税金の基礎
カメラマンの法人化:写真の報酬の源泉徴収と個人事業税5%はどう変わる?
結論
源泉徴収されるのは「雑誌、広告その他の印刷物に掲載するための写真」の報酬で、個人の客から受け取るウェディング・家族写真の代金は対象外です。売上1,000万円・経費300万円で全額が印刷物向けなら年102.1万円が天引きされ、確定申告で48.3万円が戻ります。法人化すると天引きはなくなり、写真業の個人事業税20.5万円は法人事業税等1.9万円に置き換わります(東京23区・概算)。
- 印刷物に掲載する写真の報酬は所得税法施行令320条1項で源泉徴収の対象。1回100万円以下の部分は10.21%
- 給与を払っていない個人(一般の客)からの支払は、源泉徴収の対象外(所得税法204条2項2号)
- 写真業は個人事業税の第1種事業で税率5%。売上1,000万円・経費300万円なら年20.5万円(計算エンジン)
このテーマの全体像 個人事業主の法人化の目安と損益分岐点
カメラマンの法人化で動く税金は、主に2つです。報酬から差し引かれる源泉徴収と、写真業にかかる個人事業税です。どちらも「カメラマンなら全員同じ」ではありません。何のための写真を、誰に納めているかで金額が変わります。
この記事では、条文で対象範囲を確かめたうえで、当サイトの計算エンジンで売上1,000万円の例を計算します。
源泉徴収されるのは「印刷物に掲載するための写真」
所得税法204条1項1号は、源泉徴収の対象として原稿・さし絵・作曲・デザインの報酬などを挙げ、「これらに類するもので政令で定める報酬又は料金」を加えています。その政令が所得税法施行令320条1項です。写真はここに出てきます。
条文の書き方は「雑誌、広告その他の印刷物に掲載するための写真の報酬若しくは料金」です。つまり、写真を撮る仕事のすべてが対象なのではなく、印刷物に載せる写真の報酬が対象として明記されています。
税率は国税庁のタックスアンサー No.2795 のとおり、同じ人に1回に支払う金額のうち100万円以下の部分が10.21%、100万円を超える部分が20.42%です。1回150万円の広告撮影なら、(150万円−100万円)×20.42%+102,100円=204,200円が差し引かれます。
個人の客からの代金は、そもそも対象外
もう1つの線引きは支払う側です。所得税法204条2項2号は、給与の源泉徴収義務を負う個人「以外の個人」が支払う報酬について、1項の規定を適用しないと定めています。
ウェディングフォトや七五三・家族写真の代金を払うのは、一般の個人です。従業員に給与を払っている人ではないので、仮に報酬の種類が対象に当たっても源泉徴収は行われません。
まとめると、カメラマンの売上は次の3つに分かれます。
| 売上の種類 | 支払者 | 源泉徴収 |
|---|---|---|
| 雑誌・広告・カタログなど印刷物に載せる写真 | 出版社・広告会社などの事業者 | 対象(10.21%/100万円超の部分は20.42%) |
| ウェディング・家族写真・プロフィール写真 | 一般の個人 | 対象外(204条2項2号) |
| 上記以外の用途の撮影(ウェブ用など) | 事業者 | 契約内容しだい。支払明細で確認 |
雑誌や広告の仕事が中心の人は、売上の大部分から10.21%が引かれます。撮影スタジオや出張撮影が中心の人は、ほとんど引かれていないはずです。法人化で「天引きがなくなる」効果は、前者にしか出ません。
売上1,000万円なら、天引き102.1万円・還付48.4万円
源泉徴収は前払いの所得税です。年間の所得税額より多く引かれていれば、確定申告で差額が戻ります。
売上1,000万円・経費300万円・東京23区・単身・青色申告(e-Tax)で計算エンジンを走らせると、個人事業主のままの所得税(復興特別所得税込み)は53.77万円です。印刷物向けの比率ごとに、天引き額と確定申告での精算額を並べます(1回の支払がいずれも100万円以下の前提)。
| 印刷物向けの売上 | 源泉徴収される額 | 年間の所得税 | 確定申告での精算 |
|---|---|---|---|
| 1,000万円(全部) | 102.10万円 | 53.77万円 | 48.33万円の還付 |
| 600万円 | 61.26万円 | 53.77万円 | 7.49万円の還付 |
| 200万円 | 20.42万円 | 53.77万円 | 33.35万円の納付 |
| 0円(個人客のみ) | 0円 | 53.77万円 | 53.77万円の納付 |
印刷物の仕事が中心なら、毎年50万円近くを翌年の3月以降まで国に預けている計算になります。法人化するとこの天引きはなくなります。所得税法174条が内国法人について源泉徴収の対象とする所得に、写真の報酬は含まれていないためです。
ただし、これは税額が減る効果ではありません。消えるのは天引きと、その裏側の還付です。一般論は法人成りで源泉徴収10.21%が消えるで、税込・税抜どちらに掛かるかは源泉徴収は税込と税抜のどちらに掛かるかで扱っています。
写真業は個人事業税の第1種事業で5%
カメラマンの税負担で見落とされやすいのが個人事業税です。東京都主税局の業種表では、写真業は第1種事業(37業種)に入り、税率は**5%**です。
個人事業税は、事業所得(青色申告特別控除の前)から事業主控除290万円を引いた額に掛かります。売上1,000万円・経費300万円なら、(700万円−290万円)×5%=20.5万円です。計算エンジンの結果も同じ20.5万円でした。
法人化すると、個人事業税はかからなくなり、代わりに法人事業税がかかります。最適な役員報酬(月48万円)を払った後の法人の課税所得は40万円で、法人事業税1.4万円と特別法人事業税0.51万円、合わせて約1.9万円です。
| 項目 | 個人のまま | 法人化(月48万円) |
|---|---|---|
| 個人事業税/法人事業税等 | 20.5万円 | 1.9万円 |
| 所得税 | 53.8万円 | 13.8万円(役員個人) |
| 社会保険料(労使計) | 国保・国民年金 | 160.1万円 |
事業税の差だけで年18.6万円ありますが、社会保険料が大きく増えるため、手取り全体では逆転しません。業種による個人事業税率の違いは個人事業税は業種でいくら変わるかにまとめています。
手取りで比べると、損益分岐は事業所得1,266万円
源泉徴収は資金繰り、個人事業税は手取りに効きます。手取りで比べた結果がこちらです(東京23区・40歳未満・単身・インボイス登録済み・合同会社)。
| 売上・経費 | 個人のまま | 法人化(最適報酬) | 最適な役員報酬 | 実質差額(年) |
|---|---|---|---|---|
| 800万・250万 | 403.8万円 | 376.8万円 | 月39万円 | −47.0万円 |
| 1,000万・300万 | 484.5万円 | 473.3万円 | 月48万円 | −31.2万円 |
| 1,200万・300万 | 598.0万円 | 599.5万円 | 月54万円 | −18.4万円 |
| 1,500万・350万 | 748.6万円 | 756.8万円 | 月54万円 | −11.8万円 |
※実質差額は税理士報酬の差(年20万円)と法人住民税の均等割を差し引いた2年目以降の金額。
この条件の損益分岐は、事業所得(青色申告特別控除の前)で1,266万円です。計算エンジンは個人事業税5%を前提に計算しているので、写真業のカメラマンにはこの数字がそのまま当てはまります。
機材の買い替えが多いカメラマンは、経費が年によって大きく動きます。分岐点は事業所得で見るため、売上ではなく「売上−経費」が1,266万円を超えるかで見てください。
法人化すると、支払う側の源泉徴収が始まる
受け取る側の天引きがなくなる一方で、法人は役員報酬を払う時点で源泉徴収義務者になります。毎月の役員報酬から所得税を差し引き、原則として翌月10日までに納めます。
アシスタントや他のカメラマンに外注する場合も変わります。外注先が個人で、その報酬が印刷物向けの写真の報酬に当たれば、今度は自分の会社が10.21%を差し引いて納める側です。個人事業主のときに従業員がいなければ204条2項2号で対象外だった支払が、法人になると対象に入ります。
まとめ
- 源泉徴収の対象は「雑誌、広告その他の印刷物に掲載するための写真」の報酬(所得税法施行令320条1項)
- 一般の個人が払うウェディング・家族写真の代金は対象外(所得税法204条2項2号)
- 売上1,000万円が全部印刷物向けなら、天引き102.1万円・還付48.3万円。法人化で天引きと還付が同時に消える
- 写真業は個人事業税5%。売上1,000万円・経費300万円で20.5万円が、法人化で約1.9万円になる
- 東京23区・単身の損益分岐は事業所得1,266万円。業種の数字ではなく、自分の売上と経費で確かめる
印刷物の仕事と個人客の仕事の比率は、カメラマンごとにまったく違います。一般論の数字ではなく、自分の売上と経費で判定ツールにかけてみてください。
よくある質問
ウェブサイトに載せる写真の撮影料も源泉徴収されますか。
施行令320条1項が明記しているのは「雑誌、広告その他の印刷物に掲載するための写真」の報酬です。印刷物以外の用途の扱いは契約の内容で判断が分かれ得るため、支払者の経理担当か税務署に確認するのが確実です。
結婚式場から撮影を請け負った場合は源泉徴収されますか。
支払者が式場などの事業者でも、源泉徴収の対象は政令に掲げられた報酬に限られます。式場への納品が印刷物に掲載するための写真に当たるかは契約の内容によるため、支払明細で源泉徴収の有無を確認してください。
法人化した後、出版社が源泉徴収してきたらどうすればよいですか。
法人に支払う写真の報酬は源泉徴収の対象ではありません。請求書に法人名と法人番号を記載し、支払先が法人であることを伝えて処理を直してもらうよう依頼します。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。