役員報酬
役員報酬を売上の歩合で払うと損金にならない。一人社長は年103万円の差
結論
国税庁の質疑応答事例は、役員に月々の売上に応じて払う歩合給を定期同額給与に当たらないとしています。業績連動給与の損金算入も、同族会社は非同族法人の完全子会社に限られるため、社長1人の会社は使えません。年720万円を「固定月30万円+売上の20%」で払うと、歩合の360万円が損金不算入になり、毎月60万円の定額で払う場合より法人税等が年103.1万円増えます(売上1,800万円・経費300万円・東京23区)。
- 支給額が月ごとに変わる歩合給・能率給は、一定の算定基準で規則的に払っても定期同額給与ではない(質疑応答事例 法人税 11/15)。固定給の部分は定期同額の要件を満たせば損金になる
- 使用人兼務役員の歩合なら損金になる余地があるが、代表取締役・合同会社の業務執行社員は使用人兼務役員になれない(法人税法施行令71条)
- 歩合分を損金にしたいなら、見込みの売上から報酬月額を決め、期首から3か月以内に改定する。それ以外の月に増やした分は損金にならない
このテーマの全体像 役員報酬の決め方(最適額の計算)
個人事業主のときは、売上から経費を引いた残りがそのまま自分の取り分でした。法人化してからも「今月は売上が多かったから多めに取る」「売上の2割を報酬にする」と決めたくなります。ところが、この払い方は法人税では損金にならない給与の典型例として、国税庁の質疑応答事例に載っています。
歩合給は「一定の基準」でも定期同額給与ではない
国税庁の質疑応答事例(法人税 11/15)は、運送会社の専務に、固定給のほか月々の運送収入に応じた歩合給を払うケースを取り上げています。歩合の基準は従業員と同じです。回答は「定期同額給与に該当しない」でした。
理由は単純です。定期同額給与は、支給時期が1か月以下の一定期間ごとで、各支給時期の支給額が同額であるものです(法人税法34条1項1号、施行令69条1項1号)。質疑応答事例は、一定の算定基準で規則的・継続的に払うものでも、支給額が同額でなければ定期同額給与ではないと述べています。各月の額が変わる歩合給や能率給は、要件を満たす業績連動給与を除き、損金になりません。
一方で、同じ事例は次の2点も示しています。
- 固定給と歩合給があらかじめ分かれているなら、固定給の部分は定期同額給与として損金になる
- 使用人兼務役員の、使用人としての職務に対する歩合給は、不相当に高額でない限り損金になる
つまり「固定+歩合」の形にしていれば、全額が否認されるわけではありません。否認されるのは歩合の部分です。
一人社長は、どちらの逃げ道も通れない
使用人兼務役員の道は、代表取締役、合同会社の業務を執行する社員、同族会社で一定以上の株式を持つ役員には開かれていません(法人税法施行令71条1項)。一人社長は代表者で、株式も全部持っています。使用人兼務役員の扱いになる余地はありません。細かい関門は使用人兼務役員の賞与が損金になる条件で整理しています。
業績連動給与の道も閉じています。損金になる業績連動給与は、売上高や利益の指標を基礎にした客観的な算定方法を、報酬委員会などの適正な手続で決め、有価証券報告書などで開示したものに限られます。そのうえ法人税法34条1項3号は、同族会社については、同族会社以外の法人による完全支配関係があるものに限るとしています(国税庁No.5211)。
同族会社は、株主3人以下とその親族などで株式の50%超を持つ会社です(法人税法2条10号)。社長が1人で全株を持つ会社は、この定義に当たります。
歩合部分が否認されると、法人税等は年103万円増える
では、どれくらいの差になるのか。売上1,800万円(税抜)、経費300万円の一人会社で、社長に年720万円を払う場合を計算しました。年間の総額は同じで、払い方だけを変えています。
| 払い方 | 損金になる額 | 損金不算入(歩合部分) | 法人税等 | 定額との差 | 否認額に対する増加の割合 |
|---|---|---|---|---|---|
| 毎月60万円の定額 | 720.0万円 | 0.0万円 | 156.3万円 | — | — |
| 固定 月40万円+歩合 年240万円 | 480.0万円 | 240.0万円 | 219.0万円 | +62.8万円 | 26.2% |
| 固定 月30万円+売上の20%の歩合(年360万円) | 360.0万円 | 360.0万円 | 259.3万円 | +103.1万円 | 28.6% |
| 全額を売上の40%の歩合 | 0.0万円 | 720.0万円 | 380.2万円 | +223.9万円 | 31.1% |
※ 東京23区・40歳未満・インボイス登録済み・合同会社。法人税等は法人税・地方法人税・法人住民税(法人税割・均等割)・法人事業税・特別法人事業税の合計
※ 社会保険料(会社負担 年103.0万円)は、どの払い方でも月60万円の定額と同じ等級とした
※ 計算は scripts/yakuin-hoshu-buai-uriage-rendo.mjs による
固定30万円+歩合の形では、法人の課税所得が640.3万円から972.2万円に増えます。800万円を超えた部分には法人税の軽減税率が効かないため、否認額が大きくなるほど増え方が急になります。全額を歩合にすると、720万円が丸ごと課税所得に戻り、法人税等は定額の2.4倍です。
右端の列は、否認された額に対して法人税等がどれだけ増えたかの割合です。歩合240万円では26.2%、720万円では31.1%と、歩合の割合を上げるほど割合も上がります。「少しくらいなら」と歩合の比率を上げていくと、比率以上に税負担が増える形です。
固定部分を決めていない歩合は、全額が対象になる
質疑応答事例が固定部分を損金と認めたのは、固定給と歩合給があらかじめ明らかになっている場合です。「毎月の売上の◯%」だけを決め、固定部分を定めていない払い方は、そもそも同額の部分を切り出せません。毎月の支給額が月ごとに違うだけなので、全額が定期同額給与の外に出ます。上の表の最下段がこれに当たります。毎月の支給額が結果的に30万円を下回らなかったとしても、質疑応答事例が損金と認めたのは、あらかじめ定めた固定部分です。固定にしたい額は、期首3か月以内の決議で金額として決めておく必要があります。
社長個人の税金は1円も減らない
損金不算入になっても、社長が受け取った720万円は給与所得です。源泉徴収も年末調整も、定額で払った場合と変わりません。法人の側で損金にならず、個人の側では給与として課税されるので、同じ360万円に法人税と所得税が重なってかかります。過大な役員報酬が否認されたときと同じ構造です(役員報酬はいくらまで損金になるか)。
社会保険も歩合を逃しません。日本年金機構は標準報酬月額の対象になる報酬の例に「能率給」を挙げています。毎月払う歩合は報酬月額に入り、4〜6月の平均で9月からの標準報酬月額が決まります(定時決定)。繁忙期が4〜6月に重なる業種では、その年の歩合の水準で1年分の保険料が決まります。
個人事業主の「取り分」の感覚が、なぜ法人では通らないか
個人事業主には、自分への給与という概念がありません。生活費をいつ・いくら口座から引き出しても、税金は年間の事業所得にかかるだけです。売上の2割を取り分にしても、5割にしても、税額は変わりません。
法人では、会社と社長が別人格です。社長への給与は会社の費用ですが、利益の額を見てから払う額を決められると、法人税の課税所得を社長が自由に動かせてしまいます。定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与の3類型に限って損金を認めているのは、このためです。歩合給は「利益を見てから決める」形そのものなので、損金の外に置かれています。
| 項目 | 個人事業主 | 一人会社 |
|---|---|---|
| 売上に連動して取り出す | 税額に影響しない(事業所得は同じ) | 歩合部分が損金不算入 |
| 取り出す額を月ごとに変える | 自由 | 期首3か月以内の改定などに限られる |
| 売上が多い月に多く取る | 自由 | 上乗せ分は損金にならない |
売上連動の代わりにできること
歩合で取れないなら、売上の波はどこで受け止めるのか。選択肢は3つです。
- 見込みの売上から月額を決め、期首から3か月以内に改定する。 その期は同じ額を払い、超えた利益は会社に残す。売上が落ちても期中に下げられるのは業績悪化改定事由に当たるときだけで、目標未達では足りない(役員報酬を期中に変更する例外)
- 事前確定届出給与で賞与を決めておく。 支給時期と金額を事前に届け出れば損金になる。ただし決めた額は売上に関係なく払う必要があり、届出どおりでなければ損金にならない(事前確定届出給与で社会保険料は下がるか)
- 会社に残した利益を、翌期の報酬や退職金で取り出す。 売上の波を法人の利益で吸収させる考え方は売上に波がある人の法人化で試算している
どれも、売上の増減に合わせて取り分を変えることはできません。言い換えると、法人化した人は「売上に連動して取る」から「会社にいったん貯めて、決まった額を取る」へ切り替えることになります。月額をいくらにするかは、役員報酬の決め方(最適額の計算)で、手取りが最大になる額を総当たりで出しています。
自分の数字で確かめるときの考え方
上の表は、売上1,800万円・経費300万円で年720万円を払う1つのケースです。否認額が同じでも、会社の利益が800万円の前後にあるかどうかで増える税額は変わります。判定ツールで自分の売上と経費を入れ、最適な役員報酬の月額と、その額で残る法人の利益を確かめてください。そのうえで、売上の上振れ分を会社に残す前提で月額を決めると、歩合で取るより手元に残る額が大きくなります。
まとめ
- 役員への歩合給・能率給は、規則的に払っても支給額が月ごとに違えば定期同額給与ではない(質疑応答事例 法人税 11/15)
- 固定給と歩合があらかじめ分かれていれば、固定部分は損金になる。否認されるのは歩合部分
- 業績連動給与は同族会社には使えず、一人社長は使用人兼務役員にもなれない
- 年720万円を「固定30万円+売上の20%」で払うと、定額より法人税等が年103.1万円増える。社長の所得税は減らない
- 売上の波は、期首の月額設定・事前確定届出給与・会社への内部留保で受け止める
よくある質問
一人社長が歩合給を払うと、受け取った側の所得税も変わりますか。
変わりません。歩合部分が法人の損金にならなくても、社長個人にとっては給与所得として課税され、源泉徴収も必要です。同じ金額に法人税と所得税が重なってかかります。
役員報酬を「利益の◯%」と定款で決めておけば損金になりますか。
業績を指標にした給与は業績連動給与に当たり、損金になるのは非同族の法人か、同族会社なら非同族法人の完全子会社に限られます。定款に書いても、社長1人が株主の会社は損金にできません。
売上が予想より伸びた年に、決算前に報酬を上乗せして払えますか。
払うことはできますが、事前確定届出給与として期限内に届け出た額でなければ損金になりません。上乗せ分は法人税の計算で加算され、社長の給与所得としても課税されます。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。