設立の手続き

熱中症対策の義務化(2025年6月)は一人会社にも関係する?

結論

2025年6月1日施行の労働安全衛生規則612条の2により、WBGT28度以上または気温31度以上の場所で連続1時間以上か1日4時間超の作業を行う事業者は、熱中症の報告体制と悪化防止の手順を作り、作業者に周知する義務を負います。義務を負う「事業者」は労働者を使用する者なので、社長1人だけの会社には直接は及びませんが、従業員を1人でも雇えば規模に関係なく対象になります。

  • 2026年10月4日時点の段階は「施行済み」。612条の2自体の追加改正は、確認した厚労省資料には見当たらない
  • 違反は労働安全衛生法22条違反として119条の罰則(6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)の対象で、122条により会社にも罰金刑
  • 周知の対象は労働者だけでなく、同じ場所で作業する一人親方などの労働者以外の者も含む。一方、社長本人の熱中症は自分で備える領域

「熱中症対策が義務化された」と聞いても、社長1人の会社が何をすべきかは分かりにくいところです。義務の中身は空調や休憩所の設置ではなく、「具合が悪くなった人を早く見つけ、悪化させない段取り」を事前に決めて伝えることです。この記事では、厚生労働省の省令と施行通達を読み、義務の範囲、一人会社が対象に入る時点、2026年に何が変わったかを整理します。

2026年10月時点の段階は「施行済み」

制度改正の段階を、厚生労働省の公表資料で確認した結果です。

段階内容確認した資料
公布労働安全衛生規則の改正省令(令和7年厚生労働省令第57号)を2025年4月15日に公布改正省令
施行通達対象作業の具体的な線、周知の方法などを示す(基発0520第6号)2025年5月20日付け通達
施行2025年6月1日改正省令附則
ガイドライン「職場における熱中症防止のためのガイドライン」を2026年3月に策定令和8年クールワークキャンペーン実施要綱

2026年は、612条の2の条文自体は変わっていません。当サイトが確認した厚生労働省の資料には、同条の追加改正は見当たりませんでした。2026年3月に定められたのはガイドラインです。ガイドラインは、WBGT値の把握や作業時間の短縮などを「望ましい」対策として示しています。そのうえで、安衛則に定められた措置は「実施しなければならない」と書き分けています。法的な義務は2025年6月の612条の2のまま、その周りの推奨が厚くなった段階です。

なぜこの時期に省令で義務にしたのか。施行通達は、熱中症による死亡災害の多くが「初期症状の放置、対応の遅れ」によるものだと説明しています。そのため、予防設備ではなく早期発見と重篤化防止の段取りを義務にしました。

義務になったのは「報告体制」と「悪化防止の手順」の2つ

612条の2は2項に分かれています。どちらも、対象作業を行う前に(「あらかじめ」)整えておく義務です。

項事業者がすること周知する相手
1項熱中症の自覚症状がある人、または熱中症が疑われる人を見つけた人が、その旨を報告する体制を整える作業に従事する者
2項作業場ごとに、作業からの離脱、身体の冷却、必要に応じた医師の診察・処置など、悪化を防ぐ措置の内容と手順を定める作業に従事する者

施行通達によると、1項の「報告体制」には、報告を受ける責任者の連絡先と連絡方法を決めて明示し、作業中いつでも報告を受けられる状態にしておくことが含まれます。推奨される方法として、責任者の巡視、2人1組で互いの状態を確かめるバディ制、ウェアラブル機器、定期連絡が挙げられています。

2項の手順は、通達の別添に手順例が付いています。ただし、必ずしもその例どおりでなくてよく、作業場所と作業内容の実態に合わせて独自に定めてよいとされています。緊急連絡網や搬送先の医療機関の連絡先・所在地も、決めたなら手順に書いておくことが望ましいとされています。

周知の方法と記録

周知は、見やすい場所への掲示、メール、文書の配布、朝礼での口頭伝達のどれでもかまいません。ただし、口頭だけでは伝わったことが担保されない場合は組み合わせるよう求められています。

周知した記録の保存までは、法令では求められていません。 一方で通達は、労働基準監督署の確認に際して適切に対応することを求めています。掲示物の写真や送ったメールを残しておけば、説明に困りません。

対象作業の線:WBGT28度・気温31度と「1時間・4時間」

義務がかかるのは「熱中症を生ずるおそれのある作業」を行うときです。施行通達はこれを次のように定義しています。

  • 場所:WBGT(湿球黒球温度)が28度以上、または気温が31度以上
  • 時間:その場所で、継続して1時間以上、または1日あたり4時間を超えて行われることが見込まれる

場所は事業場の中に限りません。出張先、複数の場所を回る作業、作業場所から作業場所への移動中も含みます。非定常の作業や臨時の作業でも、条件を満たす見込みがあれば対象です。

判定は原則として作業場所での実測です。ただし通風のよい屋外作業なら、天気予報や環境省の熱中症予防情報サイトで判断してもよいとされています。

時間の条件を作業の組み方に当てはめる

時間の条件は「1時間以上」と「4時間を超えて」で、境目の扱いが違います。暑熱な場所にいる時間を、作業の組み方ごとに機械的に当てはめると次のとおりです(scripts/necchusho-taisaku-gimuka.mjs で判定)。

暑熱な場所での作業の組み方最長の連続1日合計対象作業か
屋外の現場で午前2時間・午後2時間120分240分該当
50分作業・涼しい休憩場所で10分休憩を4回50分200分該当しない(努力義務)
50分作業・涼しい休憩場所で10分休憩を5回50分250分該当
配送で車外30分を8回30分240分該当しない(努力義務)
配送で車外30分を9回30分270分該当

ちょうど4時間は「4時間を超えて」に当たりません。一方、1時間の連続は「以上」なので60分ちょうどで該当します。配送のように細切れの作業は、合計が4時間を超えた時点で入ります。

ただし、この表は時間の数え方を示すためのものです。休憩中の場所や移動時間をどう数えるかは現場の実態で変わります。通達は移動時も暑熱な場所に含むとしているため、車外と車内の境目で区切れるとは限りません。また通達は、対象作業に当たらなくても、作業強度や着衣によってはリスクが高まるため、省令に準じた対応に努めるよう求めています。夏に屋外で従業員を動かす会社なら、「該当しない」側にいても同じ段取りを用意しておくのが実務的です。

一人会社は、従業員を1人雇った時点で対象になる

612条の2の義務を負うのは「事業者」です。労働安全衛生法2条3号は、事業者を「事業を行う者で、労働者を使用するもの」と定義しています。

会社の状態612条の2の義務
社長1人だけ。従業員なし労働者を使用していないため、直接は及ばないと読める
パート・アルバイトを1人でも雇い、対象作業を行う規模に関係なく対象
スポットワークで短期の人を使う対象。ガイドラインは周知・雇入れ時教育の対象と明記
元請けとして下請けと同じ現場で作業する元方事業者・関係請負人のどちらにも義務

ストレスチェックの「50人」や就業規則の「10人」のような人数の線は、この義務にはありません。法人か個人事業かも問われません。法人化したから義務が生じるのではなく、従業員を雇って暑い場所で働かせるから生じます。

雇い入れ時の手続きとの関係にも注意が必要です。施行通達は、熱中症が疑われる人への応急措置が、雇入れ時の安全衛生教育で教えるべき「事故時等や異常時における措置」に含まれるとしています。従業員を初めて雇う会社は、雇い入れ時の健康診断と同じタイミングで、熱中症の報告先と手順を伝える段取りを組んでおくと漏れません。2028年4月から始まる50人未満のストレスチェックと違い、こちらはすでに施行済みです。

罰則

612条の2は、労働安全衛生法22条(健康障害を防止するための措置)に基づく規定だと施行通達は説明しています。22条に違反すると、同法119条により6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の対象です。さらに122条の両罰規定により、従業員が業務に関して違反した場合は、行為者のほか法人にも罰金刑が科されます。

社長本人と一人親方は「周知の対象」と「保護の外」に分かれる

この義務の特徴は、周知の相手が労働者に限られないことです。施行通達は「当該作業に従事する者」について、労働者だけでなく、労働者と同じ場所で作業に従事する労働者以外の者を含むとしています。

立場612条の2での扱い
自社の従業員報告体制と手順の周知対象
同じ現場で作業する一人親方・フリーランス労働者と同じ場所で作業していれば周知対象
社長本人(従業員と同じ現場で作業)作業に従事する者として周知の輪に入る。ただし社長は事業者側で、体制を作る責任者でもある
社長本人(1人だけで現場に出る)義務の外。ガイドラインは「自ら」連絡先や手順を決めて取り組むことを求める
労働者と異なる場所で1人で働く個人事業者同上。#7119などの連絡先を自分で決めておく

社長1人で現場に出る働き方は、法令の義務からも、通常の労災保険からも外れています。代表取締役は労働者ではないため、熱中症で倒れても労災保険の給付は当然には受けられません。仕事中の事故に備える手段は特別加入で、どの枠に入れるかは従業員の有無と業種で変わります(一人社長は労災に入れる?特別加入できないケース)。

従業員を雇うと、この関係が逆転します。従業員は612条の2と労災保険で守られる一方、社長は守る側の責任者になります。そのうえで、社長自身は保護の外に残ります。

2025年の死傷者は1,803人。速報値より122人多い

厚生労働省の確定値(労働者死傷病報告ベース)を、業種別に再集計しました。元データは data/official/necchusho-shishou-2025/ に保存し、表は scripts/necchusho-taisaku-gimuka.mjs で再生成しています。

業種2024年 死傷者2025年 死傷者増加率2025年の構成比2025年 死亡
建設業228人292人+28.1%16.2%5人
製造業235人365人+55.3%20.2%2人
運送業186人220人+18.3%12.2%1人
警備業142人199人+40.1%11.0%3人
商業116人237人+104.3%13.1%2人
清掃・と畜業76人121人+59.2%6.7%1人
農業32人34人+6.3%1.9%2人
林業10人9人-10.0%0.5%0人
その他232人326人+40.5%18.1%3人
計1,257人1,803人+43.4%100.0%19人

注:死傷者は死亡と休業4日以上の合計。各年1月1日〜12月31日発生分のうち、翌年おおむね4月7日までに報告されたもの。

表から読み取れる点が2つあります。

1つ目は、商業が1年で2倍(+104.3%)になったことです。建設業・製造業以外の業種でも、熱中症は無関係ではありません。店舗の搬入、倉庫作業、屋外での販売など、小規模な会社が従業員に任せがちな作業が含まれる業種です。

2つ目は、速報値と確定値の差です。2026年3月のキャンペーン実施要綱が示した2025年の速報値は死傷者1,681人・死亡15人でした。確定値は1,803人・19人で、死傷者は122人、死亡は4人増えています。施行初年の2025年の実態は、速報段階の数字より重かったことになります。

なお、この統計は労働者死傷病報告に基づく労働者の数字です。社長本人や一人親方の熱中症は、この表の外にあります。

従業員を雇う前に、費用と段取りを並べておく

612条の2の対応そのものは、連絡先を決めて掲示し、手順を書いて伝えることなので、大きな費用はかかりません。費用が出るのは、ガイドラインが推奨するWBGT指数計、休憩場所の冷房、作業時間の短縮による人件費の増加などです。これらは法人でも個人事業でも経費になるため、法人化の損益を大きく動かす要素ではありません。

法人化の判断に効くのは、むしろ従業員を雇うことに伴う社会保険料や労働保険料です。夏場の作業を人に任せる前提で事業を広げるなら、人件費込みの経費で個人と法人の差がどう変わるかを、ご自身の売上と経費で確かめてください。

まとめ

  • 2025年6月1日施行の安衛則612条の2で、熱中症の報告体制と悪化防止の手順の作成・周知が事業者の義務になった。2026年は条文の改正ではなく、ガイドラインの策定にとどまる
  • 対象作業は、WBGT28度以上または気温31度以上の場所で、連続1時間以上または1日4時間超が見込まれる作業。ちょうど4時間は「超え」に当たらない
  • 義務を負うのは労働者を使用する事業者。社長1人の会社には直接及ばないと読めるが、従業員を1人雇えば人数に関係なく対象になる
  • 違反は安衛法22条違反として119条の罰則(6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)、122条で法人にも罰金刑
  • 同じ場所で働く一人親方も周知の対象に入る一方、1人で現場に出る社長本人は法令と労災の保護の外に残る

よくある質問

従業員のいない一人会社にも熱中症対策の義務はありますか?

612条の2の義務を負う「事業者」は、労働安全衛生法で「事業を行う者で、労働者を使用するもの」と定義されています。社長1人だけの会社には直接は及ばないと読めますが、従業員を1人でも雇い、対象作業を行えば義務が生じます。

対象になる「熱中症を生ずるおそれのある作業」とは何ですか?

厚生労働省の施行通達では、WBGT28度以上または気温31度以上の場所で、継続して1時間以上または1日4時間を超えて行われることが見込まれる作業とされています。出張先や作業場所間の移動も含みます。

違反すると罰則はありますか?

612条の2は労働安全衛生法22条に基づく措置義務で、22条違反は同法119条により6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の対象です。122条の両罰規定により、法人にも罰金刑が科され得ます。

対応したことの記録を残す必要はありますか?

施行通達は、周知した結果の記録の保存までは法令で求めていないとしています。ただし労働基準監督署の確認に適切に対応することが求められるため、掲示物や送ったメールは残しておくと説明しやすくなります。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。