設立の手続き

法定三帳簿は一人会社に必要?従業員を雇った日から3年保存の起算日

結論

法定三帳簿(労働者名簿・賃金台帳・出勤簿等)は労働者について作る帳簿なので、社長1人や役員だけの会社には作成する対象がいません。従業員やアルバイトを1人でも雇った時点で3つとも必要になり、保存期間は労働基準法109条の5年に対し当分の間3年です。作成・保存を怠ると30万円以下の罰金の対象になります。

  • 労働者名簿は退職・死亡の日、賃金台帳と出勤簿は最後の記入日や最後の出勤日から3年。賃金の支払期日のほうが遅ければ支払期日から数える
  • 4月25日払いの会社で3月31日に退職した従業員なら、名簿は2032年3月31日、賃金台帳と出勤簿は2032年4月25日まで保存する計算になる
  • 同じ従業員の扶養控除等申告書は国税側で7年保存。労働法の3年で捨てると税務書類が足りなくなる

社長1人の会社では、法定三帳簿を気にする必要はありません。3つとも「労働者」について作る帳簿で、役員は労働基準法の労働者に当たらないからです。

問題は、アルバイトを1人雇った瞬間です。その日から3つとも作成義務が始まり、退職後も3年は捨てられません。税務の帳簿とは保存期間も起算日も違うので、同じ箱にまとめると数え間違えます。

法定三帳簿とは何か。対象は「労働者」だけ

労働基準法は、使用者に次の3つを作るよう求めています。まとめて「法定三帳簿」と呼ばれます。

帳簿根拠主な記載事項作成の単位
労働者名簿第107条氏名、生年月日、履歴、性別、住所、従事する業務の種類、雇入年月日、退職・死亡の年月日と理由労働者ごと(日日雇い入れられる者を除く)
賃金台帳第108条氏名、性別、賃金計算期間、労働日数、労働時間数、時間外・深夜・休日労働時間数、基本給・手当の種類と額、控除項目と額賃金支払の都度、遅滞なく記入
出勤簿等第108条・第109条関係出勤簿、タイムカード、始業・終業時刻の記録、残業命令書と報告書など様式は任意

※ 記載事項は沖縄労働局の資料の整理による

労働者名簿は「各労働者について」、賃金台帳は「賃金計算の基礎となる事項及び賃金の額」を記入するものです。いずれも労働者がいることが前提で、役員だけの会社には作成する対象がそもそもいません。

ただし、役員とされている人が実態として労働者に当たる場合は別です。代表権も業務執行権もない取締役が部長などとして働いている場合の線引きは、名ばかり役員は労働者かで整理しています。

様式は厚生労働省が様式第19号(労働者名簿)・第20号(賃金台帳・常用)・第21号(賃金台帳・日雇)として公開していますが、記載事項に漏れがなければ様式以外でも構いません。給与計算ソフトの出力で足ります。

保存期間は「5年、ただし当分の間3年」

労働基準法109条は、労働者名簿・賃金台帳と、雇入れ・解雇・災害補償・賃金その他労働関係に関する重要な書類を5年間保存するよう定めています。ところが附則143条で、当分の間は「3年間」と読み替えられています。

この形になったのは2020年4月の改正です。民法改正で一般の債権の消滅時効が5年にそろったのに合わせ、賃金請求権の消滅時効が2年から5年(当分の間3年)へ延び、記録の保存期間も3年から5年(当分の間3年)へ延びました。未払い賃金を請求できる期間と、それを立証する記録の保存期間をそろえるための改正です。

起算日は帳簿ごとに違います。

帳簿起算日
労働者名簿労働者の死亡・退職・解雇の日
賃金台帳最後の記入をした日
出勤簿等最後の出勤日

さらに2020年の改正で、賃金の支払期日が記録の完結の日より遅い場合は、支払期日を起算日とすることが明確にされました。賃金台帳や出勤簿のように賃金と結びつく記録が対象です。月末締め・翌月払いの会社では、ほぼ必ずこのケースに当たります。

退職した従業員の書類は、いつまで捨てられないか

具体的な日付に落とします。月末締め・翌月25日払いの会社で、2027年4月1日に雇ったアルバイトが2029年3月31日に退職した場合です。

書類起算日保存期間保存の終わり
労働者名簿2029年3月31日(退職日)3年2032年3月31日
賃金台帳2029年4月25日(3月分の支払期日)3年2032年4月25日
出勤簿・タイムカード2029年4月25日(支払期日が最後の出勤日より遅い)3年2032年4月25日
2029年分の扶養控除等申告書(税務)2030年1月11日(提出期限の属する年の翌年1月10日の翌日)7年2037年1月10日

※ 労働関係の起算日は労働基準法109条と厚生労働省の資料、税務書類は国税庁 No.2503 にもとづく当サイトの計算例

同じ人の書類でも、最後に捨ててよくなる日は5年近くずれます。賃金台帳は労働法上の書類、扶養控除等申告書は所得税法上の書類で、根拠法が違うからです。

税務側の帳簿はさらに長く、法人の帳簿書類は確定申告書の提出期限の翌日から7年、青色欠損金が生じた年度は10年です。詳しくは法人の帳簿保存は7年、赤字年度は10年にあります。給与の支払記録は法人税の帳簿の一部でもあるので、実務では人件費まわりも7年(欠損金の年は10年)でまとめて保存するほうが数え間違えません。

雇用保険の被保険者に関する書類は4年、労働保険の成立届や概算・確定保険料の申告関係は3年と、労働保険側にも別の期間があります。これも長いほうに合わせて保管すれば済みます。

作っていないと何が起きるか

労働基準法120条は、第106条から第109条までの規定に違反した者を30万円以下の罰金の対象としています。帳簿を作っていない、記入していない、保存していない、のいずれも含まれます。

罰則より実務で効くのは、残業代を争われたときです。未払い賃金の請求は3年さかのぼれますが、労働時間を記録した出勤簿がなければ、会社側は実際の労働時間を示す材料を持てません。保存期間と請求期間が同じ3年にそろえられているのはこのためで、帳簿は従業員を守るだけでなく、会社が自分の支払いを説明する証拠にもなります。

労働基準監督署の臨検で帳簿書類の提出を拒んだり、虚偽の記載をした帳簿を出したりした場合も、同じ条文で30万円以下の罰金の対象です。

一人会社が従業員を雇うときの順番

社長1人の会社が最初の1人を雇うときに、三帳簿で押さえることは次のとおりです。

  1. 雇入れの日に労働者名簿を作る(日雇いでなければ、短時間のアルバイトでも対象)
  2. 最初の給与を払うときから賃金台帳に記入する。時間外・深夜・休日の時間数も欄がある
  3. 勤怠はタイムカードや勤怠アプリで始業・終業時刻を残す
  4. 退職したら名簿に退職日と理由を書き、保存の起算日をメモしておく

三帳簿そのものの作成費用は、給与計算ソフトや勤怠アプリを使えばほぼ追加でかかりません。重いのは、帳簿の向こう側にある人件費と、会社が負担する社会保険料・労働保険料です。月給30万円の従業員を雇うと会社の年間支出が約415.2万円になる計算を一人社長が初めて従業員を雇う費用で示しました。家族を雇う場合の労災・雇用保険の扱いは家族従業員の労災・雇用保険にあります。

人を雇う段階まで来ているなら、その人件費を経費に入れたうえで、法人化の判定を自分の数字で確かめてください。

まとめ

  • 法定三帳簿(労働者名簿・賃金台帳・出勤簿等)は労働者について作るもので、役員だけの会社には作成対象がいない
  • 従業員やアルバイトを1人雇った日から3つとも必要。日日雇い入れられる者は労働者名簿の対象外だが、賃金台帳は要る
  • 保存期間は労働基準法109条の5年に対し、附則143条で当分の間3年。賃金の支払期日のほうが遅ければ支払期日から数える
  • 扶養控除等申告書は7年、法人の帳簿は7年(欠損金の年は10年)。人件費の記録は税務側の長い期間に合わせて保存すると数え間違えない
  • 作成・保存の違反は30万円以下の罰金。実務では残業代を争われたときの立証材料として効く

よくある質問

退職した従業員の賃金台帳は、退職日から3年で捨ててよいですか?

賃金台帳の起算日は最後の記入をした日で、賃金の支払期日のほうが遅ければ支払期日です。月末締め翌月払いなら、最後の給与の支払日から3年になります。ただし給与の記録は法人税の帳簿書類にも当たるため、税務上は7年(欠損金が生じた年度は10年)の保存が必要です。

日雇いのアルバイトにも労働者名簿は要りますか?

労働基準法107条は、日日雇い入れられる者を労働者名簿の対象から除いています。ただし賃金台帳は作る必要があり、厚生労働省は日雇労働者用の様式(様式第21号)を別に用意しています。

法定三帳簿は紙で保存しなければいけませんか?

法定の様式は記載すべき事項に漏れがなければ様式以外でも可とされており、給与計算ソフトや勤怠システムのデータで作成・保存することもできます。監督署の求めに応じて速やかに出力できる状態にしておくことが前提です。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。