役員報酬

永年勤続記念品は役員も非課税?一人社長が使える条件と報酬との差

結論

所得税基本通達36-21は「役員又は使用人」を対象にしており、一人社長も要件を満たせば記念品を課税しない扱いになり得ます。要件は勤続おおむね10年以上、2回目以降はおおむね5年以上の間隔、社会通念上相当な額、現物であること。売上1,200万円・経費200万円の試算では、12万円を記念品で受けると報酬増額より年9.3万円有利でした。

  • 現金・商品券で渡すと全額(商品券は券面額)が給与課税。本人が品物を自由に選べる方式も、品物の価額が給与になる
  • 非課税になる金額の上限は通達に数字がなく「勤続期間等に照らし社会通念上相当」で判断される
  • 試算(東京23区・最適報酬月54万円):記念品6万〜24万円で、同額の報酬増額より年8.3万〜15.5万円有利(法人で費用処理できる前提)

永年勤続の記念品は「従業員向けの福利厚生」と思われがちですが、所得税基本通達36-21の主語は**「役員又は使用人」**です。一人社長も、表彰の要件を満たせば課税しない経済的利益の対象から外れません。

ただし使えるのは法人化してから長い年数が経ってからで、現物であることなど形式の縛りが強い制度です。ここでは要件を通達どおりに確認し、同じ金額を役員報酬で受け取った場合と手取りがいくら違うかを計算エンジンで比べます。

通達36-21の要件は3つ

通達は、使用者が永年勤続した役員又は使用人を表彰し、その記念として旅行・観劇等に招待するか、記念品を支給した場合の利益について、次の要件をすべて満たせば「課税しなくて差し支えない」としています。

要件通達の内容
金額勤続期間等に照らし、社会通念上相当と認められること
勤続年数おおむね10年以上の勤続者を対象とすること
間隔2回以上表彰する場合、おおむね5年以上の間隔をおくこと

記念品からは「現物に代えて支給する金銭」が明文で除かれています。金額の上限は数字で示されていません。すぐ隣の36-22(創業記念品等)には「処分見込価額で1万円以下」という基準がありますが、これは創業・増資・合併などの記念品の基準で、永年勤続には当てはまりません。

一人社長が引っかかりやすい点

  • 勤続10年の起点。通達は勤続年数をどう数えるかまで書いていません。個人事業時代の期間を通算できるかは、通達・タックスアンサーからは読み取れないため、本記事では扱いません。法人設立から数えれば、確実に使えるのは早くても設立10年後です
  • 表彰の実態。通達は「表彰に当たり」としています。社内規程で勤続年数ごとの表彰を定め、ほかに従業員がいれば同じ基準で運用するのが、表彰であることを示す材料になります
  • 社長1人だけの会社。役員だけを対象にした福利厚生は、別の通達(36-29の用役提供等)では課税除外から外されています。36-21にはその限定はありませんが、表彰の名目で毎回高額品を選ぶと「社会通念上相当」の要件で否認されやすくなります

現金・商品券・自由選択は全額が給与

No.2591は、記念品に代えて現金や商品券を支給した場合、または旅行・観劇への招待費用に代えて現金や商品券を支給した場合、その全額(商品券は券面額)が給与として課税されるとしています。

もう1つ見落としやすいのが、本人に品物を選ばせる方式です。国税庁の質疑応答事例は、一定金額の範囲で従業員に自由に品物を選ばせて購入・支給するケースについて、金額の多少にかかわらず品物の価額を給与として課税するとしています。理由は、自由に選べるなら現金を渡して買わせたのと同じ効果になるためです。

一人社長の場合、選ぶのも受け取るのも自分です。「会社が記念品を決めて贈る」という形をとれるかが、他の会社以上に問われます。

現金・商品券を役員に渡した場合は、所得税で給与になるだけではありません。定期同額給与でも事前確定届出給与でもない臨時の支給は、原則として法人の損金にもなりません(No.5211)。

同額を役員報酬で受け取る場合との差

記念品として受け取る場合と、同じ金額を役員報酬の増額で受け取る場合を、node scripts/eizoku-kinen-hin.mjs で比べました。報酬は各条件で総当たりした最適額を基準に、月額(記念品額÷12)を上乗せしています。記念品は法人の費用として処理でき、社長は非課税で受け取る前提です。

売上・経費最適報酬(月)記念品額記念品で受取報酬増額で受取差(記念品−報酬)
売上1200万・経費200万54.0万円6.0万円2.2万円-6.1万円8.3万円
売上1200万・経費200万54.0万円12.0万円4.5万円-4.8万円9.3万円
売上1200万・経費200万54.0万円24.0万円8.9万円-6.6万円15.5万円
売上1800万・経費300万54.0万円6.0万円2.3万円-6.0万円8.3万円
売上1800万・経費300万54.0万円12.0万円4.6万円-4.6万円9.2万円
売上1800万・経費300万54.0万円24.0万円9.2万円-6.2万円15.5万円
売上2500万・経費500万90.0万円6.0万円2.3万円-3.6万円5.9万円
売上2500万・経費500万90.0万円12.0万円4.6万円-3.2万円7.9万円
売上2500万・経費500万90.0万円24.0万円9.3万円-2.6万円11.9万円

「受取」は記念品・報酬を出さない場合と比べた、社長の手取り+法人の税引後利益の増減(記念品は価額をそのまま足す)。前提:東京23区・協会けんぽ東京・40歳未満・単身・インボイス登録あり・合同会社。設立費用・税理士報酬は含めない。

表の読み方

報酬増額の列がマイナスなのは、基準が「手取りが最大になる報酬額」だからです。そこから報酬を上げると、所得税・住民税と社会保険料(標準報酬月額の等級が上がる)が法人税の減少を上回り、社長と法人の合計は減ります。

記念品の列がプラスでも、受け取る額より小さいのは、法人がその分のお金を出しているためです。差の大部分は、記念品なら所得税・住民税・社会保険料がかからないことから来ています。

ただしこれは毎年使える差ではありません。表彰はおおむね5年以上の間隔が必要なので、10年目に一度、次は15年目、というペースです。年間ベースに直せば数万円未満の話で、法人化の判定を動かす大きさではありません。法人化するかどうかは、最適な役員報酬を含めた毎年の手取りで判断する話です。

ほかの非課税枠との違い

役員にも使える非課税の現物給与はいくつかあります。永年勤続記念品は、そのなかでも頻度が最も低い枠です。

枠頻度金額の決まり方記事
永年勤続記念品10年目以降、おおむね5年ごと社会通念上相当(数字なし)本記事
食事補助毎月会社負担 月7,500円以下・本人50%以上負担役員の食事補助
出張日当出張ごと旅費規程に基づき通常必要な範囲役員の出張日当
社員旅行毎年旅行の内容・参加割合などで判定一人社長の社員旅行

毎月・毎年使える枠を先に整え、永年勤続記念品は「法人を長く続けたときに一度使える枠」と位置づけるのが現実的です。

まとめ

  • 所得税基本通達36-21の対象は「役員又は使用人」で、一人社長も外れない
  • 要件は勤続おおむね10年以上・おおむね5年間隔・社会通念上相当な額の3つ。金額の上限は数字で示されていない
  • 現金・商品券は全額、本人が自由に選べる記念品は品物の価額が給与課税になる
  • 試算では記念品6万〜24万円で、同額の報酬増額より5.9万〜15.5万円有利。ただし5年に一度の枠で、法人化の判定を左右する大きさではない

記念品の枠よりも、毎年の役員報酬の設定のほうが手取りへの影響はずっと大きくなります。一般論の数字ではなく、自分の売上と経費で確かめてください。

よくある質問

個人事業主のまま、自分に永年勤続記念品を出せますか?

通達36-21は使用者が「役員又は使用人」を表彰する場面を前提にしています。事業主本人は使用者側なので、この取扱いの対象にはならないと読むのが自然です。

記念品の代わりに旅行券を渡すのはどうですか?

No.2591は、招待費用の負担に代えて現金や商品券を支給すると全額が給与課税になるとしています。旅行券で非課税とする条件は、当サイトでは一次情報で確認しきれていないため、実施前に税理士へ確認してください。

何万円までなら非課税ですか?

通達に金額の上限はありません。勤続期間や地位に照らして社会通念上相当かで判断されます。創業記念品(36-22)の1万円以下という基準とは別物です。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。