税金の基礎

翻訳者・通訳者の法人化:翻訳料の源泉徴収10.21%はどう変わる?

結論

翻訳・通訳の報酬は所得税法施行令320条1項で源泉徴収の対象に挙げられ、事業者から受け取ると1回100万円以下の部分に10.21%が天引きされます。売上800万円・経費100万円が全部事業者からなら年81.68万円が引かれ、確定申告で27.91万円が戻ります。法人化すると天引きはなくなりますが、税額が減るのではなく前払いと還付が消えるだけです(東京23区・単身・概算)。

  • 翻訳・通訳は所得税法施行令320条1項に明記。給与を払っていない個人の依頼者からの代金は対象外(所得税法204条2項2号)
  • 1回100万円を超える書籍翻訳などは、超えた部分に20.42%。150万円の支払なら20.42万円が引かれる
  • 翻訳業の名は個人事業税の法定業種一覧にない。かからない扱いなら損益分岐点は事業所得1,266万円→2,198万円(計算エンジン)

翻訳者・通訳者の売上から引かれる10.21%は、法令で翻訳・通訳と名指しされた源泉徴収です。ただし引かれるかどうかは誰が払うかで変わり、翻訳会社・企業の直接取引・個人の依頼者で扱いが分かれます。

この記事では条文で範囲を確かめ、当サイトの計算エンジンで売上800万円の例を計算します。

翻訳・通訳は政令で名指しされている

所得税法204条1項1号は、原稿・さし絵・作曲・デザインの報酬などを源泉徴収の対象に挙げ、「これらに類するもので政令で定める報酬又は料金」を加えています。その政令が所得税法施行令320条1項です。

320条1項には、脚本・脚色・校正・速記などと並んで**「翻訳、通訳」**がそのまま書かれています。写真のように「印刷物に掲載するための」といった用途の限定はありません。産業翻訳でも出版翻訳でも、会議通訳でも、報酬・料金として個人に払われれば同じ区分です。

税率は所得税法205条1号と復興特別所得税で決まります。国税庁のタックスアンサー No.2795 のとおり、同じ人に1回に支払う金額のうち100万円以下の部分が10.21%、100万円を超える部分が20.42%です。

1回の支払額源泉徴収される額
30万円30,630円
100万円102,100円
150万円204,200円

150万円は(150万円−100万円)×20.42%+102,100円で計算します。書籍1冊の翻訳料をまとめて受け取るような場合は、この20.42%の部分が出てきます。

引かれるかは、依頼者の種類で決まる

条文上の線引きは2つあります。

1つ目は支払う側です。所得税法204条2項2号は、給与の源泉徴収義務を負う個人「以外の個人」が払う報酬には1項を適用しないと定めています。戸籍謄本や卒業証明書の翻訳を頼む一般の個人は、この「以外の個人」に当たるのが普通です。

2つ目は受け取る側です。204条1項は「居住者に対し」支払う者の義務として書かれています。受け取るのが法人なら、この条文の対象から外れます。

依頼者個人の翻訳者に払う場合法人化後に会社へ払う場合
翻訳会社・通訳エージェント10.21%(100万円超部分20.42%)なし
企業との直接取引10.21%(100万円超部分20.42%)なし
給与を払っていない一般の個人なしなし

なお、204条1項は「国内において」支払をする者の義務として書かれています。国外の取引先とだけ取引している場合は、そもそも天引きの前提が違うことがあります。入金額と支払明細で、実際に引かれているかを確認してください。

売上800万円なら、天引き81.68万円・還付27.91万円

源泉徴収は所得税の前払いです。年間の所得税より多く引かれていれば、確定申告で差額が戻ります。

売上800万円・経費100万円・東京23区・単身・青色申告(e-Tax)で計算エンジンを走らせると、個人事業主のままの所得税(復興特別所得税込み)は53.77万円です。事業者からの売上の割合ごとに並べます(1回の支払はいずれも100万円以下の前提)。

事業者からの売上源泉徴収される額年間の所得税確定申告での精算
800万円(全部)81.68万円53.77万円27.91万円の還付
600万円61.26万円53.77万円7.49万円の還付
400万円40.84万円53.77万円12.93万円の納付
0円(個人の依頼者のみ)0円53.77万円53.77万円の納付

経費の少ない翻訳者は、売上に対する所得の割合が高くなります。そのため、事業者からの仕事が中心でも還付は数十万円にとどまり、事業者の仕事が半分程度なら逆に納付になります。

法人化すると天引きはなくなります。所得税法174条が内国法人について源泉徴収の対象とする所得に、翻訳・通訳の報酬は含まれていないためです。ただし消えるのは天引きとその還付で、税額そのものではありません。一般論は法人成りで源泉徴収10.21%が消えるで、税込・税抜どちらに掛かるかは源泉徴収は税込と税抜のどちらに掛かるかで扱っています。

翻訳業は、個人事業税の法定業種一覧に名前がない

手取りに効くのは源泉徴収ではなく個人事業税です。東京都主税局の業種表(第1種37業種・第2種3業種・第3種30業種)には、「翻訳業」「通訳業」の名前がありません。

一覧に名前がないことは、かからないと決まったことを意味しません。業務の実態から、一覧のいずれかの業種に当たるかを都道府県が判断します。そのため当サイトでは「かからない」と言い切らず、2通りで計算します。

売上・経費個人事業税(5%の場合)かからない場合
600万・80万11.5万円0円
800万・100万20.5万円0円
1,000万・120万29.5万円0円
1,200万・150万38.0万円0円

前年分の個人事業税の通知書が届いているかで、自分がどちらに当たるかは確認できます。業種ごとの税率の考え方は個人事業税は業種でいくら変わるかにまとめています。

手取りで比べると、損益分岐は1,266万円か2,198万円

東京23区・40歳未満・単身・インボイス登録済み・合同会社で、個人のままと法人化(最適な役員報酬)を比べた結果です。

売上・経費最適な役員報酬実質差額(5%の場合)実質差額(かからない場合)
600万・80万月36万円−49.9万円−61.4万円
800万・100万月48万円−31.2万円−51.7万円
1,000万・120万月54万円−19.6万円−49.1万円
1,200万・150万月54万円−13.9万円−51.9万円
1,500万・200万月54万円+3.6万円−46.9万円

※実質差額は税理士報酬の差(年20万円)と法人住民税の均等割を差し引いた2年目以降の金額。

損益分岐は、事業所得(青色申告特別控除の前)で個人事業税5%なら1,266万円、かからない扱いなら2,198万円です。個人事業税がかからない人は、法人化で法人事業税と均等割が新たに乗る側に回るため、分岐点が900万円以上遠のきます。

源泉徴収の有無はこの表にまったく影響しません。翻訳会社の仕事が多い人ほど「法人化で入金が1割増える」と感じやすいのですが、手取りの判定は個人事業税の扱いと所得の水準で決まります。

法人化すると、払う側の源泉徴収が始まる

受け取る側の天引きがなくなる一方で、法人は役員報酬を払う時点で源泉徴収義務者になります。毎月の役員報酬から所得税を差し引き、原則として翌月10日までに納めます。

チェッカーや別の翻訳者に外注する場合も変わります。外注先が個人なら、その翻訳料は自分の会社が10.21%を差し引いて納める側です。個人事業主のときに従業員がいなければ204条2項2号で天引き不要だった支払が、法人になると対象に入ります。外注の多い翻訳者は、この事務が毎月増える点も計算に入れておく必要があります。

まとめ

  • 翻訳・通訳の報酬は所得税法施行令320条1項で源泉徴収の対象。1回100万円以下の部分10.21%、超える部分20.42%
  • 一般の個人の依頼者からの代金は対象外。受け取るのが法人なら翻訳会社・企業からの支払も対象外
  • 売上800万円・経費100万円が全部事業者からなら、天引き81.68万円・還付27.91万円。法人化で消えるのは前払いと還付
  • 翻訳業は個人事業税の法定業種一覧に名前がなく、扱いで損益分岐点が1,266万円と2,198万円に分かれる
  • 法人化後は役員報酬と外注費の支払で、自分が源泉徴収する側になる

翻訳会社経由と直接取引の比率、個人事業税の通知の有無は人によって違います。一般論の数字ではなく、自分の売上と経費で判定ツールにかけてみてください。

よくある質問

翻訳会社に登録して受けた仕事は、必ず源泉徴収されますか。

翻訳会社は事業者なので、翻訳の報酬を個人に払うときは源泉徴収の対象になります。ただし契約が雇用で給与として払われる場合は、報酬ではなく給与の源泉徴収になります。支払明細で区分を確認してください。

個人のお客さんから受けた戸籍や証明書の翻訳代も源泉徴収されますか。

給与の源泉徴収義務を負っていない個人が払う報酬には、源泉徴収の規定が適用されません(所得税法204条2項2号)。一般の個人の依頼者からの代金は、原則として天引きなしで全額入金されます。

法人化した後も翻訳会社が10.21%を引いてきた場合はどうすればよいですか。

法人に払う翻訳料は源泉徴収の対象ではありません。請求書に法人名と法人番号を記載し、支払先が法人であることを伝えて処理を直してもらうよう依頼します。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。