税金の基礎
就学援助の所得基準は、法人化で事業所得から役員報酬の給与所得へ
結論
横浜市の4人世帯の所得基準額は349万円で、個人事業主は事業所得、法人化後は役員報酬の給与所得から最大10万円を引いた額で審査されます。売上700万円・経費200万円なら個人のままでは基準を超えますが、判定ツールが出す最適報酬の月34万円では基準内に入ります(当サイト試算)。
- 令和8年度の4人世帯の所得基準額は、横浜市が349万円、大阪市が325万円。どちらも令和7年分の所得で審査する
- 法人に残した利益は世帯の所得に入らない。審査対象の所得は役員報酬の額だけで決まる
- 社会保険料控除や小規模企業共済等掛金控除は審査で引けない。所得控除の前の「所得」で見るため
就学援助の審査では、市区町村が世帯の前年の「所得」を基準額と比べます。個人事業主ならその所得は事業所得です。法人化すると、役員報酬の給与所得に置き換わります。 会社に残した利益は、世帯の所得に入りません。
同じ事業の利益でも、審査に乗る額は所得の種類で変わります。横浜市と大阪市の令和8年度の基準で計算しました。
就学援助の基準は市区町村ごとに違う
就学援助は、学校教育法19条に基づく制度です。経済的な理由で就学が難しい小・中学生の保護者に、市町村が学用品費や修学旅行費などを援助します。文部科学省によれば、対象は生活保護を受けている「要保護者」と、それに準じて困窮していると市町村教育委員会が認める「準要保護者」の2つです。準要保護者の認定基準は市町村が定めるため、全国共通の線はありません。
そこでこの記事では、所得の定義と基準額を公式のお知らせで確認できた横浜市と大阪市を使います。
| 項目 | 横浜市 | 大阪市 |
|---|---|---|
| 判定に使う所得 | 総所得金額等から分離所得を除いたもの | 合計所得金額 |
| 審査する年 | 令和7年分(令和8年度) | 令和7年中(令和8年度) |
| 給与所得がある人 | 1人につき所得から最大10万円を引く(公的年金等所得も同じ) | 所得から最大10万円を引く(公的年金所得者も同じ) |
| 事業所得 | 確定申告書の「所得金額等の合計」欄 | 収入から必要経費を引いた金額 |
| 所得を確認する世帯員 | 前年度時点で18歳以上の世帯員 | 令和8年4月1日現在で18歳以上の世帯員 |
令和8年度の所得基準額は次のとおりです。大阪市は令和8年度から、持家と借家等で分けていた基準を1本にしました。
| 世帯員数 | 横浜市 | 大阪市 |
|---|---|---|
| 2人 | 256万円 | 229万円 |
| 3人 | 312万円 | 268万円 |
| 4人 | 349万円 | 325万円 |
| 5人 | 403万円 | 362万円 |
| 6人 | 444万円 | 408万円 |
| 7人 | 502万円 | 478万円 |
ここで比べる「所得」は、所得控除を引く前の額です。基礎控除や配偶者控除、社会保険料控除は引きません。この点で、住民税の所得割額で決まる保育料や高校生等奨学給付金とは物差しが違います。
東京23区の例として世田谷区も見ました。世田谷区は16歳以上の世帯全員の合計所得金額で判定します。4人世帯の基準額は「約418万円(給与収入で約590万円)」と、めやすの形で公表されています。区は、実際の基準額は世帯員の年齢などで異なるとしているので、この記事の計算には使いません。
個人事業は事業所得、法人化後は給与所得から10万円を引く
審査に乗る額の作り方は、所得の種類で次のように分かれます。
- 個人事業主:売上 − 経費 − 青色申告特別控除 = 事業所得。10万円を引く扱いはない
- 法人化後の役員:役員報酬 − 給与所得控除 = 給与所得。ここから最大10万円を引く
- 法人に残った利益:個人の所得ではないので、世帯の所得に入らない
夫婦と子2人(小学生・中学生)の4人世帯で、配偶者に所得がない場合に、基準額に収まる上限を出しました。
| 市 | 所得基準額 | 個人事業:売上−経費の上限 | 法人化:役員報酬の上限 | そのときの給与所得 | 審査対象所得 |
|---|---|---|---|---|---|
| 横浜市 | 349万円 | 414万円 | 月41万円(年492万円) | 349.6万円 | 339.6万円 |
| 大阪市 | 325万円 | 390万円 | 月39万円(年468万円) | 330.4万円 | 320.4万円 |
※ 個人事業は青色申告特別控除65万円を引いた事業所得で審査。法人化後は給与所得から最大10万円を引いて審査 ※ 夫婦+子2人(小学生・中学生)の4人世帯・配偶者は無収入・40〜64歳・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準・所得基準額は令和8年度
横浜市の場合、個人事業主なら売上−経費が414万円までが基準内です。法人化した場合は、役員報酬が年492万円まで基準内に収まります。給与所得控除が年142万4,000円あり、さらに10万円を引けるためです。
法人化後は、事業がいくら稼いでも審査対象の所得は役員報酬の額だけで決まります。 個人事業では利益がそのまま所得になるのと対照的です。
令和8年度の審査は令和7年分の所得で行います。表の給与所得控除は2026年(令和8年)分の額で計算していますが、令和7年分と違うのは給与収入190万円以下の最低保障額の帯だけです。表の範囲では同じ額になります。
判定ツールの最適報酬のままで基準内に入る帯がある
では、報酬額を就学援助に合わせて決めなくても、審査の結果は変わるのでしょうか。当サイトの判定ツールは、役員報酬を月5万円から100万円まで1万円刻みで計算し、手取りが最大になる額を探します。その最適報酬で、審査対象の所得を出しました。
横浜市・4人世帯(所得基準額349万円)・経費200万円
| 売上 | 個人のまま:審査対象所得 | 判定 | 判定ツールの最適報酬 | 法人化:審査対象所得 | 判定 | 実質差額(2年目以降) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 500万円 | 235.0万円 | 基準内 | 月20万円 | 150.0万円 | 基準内 | −11.5万円 |
| 600万円 | 335.0万円 | 基準内 | 月28万円 | 217.2万円 | 基準内 | −11.7万円 |
| 700万円 | 435.0万円 | 超過 | 月34万円 | 272.4万円 | 基準内 | −14.2万円 |
| 800万円 | 535.0万円 | 超過 | 月42万円 | 349.2万円 | 超過 | −7.4万円 |
| 900万円 | 635.0万円 | 超過 | 月48万円 | 406.8万円 | 超過 | −2.1万円 |
| 1,000万円 | 735.0万円 | 超過 | 月48万円 | 406.8万円 | 超過 | +0.3万円 |
| 1,200万円 | 935.0万円 | 超過 | 月48万円 | 406.8万円 | 超過 | +2.4万円 |
| 1,500万円 | 1235.0万円 | 超過 | 月54万円 | 464.4万円 | 超過 | +24.5万円 |
※ 実質差額は就学援助を含まない(税理士報酬の差を差し引いた後) ※ 夫婦+子2人(小学生・中学生)の4人世帯・配偶者は無収入・40〜64歳・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準・所得基準額は令和8年度
売上700万円では、個人のままの事業所得435万円が基準を86万円超えます。ところが最適報酬の月34万円では、審査対象の所得は272.4万円です。手取りを最大にする報酬を選んだだけで、審査の判定が「超過」から「基準内」に替わります。 事業利益500万円のうち、報酬と社会保険料の会社負担を払った残りが法人にとどまるからです。
売上を10万円刻みで動かし、この入れ替わりが起きる帯を探しました。
4人世帯・経費200万円・売上を10万円刻みで計算
| 市 | 所得基準額 | 個人のままで基準内(売上−経費) | 最適報酬で基準内(売上−経費) | 個人は超過・法人化は基準内の帯 | その帯の最適報酬 | その帯の実質差額(就学援助を含まない) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 横浜市 | 349万円 | 410万円まで | 580万円まで | 420万円〜580万円 | 月30万〜39万円 | −15.0万円〜−7.8万円 |
| 大阪市 | 325万円 | 390万円まで | 580万円まで | 400万円〜580万円 | 月28万〜39万円 | −9.4万円〜−2.1万円 |
※ 夫婦+子2人(小学生・中学生)の4人世帯・配偶者は無収入・40〜64歳・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準・所得基準額は令和8年度
両市とも、売上−経費がおよそ400万〜580万円の帯で入れ替わりが起きます。上の端がどちらも580万円なのは、最適報酬が月39万円から月42万円へ一段上がる位置が同じだからです。
ただし、この帯の実質差額は就学援助を含めない段階でマイナスです。横浜市で年7.8万〜15.0万円、大阪市で年2.1万〜9.4万円、個人のままのほうが手取りは多くなります。
報酬を上げると基準を超える位置はどこか
事業利益を固定して、役員報酬だけを動かすとどうなるか。売上900万円・経費200万円で計算しました。
横浜市・4人世帯(所得基準額349万円)・売上900万円・経費200万円 個人のまま:事業所得635.0万円(超過)/手取り455.2万円
| 役員報酬 | 給与所得 | 審査対象所得 | 判定 | 手取り合計 | 実質差額(2年目以降) |
|---|---|---|---|---|---|
| 月25万円 | 202.0万円 | 192.0万円 | 基準内 | 460.0万円 | −15.2万円 |
| 月30万円 | 244.0万円 | 234.0万円 | 基準内 | 465.1万円 | −10.0万円 |
| 月35万円 | 292.0万円 | 282.0万円 | 基準内 | 464.0万円 | −11.2万円 |
| 月40万円 | 340.0万円 | 330.0万円 | 基準内 | 465.5万円 | −9.7万円 |
| 月41万円 | 349.6万円 | 339.6万円 | 基準内 | 468.5万円 | −6.7万円 |
| 月42万円 | 359.2万円 | 349.2万円 | 超過 | 471.3万円 | −3.9万円 |
| 月45万円 | 388.0万円 | 378.0万円 | 超過 | 472.2万円 | −3.0万円 |
| 月48万円 ←最適 | 416.8万円 | 406.8万円 | 超過 | 473.1万円 | −2.1万円 |
| 月50万円 | 436.0万円 | 426.0万円 | 超過 | 470.3万円 | −4.9万円 |
※ 実質差額は就学援助を含まない。手取り合計は法人に残る額(引出コスト20%控除後)を含む ※ 夫婦+子2人(小学生・中学生)の4人世帯・配偶者は無収入・40〜64歳・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準・所得基準額は令和8年度
横浜市の境目は月41万円と月42万円の間です。月42万円では審査対象の所得が349.2万円になり、基準額の349万円を2,000円だけ上回ります。大阪市の同じ条件の境目は、月39万円と月40万円の間でした。
手取り合計は月41万円が468.5万円、最適の月48万円が473.1万円で、差は4.6万円です。表の手取り合計は法人に残る利益の価値を含みます。役員個人が現金で受け取る額は報酬が低いほど少なくなり、そのぶん法人に残ります。
役員報酬は、職務の内容や会社の収益の状況に照らして決めるものです。また、事業年度の途中で増減すると、損金にならない部分が出ます。審査の基準に合わせて年の途中で動かせる額ではありません。
援助の額は、手取りの差と同じ桁
横浜市の令和8年度の支給予定額(年額)のうち、定額で決まっている主な費目は次のとおりです。
| 学年 | 入学準備費 | 学用品費等 |
|---|---|---|
| 小学校1年 | 91,600円(入学前に受給していない場合) | 16,680円 |
| 小学校2〜6年 | ― | 18,950円 |
| 中学校1年 | 101,000円(小学校6年で受給していない場合) | 34,850円 |
| 中学校2・3年 | ― | 37,120円 |
小学校2年と中学校2年のきょうだいなら、学用品費等だけで年5万6,070円です。ほかに修学旅行費や宿泊を伴う校外活動費などが、限度額の範囲内の実費で出ます。中学校の給食費は認定後に無償になります。一方、小学校の給食費は令和8年度は全員が実質無償化されるため、就学援助で上乗せになる費目ではありません。
大阪市の入学準備補助金は、新1年生で64,300円、中学校の新1年生で81,000円です(令和7年度の実績)。
援助の額は、子1人あたり年数万円から十数万円の桁です。上の表の実質差額(年2万〜15万円)と同じ桁なので、どちらが有利かは家族の学年構成で入れ替わります。判定ツールの手取りに、就学援助は入っていません。 計算の前提を確認したうえで、援助の額は別に足し引きしてください。
審査で引けるもの・法人化で使えなくなる経路
所得控除はほぼ引けない
所得控除の前の「所得」で比べるので、社会保険料控除は効きません。法人化して厚生年金と健康保険の保険料が増えても、審査対象の所得は下がりません。小規模企業共済やiDeCoの掛金も同じです。両市の控除の一覧にこれらは入っていません。
この点は児童扶養手当と違います。児童扶養手当の所得額では、小規模企業共済等掛金控除を控除相当額のまま引けます。
両市が引く扱いを設けているのは、医療費控除の額です。横浜市はさらに、ひとり親世帯に35万円、障害者のいる世帯や個別支援学級に在籍する子のいる世帯に35万円などの控除を設けています。
配偶者にも所得がある場合
世帯全員の所得の合計で審査するので、配偶者の所得も足されます。横浜市は、主たる所得者以外の所得者1人につき最大35万円を引きます。配偶者が給与所得者なら、その人の10万円の控除も別に付きます。個人事業の青色事業専従者給与も、法人の役員報酬も、受け取る配偶者にとっては給与所得です。
大阪市には、税法上の控除対象配偶者や扶養親族が「所得の申告」をしていないと、所得を一律38万円とみなす扱いがあります。所得が0円の配偶者も、申告していなければ38万円として足されます。
大阪市の申請理由のうち、個人事業主に固有のもの
大阪市は、所得審査とは別に、国民年金保険料や国民健康保険料の減免を受けた人も申請できるとしています(保護者全員が減免を受けていることが条件)。個人事業税の減免も申請理由です。
法人化して役員が厚生年金と健康保険に入ると、所得のない配偶者は第3号被保険者・被扶養者になります。国民年金や国保の減免という経路はなくなり、所得審査の1本になります。
まとめ
- 就学援助の準要保護の基準は市区町村ごと。令和8年度の4人世帯は横浜市が349万円、大阪市が325万円で、どちらも令和7年分の所得で審査する
- 個人事業主は事業所得で、法人化後は役員報酬の給与所得から最大10万円を引いた額で審査される。法人に残した利益は入らない
- 4人世帯・経費200万円なら、売上−経費がおよそ400万〜580万円の帯で、判定ツールの最適報酬のままで「超過」から「基準内」に替わる
- その帯の実質差額は就学援助を含めない段階でマイナス(横浜市で年7.8万〜15.0万円)で、援助の額と同じ桁
- 社会保険料控除や小規模企業共済の掛金は審査で引けない。児童扶養手当とは扱いが違う
お住まいの市区町村の基準額と所得の定義を確かめたうえで、一般論の数字ではなく、自分の売上と経費で手取りの差を出して比べてください。
よくある質問
就学援助の所得基準は全国共通ですか?
共通ではありません。生活保護を受けている世帯(要保護者)以外の認定基準は、各市区町村が定めます。基準額だけでなく、判定に使う所得の定義や、給与所得から10万円を引くかどうかも市区町村で異なります。
法人化した年から就学援助の審査結果は変わりますか?
変わるのは翌年度からです。横浜市・大阪市の令和8年度の審査は、令和7年分の所得で行います。年の途中で法人化した場合、その年の所得には法人化前の事業所得と法人化後の給与所得の両方が入ります。
配偶者に役員報酬や専従者給与を払うと、審査はどうなりますか?
世帯全員の所得の合計で審査するため、配偶者の所得も合算されます。横浜市は、主たる所得者以外の所得者1人につき最大35万円を所得から引く扱いを設けています。大阪市は給与所得から最大10万円を引く扱いです。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。