設立の手続き
固定残業代込み月給25万円は最低賃金割れ?東京は30時間分で1,266円
結論
最低賃金法施行規則1条により、所定労働時間を超える労働に払う賃金は最低賃金の計算から除かれるため、固定残業代を除いた基本給だけで最低賃金を満たす必要があります。月160時間勤務とすると、東京(1,280円)で月給25万円に30時間分の固定残業代を含めた場合、基本給は20万2,532円、時給1,266円となり最低賃金を下回ります。改定前の1,226円なら満たしていた組合せです。
- 東京で固定残業代を含めて最低賃金を満たすのに必要な月給は、固定残業20時間で23万6,800円、30時間で25万2,800円、45時間で27万6,800円(月160時間・当サイトの計算)
- 求人で固定残業代を使うなら、固定残業代を除いた基本給の額、固定残業時間と金額、超過分を追加で払う旨の3点を明示する(若者雇用促進法の指針)
- 固定残業時間を超えて働いた分は、別途割増賃金を払う。固定残業代は残業代の前払いであって、上限ではない
初めて人を雇うとき、「月給25万円(固定残業代込み)」のような求人を見て、同じ形で出そうと考える一人社長は多いはずです。この書き方には落とし穴が1つあります。固定残業代は最低賃金の計算に入らないことです。
令和8年度の最低賃金の改定で、東京ではこの「月給25万円・固定残業30時間」が最低賃金を下回る側に入りました。
固定残業代を除いた基本給で、最低賃金を満たす必要がある
最低賃金法施行規則1条2項は、最低賃金の計算に算入しない賃金として次の3つを挙げています。
- 所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金
- 所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金
- 午後10時から午前5時までの労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金を超える部分
固定残業代は、名称にかかわらず「一定時間分の時間外労働などに対して定額で支払われる割増賃金」です(厚生労働省)。つまり1つ目に当たり、最低賃金と比べる金額から外れます。
月給制の場合、最低賃金と比べる時給は、月給(算入しない賃金を除く)÷ 月の所定労働時間で出します(同規則2条)。月によって所定労働時間が違うなら、1年間の1か月平均で割ります。固定残業代込みの月給を所定労働時間で割ると、時給を過大に見積もることになります。
月給と固定残業時間の組合せで、最低賃金を満たすか
月の所定労働時間を160時間とし、固定残業代を「基本給の時給×1.25×固定残業時間」で設定した場合の、基本給とその時給です。
| 月給(固定残業代込み) | 固定残業20時間 | 固定残業30時間 | 固定残業45時間 |
|---|---|---|---|
| 22万円 | 基本給19万270円(1,189円)× | 17万8,228円(1,114円)× | 16万2,775円(1,017円)× |
| 25万円 | 21万6,216円(1,351円) | 20万2,532円(1,266円)× | 18万4,971円(1,156円)× |
| 28万円 | 24万2,162円(1,514円) | 22万6,835円(1,418円) | 20万7,168円(1,295円) |
| 30万円 | 25万9,459円(1,622円) | 24万3,038円(1,519円) | 22万1,965円(1,387円) |
※ 月160時間(1日8時間・年間休日125日を想定)とし、月給=基本給×(1+1.25×固定残業時間÷160)として基本給を逆算した当サイトの計算。括弧内は基本給の時給。×は東京の令和8年度最低賃金1,280円を下回るもの
月給25万円・固定残業30時間の基本給の時給は1,266円です。改定前の東京の最低賃金1,226円なら満たしていましたが、1,280円には14円足りません。令和8年10月1日の発効日以降に払う賃金から、この設計は最低賃金割れになります。
月給22万円は、固定残業20時間でも1,189円で、改定前から足りていませんでした。逆に月給28万円以上なら、45時間分を含めても東京の最低賃金を満たします。
同じ考え方で、固定残業代込みで最低賃金を満たすために必要な月給の下限を出すと次のとおりです。
| 地域(令和8年度の最低賃金) | 固定残業20時間 | 固定残業30時間 | 固定残業45時間 |
|---|---|---|---|
| 東京(1,280円) | 23万6,800円 | 25万2,800円 | 27万6,800円 |
| 全国加重平均(1,177円) | 21万7,745円 | 23万2,458円 | 25万4,527円 |
| 宮崎(1,085円) | 20万725円 | 21万4,288円 | 23万4,632円 |
※ 最低賃金×160時間×(1+1.25×固定残業時間÷160)を1円単位で切り上げた当サイトの計算。最低賃金は厚生労働省の公表値
所定労働時間が160時間より長い会社では、下限はさらに上がります。最低賃金の地域別の一覧と、役員にはこの下限がかからない理由は役員報酬に最低賃金は適用されるかにまとめています。
固定残業代は「上限」ではなく「前払い」
固定残業代について誤解されやすいのは、決めた時間を超えた分の扱いです。
労働基準法37条は、時間外労働に対して割増賃金を払うよう定めています。固定残業代は、その割増賃金の一部を定額で前払いしているにすぎません。30時間分を固定残業代で払っていても、実際の残業が40時間なら、超えた10時間分は別に払う必要があります。
割増率は、時間外労働が月60時間以下の部分は25%、60時間を超える部分は50%です。中小企業も2023年4月1日から60時間超の部分は50%になっています。
逆に、残業が固定残業時間に届かなかった月でも、固定残業代は減らせません。「残業がなくても定額で払う」のが固定残業代の仕組みだからです。
一人会社で人を雇う場合、最初は業務量が読めないことが多いはずです。実際の残業がほとんど出ないなら、固定残業代を設けずに基本給を上げ、残業した分だけ払うほうが、人件費の総額は小さくなることもあります。
求人で固定残業代を書くなら、3点を明示する
若者雇用促進法に基づく指針は、固定残業代の仕組みを採用する場合、募集要項や求人票に次の3点をすべて明示するよう求めています。
- 固定残業代を除いた基本給の額
- 固定残業代に関する労働時間数と金額等の計算方法
- 固定残業時間を超える時間外労働、休日労働、深夜労働に対して割増賃金を追加で支払う旨
厚生労働省の記載例は、「基本給(××円)」「□□手当(時間外労働の有無にかかわらず、○時間分の時間外手当として△△円を支給)」「○時間を超える時間外労働分についての割増賃金は追加で支給」という形です。
このうち1番目の「固定残業代を除いた基本給」が、上の表で最低賃金と比べる金額です。求人票を書く段階で基本給を分けて書けば、最低賃金を満たしているかどうかもそこで確認できます。
雇う前に、人件費込みで法人化の判定をやり直す
固定残業代を含めた月給は、会社にとってはそのまま人件費です。月給25万円の従業員を雇えば給与だけで年300万円、これに会社負担の社会保険料と労働保険料が乗ります。月給30万円の場合に年間支出が約415.2万円になる計算は一人社長が初めて従業員を雇う費用で示しました。
当サイトの判定ツールは、従業員のいない前提で計算しています。人を雇う予定があるなら、その人件費を経費に含めたうえで、法人化した場合と個人のままの場合を自分の数字で比べてください。
まとめ
- 固定残業代は、所定労働時間を超える労働に対する賃金として最低賃金の計算から除かれる(最低賃金法施行規則1条)
- 月160時間勤務の場合、東京で月給25万円・固定残業30時間の基本給の時給は1,266円で、令和8年度の最低賃金1,280円を下回る。改定前の1,226円なら満たしていた
- 東京で固定残業代込みでも最低賃金を満たすには、20時間分なら月給23万6,800円、30時間分なら25万2,800円、45時間分なら27万6,800円以上が必要
- 固定残業時間を超えた分は別に払う。残業が少ない月でも固定残業代は減らせない
- 求人では、固定残業代を除いた基本給、固定残業時間と金額、超過分を追加で払う旨の3点を明示する
よくある質問
固定残業代を払っていれば、残業がなかった月に減額できますか?
固定残業代は、残業の有無にかかわらず一定時間分を定額で払う仕組みです。残業が少なかった月に減額する運用は、固定残業代の前提と合いません。減額したいなら、実際の残業時間に応じて払う通常の方式のほうが合っています。
社長の役員報酬にも固定残業代を設定すべきですか?
代表権や業務執行権を持つ役員は労働基準法の労働者ではなく、割増賃金の規定が適用されないため、固定残業代という考え方自体が当てはまりません。役員報酬は定期同額給与として毎月同額で払います。
最低賃金の改定で基本給が足りなくなったら、どう直せばよいですか?
月給の総額を変えずに固定残業時間を減らすか、総額を上げて基本給を引き上げるかのどちらかです。総額を変えずに固定残業時間を減らすと、超過分の残業代が発生しやすくなります。いずれも労働条件の変更になるため、本人への説明と書面の更新が必要です。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。