設立の手続き

書面添付制度で税務調査は減るか。法人の添付は9%、個人は0.3%

結論

書面添付制度は、税理士が申告書の作成で計算・確認した内容を書面(税理士法33条の2)にして添付すると、税務署が調査を通知する前に、まずその税理士の意見を聴く(35条1項)しくみです。調査を省略する約束ではありません。令和6年度の添付割合は法人税が税理士関与分の10.2%、申告全体では約9.2%で、所得税の約0.31%の約30倍です。

  • 意見聴取の段階で自主的に修正申告すれば過少申告加算税は0円。事業所得1,000万円の法人が所得100万円を修正する例では、調査で指摘された場合の1.4万円との差(概算)
  • 意見聴取は日時と場所を事前に通知する調査の前にだけ行われる。事前通知のない調査や反面調査では行われず、納税者は同席しない
  • 書面添付の追加報酬を仮に年10万円とすると、損益分岐となる事業所得は1,266万円から1,364万円へ98万円上がる

税理士の顧問契約を結ぶとき、見積書に「書面添付」という項目が並んでいることがあります。法人化すると税理士への依頼はほぼ前提になりますが、この項目に追加でお金を払う意味があるのかは、説明されないまま判断を迫られがちです。

この記事では、条文と国税庁の運用指針で「何が起きる制度なのか」を確認したうえで、統計の再集計と計算エンジンの試算で「何が変わらないのか」まで数字で示します。調査に選ばれる割合そのものは法人の税務調査は何社に1社かで扱っています。書面添付はその手前、調査を通知する直前の段階に効く制度です。

条文が定めているのは「調査の前に税理士の話を聴く」ことだけ

税理士法33条の2は、税理士が申告書を作成したとき、その作成に関して「計算し、整理し、又は相談に応じた事項」を記載した書面を申告書に添付できると定めています(1項)。他人が作った申告書を審査した場合も、審査した事項と法令に従って作成されている旨を書いた書面を添付できます(2項)。作成した税理士の署名が要ります(3項)。

この書面が付いた申告書について、税務署が日時と場所をあらかじめ通知して帳簿書類を調査する場合、通知する前に税理士へ意見を述べる機会を与えなければなりません(35条1項)。これが「調査通知前の意見聴取」です。添付書面がある申告書を更正するときにも、原則として更正の前に税理士の意見を聴きます(同条2項)。

ここで条文が保証しているのは、意見を述べる「機会」までです。35条4項は、意見聴取をしたかどうかが、その後の処分や更正の効力に影響しないと定めています。国税庁のQ&Aも、意見聴取で疑問点が解消して結果的に調査に至らないことはあり得るとしつつ、書面は調査の省略を前提としたものではないと明記しています(問4-3)。

意見聴取が行われる場面と行われない場面

国税庁のQ&Aと法人課税部門の事務運営指針から、意見聴取の範囲を整理するとこうなります。

場面意見聴取根拠
日時・場所を事前に通知して行う調査行われる税理士法35条1項
事前通知をしない調査(国税通則法74条の10)行われないQ&A 問4-7
取引先の調査に伴う反面調査行われないQ&A 問4-12
添付書面がある申告書を更正するとき原則として行われる税理士法35条2項
書面の記載欄(帳簿書類に関する事項〜総合所見)がすべて空欄書面に該当しないQ&A 問4-14

意見を聴かれるのは、現在、税務代理権限証書(税理士法30条)を出している税理士です(Q&A 問4-8)。書面を作った税理士と今の顧問税理士が違えば、今の顧問税理士に連絡が行きます。権限証書の範囲の決め方は税務代理権限証書の6区分で扱っています。

納税者である社長は意見聴取に同席しません(問4-10)。制度上、税理士に与えられた権利だからです。

意見聴取は通知の1〜2週間前に電話が来て、前日までに終わる

事務運営指針によると、調査担当者は、調査通知予定日の1週間から2週間前までに、税理士へ意見聴取を行う旨を電話で連絡し、日時と方法を決めます。意見聴取は調査通知予定日の前日までに終えます。来署を依頼するのが基本で、Web会議(Microsoft Teams)の利用も検討するとされています。聴き取るのは、原則として統括官等と調査担当者です。

質疑の中身も指針に書かれています。前年と比べて顕著な増減があった事項とその理由、会計処理の方法を変えた事項とその理由などについて、個別・具体的に質問して疑問点を解明し、その結果を踏まえて調査するかどうかを判断します。

結果の伝え方は2通りです。

結果税理士への連絡
調査に移行しない原則として文書「意見聴取結果についてのお知らせ」
調査に移行しないが、修正申告が出た・指導事項がある・記載が具体性に欠ける電話(お知らせを送らない理由も説明)
調査に移行する納税者への調査通知の前に、電話で「調査に移行する」旨

「調査に移行しない」と伝えられても、その後に新たな疑義が生じたときの調査は妨げられません(指針の注記)。お知らせは、その時点の判断です。

書面の書き方についても、国税庁は具体的に求めています。どの帳簿や書類を基に、どのように計算・確認したのかを記載し、意見聴取ではそれをより詳しく述べる必要があるとしています(問4-13)。添付するかどうか、何を書くかは税理士自身が判断しますが、納税者の理解を求めておくことも必要とされています(問4-15)。

令和6年4月からは取扱いが2点変わりました。申告書の法定申告期限内であれば書面だけを単独で提出できるようになり(問4-16)、計算・整理した事項に関する資料を参考資料として書面に付けられるようになりました(問4-17)。

法人の添付は約9%、個人事業は約0.3%。法人化で30倍の世界に入る

では、実際にどれくらい使われているのか。国税庁実績評価書は、書面添付制度の普及を施策に掲げ、参考指標として添付割合を公表しています。ただしこの割合の分母は「税理士が関与した申告書」です。税理士が関与していない申告も含めた全体での割合は、同じ評価書にある税理士関与割合を掛けると出せます。

年度所得税:関与割合所得税:関与分の添付割合所得税:申告全体に対する添付割合法人税:関与割合法人税:関与分の添付割合法人税:申告全体に対する添付割合倍率(法人÷所得)
令和2年度21.1%1.4%0.30%89.4%9.8%8.76%29.7倍
令和3年度21.0%1.5%0.32%89.5%9.8%8.77%27.8倍
令和4年度20.4%1.5%0.31%89.5%10.0%8.95%29.2倍
令和5年度20.4%1.5%0.31%89.8%10.0%8.98%29.3倍
令和6年度20.4%1.5%0.31%89.8%10.2%9.16%29.9倍

※ 関与割合・関与分の添付割合は国税庁実績評価書(令和6事務年度)の参考指標。申告全体に対する添付割合は両者の積(当サイト算出) ※ 所得税は翌年3月末(令和2・3年度は4月末)までに提出された申告書、法人税は4月決算から翌年3月決算の法人が翌年7月末までに提出した申告書が対象 ※ 表は scripts/shomen-tenpu-seido.mjs で再生成できる

読み取れることは2つあります。

1つ目は、個人事業主のあいだでは、書面添付はほぼ存在しない制度だということです。所得税の申告で税理士が関与しているのは約5件に1件で、そのうち添付があるのは1.5%。全体では約320件に1件です。個人のときに顧問税理士から書面添付の話を聞いたことがなくても不思議ではありません。

2つ目は、法人では税理士関与が約9割で、添付は関与分の約10件に1件、全体の約11件に1件にあたることです。法人化すると、税理士に頼むかどうかではなく、頼んだ税理士がどこまでやるかを選ぶ段階に移ります。書面添付はその選択肢の一つとして見積書に現れます。

なお5年間で、法人税の関与分の添付割合は9.8%から10.2%へ0.4ポイントしか動いていません。同じ評価書によると、書面添付制度に関する税理士会等との協議会等は令和6年度に630回開かれていますが、添付は1割前後で横ばいです。

意見聴取の段階で直すと加算税は0円。ただし差額は小さい

意見聴取に絡んで修正申告書を出した場合の扱いは、Q&Aが明確にしています。意見聴取での質疑は調査をするかどうかを判断する前のもので、それだけに基因して修正申告をしても「更正があるべきことを予知してされたもの」には当たりません(問4-6)。調査通知の前に出した修正申告なので、過少申告加算税はかかりません(国税通則法65条6項)。

段階ごとの加算税率は次のとおりです。

修正申告をした時期過少申告加算税
調査通知の前(意見聴取の段階を含む)課されない(65条6項)
調査通知の後、更正の予知の前5%(65条1項かっこ書)
調査で指摘されて修正10%。期限内申告税額と50万円のいずれか多い額を超える部分は+5%(65条1項・2項)

これを計算エンジンで金額にしてみます。法人化して役員報酬を最適額に置いた会社が、所得を100万円・300万円増やす修正をした場合です。

事業所得最適な役員報酬修正で増える所得法人税・地方法人税の増差住民税・事業税等の増差加算税:意見聴取の段階で修正加算税:調査通知の後・指摘前に修正加算税:調査で指摘されて修正
800万円月54万円100万円157,800円55,700円0円7,000円14,000円
800万円月54万円300万円473,700円167,300円0円21,000円42,000円
1,000万円月54万円100万円157,800円55,800円0円7,000円14,000円
1,000万円月54万円300万円468,500円197,800円0円21,000円42,000円
1,500万円月54万円100万円163,000円80,300円0円7,000円14,000円
1,500万円月54万円300万円630,100円284,900円0円28,500円62,000円
2,000万円月90万円100万円189,400円88,400円0円8,500円17,000円
2,000万円月90万円300万円656,500円293,100円0円29,500円65,000円

※ 経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準 ※ 役員報酬は修正前の最適額に固定。加算税は法人税・地方法人税の過少申告加算税で、税目ごとに計算の基礎を1万円未満切捨て、5,000円未満は0円(国税通則法118条3項・119条4項) ※ 延滞税、地方税の過少申告加算金、消費税への影響、帳簿の提示がない場合等の加重(65条4項)は含まない

本税の増差は、どの段階で直しても同じ額を払います。段階で変わるのは加算税だけで、事業所得1,000万円の会社が100万円を修正する例では、意見聴取の段階と調査で指摘された場合の差は1.4万円です。300万円の修正でも4.2万円にとどまります。

地方法人税は増差が小さく、その加算税は5,000円未満の切捨てで0円になる行がほとんどです。1,500万円・300万円の行などで5%の列が10%の列のちょうど半分にならないのは、地方法人税の加算税が10%では5,000円残り、5%では0円に切り捨てられるためです。

つまり、加算税だけを物差しにすると、書面添付の効果は年数万円の単位でしか表れません。制度の効き目は、加算税よりも、意見聴取で疑問が解けた場合に事業所に臨場する調査そのものに至らない可能性があることの側にあります。ただしそれが起きる頻度は、国税庁が公表していないため数字にできません。

追加報酬を払うと、法人化の損益分岐はどこまで動くか

書面には、どの帳簿を基にどう確認したかを具体的に書く必要があり(問4-13)、意見聴取では税理士がそれを説明します。税理士の作業が増えるため、顧問料とは別に報酬を設定する事務所もあります。ただし、書面添付の報酬について公的な統計はありません。当サイトはその相場を示せないので、追加報酬を仮に置いて、判定ツールの損益分岐がどう動くかだけを計算します。

書面添付の追加報酬(仮置き・年)法人の税理士報酬(年)損益分岐となる事業所得追加報酬0円との差
0万円35万円1,266万円+0万円
5万円40万円1,314万円+48万円
10万円45万円1,364万円+98万円
15万円50万円1,413万円+147万円
20万円55万円1,462万円+196万円

※ 個人事業の税理士報酬は年15万円で固定。経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社・3年目以降の定常状態/2026年(令和8年)分基準 ※ 法人の税理士報酬35万円は判定ツールの前提値。相場を示したものではない

追加報酬1万円あたり、損益分岐は約10万円上がります。前の節の加算税の差(100万円の修正で1.4万円)と並べると、追加報酬が毎年かかるのに対し、加算税の差は修正が起きた年にだけ生じます。書面添付を報酬で比べるなら、加算税の節約ではなく、帳簿の確認の深さと意見聴取での説明を買うものと考えたほうが、数字とのつじつまが合います。

顧問料そのものがいくらまでなら法人化の意味が残るかは、税理士の顧問料はいくらまでかで事業所得別に出しています。書面添付の追加分も、その上限の中に収まるかで見るのが筋です。

書面の中身は、法人の帳簿の作り方で決まる

書面に書く欄は、税理士法施行規則の様式で決まっています。「提示を受けた帳簿書類に関する事項」から「総合所見」までの欄で、すべて空欄のものは書面に該当しないとされています(問4-14)。特に「計算し、整理した主な事項」の欄は、具体的かつ正確に書くべきだとされています。

書面は「どの帳簿や書類を基に確認したか」を書くものなので、何を書けるかは会社側が税理士に何を見せられるかに左右されます。前年からの顕著な増減の理由や会計処理を変えた理由は、意見聴取で質問される項目として指針に挙がっています。法人の決算と申告で会社側が用意する書類の範囲は、法人の決算申告を自分でやるで扱っています。

税理士を途中で替えた場合、意見を聴かれるのは今の権限証書の税理士です(問4-8)。前の税理士が作った書面の記載事項について、今の税理士が意見を述べる立場になります。引継ぎのときに過去の書面の控えも渡しておくと、説明の材料がそろいます。

書面添付を付けるかどうかは、税理士と会社の合意で決めることです。法人化そのものの損得は、書面添付の有無とは別に、自分の売上と経費で確かめてください。

まとめ

  • 書面添付(税理士法33条の2)があると、事前通知を伴う調査の前に税理士への意見聴取が行われる(35条1項)。調査の省略は約束されず、事前通知のない調査や反面調査では意見聴取自体がない
  • 令和6年度の添付割合は、法人税が関与分の10.2%・申告全体の約9.2%、所得税は関与分の1.5%・全体の約0.31%。法人は個人の約30倍で、5年間ほぼ横ばい
  • 意見聴取の段階で自主的に修正すれば過少申告加算税は0円。ただし事業所得1,000万円の法人が100万円を修正する例で、調査で指摘された場合との差は1.4万円にとどまる
  • 書面添付の追加報酬を仮に年10万円とすると、損益分岐となる事業所得は1,266万円から1,364万円へ98万円上がる
  • 意見を聴かれるのは今の税務代理権限証書の税理士。令和6年4月からは期限内の単独提出と参考資料の添付が認められた

よくある質問

書面添付をすれば税務調査は来なくなりますか。

来なくなるとは言えません。国税庁は、意見聴取で疑問点が解消して結果的に調査に至らないことはあり得るが、書面は調査の省略を前提としたものではないと説明しています。「調査に移行しない」と連絡を受けた後でも、新たな疑義が生じれば調査は行われます。

個人事業主の確定申告にも書面添付はできますか。

できます。税理士法33条の2は申告納税方式の租税の申告書全般が対象で、所得税も含まれます。ただし令和6年度の添付割合は、税理士が関与した所得税申告の1.5%にとどまり、法人税の10.2%と比べて大きく下回っています。

書面添付は会社側から頼まないと付けてもらえませんか。

添付するかどうか、何を書くかは税理士自身が判断するものとされています。一方で国税庁は、記載内容が納税者に影響することもあるため、日頃から意思疎通を図って理解を求めておくことも必要としています。顧問契約の際に、添付の有無と報酬に含まれるかを確認しておくと食い違いを防げます。

申告書を出した後から書面だけ追加で出せますか。

令和6年4月以降は、その申告書の法定申告期限内に限り、書面だけを単独で提出できる取扱いになりました。それより前は単独提出はできないとされていました。期限を過ぎた後に単独で出すことはできません。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。