税金の基礎

公営住宅の収入基準は、法人化で「収入月額」の出し方が変わる

結論

夫婦と子2人の世帯で売上700万円・経費210万円の個人事業主は、収入月額が25万9,166円で裁量階層の上限25万9,000円も超えますが、法人化して最適報酬(月34万円)にすると給与所得282.4万円から収入月額13万2,000円となり、本来階層の15万8,000円に収まります。判定に入るのは役員報酬だけで、会社に残した利益は入りません。

  • 収入月額=(所得金額−給与所得者1人10万円−同居親族1人38万円など)÷12(公営住宅法施行令1条3号)
  • 政令の基準は本来階層15万8,000円・裁量階層25万9,000円。実際の基準は事業主体(自治体)が条例で定める
  • 3年以上入居して基準を超えると収入超過者として明渡しの努力義務と割増家賃、5年以上で2年続けて31万3,000円を超えると明渡し請求の対象

公営住宅に入れるか、入居中に家賃が上がるかを決めるのは「収入月額」です。年収でも課税所得でもなく、公営住宅法施行令が定める独自の計算で出します。

個人事業主と一人社長では、この計算のもとになる所得が違います。前者は事業所得、後者は役員報酬の給与所得です。さらに給与所得者だけが引ける控除があり、同じ売上でも収入月額は大きく変わります。

収入月額の計算式

公営住宅法施行令1条3号は、「収入」を次のように定めています。入居者と同居者の過去1年間の所得金額(所得税法の例に準じて計算)の合計から、次の額を引いて12で割った額です。

控除の対象額
給与所得または公的年金等の雑所得がある人1人につき10万円(その所得が10万円未満ならその額)
同居者、同一生計配偶者・扶養親族(入居者と同居者以外)1人につき38万円
70歳以上の同一生計配偶者・老人扶養親族1人につき10万円を加算
16歳以上23歳未満の扶養親族1人につき25万円を加算
障害者1人につき27万円(特別障害者40万円)
寡婦/ひとり親27万円/35万円(所得が少ない場合はその額まで)

夫婦と子2人の4人世帯なら、同居者3人分で114万円を引きます。

ポイントは表の1行目です。給与所得がある人は、給与所得控除とは別にもう10万円を引けます。個人事業主の事業所得には、この10万円はありません。

基準額は15万8,000円と25万9,000円

施行令6条が定める入居の基準額です。実際の基準は、この金額以下で事業主体(都道府県・市区町村)が条例で定めます。

区分政令の基準額(収入月額)対象
本来階層15万8,000円一般の世帯
裁量階層25万9,000円高齢者・障害者・子育て世帯など、条例で居住の安定を特に図る必要があると定めた世帯

子育て世帯を裁量階層に含めるかどうか、その子の年齢要件は事業主体の条例で決まります。住んでいる自治体の募集案内で確かめてください。

売上別:法人化すると収入月額は半分程度になる

判定ツールと同じ計算エンジンで、個人のままの事業所得と、法人化して手取りが最大になる役員報酬の給与所得から、収入月額を計算しました。

売上(経費は売上の3割)個人の事業所得収入月額判定法人化後の役員報酬給与所得収入月額判定
400万円2,150,000円84,166円本来階層内月20万円1,600,000円30,000円本来階層内
500万円2,850,000円142,500円本来階層内月24万円1,936,000円58,000円本来階層内
600万円3,550,000円200,833円裁量階層内月30万円2,440,000円100,000円本来階層内
700万円4,250,000円259,166円基準超月34万円2,824,000円132,000円本来階層内
800万円4,950,000円317,500円基準超月39万円3,304,000円172,000円裁量階層内
1000万円6,350,000円434,166円基準超月48万円4,168,000円244,000円裁量階層内

前提:夫婦と子2人(いずれも16歳未満)の4人世帯、配偶者は無収入。横浜市・40歳未満・青色申告65万円(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社。個人の事業所得は青色申告特別控除後。「判定」は政令の基準額との比較。

差が大きいのは、控除の構造が2重に違うからです。役員報酬には給与所得控除がかかり、さらに施行令の10万円も引けます。そして最適報酬は売上の全額ではなく、一部は会社に残るため、そもそも個人の所得に入る額が小さくなります。

会社に残した利益は「所得金額」に入らない

施行令の所得金額は、所得税法の例で計算した入居者と同居者の所得です。一人社長の場合、会社に残した利益や法人の預金は個人の所得ではないので入りません。

ただし施行令は、就職後1年を経過しない給与所得者など、その額を継続的な収入とするのが著しく不適当な場合は、事業主体が認定した額を使うとしています。法人化した直後の年は、個人事業の期間と役員報酬の期間が混ざるため、どう認定されるかは事業主体に確認が必要です。

役員報酬別:月35万円までが本来階層

売上700万円・経費210万円の4人世帯で、役員報酬を動かしたときです。

役員報酬(月)給与所得収入月額判定
月20万円1,600,000円30,000円本来階層内
月25万円2,020,000円65,000円本来階層内
月30万円2,440,000円100,000円本来階層内
月35万円2,920,000円140,000円本来階層内
月40万円3,400,000円180,000円裁量階層内
月45万円3,880,000円220,000円裁量階層内
月50万円4,360,000円260,000円基準超

前提は上の表と同じ。収入月額は役員報酬だけで決まり、売上や会社の利益には左右されない。

4人世帯の場合、本来階層に収まるのは月35万円まで、裁量階層は月45万円までです。

所得の定義が給与所得に替わることで区分が動く点は、児童扶養手当や保育料とも共通しています。子育て関係の制度の一覧は児童手当は法人化しても変わらないにまとめました。

入居中の人:3年で収入超過、5年で明渡し請求の対象

公営住宅に住みながら事業が伸びた人に関わるのが、入居後の扱いです。

状況扱い根拠
引き続き3年以上入居し、基準を超える収入がある明け渡しの努力義務。家賃は収入に応じて近傍同種の住宅の家賃以下で定める額に上がる公営住宅法28条
引き続き5年以上入居し、最近2年間続けて収入月額31万3,000円を超える事業主体は期限を定めて明渡しを請求できる公営住宅法29条・施行令9条

収入月額は毎年度の収入の申告で判定されます。売上1,000万円の4人世帯なら、個人事業主の収入月額43.4万円は高額所得者の31万3,000円を超えますが、最適報酬で法人化した場合は24.4万円です。

ただ、公営住宅は住宅に困窮する低額所得者のための住宅です。収入月額が基準に収まることと、その世帯が住宅に困窮しているかどうかは別の判断で、入居の選考でも困窮の実情が考慮されます。法人化を公営住宅の基準のために行うものではなく、事業の条件から判断した結果として収入月額がどうなるかを知っておく、という位置づけで読んでください。

まとめ

  • 公営住宅の収入月額は、所得金額から同居親族1人38万円などを引いて12で割った額。給与所得者は1人10万円をさらに引ける
  • 個人事業主は事業所得、一人社長は役員報酬の給与所得がもとになり、会社に残した利益は入らない
  • 4人世帯・売上700万円なら、個人の収入月額25.9万円に対し、最適報酬での法人化後は13.2万円
  • 入居中は3年以上で収入超過(努力義務・割増家賃)、5年以上で2年続けて31万3,000円超なら明渡し請求の対象

基準額は事業主体の条例で決まるので、最終的には住んでいる自治体の案内で確認が必要です。法人化するかどうかは、まず判定ツールで自分の売上と経費での税金・社会保険料の差を確かめてください。

よくある質問

公営住宅の「収入」は年収のことですか?

違います。公営住宅法施行令の「収入」は、世帯の所得金額の合計から同居親族1人38万円などの控除を引き、12で割った月額です。給与なら給与所得控除後、事業なら必要経費と青色申告特別控除を引いた後の所得がもとになります。

法人化すると、会社の利益も収入に含まれますか?

施行令の所得金額は所得税法の例で計算した個人の所得なので、一人社長の場合は役員報酬の給与所得が入り、会社に残した利益は入りません。ただし就職後1年未満の給与などで継続的な収入とするのが著しく不適当な場合は、事業主体が認定した額を使うとされています。

入居中に収入が基準を超えたら、すぐに退去ですか?

すぐではありません。引き続き3年以上入居して基準を超えると明け渡しの努力義務と収入に応じた家賃になり、5年以上入居して最近2年間続けて31万3,000円を超えると、事業主体が期限を定めて明渡しを請求できます。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。