設立の手続き

雇入時の健康診断は一人会社でも必要?週30時間のパートから対象

結論

労働安全衛生規則43条により、常時使用する労働者を雇い入れるときは11項目の健康診断が必要で、従業員1人の会社も対象です。常時使用する労働者とは、1年以上使用する予定で、週の所定労働時間が通常の労働者の4分の3以上の人を指し、週40時間の会社なら週30時間以上のパートが含まれます。費用は事業者負担で、社長や役員は労働者ではないため対象外です。

  • 雇入時の健康診断は、定期健康診断と違って医師の判断による項目の省略がない。代わりに、3か月以内に受けた健診の結果を本人が提出すれば、その項目は省略できる
  • 4分の3未満でも、おおむね2分の1以上(週40時間の会社なら週20時間以上)の人には実施が望ましいとされている
  • 健康診断個人票は5年保存。実施しないと労働安全衛生法120条で50万円以下の罰金の対象になる

一人社長が最初の1人を雇うとき、雇用契約書や社会保険の届出と並んで抜けやすいのが、雇い入れ時の健康診断です。従業員が1人でも、要件に当たれば実施は義務で、費用は会社が負担します。

一方で、社長自身の健康診断にはこの義務がありません。同じ「健康診断」でも、法律上の位置づけがまったく違います。

対象は「常時使用する労働者」。社長と役員は入らない

労働安全衛生法66条は、事業者に労働者の健康診断を行うよう義務づけています。その具体的な内容が労働安全衛生規則で、雇い入れ時は43条、毎年の定期健診は44条です。

43条の対象は「常時使用する労働者を雇い入れるとき」です。従業員数による免除はありません。従業員が1人なら、その1人が対象です。

社長や役員は、労働基準法の労働者に当たらないため対象外です(役員報酬に最低賃金は適用されるかと同じ理由です)。社長の健康診断や人間ドックの費用を会社が負担できるかは税務の論点で、一人社長の健康診断・人間ドックは経費になるかで扱っています。

パートは「1年以上の予定」かつ「4分の3以上」から

「常時使用する労働者」は、パートやアルバイトでも次の2つを満たせば該当します(石川労働局のFAQによる整理)。

  1. 1年以上使用される予定であること(深夜業などの特定業務に従事する人は6か月以上)
  2. 1週間の所定労働時間が、同種の業務に従事する通常の労働者の4分の3以上であること

さらに、4分の3未満でもおおむね2分の1以上の人には、健康診断の実施が望ましいとされています。

会社の通常の所定労働時間が週40時間の場合、境目は週30時間と週20時間です。同じ「週30時間」「週20時間」という数字は、社会保険や有給休暇でも別の意味で出てきます。初めて人を雇う一人会社が、勤務時間を決めるときに一度に見渡せるよう並べました。

週の所定労働時間(通常の労働者は週40時間)雇入時の健康診断健康保険・厚生年金(被保険者50人以下の会社)有給休暇の年5日取得義務
40時間義務(1年以上予定なら)加入雇入れ6か月後から
30時間義務(1年以上予定なら)加入雇入れ6か月後から
25時間(週4日)望ましい加入しない雇入れ3年6か月後から
20時間(週4日)望ましい加入しない雇入れ3年6か月後から
15時間(週3日)対象外加入しない雇入れ5年6か月後から

※ 健康診断は労働安全衛生規則43条と石川労働局FAQ、社会保険は日本年金機構の4分の3基準(1か月の所定労働日数も4分の3以上が条件)、有給休暇は労働基準法39条と同法施行規則24条の3による当サイトの整理。週4日・週3日は比例付与の区分、出勤率8割以上が前提

週30時間は、健康診断・社会保険・有給休暇の3つが同時に「フルタイムと同じ扱い」へ切り替わる境目です。週30時間未満に設計すると、健康診断は「望ましい」、社会保険は加入なし、有給休暇は比例付与になります。社会保険の4分の3基準の詳細は年収の壁は178万円へ、有給休暇の義務が始まる時期は年5日の有給取得義務で計算しています。

11項目は省略できない。代わりに3か月以内の健診結果で代替できる

雇入時の健康診断の項目は、規則43条に11項目が並んでいます。

区分項目
問診・診察既往歴・業務歴の調査、自覚症状・他覚症状の有無
計測身長、体重、腹囲、視力、聴力(1,000Hz・4,000Hz)
画像胸部エックス線検査
血圧血圧の測定
血液貧血検査(血色素量・赤血球数)、肝機能検査(GOT・GPT・γ-GTP)、血中脂質検査(LDL・HDL・中性脂肪)、血糖検査
尿尿中の糖・蛋白の有無
心電図心電図検査

定期健康診断(44条)の項目もほぼ同じですが、扱いに違いがあります。

論点雇入時の健康診断(43条)定期健康診断(44条)
実施時期雇い入れの際1年以内ごとに1回
医師の判断による項目の省略なし身長、胸部エックス線、血液検査、心電図などで可能
他の健診結果での代替3か月以内に受けた健診の結果証明を提出すれば、相当する項目を省略雇入時健診などを受けた人は、その日から1年間は相当する項目を省略可
労基署への結果報告不要常時50人以上の事業者のみ

雇入時の健康診断には、医師の判断で項目を省略する規定がありません。 年齢が若いから心電図を省く、といった扱いは定期健診にしかない仕組みです。代わりに、本人が前職や市町村の健診を受けてから3か月以内なら、その結果の書面を出してもらうことで重複を避けられます。

雇入時に健診を受けた人は、その日から1年間、定期健診で相当する項目を省略できます。最初の定期健診の時期を雇入時から1年後に合わせれば、1年目に2回受けさせる必要はありません。

費用は会社負担。個人票を5年保存する

健康診断の費用は事業者が負担します。石川労働局のFAQは、雇入時・定期・特定業務従事者の健康診断のすべてについて事業者負担で行うよう示しています。

健康診断の結果は、本人に遅滞なく通知し、健康診断個人票を作って5年間保存します(規則51条・51条の4)。結果に異常所見があれば、医師の意見を聴いて個人票に記載します。雇入時健診ではこの意見聴取を健診の日から3か月以内に行います(規則51条の2)。

実施しなかった場合は、労働安全衛生法120条により50万円以下の罰金の対象です。労働基準法の帳簿の罰則(30万円以下の罰金)より上限が高くなっています。労働基準法側の帳簿の保存期間は法定三帳簿は一人会社に必要かにまとめています。

人件費の見積もりに入れておく

健康診断の費用は、給与や社会保険料に比べれば小さい金額です。ただ、雇い入れのたびに発生し、その後も毎年の定期健診として続く固定費です。月給30万円の従業員を雇うと会社の年間支出が約415.2万円になる計算は一人社長が初めて従業員を雇う費用で示しましたが、そこに健診費用が上乗せされると考えてください。

当サイトの判定ツールは従業員のいない前提で計算しています。人を雇う予定があるなら、こうした付随費用も含めた人件費を経費に入れて、法人化の効果を確かめてください。

まとめ

  • 常時使用する労働者を雇い入れるときは、従業員1人の会社でも11項目の雇入時健康診断が必要。社長・役員は対象外
  • パートは、1年以上使用予定で週の所定労働時間が4分の3以上なら対象。2分の1以上なら実施が望ましい
  • 週40時間の会社では週30時間が、健康診断・社会保険・有給休暇の3つが同時に切り替わる境目になる
  • 雇入時健診は医師の判断による項目省略がない。3か月以内の健診結果の提出で代替でき、受けた日から1年間は定期健診の相当項目を省略できる
  • 費用は事業者負担。個人票は5年保存、実施しないと50万円以下の罰金の対象

よくある質問

入社前に本人が受けた健診の結果を使えますか?

医師による健康診断を受けてから3か月を経過しない人が、その結果を証明する書面を提出した場合は、相当する項目について雇入時の健康診断を省略できます。項目が足りない場合は、足りない項目だけを追加で受けてもらいます。

健康診断の結果を労働基準監督署に報告する必要はありますか?

定期健康診断の結果報告が必要なのは、常時50人以上の労働者を使用する事業者です。雇入時の健康診断には報告義務はありません。ただし健康診断個人票を作成し、5年間保存する必要があります。

再検査の費用も会社が負担しますか?

再検査や精密検査の費用負担は法令で定められておらず、労使の協議や就業規則で決める事項とされています。ただし一般健康診断の項目を確定させるための再検査は、健康診断の範囲内として事業者が負担することが望ましいとされています。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。