社会保険

本店を料率の安い県へ移すと社会保険料はいくら下がる?回収は約2年

結論

役員報酬 月54万円の一人社長が事業所を東京都(9.85%)から新潟県(9.21%)へ移すと、健康保険料は労使合計で年4万704円下がりますが、法人税・所得税の戻りが減るため手取りの増加は年2万8,874円(保険料差の71%)で、管轄外の本店移転登記にかかる登録免許税6万円の回収に約2.1年かかります。料率の基準は登記上の本店ではなく、実際に事業を行う適用事業所の所在地です。

  • 健康保険法160条は、支部の料率を「その都道府県に所在する適用事業所に使用される被保険者」に適用すると定めている
  • 都道府県をまたぐ移転は、届出日の翌月1日または翌々月1日から管轄が変わる。資格確認書等の記号も変わる
  • 料率差は毎年3月に入れ替わる。今年の差が来年も続く保証はない

協会けんぽの保険料率が都道府県ごとに違うと知ると、「会社の所在地を安い県に移せば保険料が下がるのでは」と考えたくなります。制度上その理屈は正しいものの、下がるのは健康保険料率の部分だけで、手取りに残るのはその7割前後です。以下、役員報酬別に金額と、移転の費用を回収するまでの年数を出しました。

料率を決めるのは「適用事業所の所在地」

健康保険法160条1項は、協会けんぽの一般保険料率を支部ごとに決めると定め、支部被保険者を「各支部の都道府県に所在する適用事業所に使用される被保険者」としています。基準は社長の住所ではなく、会社が社会保険に加入している事業所の所在地です。

ここで言う事業所は、登記簿の本店と同じとは限りません。日本年金機構は所在地変更の届出について、登記上の所在地と実際の所在地が異なる場合は賃貸借契約書のコピーなどを添付するよう案内しています。社会保険の側が見ているのは実際に事業を行っている場所です。

自宅を本店にしている一人会社では、たいてい登記上の本店と事業所が同じ場所になります。そのため実務上は「本店を移す=事業所を移す=支部が変わる」ことが多い、という関係です。

支部で変わるのは健康保険料率だけで、介護保険料率1.62%、子ども・子育て支援金率0.23%、厚生年金保険料率18.3%は全国一律です(協会けんぽの料率差で法人化の分岐点はどれだけ動くか)。

役員報酬別の保険料の差

令和8年度の料率は、最低が新潟県の9.21%、最高が佐賀県の10.55%、東京都は9.85%です。役員報酬を固定して、支部だけを入れ替えた健康保険料(会社負担と本人負担の合計・年額)を出しました。

役員報酬(月額)標準報酬月額東京都新潟県東京都との差佐賀県佐賀県との差
30万円300,000円354,600円331,560円23,040円379,800円48,240円
45万円440,000円520,080円486,288円33,792円557,040円70,752円
54万円530,000円626,460円585,756円40,704円670,980円85,224円
70万円710,000円839,220円784,692円54,528円898,860円114,168円

※ 40歳未満。健康保険料(支部の料率分)のみ。子ども・子育て支援金・厚生年金は全国一律のため差が出ない/2026年(令和8年)分基準

一人社長にとって会社負担分と本人負担分はどちらも自分のお金なので、労使合計で見ます(一人社長の社会保険料)。東京都から新潟県で、月54万円なら年4万704円です。最も差が大きい佐賀県と新潟県の組み合わせでも、同じ報酬で年8万5,224円です。

実際に検討しやすいのは、自宅の引っ越しに合わせて隣の県へ移るケースです。

組み合わせ料率健康保険料の差(月54万円・年)
東京都→埼玉県9.85%→9.67%11,448円
東京都→千葉県9.85%→9.73%7,632円
東京都→神奈川県9.85%→9.92%−4,452円(上がる)
大阪府→東京都10.13%→9.85%17,808円
福岡県→東京都10.11%→9.85%16,536円
愛知県→東京都9.93%→9.85%5,088円

首都圏の中で動く程度なら、差は年1万円前後です。

手取りに残るのは保険料差の7割前後

保険料が4万円下がっても、手取りが4万円増えるわけではありません。会社負担分は法人の損金なので、減ればその分だけ法人の利益が増えて法人税等がかかります。本人負担分は社会保険料控除の対象なので、減れば所得税・住民税が少し増えます。

当サイトの計算エンジンで、役員報酬を固定したまま支部だけを入れ替え、役員個人の手取りと会社に残る額(取り出しコストを差し引いた後)の合計を比べました。

役員報酬(月額)移転元→移転先保険料の差(労使合計・年)手取りの差(年)保険料差に対する割合登録免許税6万円の回収3万円の回収
30万円東京都→新潟県23,040円17,116円74%3.5年1.8年
30万円佐賀県→新潟県48,240円35,576円74%1.7年0.8年
45万円東京都→新潟県33,792円24,053円71%2.5年1.2年
45万円佐賀県→新潟県70,752円50,117円71%1.2年0.6年
54万円東京都→新潟県40,704円28,874円71%2.1年1.0年
54万円佐賀県→新潟県85,224円60,362円71%1.0年0.5年
70万円東京都→新潟県54,528円35,775円66%1.7年0.8年
70万円佐賀県→新潟県114,168円75,851円66%0.8年0.4年

※ 役員報酬前の事業所得1,200万円(売上1,400万円・経費200万円)・40歳未満・独身・合同会社・インボイス登録済み/2026年(令和8年)分基準。表は scripts/honten-shibu-ryouritsu.mjs で再生成できる

保険料差のうち手取りに残るのは**66〜74%**でした。会社負担分の減少は、法人税等と、会社に残したお金を個人へ取り出すときのコスト(当サイトの前提では20%)の分だけ目減りします。本人負担分の減少は、社会保険料控除が減るぶん所得税・住民税が増えて目減りします。報酬が高いほど割合が下がるのは、役員個人の税率が高い帯に入り、この増税で相殺される割合が大きくなるためです。

回収年数は、本店移転登記の登録免許税だけで計算しています。登記所の管轄をまたぐ移転は旧所在地と新所在地の2件で6万円、同じ管轄なら3万円です(法人の本店移転にかかる費用と均等割)。都道府県をまたげば、ほぼ管轄外の6万円になります。

年齢では差が広がらない

40歳になると介護保険料が加わりますが、介護保険料率は全国一律です。支部の差は健康保険料率の部分だけなので、年齢で差の額は変わりません。

年齢区分東京都の保険料(労使合計・年)新潟県差
40歳未満1,804,968円1,764,264円40,704円
40〜64歳(介護保険あり)1,908,000円1,867,296円40,704円

※ 役員報酬 月54万円。健康保険・介護保険・子ども・子育て支援金・厚生年金の労使合計

社会保険料の総額は年180万円前後あり、支部差の4万円はその50分の1程度にすぎません。

移転したら何がいつ変わるか

日本年金機構の案内では、年金事務所の管轄外へ所在地を移すときは、移転前の所在地を管轄する年金事務所へ「適用事業所名称/所在地変更(訂正)届(管轄外)」を事実発生から5日以内に出します。法人は登記簿謄本のコピー(提出日からさかのぼって90日以内に発行されたもの)を添付します。

項目同じ都道府県内の移転別の都道府県への移転
管轄の切り替え届出日の翌月1日届出日の翌月1日または翌々月1日
健康保険料率変わらない移転先の支部の料率になる
資格確認書等の記号変わらない(返納不要)変わる。回収して協会けんぽへ返納
保険料の過不足—管轄が変わった後の最初の保険料で調整

新しい料率は、届書に記入した事業所の移転日(事業開始年月日)から適用され、管轄の切り替えまでの過不足はその後の保険料で精算されます。届出を遅らせても、移転した日から新しい料率になることに変わりはありません。

判断に効くのは保険料より他の固定費

保険料の差は、役員報酬 月54万円・東京都→新潟県で手取り年2.9万円です。法人住民税の均等割も移転先の自治体へ移り、期の途中で移すと両方の自治体に月割で払うことになります。均等割の額は自治体ごとに違うので、移転先で年7万円より高くなることもあります(法人住民税の均等割の自治体差)。

さらに、料率差は毎年3月に見直されます。今年の差が来年も同じ向きで続く保証はありません。保険料のためだけに事業所を移すより、引っ越しや事務所の移転が先にあって、そのついでに料率がいくら変わるかを確かめる、という順番が現実的です。

法人化そのものの判定は、どの支部でも事業所得1,200万円あたりが境目です。自分の売上と経費、所在地の都道府県を入れて確かめてください。

まとめ

  • 協会けんぽの料率は、登記上の本店ではなく実際の適用事業所の所在地の支部で決まる
  • 役員報酬 月54万円で東京都→新潟県は保険料が労使合計 年4万704円下がるが、手取りの増加は年2万8,874円(71%)
  • 管轄外の本店移転登記6万円の回収には約2.1年。首都圏の中での移転なら差は年1万円前後
  • 介護保険料率は全国一律なので、40歳以上でも支部差の額は変わらない
  • 料率差は毎年3月に変わる。保険料だけを理由に移すより、移転の理由が先にあるかで考える

よくある質問

登記上の本店だけを料率の安い県に移せば、保険料は下がりますか。

下がるとは限りません。料率を決めるのは実際に人が働く適用事業所の所在地で、日本年金機構は登記上の所在地と実際の所在地が違う場合に賃貸借契約書のコピーなどの添付を求めています。事業の実態が移らない登記だけの移転は、料率を変える理由になりません。

同じ都道府県の中で移転しても料率は変わりますか。

変わりません。料率は都道府県単位の支部ごとに決まるため、県内の移転では管轄の年金事務所が変わっても健康保険料率は同じです。資格確認書等の返納も不要とされています。

40歳以上だと支部差は大きくなりますか。

大きくなりません。介護保険料率1.62%は全国一律なので、役員報酬 月54万円での東京都と新潟県の差は、40歳未満でも40〜64歳でも年4万704円で同じです。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。