
| 1,200万円 | 93.0万円 | 8.2% | 月54万円 | 31.3万円 | 6.6% | 62.6万円 | 13.2% |
| 1,500万円 | 93.0万円 | 6.5% | 月54万円 | 31.3万円 | 6.6% | 62.6万円 | 13.2% |
| 2,000万円 | 93.0万円 | 4.8% | 月90万円 | 52.0万円 | 5.9% | 104.0万円 | 11.8% |
※ 経費200万円・国保は全国平均の概算(当サイトが料率を収録している63市区以外)・協会けんぽは東京支部(9.85%)・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・合同会社/2026年(令和8年)分基準。表は scripts/hokensha-futanritsu-houjinka.mjs で再生成できる
個人事業主の国保の負担率は事業所得800万円までは11%前後で、統計の国保平均9.5%より少し高めです。賦課限度額(医療分と後期高齢者支援金分の上限)に事業所得800万〜1,000万円の間で届くと、そこから先は保険料が増えないので負担率は下がり、2,000万円では4.8%になります(国保の上限に届く所得)。
法人化した後の健康保険は、本人分だけなら6.6%前後で、統計の協会けんぽ7.2%と近い水準です。ところが労使合計では13.2〜14.8%になり、どの所得帯でも国保の負担率を上回りました。
東京23区の国保で計算し直しても、国保の負担率は300万円で11.2%、800万円で10.6%と全国平均の概算と0.3〜0.4ポイントしか違わず、この関係は変わりません。
負担率は高いのに、円では健康保険のほうが安い理由
ここで混乱しやすいのが、円で比べた結果です。事業所得800万円の場合、国保(医療分+支援金分)は年80.2万円、法人化後の健康保険(労使合計)は年62.6万円で、健康保険のほうが年17.5万円安いのです。
| 事業所得 | 国保 | 健康保険(労使合計) | 差(健康保険−国保) |
|---|---|---|---|
| 300万円 | 27.1万円 | 23.6万円 | −3.5万円 |
| 600万円 | 59.0万円 | 48.5万円 | −10.5万円 |
| 800万円 | 80.2万円 | 62.6万円 | −17.5万円 |
| 1,000万〜1,500万円 | 93.0万円 | 62.6万円 | −30.4万円 |
| 2,000万円 | 93.0万円 | 104.0万円 | +11.0万円 |
負担率が高いのに円で安くなるのは、分母が違うからです。国保は事業所得のすべてに保険料がかかります。法人化後の健康保険がかかるのは役員報酬だけで、最適な役員報酬は事業所得よりかなり低い額に収まります。さらに負担率の分母は、その役員報酬から給与所得控除を引いた給与所得まで縮みます。率は高いが、かかる元の金額が小さいという構造です。
統計の負担率は、制度ごとの重さを比べるための数字です。「国保は負担率が高いから法人化で軽くなる」とも、「協会けんぽは労使合計なら重いから法人化は損」とも、それだけでは言えません。
法人化の判断にどう読むか
健康保険だけを見れば、事業所得1,500万円までは法人化で保険料が下がります。ただし法人化すると、国民年金が厚生年金に替わり、こちらは労使合計で大きく増えます。社会保険料全体では、東京23区・事業所得800万円で法人化すると年81.4万円の負担増になります(法人化で社会保険料はいくら増えるか)。厚生年金は将来の年金額に返ってくる部分なので、単年の手取りだけでは判断できません。
国保の重さを法人化の判断材料にするなら、統計の負担率ではなく、自分の所得での国保の額、法人化したときの役員報酬と社会保険料、税金の変化をまとめて比べるのが確実です(国民健康保険料の自治体比較)。自分の売上と経費を入れて、手取りの差を確かめてください。
まとめ
- 厚労省の統計(令和4年度)の負担率は国保9.5%、協会けんぽ7.2%。ただし協会けんぽは本人負担分だけで、事業主負担込みは14.3%
- 同じ物差しで計算すると、一人社長の健康保険(労使合計)の負担率は13.2〜14.8%で、国保(4.8〜11.5%)より高い
- それでも円では、事業所得1,500万円まで健康保険のほうが年3.5万〜30.4万円安い。保険料がかかるのが役員報酬だけだから
- 国保の負担率は賦課限度額のため所得が上がるほど下がる
- 法人化の判断は負担率でなく、年金・税金を含めた手取りの差で見る
よくある質問
国民健康保険は協会けんぽより保険料が高いのですか。
厚生労働省の統計では、所得に対する負担率は市町村国保9.5%、協会けんぽ7.2%で国保が高く出ます。ただし協会けんぽの7.2%は本人負担分だけで、事業主負担を含めると14.3%です。会社負担分も自分で出す一人社長にとっては、国保が一方的に重いとは言えません。
なぜ国保の加入者の平均所得は96万円と低いのですか。
市町村国保には年金生活者や無職の人が多く含まれ、加入者の平均年齢は54.2歳、65〜74歳が44.6%を占めます(令和4年度)。平均所得はこの全員で割った値なので、事業で稼いでいる個人事業主の所得とは大きく離れています。
組合健保の負担率はなぜ低いのですか。
統計では組合健保の加入者一人当たり平均所得が245万円と高く、本人負担の負担率は5.7%です(事業主負担込みで12.4%)。所得の高い大企業の健保組合が多いことが効いています。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。