役員報酬
役員報酬をドル建てで払うと定期同額?為替で円が動いても損金になる
結論
毎月10,000米ドルの役員報酬は、円換算額が為替で毎月違っても定期同額給与に当たると国税庁の質疑応答事例が示しています。同額かどうかは決めた通貨の額で見て、円換算額までは求めません。ただし円の額は為替で動きます。月4,000ドルなら1ドル130円で月52万円、170円で月68万円です。4〜6月の為替で標準報酬月額が決まるため、140円と160円では社会保険料(労使計)が年31.1万円違います。
- 定期同額の判定はドル額で行う。毎月のドル額を変えれば、円で見て同じ額にそろえる目的でも同額ではなくなる
- ドルで払う給与の源泉徴収は、支払うべき日(月払いならその月の末日、それより前に払えば支払日)の電信買相場(TTB)で円に換算する(所得税基本通達213-1・213-4)
- 社会保険は支払日の為替で円に換算した額が報酬になる(日本年金機構)。法人の帳簿は原則として取引日の仲値(TTM)で、レートが3つに分かれる
このテーマの全体像 役員報酬の決め方(最適額の計算)
売上がドルで入る一人会社では、役員報酬もドルで決めたほうが資金繰りは楽です。気になるのは、円に換算した額が毎月変わることです。定期同額給与は「毎月同額」が要件なので、為替で円の額がぶれると損金にならないのではないか、という疑問が生じます。
同額かどうかは、決めた通貨の額で見る
国税庁の質疑応答事例(法人税 11/21)は、米国人の役員に毎月10,000米ドルの給与を払う会社のケースです。為替レートの変動で円換算額が毎月同じにならないため、定期同額給与に当たらないのではないか、という照会でした。
回答は「定期同額給与に該当する」です。定期同額給与には各支給時期の支給額が同額であることが必要ですが、その同額とは、支給額を円換算した金額が同額であることまで求めるものではないとしています。ドル建てで決め、毎月そのとおり10,000ドルを払っていれば、同額の要件を満たします。
裏返すと、判定の物差しは決めた通貨の額です。円で見た額をそろえようとして毎月のドル額を変えると、ドル額は同額ではなくなります。為替が動くたびに報酬を「調整」したくなる人ほど、ここでつまずきます。期中の額の変更が損金になる条件は役員報酬を期中に変更できる3つの例外で整理しています。
1つの給与に、為替レートが3つ出てくる
定期同額の判定はドル額で済みますが、税金と保険料の計算は円で行います。そのとき使うレートが、制度ごとに違います。
| 場面 | 使うレート | 根拠 |
|---|---|---|
| 源泉徴収する所得税の計算 | 支払うべき日の電信買相場(TTB)。月払いならその月の末日、それより前に払えば支払日。著しく遅れていなければ実際の支払日でもよい | 所得税基本通達213-1・213-2・213-4 |
| 社会保険の報酬月額 | 支払日の外国為替換算率 | 日本年金機構「海外勤務者の報酬の取扱い」参考2 |
| 法人の帳簿(給与の計上額) | 取引日の電信売買相場の仲値(TTM)。継続適用を条件に、費用は電信売相場(TTS)も可 | 法人税基本通達13の2-1-2 |
源泉徴収のTTBは、その会社の主要取引金融機関の相場を使います(所得税基本通達213-2)。居住者に払う給与にも、非居住者向けの213-1から213-3の扱いが準用されます(213-4)。
年末調整の円の額も、為替で毎年変わる
源泉徴収票に載る給与の支払金額は、毎月の円換算額の合計です。ドル額が1年間まったく同じでも、円の年収は為替次第で変わります。給与所得控除・所得税・住民税は円の年収で決まるので、税額も年ごとに動きます。
月4,000ドルの報酬は、1ドル130円と170円で月16万円違う
売上もドルで入る一人会社で、1年間同じレートが続いた場合を計算しました。為替レートは仮定の値です。
| 1ドル | 売上(円) | 報酬 月額(円) | 標準報酬月額 | 社会保険料(労使計) | 所得税・住民税 | 法人税等 | 個人の手取り | 法人に残る利益 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 130円 | 1,820.0万円 | 52.0万円 | 53.0万円 | 182.8万円 | 49.1万円 | 185.6万円 | 484.6万円 | 617.9万円 |
| 150円 | 2,100.0万円 | 60.0万円 | 59.0万円 | 203.5万円 | 71.7万円 | 239.2万円 | 547.8万円 | 737.8万円 |
| 170円 | 2,380.0万円 | 68.0万円 | 68.0万円 | 227.8万円 | 94.3万円 | 296.8万円 | 609.2万円 | 851.9万円 |
※ 売上 年14万ドル(税抜)、経費300万円(円建て)、役員報酬 月4,000ドル。東京23区・40歳未満・配偶者なし・インボイス登録済み・合同会社
※ どのレートでも報酬は定期同額給与として全額損金になる前提。計算は scripts/gaika-yakuin-hoshu-teiki-dougaku.mjs による
ドル建ての売上とドル建ての報酬が同じ方向に動くので、円安になると個人の手取りも法人の利益も両方増えます。報酬を円で固定していた場合は、為替の上下はすべて法人の利益に乗ります。ドル建ての報酬は、為替の影響の一部を社長個人に移す決め方です。個人事業主のときに為替の影響が全部事業所得に乗っていたのと比べると、法人では報酬の通貨を選ぶことで、影響をどちらに置くかを決められます。
社会保険料は4〜6月の為替で1年分が決まる
役員報酬の標準報酬月額は、毎年4〜6月に受けた報酬の平均で決まり、9月から翌年8月まで使われます(定時決定)。ドル建ての報酬では、この3か月の支払日の為替レートが、1年分の保険料を決めることになります。
| 4〜6月のレート | 報酬月額 | 標準報酬月額(健康保険) | 標準報酬月額(厚生年金) | 本人負担 月額 | 労使計 年額換算 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1ドル130円 | 52.0万円 | 53.0万円 | 53.0万円 | 7.5万円 | 182.8万円 |
| 1ドル140円 | 56.0万円 | 56.0万円 | 56.0万円 | 7.9万円 | 193.1万円 |
| 1ドル150円 | 60.0万円 | 59.0万円 | 59.0万円 | 8.4万円 | 203.5万円 |
| 1ドル160円 | 64.0万円 | 65.0万円 | 65.0万円 | 9.2万円 | 224.2万円 |
| 1ドル170円 | 68.0万円 | 68.0万円 | 65.0万円 | 9.4万円 | 227.8万円 |
※ 月4,000ドル・東京都の協会けんぽ・40歳未満。労使計は会社だけが負担する子ども・子育て拠出金を含む
4〜6月が1ドル140円なら年193.1万円、160円なら年224.2万円で、差は年31.1万円です。残りの9か月にどれだけ円高になっても、9月以降の保険料は4〜6月の水準のまま続きます。厚生年金の標準報酬月額は65万円が上限なので、170円では健康保険だけが上がり、厚生年金は160円と同じです。
為替で円の額が大きく動いたときに随時改定の対象になるかは、日本年金機構の資料に示されていません。年の途中で大きく円高・円安が進んだら、年金事務所に確認が必要です。保険料の段差の仕組みは標準報酬月額の等級表で確認できます。
ドル建てにするときに決めておくこと
- 何建てで決めたかを議事録に書く。 「月4,000米ドル」と通貨と額を明記する。質疑応答事例は、ドル建てで決めてドル額どおりに払っていることを前提にしている
- ドル額を期中に動かさない。 為替で円の額が増えても減っても、ドル額を変えれば改定として扱われる
- 源泉徴収のレートを決めておく。 主要取引金融機関のTTBを、支払うべき日(または支払日)で取る運用にする
- 海外に住む役員なら、別の論点が加わる。 非居住者への役員報酬の源泉徴収は海外在住で役員報酬を取ると20.42%、二重加入は社会保障協定で海外在住の役員は二重加入を避けられるかで扱っている
報酬の水準そのものは、円で見た手取りが最大になる額を役員報酬の決め方(最適額の計算)と判定ツールで確かめ、それをドルに置き換えて決める流れになります。自分の売上と経費で、想定するレートごとに確かめてください。
まとめ
- 毎月同じドル額で払う役員報酬は、円換算額が毎月違っても定期同額給与に当たる(質疑応答事例 法人税 11/21)
- 同額の物差しはドル額。円をそろえるためにドル額を変えると、同額ではなくなる
- 源泉徴収は支払うべき日のTTB、社会保険は支払日の換算率、法人の帳簿は原則TTM。レートが3つに分かれる
- 月4,000ドルの報酬は、1ドル130円で月52万円、170円で月68万円。4〜6月が140円か160円かで社会保険料は年31.1万円違う
- 報酬の通貨を選ぶことで、為替の影響を社長個人と法人のどちらに置くかが決まる
よくある質問
ドル建てで決めた役員報酬を、円に換えて払ってもよいですか。
源泉徴収では、ドル建ての額を円で払う場合、契約等で定めた換算方法で計算した円の額が対象になります(所得税基本通達213-1)。質疑応答事例はドルで決めてドルで払うケースなので、円で払う場合の定期同額の判定までは示していません。
為替で円の額が大きく増えた月に、ドル額を下げて調整できますか。
ドル額を期の途中で変えると、定期同額給与の判定では改定になります。期首から3か月以内の改定や業績悪化改定事由などに当たらなければ、変えた後の差額は損金にならない可能性があります。
海外に住んでいる役員にドルで払う場合も同じですか。
法人税の定期同額の判定は同じです。源泉徴収は非居住者に対する所得税の扱いになり、税率が居住者と変わります。円への換算は居住者と同じく所得税基本通達213-1によります。社会保険も加入の有無から別に確認が要ります。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。