役員報酬
定期同額給与は「手取り同額」でもよい。社会保険料が変わった月の役員報酬
結論
法人税法施行令69条2項により、役員報酬から源泉所得税・特別徴収の住民税・社会保険料を引いた手取りが毎月同額なら、額面が変わっても定期同額給与とみなされます。額面50万円の一人社長が40歳で介護保険料が加わると手取りは月3,810円減り、手取りを保つ額面は50万4,050円です。額面を据え置くか手取りを据え置くかは、どちらでも損金になります。
- 差し引く『源泉税等』は、源泉徴収される所得税、特別徴収される住民税、法令により給与から控除される社会保険料など(法人税法施行令69条2項)
- 令和8年4月分から始まった子ども・子育て支援金で、額面40万円の手取りは月471円、50万円は月575円減る(東京都・扶養0人)
- 手取りを1円でも違えて額面を上げると『手取り同額』にも『額面同額』にも当たらない。期中の増額改定として、増えた部分が損金不算入になりうる
このテーマの全体像 役員報酬の決め方(最適額の計算)
役員報酬は、事業年度の途中で増やすと増えた部分が損金になりません。そのため一人社長は、期首から3か月以内に決めた額面をそのまま1年払い続けるのが普通です。ところが2026年は、4月分から子ども・子育て支援金の徴収が始まり、額面が同じでも手取りが減りました。40歳になって介護保険料が加わる人もいます。
手取りを戻そうとして額面を少し上げると、期中の増額改定になってしまうのか。法人税法施行令はこの場面のための規定を置いています。
手取りが同額なら、額面が違っても「同額」とみなす
法人税法34条1項1号は、損金になる役員給与の一つとして、支給時期が1か月以下の一定期間ごとで、各支給時期の支給額が同額である定期同額給与を挙げています。その「同額」について、法人税法施行令69条2項は次のように定めています。
定期給与の各支給時期における支給額から源泉税等の額を控除した金額が同額である場合には、当該定期給与の当該各支給時期における支給額は、同額であるものとみなす。
ここでいう源泉税等は、次のものの合計です(同項)。
| 差し引くもの | 根拠として条文が挙げるもの |
|---|---|
| 源泉徴収される所得税 | 所得税法2条1項45号 |
| 特別徴収される住民税 | 地方税法1条1項9号 |
| 給与から控除される社会保険料 | 健康保険法167条1項その他の法令(所得税法74条2項の社会保険料) |
| その他これらに類するもの | — |
※ e-Gov法令検索 法人税法施行令69条2項
つまり定期同額給与には、額面を毎月同じにする方法と、手取りを毎月同じにする方法の2通りがあります。どちらを選んでも損金算入の扱いは同じです。
社会保険料が変わる場面と、手取りの減り方
一人社長の手取りを動かす代表的な出来事を、計算エンジンと国税庁の令和8年分 源泉徴収税額表(月額表・甲欄)で計算しました。
額面40万円の場合
| 変わったこと | 変わる前の手取り | 額面を据え置いた手取り | 手取りの減少 | 手取りを据え置く額面 |
|---|---|---|---|---|
| 子ども・子育て支援金の徴収開始(令和8年4月分〜) | 306,292円 | 305,821円 | 471円 | 400,471円 |
| 40歳になり介護保険料が加わる | 305,821円 | 302,750円 | 3,071円 | 403,321円 |
額面50万円の場合
| 変わったこと | 変わる前の手取り | 額面を据え置いた手取り | 手取りの減少 | 手取りを据え置く額面 |
|---|---|---|---|---|
| 子ども・子育て支援金の徴収開始(令和8年4月分〜) | 386,525円 | 385,950円 | 575円 | 500,575円 |
| 40歳になり介護保険料が加わる | 385,950円 | 382,140円 | 3,810円 | 504,050円 |
※ 東京都の協会けんぽ・扶養親族等0人・住民税の特別徴収は月2.5万円で一定。源泉徴収は令和8年分 月額表 甲欄。社会保険料は翌月の給与から控除されるが、ここでは変わった月にそろえて示した。scripts/teiki-dougaku-tedori.mjs で計算
子ども・子育て支援金は、健康保険料と同じく標準報酬月額にかかり、労使で折半します。令和8年度の料率は0.23%で、本人負担は標準報酬の0.115%です。40歳から64歳までは介護保険料(令和8年度1.62%・労使折半)も加わります。
手取りを据え置く額面は、社会保険料の増加分よりわずかに多くなります。額面を上げると源泉徴収税額表の区分が変わることがあり、その分も含めて逆算する必要があるからです。上の例では、額面を上げても標準報酬月額の等級と源泉徴収の区分が変わらないため、増額分は社会保険料の増加とほぼ同じ額になっています。
1円でもずれると、どちらの「同額」にも当たらない
手取り同額で注意したいのは、手取りが各支給時期で同額でなければ、みなし規定が働かないことです。社会保険料の増加分をざっくり額面に上乗せして、手取りが前月より数十円多くなると、額面も手取りも同額ではなくなります。
その場合は、期首から3か月を過ぎた後の増額改定として扱われるおそれがあります。期中に増額した部分は損金になりません。期中に役員報酬を増やしたときの損金不算入の計算は役員報酬を期中に増やすと、増額分120万円が損金にならないで示しています。
手取り同額を選ぶなら、給与計算の段階で手取りの金額を先に固定し、額面を逆算する運用にしておくのが確実です。逆に、額面同額で運用している会社が、手取りの減少を埋めるために途中から額面を上げるのは避けたほうが安全です。
6月の住民税と、9月の社会保険料の改定
住民税の特別徴収額は毎年6月に替わります。施行令69条2項の源泉税等には特別徴収される住民税も入っているので、手取り同額で運用しているなら、6月に住民税が増えた分も額面に上乗せして手取りを保てます。
社会保険料は、毎年9月に標準報酬月額が見直されます(定時決定)。役員報酬の額面が変わらなければ等級も変わらないのが通常ですが、手取り同額で額面を少しずつ上げていくと、等級の境目を超えて保険料が上がることがあります。そのたびに額面をさらに逆算する必要があります。
手取り同額を選ぶ意味と、選ばない意味
手取り同額は、社長個人の家計を毎月一定にしたい人には便利です。一方で、額面を上げるほど会社の社会保険料の負担(労使合計)と、社長個人の所得税・住民税も増えます。手取りを保つための額面の上乗せは、会社から見れば役員報酬の増額と同じお金が出ていきます。
役員報酬の額そのものをいくらにするかは、社会保険料と税の合計で手取りが最大になる額を探すのが先です。当サイトの判定ツールは、月5万〜100万円の役員報酬を総当たりで計算し、手取りが最大になる額を出しています。報酬額の決め方の考え方は役員報酬はいくらが最適か、月額ごとの手取りは役員報酬の手取り早見表にまとめています。
まとめ
- 定期同額給与は、額面が同額でも、源泉税等を引いた手取りが同額でもよい(法人税法施行令69条2項)
- 源泉税等には、源泉所得税、特別徴収の住民税、給与から控除される社会保険料が入る
- 額面50万円なら、子ども・子育て支援金で手取りは月575円、40歳の介護保険料で月3,810円減る。手取りを保つ額面はそれぞれ50万575円、50万4,050円
- 手取りが1円でも違えば、手取り同額にも額面同額にも当たらず、期中の増額改定になりうる
- 手取りを保つ額面の上乗せは、会社の社会保険料と社長の税も増やす。報酬額そのものの最適化が先
社会保険料の変化を額面で受けるか手取りで受けるかは、会社の方針として最初に決めておくと迷いません。自分の売上と経費で、最適な役員報酬の額から確かめてください。
よくある質問
手取り同額にするには、株主総会で決める必要がありますか?
法人税法施行令69条2項は、手取りが各支給時期で同額であれば額面も同額とみなすという規定で、特別な届出は定めていません。ただし、役員報酬の額は株主総会などで決めるものなので、手取りを基準に支給することと、その手取りの額を議事録に残しておくと、後から説明しやすくなります。
6月に住民税の額が変わったときも、額面を調整してよいですか?
差し引く源泉税等には、特別徴収される住民税も含まれます(施行令69条2項)。住民税が変わった月に、手取りが前月と同じになるよう額面を調整するなら、手取り同額として定期同額給与に当たります。
額面を据え置いて手取りが減るのは、問題ありませんか?
額面が毎月同額なら、それだけで定期同額給与です。社会保険料や税が変わって手取りが減っても、損金算入には影響しません。手取り同額は、手取りを保ちたい場合に使える選択肢です。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。