法人化の判断
整骨院・鍼灸院の法人化は所得1,477万円から。事業税3%で234万円遅れる
結論
整骨院・鍼灸院の個人事業税は3%です(地方税法72条の49の17)。事業所得で見た法人化の損益分岐点は、40〜64歳・独身で1,477万円。5%の業種の1,243万円より234万円後ろです。配偶者がいると差は375万円に広がります。法人化しても受領委任は新規ではなく、開設者の変更として地方厚生局に申し出ます。
- あん摩・マッサージ・指圧・はり・きゅう・柔道整復その他の医業類似事業は、個人事業税の第3種のうち税率3%の区分(地方税法72条の2第10項5号)
- 40〜64歳・独身の事業所得1,400万〜1,800万円では、法人化との実質差額が年−6.2万〜+15.3万円の「ほぼ互角」の帯が続く
- 開設者が個人から法人に変わるときは、受領委任の取扱規程14により様式第4号で変更を申し出る。施術所を移転すると新規と同じ手続になる
整骨院・接骨院、鍼灸院、マッサージ院の法人化を、一般的な「所得800万円が目安」で考えると外れます。この業種は個人事業税の税率が3%と低く、個人のままの負担がもともと軽いからです。軽いぶん、法人化で得られる差は小さくなります。
以下、5%の業種と並べて損益分岐点の差を計算し、法人化の手続で整骨院・鍼灸院だけに発生する受領委任の変更申出を確認します。
柔道整復・はり・きゅうは個人事業税3%の区分
地方税法72条の2第10項は、第3種事業の5号に「あん摩、マツサージ又は指圧、はり、きゆう、柔道整復その他の医業に類する事業」を挙げています。72条の49の17第1項4号により、この5号(と7号の装蹄師業)の税率だけが3%です。同じ第3種でも、美容業やコンサルタント業は5%です。
計算の式はほかの業種と変わりません。
(事業所得 + 青色申告特別控除 − 事業主控除290万円)× 3%
青色申告特別控除は足し戻され、事業主控除290万円は個人事業税だけの控除です。業種ごとの区分と計算の仕組みは個人事業税がかからない業種がある。70業種の線引きと計算方法で整理しています。
視力障害のある施術者は、そもそも課税されない
同じ5号には、「両眼の視力を喪失した者その他これに類する政令で定める視力障害のある者が行うもの」を除くというかっこ書きがあります。この場合は法定業種に当たらず、**個人事業税は0%**です。下の表で「0%の場合」の列を付けたのは、この人たちの分岐点を示すためです。
分岐点は5%の業種より234万〜375万円後ろ
計算エンジンで、業種区分だけを変えて損益分岐点を出しました。損益分岐点は、税理士報酬の差と法人住民税の均等割まで差し引いた実質差額がプラスに転じる事業所得です。
| 条件 | 5%の業種 | 3%(あはき・柔道整復) | 差 | 0%の場合 |
|---|---|---|---|---|
| 40歳未満・独身 | 1,266万円 | 1,504万円 | 238万円 | 2,198万円 |
| 40〜64歳・独身 | 1,243万円 | 1,477万円 | 234万円 | 2,277万円 |
| 40歳未満・配偶者あり(無収入) | 1,016万円 | 1,268万円 | 252万円 | 1,902万円 |
| 40〜64歳・配偶者あり(無収入) | 865万円 | 1,240万円 | 375万円 | 1,933万円 |
※ 経費200万円・東京23区・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準
※ 事業所得は青色申告特別控除の前。当サイトの計算エンジン(scripts/seikotsuin-houjinka-jigyozei.mjs)で計算
独身なら、3%の区分は5%の区分より約235万円後ろです。この幅は年齢でほとんど変わりません。
目立つのは最下行です。40〜64歳で配偶者がいる場合、5%の業種は865万円まで下がるのに、3%の業種は1,240万円にとどまります。差は375万円に広がります。 原因は、この条件では所得が増えても実質差額がほとんど伸びない帯があることです。5%の業種の実質差額は、事業所得900万円で年+0.6万円、1,000万円で+3.0万円。3%の業種は同じ所得で−11.6万円、−11.2万円です。個人事業税の差は年10万円台でも、差額の線が横ばいのところでは、ゼロを越える所得が数百万円ずれます。
業種ごとの分岐点の全体像はライター・エンジニア・デザイナーで法人化の分岐点は921万円違うで比べています。
所得1,400万〜1,800万円は「ほぼ互角」が続く
40〜64歳・独身の院長を想定して、事業所得ごとの手取りを並べます。
| 事業所得 | 個人事業税(3%) | 個人のまま | 法人化(最適報酬) | 最適な役員報酬 | 実質差額(年) | 判定 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 800万円 | 15.3万円 | 539.1万円 | 530.0万円 | 月45万円 | −29.1万円 | 個人のまま有利 |
| 1,000万円 | 21.3万円 | 660.0万円 | 655.8万円 | 月45万円 | −24.2万円 | 個人のまま有利 |
| 1,200万円 | 27.3万円 | 782.9万円 | 780.3万円 | 月54万円 | −22.5万円 | 個人のまま有利 |
| 1,400万円 | 33.3万円 | 889.5万円 | 903.3万円 | 月54万円 | −6.2万円 | ほぼ互角 |
| 1,600万円 | 39.3万円 | 996.1万円 | 1,025.7万円 | 月54万円 | +9.6万円 | ほぼ互角 |
| 1,800万円 | 45.3万円 | 1,102.7万円 | 1,138.0万円 | 月90万円 | +15.3万円 | ほぼ互角 |
| 2,000万円 | 51.3万円 | 1,209.3万円 | 1,260.9万円 | 月90万円 | +31.6万円 | 法人化が有利 |
※ 経費200万円・東京23区・40〜64歳・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社・個人事業税3%/2026年(令和8年)分基準 ※ 実質差額は税理士報酬の差(年20万円)と法人住民税の均等割を差し引いた2年目以降の金額
分岐点の1,477万円を越えても、差額は年10万円前後です。事業所得1,400万〜1,800万円の帯は、ずっと「ほぼ互角」のままです。「有利」と判定されるのは2,000万円からです。
同じ所得で5%の業種と比べると、差の出どころが分かります。
| 事業所得 | 個人事業税 5% | 個人事業税 3% | 実質差額 5% | 実質差額 3% |
|---|---|---|---|---|
| 1,000万円 | 35.5万円 | 21.3万円 | −10.0万円 | −24.2万円 |
| 1,300万円 | 50.5万円 | 30.3万円 | +5.8万円 | −14.4万円 |
| 1,600万円 | 65.5万円 | 39.3万円 | +35.8万円 | +9.6万円 |
※ 条件は上の表と同じ
実質差額の開きは、個人事業税の差とほぼ同じ額です。法人化した側の手取りは業種で変わらないので、3%の業種は法人化で消える税金が少ないぶん、得も小さいということです。
保険収入が個人事業税から外れるかは、県税事務所に確かめる
上の表は、施術の収入全体に3%がかかる前提で計算しています。ただし医業類似事業には、保険分の収入を個人事業税の計算から外す規定が関係します。
地方税法72条の49の12第1項ただし書は、72条の2第10項の1号から5号までの事業を行う個人について、社会保険診療で受けた金額を総収入金額に入れないと定めています。5号の医業類似事業も、この範囲に入っています。鳥取県と岩手県の案内も、医業等に柔道整復などを含めて、社会保険診療に係る所得は個人事業税で非課税と説明しています。
一方で、ここでいう社会保険診療の定義(72条の23第3項)が列挙しているのは、健康保険法などに基づく「療養の給付」と、家族療養費・訪問看護療養費などです。柔道整復やはり・きゅうの保険施術は、健康保険から療養費として支給されます。消費税法別表第二第6号は非課税の範囲に「療養費」を明記していますが、地方税法の定義の列挙には「療養費」の語がありません。
受領委任で受け取る療養費がこの非課税の対象になるかは、条文と県の案内だけでは確定できませんでした。個人事業税の申告前に、管轄の県税事務所に確認してください。対象になるなら、個人のままの負担はさらに軽くなり、分岐点は上の表の3%の列から0%の列の側へずれます。
法人にすると、この除外はなくなる
法人事業税にも社会保険診療の除外はあります。ただし72条の23第2項で対象になっているのは、医療法人と一部の農業協同組合連合会だけです。株式会社や合同会社で整骨院を開設すると、保険分も含めて法人事業税の対象になります。個人で保険分が除外されている院ほど、法人化で事業税が増える側に回ります。
法人化すると、受領委任は「開設者の変更」で申し出る
整骨院・鍼灸院の法人化で、ほかの業種にはない手続が受領委任です。患者の窓口負担だけを受け取り、残りを施術所が保険者に請求するには、地方厚生(支)局長と都道府県知事から受領委任の承諾を受けている必要があります。
申出の中身
柔道整復の受領委任の取扱規程14は、申し出た事項に変更が生じたときは様式第4号で速やかに申し出ることとし、施術管理者または開設者が変更になった場合は、規程10の手続(欠格事由に当たらない旨の申出)を行うとしています。はり・きゅう・あん摩マッサージの取扱規程14も、変更は様式第4号で申し出ると定めています。
個人から法人への切替えで、地方厚生局の早見表が求めている書類は次のとおりです。
| 書類 | 柔道整復(近畿厚生局) | あはき(東海北陸厚生局) |
|---|---|---|
| 変更の申出書(様式第4号) | 必要 | 必要 |
| 施術管理者の選任証明 | 法人開設なら、院長が代表者を兼ねても必要 | 管理者が代表を務める法人に変わる場合も必要(法人用は様式第1号の3) |
| 保健所に出した開設届・廃止届の写し | 必要 | 必要 |
開設届と廃止届が要るのは、施術所の開設者が個人から法人に変わるためです。柔道整復師法19条とあはき法9条の2は、施術所を開設した者に開設後10日以内、廃止した者に廃止の日から10日以内の届出を求めています。
移転を同時にすると、新規と同じ扱いになる
規程14のただし書は、承諾を受けた施術所の住所が変わった場合は、改めて新規の手続を行うとしています。東海北陸厚生局の早見表は、受領委任の取扱いの開始日は原則として申出書を受け付けた日だと注意しています。移転については、旧施術所の廃止日と新施術所の開設日の間がおおむね2週間以内で、2週間以内に届け出ることを継続の条件としています。
法人化と移転を同じ時期に行うと、この新規扱いに重なります。承諾前の施術は受領委任で請求できない期間になりうるため、日程は管轄の事務所に確認してから組むほうが安全です。
法人の整骨院は、院長1人でも社会保険に入る
健康保険法3条3項2号により、法人の事業所は常時従業員を使えば人数にかかわらず適用事業所です。院長が役員報酬を受けるなら、院長本人も被保険者になります。上の表の「法人化」の列は、この保険料を含んで計算しています。
個人の施術所の場合は、常時5人以上を使い、3条3項1号の適用業種に当たるときに強制適用になります。施術所に関係しうるのは1号カの「疾病の治療、助産その他医療の事業」です。日本標準産業分類では、施術所は「医療業」の「療術業」に分類されています。ただし健康保険の適用業種かどうかは年金事務所が判断するもので、施術所がカに当たると明示した年金機構の資料は確認できませんでした。スタッフが5人前後いる院は、法人化の前に今の扱いを年金事務所で確認しておくと、法人化で増える保険料を見誤りません。
スタッフの保険料が法人化の損得をどれだけ動かすかは、適用業種に入らない美容室の例で美容室の法人化はスタッフの社会保険で決まるに計算しています。
まとめ
- 柔道整復・はり・きゅう・あん摩マッサージは個人事業税3%の区分。視力障害のある施術者が行う場合は課税されない
- 法人化の損益分岐点は、40〜64歳・独身で事業所得1,477万円。5%の業種より234万円後ろで、配偶者がいると差は375万円になる
- 事業所得1,400万〜1,800万円は実質差額が年−6.2万〜+15.3万円の「ほぼ互角」の帯
- 保険収入が個人事業税から外れるかは県税事務所に確認する。株式会社・合同会社には社会保険診療の除外がない
- 法人化は受領委任の「開設者の変更」として様式第4号で申し出る。移転を重ねると新規扱いになり、開始日は受付日
院の分岐点は、所得の水準だけでなく年齢・家族・保険収入の扱いで数百万円単位で動きます。一般論の目安ではなく、自分の売上と経費で確かめてください。
よくある質問
視覚障害のある鍼灸師・マッサージ師にも個人事業税はかかりますか?
地方税法72条の2第10項5号は、医業類似事業から「両眼の視力を喪失した者その他これに類する政令で定める視力障害のある者が行うもの」を除いています。この場合は法定業種に当たらないため、個人事業税はかかりません。法人化すると法人事業税の対象になるため、分岐点は大きく後ろにずれます。
整骨院を法人化すると、受領委任の登録記号番号は変わりますか?
登録記号番号の扱いは、受領委任の取扱規程や早見表には明記されていません。開設者の変更は様式第4号による変更の申出で行いますが、番号の扱いや取扱いの開始日は、管轄の地方厚生(支)局の事務所に申出の前に確認するのが確実です。
整骨院の保険収入に消費税はかかりますか?
消費税法別表第二第6号は、健康保険法などの規定に基づく療養の給付と並べて「療養費」の支給に係る療養を非課税としています。保険で行う施術は非課税売上で、自費の施術や物販は課税売上です。免税事業者かどうかの判定に使う課税売上高にも、非課税の保険分は入りません。
出典
- e-Gov法令検索 地方税法 第72条の2(事業の区分)・第72条の49の17(個人の事業税の標準税率等)
- e-Gov法令検索 地方税法 第72条の49の12(個人の事業税の課税標準の算定の方法)・第72条の23(社会保険診療の定義)
- 鳥取県 県税Q&A Q6-7 医業等に係る個人事業税額の計算方法
- 岩手県 医業等を行う方に対する個人事業税の概要
- e-Gov法令検索 消費税法 別表第二 第6号(医療の給付等)
- 近畿厚生局 柔道整復師の施術に係る療養費 協定書又は受領委任の取扱規程
- 近畿厚生局 柔道整復 受領委任 各種手続き一覧早見表
- 東海北陸厚生局 あはき療養費 受領委任の取扱規程
- 東海北陸厚生局 あはき療養費の受領委任 各種手続き一覧早見表
- e-Gov法令検索 柔道整復師法 第19条(施術所の届出)
- e-Gov法令検索 あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律 第9条の2
- e-Gov法令検索 健康保険法 第3条(適用事業所)
- e-Stat 日本標準産業分類 8351 あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師・柔道整復師の施術所
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。