税金の基礎

タレント・声優・モデルの法人化:出演料の源泉徴収10.21%は消える?

結論

出演料の源泉徴収は、個人(居住者)に払う場合の制度です(所得税法204条1項4号・5号)。内国法人が源泉徴収される所得は174条の利子・配当・馬主の賞金などに限られ、芸能の報酬は入っていません。売上1,000万円・経費200万円なら個人では年102.1万円が天引きされ、確定申告で29.1万円が戻ります(東京23区・概算)。

  • 対象は所得税法施行令320条5項の芸能人(俳優・放送演技者・歌手・楽士など)と、同条3項の印刷物に容姿を掲載させるモデル
  • 所得税法174条の10号は「馬主が受ける競馬の賞金」で、芸能法人の報酬ではない。法人化すれば天引きはなくなる
  • 個人事業税の法定業種に俳優・タレントの名はない。かからない扱いなら損益分岐点は事業所得1,266万円→2,198万円に上がる(計算エンジン)

源泉徴収は税金が増える仕組みではなく、前払いの仕組みです。タレント・声優・モデルの場合、論点は「法人化で天引きが消えるか」と「個人事業税がかかる業種か」の2つに分かれます。後者のほうが、法人化の損益を大きく動かします。

源泉徴収される芸能の報酬は政令で列挙されている

所得税法204条1項は、居住者に支払う報酬のうち源泉徴収するものを号ごとに並べています。芸能関係は主に次の3つです。

号対象政令で定める範囲(施行令320条)
4号モデルの業務に関する報酬雑誌、広告その他の印刷物に容姿を掲載させて報酬を受ける者を含む(3項)
5号映画・演劇・政令で定める芸能、ラジオ・テレビ放送への出演・演出・企画の報酬芸能は音楽、舞踊、落語、漫才、歌唱、奇術など(4項)。芸能人は俳優、放送演技者、演出家、楽士、歌手など(5項)
1号原稿・作曲・レコード吹込み・デザインの報酬などテープ若しくはワイヤーの吹込み、脚本、翻訳、印刷物に掲載する写真など(1項)

税率は205条1号の区分で、1回の支払が100万円以下の部分は10.21%、超える部分は20.42%です(復興特別所得税を含む)。5号は「不特定多数の者から受けるもの」を除いているため、投げ銭のように視聴者から直接受け取るお金は対象外です。

政令が職業名を細かく並べているのは、源泉徴収義務を負う支払者の側が、対象かどうかを判断できるようにするためです。裏返すと、列挙にない仕事は源泉徴収されません。

法人が受け取る出演料は174条に入っていない

法人化すると天引きが消えるかは、所得税法174条で決まります。内国法人が源泉徴収されるのは、174条に掲げられた所得だけです。

174条の号内容
1〜2号利子等、配当等
3〜8号定期積金の給付補塡金、抵当証券の利息、金貯蓄口座の利益、外貨預金の差益、一時払保険の差益など
9号匿名組合契約に基づく利益の分配
10号馬主が受ける競馬の賞金で政令で定めるもの

出演料・モデル料・吹込みの報酬は、この一覧にありません。自分の会社が契約の当事者になって出演料を受け取れば、源泉徴収はされません。「芸能法人に払う報酬も源泉対象」という説明を見かけることがありますが、10号は馬主の賞金です。国外の法人に払う場合は別の規定(非居住者・外国法人の源泉徴収)があるため、混同しないよう注意が必要です。

法人化で源泉徴収がなくなる仕組みの全体は、法人成りで源泉徴収10.21%が消える仕組みで扱っています。

名義だけ変えても同じにはならない

天引きがなくなるのは、契約の相手方が実際に法人である場合です。事務所との契約を個人のまま残し、請求書だけ会社名にしても、報酬が誰に帰属するかの問題が残ります。講演料や原稿料で同じ論点を扱った社長宛ての講演料・原稿料は誰の所得かも参考になります。

天引きはいくらで、いくら戻るか

売上が全額、1回100万円以下の出演料だったとします。東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)の個人として、計算エンジンで出した所得税(復興特別所得税込み)と比べます。

売上・経費源泉徴収(10.21%)年間の所得税確定申告で戻る額
800万円・200万円81.7万円35.5万円46.2万円
1,000万円・200万円102.1万円73.0万円29.1万円
1,500万円・300万円153.2万円165.1万円戻らず11.9万円を追加納付

※ 所得税は計算エンジン(2026年(令和8年)分基準)。源泉徴収は売上×10.21%で、1回の支払が100万円を超える分の20.42%は含まない

売上800万円なら、毎年46万円前後を翌年の申告まで国に預けている計算です。法人化すると入金時に全額が入り、この資金の滞留はなくなります。ただし役員報酬からは毎月源泉徴収されるため、天引きそのものが消えるわけではありません。変わるのは、取引先からの天引き(売上ベース)が、役員報酬からの天引き(給与ベース)に置き換わる点です。

個人事業税がかかるかで損益分岐点は900万円以上動く

源泉徴収より大きいのは個人事業税です。地方税法の法定業種は70業種あり、東京都主税局の一覧には俳優・タレント・モデル・声優の名前はありません。近いのは第1種の「演劇興行業」と第3種の「諸芸師匠業」ですが、出演する側の個人が当たるかは一覧からは判断できず、都道府県税事務所の判断になります。

そこで、かかる場合(税率5%)とかからない場合の両方を計算しました。

売上・経費個人事業税5%の場合の実質差額かからない場合の実質差額
800万円・200万円15.5万円−37.6万円−53.1万円
1,000万円・200万円25.5万円−24.1万円−49.6万円
1,500万円・300万円45.5万円−6.6万円−52.1万円
2,000万円・400万円65.5万円+33.1万円−32.4万円
条件損益分岐となる事業所得
個人事業税5%がかかる1,266万円
個人事業税がかからない2,198万円

※ 東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社・最適役員報酬時。実質差額は税理士報酬を差し引いた3年目以降の定常状態(計算エンジン、2026年(令和8年)分基準)

個人事業税がかからない業種では、法人化で法人事業税と法人住民税均等割が新たに乗る側に回ります。そのため損益分岐点は事業所得2,198万円まで上がります。一般に言われる「所得800万円」や、業種を問わない比較の数字がそのまま当てはまらない理由がここにあります。業種ごとの税率の違いは個人事業税がかからない業種の線引きにまとめています。

過去に個人事業税の納税通知書が届いているかは、自分の扱いを知る手がかりになります。届いていなければ、法定業種外として扱われている可能性があります。

事務所所属と完全フリーで変わること

事務所(プロダクション)に所属し、出演料を事務所経由で受け取っている場合、源泉徴収をするのは事務所です。事務所との契約を個人から自分の会社に切り替えるには、事務所の同意と契約の巻き直しが必要になります。

完全フリーで制作会社・放送局と直接契約している場合は、取引先ごとに法人名義への切り替えを依頼します。契約上の地位を個人から法人へ移す手続きの注意点は法人成りで取引先との契約は移らないで扱っています。

同じ「源泉徴収が消える」型でも、印刷物向けの写真に限られるカメラマンは仕事の比率で金額が変わります。比べたい場合はカメラマンの法人化を参照してください。

東京芸能人国保に入っている人は、個人側の健康保険料が区の国保より安く、損益分岐点はさらに後ろにずれます。2,198万円が2,466万円になる計算は芸能人国保は上限が年52万円にまとめています。

まとめ

  • 出演料・モデル料の源泉徴収(10.21%)は、居住者の個人に払う場合の制度
  • 内国法人が源泉徴収される所得は174条に限られ、芸能の報酬は入っていない。10号は馬主の賞金
  • 売上1,000万円・経費200万円なら、個人は年102.1万円天引きされ29.1万円が戻る(概算)
  • 法定業種の一覧に俳優・タレントの名はなく、個人事業税の有無で損益分岐点は1,266万円と2,198万円に分かれる
  • 一般論の分岐点ではなく、自分の売上・経費と個人事業税の有無で確かめることが判断の出発点になる

よくある質問

自分の会社を作れば、事務所や制作会社は出演料を源泉徴収しなくなりますか。

所得税法204条の源泉徴収義務は居住者(個人)への支払が対象で、内国法人への出演料は174条に掲げられていません。ただし、契約の当事者が実際に法人になっている必要があります。契約書・請求書を法人名義に切り替え、支払先に法人であることを伝えてください。

声優のアフレコやナレーションの報酬も源泉徴収の対象ですか。

施行令320条5項は芸能人に「放送演技者」を、同条1項は「テープ若しくはワイヤーの吹込み」の報酬を挙げています。どちらかに当たれば個人への支払は源泉徴収の対象です。個別の仕事がどれに当たるかは支払者の判断によるため、支払明細で確認してください。

ファンや視聴者から直接受け取るお金も源泉徴収されますか。

204条1項5号は「不特定多数の者から受けるもの」を除いています。また、給与を払っていない個人からの支払は源泉徴収されません。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。