社会保険

協会けんぽの料率差で法人化の分岐点は59万円動く。47支部で試算

結論

令和8年度の協会けんぽの健康保険料率は最低9.21%(新潟県)から最高10.55%(佐賀県)まで1.34ポイントの差があり、同じ条件で計算した法人化の損益分岐となる事業所得は新潟県1,237万円、佐賀県1,296万円で59万円の幅がありました。ただし保険料の差(役員報酬 月54万円で労使合計 年8万5,224円)がそのまま手取りの差になるわけではなく、事業所得1,200万円での実質差額の開きは6.0万円です(経費200万円・独身・40歳未満・国保は全国平均の概算での当サイト試算)。

  • 支部で変わるのは健康保険料率だけ。介護保険料率1.62%・子ども・子育て支援金率0.23%・厚生年金保険料率18.3%は全国一律
  • 料率が高い佐賀県では事業所得800万円のときの最適な役員報酬が月45万円と出るが、月54万円との手取り差は年488円しかない
  • 40〜59歳でも支部差の幅は59万円のまま。介護保険料率が全国一律なので、年齢が上がっても地域差の絶対額は変わらない

協会けんぽの健康保険料率は、事業所がある都道府県の支部で決まります。令和8年度は最低の新潟県9.21%と最高の佐賀県10.55%で、1.34ポイントの差があります。同じ売上・同じ家族構成でも、会社をどの県に置くかで法人化の損益分岐点は59万円動きました。ただし、保険料の差がそのまま手取りの差になるわけではありません。

支部で変わるのは健康保険料率だけ

法人化した一人社長が毎月払う社会保険料は、4つの料率でできています。このうち都道府県で違うのは、いちばん上の健康保険料率だけです。

料率令和8年度の値地域差
健康保険料率9.21%(新潟県)〜10.55%(佐賀県)支部ごとに違う
介護保険料率1.62%(40歳以上65歳未満のみ)全国一律
子ども・子育て支援金率0.23%全国一律
厚生年金保険料率18.3%全国一律

いずれも会社と本人で半分ずつ負担します。一人社長の場合はどちらも自分の会社が出すお金なので、判断には労使合計で見る必要があります(一人社長の社会保険料は会社負担込みでいくらか)。

適用されるのは、社長個人の住所地ではなく事業所の所在地を管轄する支部の料率です。健康保険料率と介護保険料率は令和8年3月分(4月納付分)から、子ども・子育て支援金は令和8年4月分(5月納付分)から変わります。

47支部の料率そのものと、標準報酬月額ごとの保険料額は協会けんぽの健康保険料率を全47都道府県で比較にまとめています。この記事で見るのは、その料率差が法人化するかどうかの判定をいくら動かすかです。

まず、料率を動かさないときの判定

比べる土台として、協会けんぽは東京支部のまま、国民健康保険は全国平均の概算(当サイトが料率を収録している63市区以外に住む人と同じ条件)で、事業所得別の判定を出します。

事業所得個人のまま法人化(最適報酬)最適な役員報酬実質差額(年)判定
400万円302.1万円274.5万円月28万円−47.6万円個人のまま有利
600万円426.1万円409.7万円月42万円−36.4万円個人のまま有利
800万円539.0万円536.6万円月54万円−22.5万円個人のまま有利
1,000万円657.0万円662.4万円月54万円−14.6万円ほぼ互角
1,200万円774.2万円787.6万円月54万円−6.6万円ほぼ互角
1,500万円928.2万円972.0万円月54万円+23.9万円法人化が有利
1,800万円1082.1万円1149.1万円月90万円+47.0万円法人化が有利
2,100万円1232.0万円1332.6万円月95万円+80.6万円法人化が有利
2,500万円1395.0万円1551.1万円月100万円+136.1万円法人化が有利
3,000万円1599.6万円1816.8万円月100万円+197.2万円法人化が有利

※ 経費200万円・その他の自治体(概算)・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準 ※ 実質差額は税理士報酬の差(年20万円)と法人住民税の均等割を差し引いた後の金額

事業所得1,200万円あたりが境目です。ここから先は、この条件を固定したまま、協会けんぽの支部だけを47通りに振り替えます。個人側(国民健康保険)の条件を動かさないので、出てくる差は法人側の料率差だけが原因になります。

47支部の損益分岐点

支部(都道府県)健康保険料率損益分岐となる事業所得東京との差事業所得1,200万円の実質差額最適役員報酬
新潟県9.21%1,237万円−29万円−3.7万円月54万円
沖縄県9.44%1,247万円−19万円−4.7万円月54万円
福島県9.5%1,249万円−17万円−5.0万円月54万円
岩手県9.51%1,250万円−16万円−5.1万円月54万円
茨城県9.52%1,251万円−15万円−5.1万円月54万円
山梨県9.55%1,252万円−14万円−5.3万円月54万円
富山県9.59%1,253万円−13万円−5.4万円月54万円
静岡県9.61%1,255万円−11万円−5.5万円月54万円
長野県9.63%1,255万円−11万円−5.6万円月54万円
埼玉県9.67%1,257万円−9万円−5.8万円月54万円
群馬県9.68%1,258万円−8万円−5.8万円月54万円
石川県9.7%1,259万円−7万円−5.9万円月54万円
福井県9.71%1,259万円−7万円−5.9万円月54万円
千葉県9.73%1,260万円−6万円−6.1万円月54万円
山形県9.75%1,261万円−5万円−6.1万円月54万円
宮崎県9.77%1,262万円−4万円−6.2万円月54万円
三重県9.77%1,262万円−4万円−6.2万円月54万円
広島県9.78%1,262万円−4万円−6.3万円月54万円
岐阜県9.8%1,263万円−3万円−6.4万円月54万円
栃木県9.82%1,264万円−2万円−6.5万円月54万円
青森県9.85%1,266万円+0万円−6.6万円月54万円
東京都9.85%1,266万円+0万円−6.6万円月54万円
鳥取県9.86%1,266万円+0万円−6.7万円月54万円
滋賀県9.88%1,266万円+0万円−6.7万円月54万円
京都府9.89%1,266万円+0万円−6.8万円月54万円
奈良県9.91%1,268万円+2万円−6.9万円月54万円
神奈川県9.92%1,269万円+3万円−6.9万円月54万円
愛知県9.93%1,269万円+3万円−6.9万円月54万円
島根県9.94%1,270万円+4万円−7.0万円月54万円
愛媛県9.98%1,271万円+5万円−7.2万円月54万円
秋田県10.01%1,273万円+7万円−7.3万円月54万円
香川県10.02%1,273万円+7万円−7.4万円月54万円
岡山県10.05%1,274万円+8万円−7.5万円月54万円
高知県10.05%1,274万円+8万円−7.5万円月54万円
長崎県10.06%1,274万円+8万円−7.5万円月54万円
和歌山県10.06%1,274万円+8万円−7.5万円月54万円
熊本県10.08%1,276万円+10万円−7.6万円月54万円
大分県10.08%1,276万円+10万円−7.6万円月54万円
宮城県10.1%1,277万円+11万円−7.7万円月54万円
福岡県10.11%1,277万円+11万円−7.8万円月54万円
兵庫県10.12%1,277万円+11万円−7.8万円月54万円
鹿児島県10.13%1,277万円+11万円−7.9万円月54万円
大阪府10.13%1,277万円+11万円−7.9万円月54万円
山口県10.15%1,278万円+12万円−7.9万円月54万円
徳島県10.24%1,283万円+17万円−8.4万円月54万円
北海道10.28%1,284万円+18万円−8.5万円月54万円
佐賀県10.55%1,296万円+30万円−9.7万円月54万円
  • 料率:最低 新潟県 9.21% / 最高 佐賀県 10.55% / 単純平均 9.87%(47支部の単純平均。加入者数で加重していない)
  • 損益分岐:最低 新潟県 1,237万円 / 最高 佐賀県 1,296万円 / 幅 59万円
  • 事業所得1,200万円の実質差額:新潟県 −3.7万円 / 佐賀県 −9.7万円 / 差 6.0万円
  • 最適役員報酬:月54万円(47支部で出た値の種類)
  • 10%以上の支部:17支部 / 9%台:30支部

東京都は1,266万円で、47支部のほぼ中央でした。最も安い新潟県と最も高い佐賀県で59万円の幅があります。言い換えると、料率が0.1ポイント高くなるごとに、法人化が有利に転じる事業所得のラインが4万円ほど上がります。

最適な役員報酬は、事業所得1,200万円ならどの支部でも月54万円でした。料率が上がっても、報酬の決め方そのものは動きません。

保険料の差は年8万5,224円、手取りの差は6.0万円

役員報酬を月54万円にすると、標準報酬月額は53万円の等級に入ります。この等級での健康保険料は、労使合計で新潟県が年58万5,756円、佐賀県が年67万980円です。差は年8万5,224円。

ところが、同じ2県で事業所得1,200万円の実質差額を比べると、開きは6.0万円にとどまります。保険料の差の約71%です。

残りの29%はどこへ消えたのか。保険料は払いっぱなしではなく、会社負担分は法人の経費(損金)になり、本人負担分は社会保険料控除として所得税と住民税を減らすからです。保険料が1円増えても、手取りは1円減りません。

「保険料率が年8万円分高い県だから、その分だけ損をする」と考えると、地域差を2〜3割ほど大きく見積もることになります。

次の表は、支部で動く部分(健康保険料)が社会保険料の全体に占める割合です。上の71%とは別の切り口で、保険料そのものの内訳を見ています。

支部年齢区分本人負担+会社負担の合計全国一律の部分支部で変わる部分支部差が占める割合
新潟県40歳未満1,764,264円1,178,508円585,756円33.2%
新潟県40〜59歳1,867,296円1,281,540円585,756円31.4%
佐賀県40歳未満1,849,488円1,178,508円670,980円36.3%
佐賀県40〜59歳1,952,520円1,281,540円670,980円34.4%

※ 標準報酬月額は健康保険 530,000円・厚生年金 530,000円(役員報酬 月54万円の等級)。労使合計で、会社だけが負担する子ども・子育て拠出金は含まない

40歳以上になると全国一律の介護保険料が加わるので、支部で動く部分の割合はむしろ下がります(新潟県で33.2%から31.4%)。年齢が上がるほど、地域差は保険料の中で相対的に小さくなります。

事業所得が増えるほど、地域差は広がる

事業所得新潟県佐賀県差新潟県の最適報酬佐賀県の最適報酬
400万円−46.0万円−49.3万円3.3万円月28万円月28万円
600万円−34.1万円−39.0万円4.9万円月42万円月42万円
800万円−19.5万円−25.6万円6.1万円月54万円月45万円
1,000万円−11.7万円−17.8万円6.0万円月54万円月45万円
1,200万円−3.7万円−9.7万円6.0万円月54万円月54万円
1,500万円+26.8万円+20.7万円6.0万円月54万円月54万円
1,800万円+51.3万円+42.3万円9.1万円月90万円月90万円
2,100万円+85.2万円+75.6万円9.6万円月95万円月95万円
2,500万円+140.6万円+131.2万円9.4万円月100万円月100万円
3,000万円+201.7万円+192.3万円9.4万円月100万円月100万円

事業所得400万円では差が3.3万円しかありません。報酬が低いうちは標準報酬月額も低く、料率差が乗る土台が小さいからです。800万〜1,500万円の帯では6万円前後で動かなくなり、1,800万円を超えると9万円台に広がります。この最後の段差の原因は、標準報酬月額の上限です。

役員報酬が月90万円になると、健康保険の標準報酬月額は88万円の等級に入りますが、厚生年金のほうは32等級の65万円で頭打ちになります。全国一律の厚生年金は増えず、支部で違う健康保険だけが増え続けるため、報酬を上げるほど料率差の効く部分が大きくなるという形です。

なお、健康保険の標準報酬月額の上限は139万円で、厚生年金の65万円とは別の数字です。等級表の段差については標準報酬月額の等級表(令和8年度)で扱っています。

料率が高い県ほど、最適報酬の「正解」は平らになる

総当たりで最適な役員報酬を探すと、事業所得800万円では新潟県が月54万円、佐賀県が月45万円と、違う答えが出ます。ただし中身を開くと、同じ順位争いには見えません。

支部順位役員報酬(月)手取り(年)首位との差
新潟県1位54万円5,395,206円—
新潟県2位51万円5,391,820円3,386円
新潟県3位48万円5,388,594円6,612円
新潟県4位45万円5,385,209円9,997円
佐賀県1位45万円5,334,612円—
佐賀県2位48万円5,334,596円16円
佐賀県3位51万円5,334,280円332円
佐賀県4位54万円5,334,124円488円

佐賀県では1位の月45万円と4位の月54万円の差が年488円しかありません。同じ所得でも新潟県は1位と4位で9,997円開きます。料率が高いほど、報酬を1段上げたときの保険料の増え方が大きく、手取りが増える効果と相殺されて平らになるためです。

ここから言えるのは、順位が入れ替わっても金額の差はほとんどないということです。最適額を1万円刻みで追い込むより、等級の境目をまたぐかどうかを見るほうが実益があります(役員報酬はいくらが最適か)。

年齢や家族で分岐点は動く。地域差の幅は動かない

年齢区分新潟県の損益分岐佐賀県の損益分岐幅
40歳未満1,237万円1,296万円59万円
40〜59歳(介護保険あり)1,214万円1,273万円59万円
配偶者あり・40歳未満966万円1,021万円55万円

40〜59歳になると介護保険料が加わり、損益分岐は新潟県で1,214万円、佐賀県で1,273万円へ下がります。それでも2県の幅は59万円のままです。介護保険料率は全国一律なので、年齢が上がっても地域差の絶対額は変わりません。

配偶者が無収入なら、分岐は966万〜1,021万円まで一気に下がります。地域差(59万円)より、配偶者の有無による動き(約270万円)のほうが桁がひとつ大きいということです。判定をひっくり返すのは家族構成や年齢で、支部の料率はその上に乗る数十万円の調整にすぎません。

個人側の国民健康保険についても同じ傾向が出ています。国保を全国平均の概算で計算した事例では、国保の自治体差があっても損益分岐はほとんど動きませんでした(地方在住の機械設計者の法人化試算事例)。東京23区と政令指定都市19市の実データ20通りと47支部を突き合わせた結果は、国保の自治体差は法人化の分岐点をほとんど動かさないにあります。

料率の安い県に会社を置けるか

適用される料率は事業所の所在地で決まるので、理屈のうえでは所在地を変えれば料率も変わります。ただし、社会保険の適用事業所は実際に事業を行っている場所を届け出るものです。実体のない所在地を置いて料率だけを選ぶ、という使い方を前提にはできません。

所在地を実際に移す場合は、登記の費用(管轄外への移転で登録免許税6万円)と、法人住民税の手続きが発生します(法人の本店移転の費用)。年8万円台の保険料差と並べて、移転そのものに事業上の理由があるかで考える話になります。

実際の法人化率は、料率の高い県で低いわけではありません。47都道府県の国勢調査で比べた結果は都道府県別の法人化率にまとめています。

まとめ

  • 協会けんぽで支部ごとに違うのは健康保険料率だけで、令和8年度は9.21%(新潟県)〜10.55%(佐賀県)の1.34ポイント差
  • 同じ条件で計算した法人化の損益分岐は1,237万〜1,296万円で、幅は59万円。東京都は1,266万円でほぼ中央
  • 役員報酬 月54万円での保険料差は労使合計で年8万5,224円だが、損金と社会保険料控除で戻るぶん、手取りの差はその約71%の6.0万円
  • 事業所得1,800万円を超えると差は9万円台に広がる。厚生年金は標準報酬65万円で頭打ちになり、健康保険だけが伸びるため
  • 地域差より家族構成や年齢のほうが判定に効く。自分の売上・経費・家族構成で確かめてから、所在地の話を足すほうが順番として早い

計算の前提は当サイトの計算方法に書いています。ここで使った条件(経費200万円・独身・40歳未満・国保は全国平均の概算)と自分の条件は違うはずなので、一般論の数字ではなく、自分の売上と経費で確かめてください。

よくある質問

協会けんぽの料率は、社長の住所と会社の所在地のどちらで決まりますか。

事業所の所在地を管轄する支部の料率です。社長個人の住所地ではありません。自宅を本店にしている一人会社では結果的に同じになることが多いだけです。

料率の低い県に会社を置けば、法人化が有利になりますか。

同じ条件で計算すると損益分岐となる事業所得は最大59万円下がりますが、判定を決めるのは家族構成や年齢のほうが大きく、地域差だけで結論が入れ替わる場面は限られます。事業所の所在地は実際に事業を行う場所で決まるため、料率だけを理由に動かせるものでもありません。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。