社会保険

弁護士国保は弁護士法人なら残れる。異業種の法人を作ると資格を失う

結論

東京都弁護士国保の令和8年度保険料は、組合員が月32,200円(40〜64歳は37,900円)、家族が1人月14,000円(40〜64歳は19,700円)の定額です。弁護士法人を設立しても、法人設立日から14日以内に適用除外承認を受ければ組合に残れ、単身なら弁護士法人化の損益分岐点は1,254万〜1,258万円と判定ツールとほぼ同じです。ただし異業種の法人を設立した場合は承認を受けられず、協会けんぽに移って組合の資格を失うと組合は案内しています。

  • 組合員の内訳は基礎26,100円・後期高齢者支援金等5,500円・子ども・子育て支援600円(18歳以上)、40〜64歳は介護5,700円を加える。家族の基礎は7,900円
  • 配偶者が家族として加入していると、残っても月19,700円(40〜64歳)がかかり続け、分岐点は判定ツールの865万円から1,123万円に上がる
  • 一度協会けんぽに加入すると、退職などで資格を失わない限り弁護士国保に戻れない。弁護士会の異動で協会けんぽに移った後に戻っても再加入できない例を組合が挙げている

東京の弁護士の多くは、東京都弁護士国民健康保険組合(弁護士国保)に入っています。保険料は所得に関係ない定額なので、所得の高い弁護士ほど区市町村の国保との差が大きくなります。

弁護士の「法人化」には2つの意味があります。1つは弁護士法人を作ること、もう1つは弁護士業とは別に資産管理会社などの法人を作り、そこから報酬を受けることです。弁護士国保は、この2つをはっきり分けて扱っています。前者なら組合に残れますが、後者は組合の資格を失う原因になります。当サイトの計算エンジンで、弁護士法人化の損得とあわせて確かめました。

保険料は組合員月32,200円、家族は1人14,000円から

令和8年度の月額は次のとおりです。

区分年齢月額年額内訳
組合員18〜39歳・65〜74歳32,200円38.6万円基礎26,100円・後期5,500円・子ども600円
組合員40〜64歳37,900円45.5万円上に介護5,700円
家族(1人ごと)0〜17歳13,400円16.1万円基礎7,900円・後期5,500円
家族(1人ごと)18〜39歳・65〜74歳14,000円16.8万円上に子ども600円
家族(1人ごと)40〜64歳19,700円23.6万円上に介護5,700円

介護納付金賦課額は40〜64歳の組合員と家族、子ども・子育て支援納付金賦課額は18歳以上の組合員と家族にかかる。

組合員の保険料は東京の建設国保や食品の国保組合より高めですが、所得に関係ないので、所得の高い弁護士には区の国保(40〜64歳の上限で年113.0万円)より大きく安くなります。一方、家族の保険料が1人ごとにかかるので、家族が多いほど協会けんぽ(被扶養者は0円)との差が縮みます。

弁護士法人なら、適用除外承認で残れる

組合の案内を整理すると、次のとおりです。

  • 弁護士法人や、被用者5人以上の個人の法律事務所は、健康保険・厚生年金の強制適用事業所で、所属する社員・弁護士・従業員は原則として協会けんぽに入る
  • ただし要件に合えば、健康保険の適用除外承認を受けて弁護士国保に残れる。厚生年金は強制適用
  • 申請は、法人設立日など事由が発生した日から14日以内に管轄の年金事務所へ。届出が遅れると承認されないケースがある
  • 70歳以上75歳未満で組合に残る場合、厚生年金は年齢で適用されないが、健康保険の適用除外承認は必要

個人の法律事務所が強制適用になったのは、令和4年10月に弁護士などの士業が適用業種に加わってからです。個人の事務所でも被用者5人以上なら同じ手続きになります。

承認の要件は、厚生労働省の平成17年の通知に基づきます。要件と14日の期限の一般的な仕組みは国保組合は法人化後も続けられる?適用除外承認の4要件と14日の期限で扱っています。

一度協会けんぽに入ると、戻れない

組合は、一度協会けんぽに加入すると、退職などでその資格を失わない限り、弁護士国保に加入することはできないとしています。例として、弁護士会の異動で組合の資格を失って協会けんぽに入った人は、その後元の弁護士会に戻っても、協会けんぽの資格を失えないので再加入できないと説明しています。適用除外承認の期限を逃して協会けんぽに入った場合も、同じように戻る道がなくなると考えておく必要があります。

異業種の法人を作ると、組合の資格を失う

注意が必要なのは、弁護士業とは別の法人を作る場合です。組合は次のように案内しています。

異業種の法人を設立した場合、協会けんぽの適用除外承認は受けられず、協会けんぽ等の社会保険の適用となり、弁護士国保組合は資格喪失となる

例外は、新しい法人の「主たる事業又は業務」が弁護士資格と関連が強い場合で、そのときは組合が承認申請書の加入証明を行うので、年金事務所に相談するよう案内しています。

個人事業主の節税策として、別に小さな法人を作って役員報酬を受け、社会保険料を抑える方法が語られることがあります(マイクロ法人は意味がないのか)。弁護士がこれをすると、異業種の法人から報酬を受けた時点で協会けんぽの被保険者になり、弁護士国保の資格を失います。組合は「弁護士法人等以外の法人での報酬発生」を届出の必要な変更事項に挙げています。家族も含めて保険が協会けんぽに切り替わり、上の「戻れない」扱いも加わるので、弁護士国保の組合員にとっては取り返しのつきにくい選択です。

弁護士法人化の損益分岐点

計算エンジンで、法人化の実質差額を3通りに計算しました。

  • 判定ツール:個人側は東京23区の国保、法人側は協会けんぽ+厚生年金
  • 弁護士国保に残る:個人・法人とも弁護士国保(法人側は厚生年金だけ加入)
  • 協会けんぽに移る:個人側は弁護士国保、法人側は協会けんぽ+厚生年金(承認を受けられなかった場合)
条件判定ツール弁護士国保に残る協会けんぽに移る
39歳以下・単身1,266万円1,254万円1,583万円
40〜64歳・単身1,243万円1,258万円1,719万円
40〜64歳・配偶者あり865万円1,123万円1,296万円

損益分岐点(売上−経費。500万円以上を1万円刻みで探した)。経費600万円・東京23区(令和8年度の特別区統一保険料率)・青色申告65万円(e-Tax)・インボイス登録済み・弁護士(個人事業税5%)・協会けんぽ東京支部。弁護士法人は合同会社と同じ法人税・地方税で計算し、設立費用を見ない2年目以降の比較。配偶者は40〜59歳・収入なしで、組合では家族として加入。組合の保険料は本人が払う前提。2026年(令和8年)分の税率・料率による概算。再計算は node scripts/bengoshi-kokuho-houjinka.mjs。

単身なら、組合に残る限り分岐点は判定ツールとの差が15万円以内です。協会けんぽに移ると、分岐点は約320万〜480万円上がります。

40〜64歳・単身

売上−経費東京23区の国保弁護士国保判定ツール弁護士国保に残る協会けんぽに移る
800万円96.9万円45.5万円−18.9万円−38.6万円−54.7万円
1,000万円112.6万円45.5万円−10.0万円−34.3万円−54.6万円
1,200万円113.0万円45.5万円−4.3万円−8.6万円−42.3万円
1,500万円113.0万円45.5万円+26.1万円+31.8万円−11.8万円
2,000万円113.0万円45.5万円+65.8万円+86.9万円+28.2万円
3,000万円113.0万円45.5万円+194.1万円+248.4万円+161.0万円

前提は上の表と同じ。実質差額はプラスが法人化有利。

売上−経費3,000万円では、組合に残るか協会けんぽに移るかで年87.4万円の差が出ます。所得が高いほど、協会けんぽの保険料(役員報酬に比例)と組合の定額との差が開くためです。

配偶者がいると分岐点は約260万円上がる

協会けんぽでは、収入のない配偶者は被扶養者になり保険料はかかりません。弁護士国保に残ると、40〜64歳の配偶者には家族の保険料が**月19,700円(年23.6万円)**かかり続けます。配偶者の年金は、本人が厚生年金に入れば第3号被保険者になって負担が消える点は同じです。

売上−経費(40〜64歳・配偶者あり)判定ツール弁護士国保に残る協会けんぽに移る
1,000万円+3.0万円−18.0万円−26.2万円
1,200万円+15.0万円+11.3万円−9.7万円
1,500万円+45.4万円+46.1万円+20.7万円
2,000万円+89.0万円+98.1万円+64.3万円

配偶者がいる場合、組合に残っても分岐点は865万円から1,123万円へ258万円上がります。判定ツールで「売上−経費1,000万円なら法人化がわずかに有利」と出ても、弁護士国保の組合員には年18.0万円の不利です。

判定ツールの結果の読み方

  • 単身で弁護士法人にして組合に残る:ツールの結果をほぼそのまま使える
  • 配偶者が家族として加入していて残る:分岐点がツールより約260万円上にあると考える
  • 異業種の法人を作る、または承認を逃す:組合の資格を失い、協会けんぽに移る前提で考える(単身で分岐点が約320万〜480万円上がる)

士業の法人化全般は士業の一人法人、区市町村の国保の水準は国民健康保険料の自治体別比較にあります。弁護士法人の設立は登記・弁護士会への届出など独自の手続きが多いので、税と保険の試算とは別に確認が必要です。

一般論の分岐点ではなく、自分の売上と経費、家族の構成で判定ツールを動かして確かめてください。

まとめ

  • 東京都弁護士国保の令和8年度保険料は、組合員月32,200円(40〜64歳37,900円)、家族1人月14,000円(40〜64歳19,700円)の定額
  • 弁護士法人を設立しても、法人設立日から14日以内に適用除外承認を受ければ組合に残れる。厚生年金には加入する
  • 異業種の法人を設立すると承認を受けられず、協会けんぽに移って組合の資格を失う。一度協会けんぽに入ると原則戻れない
  • 単身で組合に残れば分岐点は1,254万〜1,258万円で判定ツールとほぼ同じ。協会けんぽに移ると1,583万〜1,719万円
  • 配偶者が家族として加入していると、残っても分岐点は865万円から1,123万円に上がる

よくある質問

弁護士法人を作ったら必ず協会けんぽに入るのですか?

弁護士法人は健康保険・厚生年金の強制適用事業所なので、原則は協会けんぽです。ただし、弁護士国保に加入している人は、要件を満たせば健康保険の適用除外承認を受けて組合に残れます。厚生年金には加入します。

資産管理会社など弁護士業以外の会社を作るとどうなりますか?

組合は、異業種の法人を設立した場合は協会けんぽの適用除外承認を受けられず、協会けんぽなどの社会保険の適用となって弁護士国保の資格を失うと案内しています。新しい法人の主たる事業が弁護士資格と関連が強い場合は、組合が承認申請書の加入証明を行うので年金事務所に相談するよう案内しています。

適用除外承認の申請が遅れるとどうなりますか?

組合は、申請は法人設立日などの事由が発生した日から14日以内で、届出が遅れると適用除外が承認されないケースがあるとしています。事前の準備を求めています。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。