税金の基礎
社長宛ての講演料・原稿料は誰の所得か。個人で受けると基礎控除が37万円減る
結論
講演料や原稿料は、誰と契約し、誰が受け取り、誰の業務として行ったかで、社長の雑所得にも会社の売上にもなります。役員報酬月54万円(給与所得474.4万円)の社長が講演料50万円を個人で受け取ると、合計所得金額が489万円を超えて所得税の基礎控除が104万円から67万円に下がり、所得税・住民税が17.7万円増えます。会社の売上にすると、会社の税金の増加は10.7万円です。
- 所得税法12条は、名義人ではなく収益を実際に享受する者に所得が帰属するとしている。国税不服審判所は、名義・資金・入金先・会社の帳票の使用・事業目的との関係から判断している
- 原稿料・講演料は個人に払えば10.21%の源泉徴収の対象だが、内国法人に払う場合は源泉徴収されない(国税庁 No.2792)
- 給与所得474.4万円の社長は、給与以外の所得が14.6万円を超えると合計所得金額489万円の線を越え、令和8年分の基礎控除が37万円減る
法人化した社長のもとには、社長個人の名前で講演や執筆、取材、テレビ出演の依頼が届きます。依頼主は「○○社長様」宛てに契約書を作り、個人の口座に振り込もうとします。このとき、その報酬が社長の所得なのか、会社の売上なのかを決めておかないと、税金の計算も、会社のお金の流れも曖昧になります。
所得は「名義」ではなく「実際に享受する人」に帰属する
所得税法12条は、資産や事業から生ずる収益の法律上の帰属者が単なる名義人で、その収益を享受せず、別の人が享受している場合には、享受する人に帰属するものとして扱うと定めています(実質所得者課税の原則)。
講演料が社長個人のものか会社のものかは、この原則で判断されます。国税不服審判所の公表裁決事例(役員等名義の取引)を読むと、判断に使われている事実はおおむね次のとおりです。
| 判断の材料 | 会社の所得とされやすい事実 | 社長個人の所得とされやすい事実 |
|---|---|---|
| 契約・請求の名義 | 会社名の契約書・請求書・領収書を使っている | すべて個人名義で、会社の帳票を使っていない |
| 入金先・資金 | 会社の口座に入金、または会社の資金で行っている | 個人の口座に入金し、個人の資金で行っている |
| 業務との関係 | 会社の事業目的の範囲で、会社の業務として行っている | 会社の事業目的の外で、個人的に行っている |
| 帳簿 | 会社の帳簿に記録している | 会社の帳簿に記録がない |
※ 国税不服審判所「公表裁決事例要旨 法人税法関係 役員等名義の取引」に掲載された裁決から整理
ある裁決では、取締役個人の口座に入金されていても、会社の得意先との取引で会社の納品書・請求書を使い、会社の在庫を売っていた取引は、会社に帰属するとされました。別の裁決では、代表者が個人名義・個人の資金で行い、会社の帳簿に記録のない事業目的外の取引は、代表者個人のものとされています。入金先だけでなく、契約から帳簿までの一連の事実がそろっているかが問われます。
個人で受けると、源泉徴収と雑所得になる
講演料・原稿料を社長個人で受け取る場合、所得税法204条により、支払う側は10.21%(1回100万円を超える部分は20.42%)を源泉徴収します。国税庁は、原稿料・講演料・印税・放送出演料などの収入は、事業所得に当たる場合を除き原則として雑所得になるとしています。
会社で受け取る場合は、国税庁 No.2792 のとおり、内国法人に払う報酬は(馬主である法人に払う競馬の賞金を除き)源泉徴収の対象になりません。法人成りで源泉徴収がなくなる仕組みは法人成りで源泉徴収10.21%が消えるで扱いました。
給与所得474.4万円の社長は、14.6万円で基礎控除の線を越える
ここで、法人化した社長に特有の落とし穴があります。令和8年分の所得税の基礎控除は、合計所得金額が489万円以下なら104万円、489万円を超えて655万円以下なら67万円、655万円を超えると62万円です。
計算エンジンが売上−経費1,000万〜1,500万円の帯で最適とする役員報酬は月54万円で、給与所得は474.4万円です。この社長が給与以外に14.6万円を超える所得を得ると、合計所得金額が489万円を超え、基礎控除が一度に37万円下がります。
講演料を個人で受け取った場合と、会社の売上にした場合で、その年に増える税額を比べました。
| 講演料・原稿料 | 個人で受けた場合の基礎控除 | 個人:所得税・住民税の増加 | 会社:法人の税金の増加 |
|---|---|---|---|
| 20万円 | 104万円→67万円 | 8.5万円 | 4.3万円 |
| 50万円 | 104万円→67万円 | 17.7万円 | 10.7万円 |
| 100万円 | 104万円→67万円 | 32.9万円 | 21.4万円 |
| 300万円 | 104万円→62万円 | 94.7万円 | 66.6万円 |
※ 売上1,200万円・経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・役員報酬月54万円。個人は講演料をそのまま雑所得とし(経費なし)、所得税(復興特別所得税を含む)と住民税所得割の差を計算エンジンで算出。会社は役員報酬を払った後の利益259.5万円に講演料を加えた場合の法人税等の差
20万円の講演料に対して、個人で受けると所得税・住民税で8.5万円、実に4割以上が税金になります。基礎控除が37万円下がる分が上乗せされるためです。会社で受ければ4.3万円です。
ただし、会社で受けた講演料は会社に残ります。社長個人が使うには、役員報酬・賞与・退職金・配当のいずれかで引き出す必要があり、その段階で別の税と社会保険料がかかります。単純に「会社で受けたほうが半分の税金で済む」とは言えません。会社に残したお金の引き出し方は役員退職金で法人の利益を引き出すで扱っています。
会社の売上にするなら、依頼の段階で決める
社長個人に届いた依頼を会社の売上にしたい場合、次の順で整えるのが筋です。
- 契約の相手方を会社にする:依頼書・契約書の宛名を会社にし、講演や執筆は会社の業務として社長が行う形にする
- 会社の事業目的に入っているか確認する:講演・執筆・研修などが定款の目的にない場合は、目的の追加を検討する(定款の目的変更の費用)
- 請求と入金を会社名義にする:会社の請求書を出し、会社の口座で受ける。インボイスの登録番号も会社のものになる
- 帳簿に売上として記録する
いったん個人の口座で受け取った後で会社に移す、というやり方では、契約と入金の名義が個人のままです。帰属を説明する材料がそろいません。
個人で受けるなら、合計所得金額の線を意識する
一方で、社長個人の知名度で受けた依頼で、会社の事業とは関係のない講演・執筆もあります。個人で受けると決めた場合は、次の点に気をつけます。
- 確定申告:給与を1か所から受けて年末調整を受けている人は、給与以外の所得が20万円以下なら所得税の確定申告が不要な場合がありますが、住民税の申告は別に必要です(一人社長の年末調整)
- 合計所得金額の線:基礎控除の489万円・655万円のほか、配偶者控除(900万円超で減額)、ひとり親控除(500万円以下)など、所得税の控除の多くは合計所得金額で判定します。講演料はそのまま合計所得金額に加わります
- 源泉徴収の精算:天引きされた10.21%は、確定申告で精算されます
役員報酬の額そのものを変えれば、合計所得金額の線との距離も変わります。自分の売上と経費で最適な報酬がいくらになるかは判定ツールで確かめられます。計算の前提は計算方法にまとめています。
まとめ
- 社長宛ての講演料・原稿料が社長の所得か会社の売上かは、所得税法12条の実質所得者課税の原則で、契約・入金・業務・帳簿の事実から判断される
- 個人で受けると10.21%の源泉徴収と雑所得、会社で受ければ源泉徴収はない(国税庁 No.2792)
- 給与所得474.4万円(役員報酬月54万円)の社長は、給与以外に14.6万円を超える所得があると、令和8年分の基礎控除が104万円から67万円に下がる
- 講演料50万円を個人で受けると所得税・住民税が17.7万円増え、会社で受ければ法人の税金の増加は10.7万円。ただし会社に残ったお金は引き出すときに別の負担がある
- 会社の売上にするなら、依頼の段階で契約・請求・入金を会社名義にそろえる
よくある質問
依頼主が社長個人宛てに振り込んだ講演料を、会社に入金し直せば会社の売上になりますか。
入金先を移しただけでは、帰属が変わるとは限りません。所得の帰属は、誰が契約の当事者で、誰の業務として行い、誰が収益を享受したかで判断されます。会社の売上にするなら、依頼の段階で会社を契約の相手方にし、請求書も会社名で出すのが筋です。
講演料が年20万円以下なら申告しなくてよいですか。
給与を1か所から受けて年末調整を受けている人は、給与以外の所得が20万円以下なら所得税の確定申告をしなくてよい場合があります。ただし住民税の申告は別に必要です。また、確定申告をしない場合でも、その所得が合計所得金額に含まれることは変わりません。
会社で受けた講演料を社長に渡すには、どうすればよいですか。
会社のお金を社長に移すには、役員報酬・賞与・退職金・配当のいずれかを経由します。講演のたびに社長へ渡すと、定期同額給与に当たらない役員給与として損金にならないおそれがあります。事前確定届出給与として届け出るか、毎月の報酬の額に織り込むかを期首に決めておく必要があります。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。