法人化の判断

税理士の顧問料はいくらまで?所得1,000万円なら年20.3万円

結論

事業所得1,000万円・経費200万円・東京23区・独身なら、法人化による手取りの増加は年5.3万円です。個人事業で税理士に年15万円払っていたなら、法人の顧問料は年20.3万円までなら手取りが増えます。事業所得800万円では、顧問料を0円にしても増えません。

  • 顧問料が年15万円から70万円に上がると、損益分岐となる事業所得は873万円から1,682万円まで動く
  • 事業所得950万〜1,150万円の帯は粗差額が4.1万円しか増えないため、顧問料5万円の違いで分岐点が185万円動く
  • 法人は税理士報酬を払うとき10.21%を源泉徴収する義務がある。従業員のいない個人事業主にはこの義務がない

法人化すると、決算申告が必要になるぶん税理士報酬は上がります。問題は、それが年いくらまでなら法人化の意味が残るのかです。相場を並べた記事は多いのですが、自分の所得だと上限はいくらかを計算したものは見かけません。顧問料を変数にして、判定が反転する線を出しました。

判定ツールが置いている前提は、法人35万円・個人15万円

当サイトの判定は、毎年の固定費として次の2つを引いています。

費目年額
法人住民税の均等割7万円
税理士報酬の差(法人35万円 − 個人15万円)20万円

この35万円と15万円は、判定の前提として置いている金額です。相場を示したものではありません。税理士報酬は地域・売上規模・記帳をどちらがやるかで動きますし、公的に調査・公表された単価もありません。だから当サイトは、金額を当てにいくのではなく「この前提ならこうなる」という形で出しています。前提を変えたときに結論がどう動くかは、以下で計算します。

均等割のほうは前提ではなく制度です。赤字でも法人が存在する限り毎年かかります(法人住民税の均等割は赤字でも年7万円)。固定費の全体像は法人化の費用は設立時より毎年が重いで扱っています。

所得別に「顧問料がいくらまでなら手取りが増えるか」

まず、税理士報酬を引く前の差額(以下「粗差額」)を出します。これが顧問料に使える原資です。

事業所得粗差額(顧問料を引く前)顧問料の上限(個人で年15万円払っていた場合)顧問料の上限(個人は自分で申告していた場合)
600万円−17.6万円0円でも増えない0円でも増えない
800万円−4.1万円10.9万円0円でも増えない
1,000万円+5.3万円20.3万円5.3万円
1,200万円+13.4万円28.4万円13.4万円
1,400万円+33.7万円48.7万円33.7万円
1,500万円+43.9万円58.9万円43.9万円
1,800万円+67.0万円82.0万円67.0万円
2,500万円+156.1万円171.1万円156.1万円

※ 経費200万円・東京23区(特別区統一保険料率)・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社・3年目以降の定常状態/2026年(令和8年)分基準 ※ 粗差額 = 法人(最適役員報酬)の手取り − 個人事業の手取り。税理士報酬と設立費用を引く前の額

読み方は2通りあります。

個人事業のときも税理士に年15万円払っていた人は、その15万円が浮くので、粗差額に15万円を足した額までが法人側の上限です。事業所得1,000万円なら年20.3万円です。

いっぽう、個人事業では自分で申告していた人は、浮く額がありません。上限は粗差額そのままで、事業所得1,000万円なら年5.3万円です。同じ所得でも、前が自分で申告だったかどうかで上限は15万円変わります。 顧問料の見積りを比べる前に、自分がどちらなのかを確かめたほうが早いです。

事業所得800万円の行では、個人のときに税理士へ払っていた人なら年10.9万円まで、自分で申告していた人は顧問料を0円にしても手取りは増えません。粗差額がマイナス4.1万円なので、顧問料を値切る余地の問題ではなくなっています。

顧問料が55万円上がると、分岐点は809万円動く

今度は逆から見ます。顧問料を固定して、損益分岐となる事業所得がどこに来るかです。

法人の顧問料(年)個人との差損益分岐となる事業所得
15万円+0万円873万円
20万円+5万円981万円
25万円+10万円1,166万円
30万円+15万円1,216万円
35万円+20万円1,266万円
40万円+25万円1,314万円
50万円+35万円1,413万円
60万円+45万円1,512万円
70万円+55万円1,682万円

※ 個人事業の税理士報酬は年15万円で固定。その他の条件は上の表と同じ/2026年(令和8年)分基準

顧問料が年15万円から70万円へ、55万円上がると、分岐点は873万円から1,682万円まで809万円動きます。顧問料1万円の違いが、分岐点では桁違いの幅になって返ってきます。

1,000万円前後では、顧問料5万円で結論が変わる

動き方は一定ではありません。顧問料20万円(差5万円)の分岐点は981万円ですが、25万円(差10万円)では1,166万円です。顧問料がたった5万円違うだけで、分岐点が185万円動いています。

理由は粗差額の形です。この帯だけ刻んで計算すると、次のようになります。

事業所得粗差額最適な役員報酬
950万円+4.1万円月54万円
1,000万円+5.3万円月54万円
1,050万円+6.1万円月54万円
1,100万円+6.9万円月54万円
1,150万円+8.2万円月54万円

※ 条件は上の表と同じ/2026年(令和8年)分基準

事業所得が950万円から1,150万円へ200万円増えても、粗差額は4.1万円から8.2万円へ4.1万円しか増えません。ほぼ横ばいです。横ばいの線に対して顧問料の線を5万円動かせば、交点は大きく横へ滑ります。

つまりこの帯の人は、顧問料の見積額次第で結論が入れ替わります。所得を増やして判定を変えようとしても200万円増やして4.1万円しか動かないので、先に見るべきは固定費のほうです。判定が僅差になる帯では、個別の条件を専門家に確認する価値があります。

顧問料をゼロにしても、873万円の壁は残る

ここが表から読み取れるいちばん重要な点です。顧問料の差を0円にしても、分岐点は873万円に残ります。それより下では、税理士に一円も払わなくても法人化で手取りは減ります。

条件別の分岐点も見ておきます。

条件損益分岐となる事業所得
基本(独身・インボイス登録済み)1,266万円
株式会社で設立1,266万円
配偶者あり(無収入)1,016万円
配偶者あり+扶養1人1,066万円
インボイス未登録1,266万円
40〜64歳(介護保険あり)1,243万円
大阪市1,283万円
名古屋市1,270万円
白色申告793万円

※ 経費200万円・東京23区(特別区統一保険料率)・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準 ※ 表示した条件以外は基本条件と同じ。実質差額がプラスに転じる事業所得 ※ いずれも3年目以降の定常状態。設立1〜2期の消費税免税(インボイス未登録の場合のみ)は含まない

基本条件の1,266万円は、顧問料35万円の行と一致します。配偶者がいれば1,016万円まで下がります。その動き幅は250万円です。いっぽう顧問料を35万円から20万円へ15万円下げると、分岐点は1,266万円から981万円へ285万円下がります。配偶者がいるかどうかより、顧問料15万円の違いのほうが分岐点を動かしました。 条件表のどの行よりも大きく動く変数が、表に載っていない顧問料だったということです。

では873万円の線は何で決まっているのか。固定費がすべて消えているわけではありません。法人住民税の均等割7万円は法人の税額そのものなので、粗差額の中に最初から入っています。残っているのは社会保険の構造です。法人化すると健康保険・厚生年金は強制加入になり、保険料は会社と本人で折半します。この負担増を、法人側の税率の低さと所得の分散が追い越すところが873万円です。保険料の内訳は一人社長の社会保険料はいくらか、分岐点そのものの考え方は法人化の目安は「所得800万円」?で扱っています。計算の根拠は計算の前提にまとめてあります。

なお、顧問料を0円にする=自分で決算申告をするという選択は可能です。手順と難所は法人の決算申告を自分でやるで扱っています。

法人になると、顧問料から10.21%を源泉徴収する義務が生じる

金額の話とは別に、法人化すると顧問料の払い方が変わります。これは見落とされやすい部分です。

税理士報酬は源泉徴収の対象です。税率は支払金額100万円以下の部分が10.21%、100万円を超える部分が20.42%です(国税庁 No.2798)。支払う側が差し引いて、国に納めます。

ここで個人事業主と法人の扱いが分かれます。国税庁 No.2502は、報酬・料金について「給与所得について源泉徴収義務を有する個人以外の個人が支払う弁護士報酬などの報酬・料金については、源泉徴収をする必要はありません」としています。従業員も専従者もなく、給与を1円も払っていない個人事業主は、税理士報酬から源泉徴収をしません。 この例外は個人についての定めなので、法人は当たりません。役員報酬を0円にしている法人でも、税理士報酬を払うなら源泉徴収をします。

月3万円(税抜)の顧問料と決算申告料15万円(税抜)を払う場合で見ます。

支払い報酬額(税抜)源泉徴収税額税理士への支払額(税込・源泉後)
毎月の顧問料30,000円3,063円29,937円
決算申告料150,000円15,315円149,685円
年間合計510,000円52,071円509,289円

※ 報酬額と消費税額が請求書で明確に区分されている場合として、税抜額に10.21%を適用。消費税は10%、1円未満切捨て

誤解しやすいのですが、この52,071円は会社の負担増ではありません。税理士が納める所得税の前払いを、会社が預かって代わりに納めているだけです。会社から出ていく総額は51万円+消費税で変わりません。増えるのは事務です。

受け取る側としての源泉徴収は、法人成りで逆に消えます。原稿料やデザイン料から天引きされていた10.21%がなくなる話は法人成りで源泉徴収10.21%が消えるで扱っています。受け取る側では消え、支払う側では生じるという入れ替わりが起きます。

預かった税は翌月10日までに納める

源泉徴収した税額は、支払った月の翌月10日までに納めます。給与の支払を受ける者が常時10人未満であれば納期の特例の承認を受けられ、1月〜6月分を7月10日、7月〜12月分を翌年1月20日の年2回にまとめられます(国税庁 No.2505)。

特例の対象は限られていて、国税庁は「給与や退職金から源泉徴収をした所得税および復興特別所得税と、税理士、弁護士、司法書士などの一定の報酬から源泉徴収をした所得税および復興特別所得税に限られています」としています。税理士報酬は特例の対象に含まれます。 外注先のデザイナーへの報酬やアフィリエイト報酬は含まれないので、同じ10.21%でも納付の回数が違ってきます。特例そのものは源泉所得税の納期の特例で扱っています。

年が明けると支払調書も出てきます。税理士等への報酬は、同一人に対するその年中の支払金額の合計額が50,000円を超えるものが「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」の提出範囲です(国税庁 No.7431)。上の例の年51万円は当然これを超えるので、1枚提出することになります。給与だけなら不要だった法定調書合計表が、この1枚があるために必要になります(一人会社の法定調書)。

顧問料の見積りを比べるときは、金額のほかにこの事務が誰の手に残るかも見ておくと、年間の手間の差が見えます。

まとめ

  • 法人の顧問料の上限は、粗差額に「個人のときに払っていた税理士報酬」を足した額。事業所得1,000万円なら年20.3万円、1,500万円なら年58.9万円(経費200万円・東京23区・独身・青色申告の概算)
  • 顧問料が年15万円から70万円に上がると、損益分岐となる事業所得は873万円から1,682万円へ809万円動く
  • 事業所得950万〜1,150万円の帯は粗差額がほぼ横ばいなので、顧問料5万円の違いで分岐点が185万円動く。この帯は顧問料の見積額で結論が入れ替わる
  • 顧問料の差を0円にしても分岐点は873万円に残る。それより下は社会保険の構造で決まっており、顧問料の交渉では動かない
  • 法人は税理士報酬を払うとき10.21%を源泉徴収し、翌月10日(納期の特例なら年2回)までに納める。同一の税理士へのその年中の支払額が50,000円を超えれば、報酬の支払調書も1枚必要になる

顧問料の前提を変えれば結論は動きます。一般論の35万円ではなく、自分が受け取っている見積額と自分の売上・経費で確かめてください。

よくある質問

税理士に支払う報酬は、消費税を含めた金額から源泉徴収しますか

請求書等で報酬・料金の額と消費税等の額が明確に区分されている場合には、報酬・料金の額のみを源泉徴収の対象として差し支えないとされています。区分されていなければ、消費税を含めた全額が対象になります。

自分で決算申告をすれば顧問料は0円になりますか

税理士に依頼しない選択はできます。ただし顧問料が0円でも、事業所得が873万円を下回る帯では法人化によって手取りは増えないという計算結果になりました(当サイトの前提条件での概算)。

法人が払う顧問料は損金になりますか

損金になります。ただし当サイトの判定では、顧問料を税額の計算後に差し引く支出として扱っており、損金算入による法人税の減少は反映していません。実際の差額は計算結果より顧問料の税率ぶん有利に出ます。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。