社会保険

一人社長の企業型DCは月5.5万円。12月から6.2万円

一人社長の企業型確定拠出年金は2026年11月まで月5.5万円、12月から月6.2万円が共通上限です。iDeCoとの枠、法人税、社会保険、資金拘束を試算します。

一人社長の企業型DCは、DBなど他の企業年金がなければ2026年11月まで月5万5,000円が拠出上限です。2026年12月1日からは、企業型DCとiDeCoを合わせた共通上限が月6万2,000円へ上がります。

会社が出した事業主掛金は全額損金になり、拠出時の社長個人には課税されません。ただし、現金の手取りがそのまま増える制度ではありません。会社の現金を原則60歳まで引き出せない年金資産へ移す仕組みです。

一人社長でも厚生年金被保険者なら加入対象にできる

企業型DCの実施主体は、企業型年金規約の承認を受けた事業主です。加入対象者は実施企業に勤務する厚生年金保険の被保険者とされています。

一人会社でも、社長が役員報酬を受けて厚生年金保険の被保険者になり、社長を加入者とする規約が承認されれば制度を設けられます。「従業員がいないから制度上不可能」というものではありません。

ただし、個人で金融機関へ申し込むiDeCoとは手続きが違います。会社側に次の事務が残ります。

  • 運営管理機関などの選定と契約
  • 企業型年金規約の作成・承認
  • 毎月の掛金納付と加入者データの管理
  • 投資教育と制度変更時の対応
  • 退職・会社解散時の資産移換案内

導入費用や月額管理費には法令上の全国一律額がありません。運営管理機関の見積りを、法人税の減少額と分けて比較する必要があります。

上限は11月まで5.5万円、12月から6.2万円

2026年8月時点の企業型DCの拠出限度額は、月5万5,000円からDBなどの他制度掛金相当額を引いた額です。他制度がない一人会社なら月5万5,000円、年66万円が基本上限になります。

2026年12月1日施行予定の改正後は、第2号被保険者の企業年金とiDeCoを合わせた共通上限が月6万2,000円になります。

時期企業型DC・iDeCoの枠
2026年11月まで企業型DCは原則月5.5万円。iDeCo併用時はiDeCo月2万円まで、合計月5.5万円以内
2026年12月以後企業型DC・iDeCo等を合わせて月6.2万円以内

たとえば11月までは、会社が企業型DCへ月3万5,000円を出すなら、社長のiDeCoは月2万円まで使えます。企業型DCを月5万5,000円まで使えば、iDeCoへ回る余地はありません。

12月以後は共通上限が6万2,000円へ上がります。会社が企業型DCへ月4万円を出すなら、残る枠は月2万2,000円です。DBなど別の企業年金がある場合は、その掛金相当額も同じ枠から引きます。

個人事業主のiDeCo上限は2026年11月まで月6万8,000円、12月から月7万5,000円です。法人化すると第1号被保険者から第2号被保険者へ変わるため、個人のiDeCo枠だけでなく、法人側の企業型DCを含めて比較してください。

月5.5万円なら法人税等は年14.1万円減る

売上1,200万円、経費200万円、役員報酬月54万円の一人会社で、役員報酬を変えずに会社が事業主掛金を追加する場合を計算しました。表は node scripts/kigyougata-dc.mjs で再生成できます。

企業型DCの月額年間掛金法人税等の減少現金手取り等の減少DC資産を含む増加
1.0万円12.0万円2.5万円7.6万円4.4万円
2.0万円24.0万円5.1万円15.1万円8.9万円
3.5万円42.0万円9.0万円26.4万円15.6万円
5.5万円66.0万円14.1万円41.5万円24.5万円
6.2万円74.4万円15.9万円46.8万円27.6万円

※ 東京23区・40歳未満・独身・インボイス登録済み・合同会社。月6.2万円は2026年12月以後。運用損益、導入・管理費、受取時課税は含みません。

月5万5,000円を会社が拠出すると、会社の年間掛金は66万円です。法人税等は14万1,000円減りますが、自由に使える現金と会社の内部留保価値は41万5,000円減ります。一方、社長名義のDC資産が66万円増えるため、両方を合わせた経済価値は24万5,000円増える計算です。

この24万5,000円を「手取り増」とは呼べません。DC資産は運用で増減し、原則60歳まで事業資金や生活費に戻せないためです。導入・管理費が年24万5,000円を超えるなら、この条件では税効果を使い切ります。

役員報酬を下げる場合は社会保険も動く

上の表は役員報酬を月54万円のままにしています。このため、標準報酬月額と健康保険・厚生年金保険料は変えていません。

役員報酬を月54万円から月49万円へ下げ、その差額を企業型DCへ回す設計では結果が変わります。標準報酬月額は4月から6月などに受けた報酬を基に決まり、固定的賃金の変動後は随時改定の要件も確認します。DCを始めた月から自動的に保険料が下がるわけではありません。

さらに、役員報酬の期中変更には法人税上の定期同額給与の制限があります。制度導入だけを理由に自由な月額変更が認められるとは限りません。役員報酬の最適額と等級の境目を確認し、通常は事業年度開始時の改定と合わせて設計します。

企業型DCの事業主掛金は会社の損金ですが、役員報酬を下げすぎると個人の生活資金が不足します。税金と社会保険料だけではなく、毎月自由に使える現金を残す必要があります。

iDeCoとの違いは「誰が拠出するか」

企業型DCとiDeCoは、どちらも運用中の利益が非課税で、年金受取なら公的年金等控除、一時金受取なら退職所得控除の対象です。一時金は役員退職金と期間が重なると控除が調整され、令和8年1月1日以後に受け取る一時金ではその調整期間が9年内に延びました(iDeCo一時金の「5年ルール」は10年に)。大きな違いは掛金を出す主体です。

比較企業型DCの事業主掛金iDeCo
掛金を出す人会社社長個人
拠出時の会社全額損金原則関係なし
拠出時の個人課税されない小規模企業共済等掛金控除
制度運営会社が規約・運営を管理個人で加入
原則の引出し60歳まで不可60歳まで不可

会社の利益を長期資産へ移したいなら企業型DC、会社に制度を持たせず個人で管理したいならiDeCoという違いがあります。併用する場合も、同じ共通上限を二重に使うことはできません。

法人化の判定ツールは企業型DCの導入費と掛金を標準入力にしていません。差額が小さい場合は、ツールの結果へ掛金・法人税減少・制度費用・資金拘束を別枠で足してください。

まとめ

  • 一人社長でも厚生年金被保険者を対象とする規約が承認されれば企業型DCを導入できる
  • DB等がない場合、2026年11月までの上限は月5万5,000円
  • 2026年12月から企業型DCとiDeCo等の共通上限は月6万2,000円
  • 事業主掛金は全額損金だが、原則60歳まで使えない年金資産になる
  • 売上1,200万円の試算では月5.5万円拠出で法人税等が年14.1万円減る
  • 役員報酬を同時に下げる場合は社会保険と定期同額給与を別に確認する

よくある質問

一人社長でも企業型DCへ加入できますか?

厚生年金保険の被保険者である社長を加入対象にした企業型年金規約が承認されれば加入できます。会社として制度導入と継続運営が必要です。

企業型DCとiDeCoは両方使えますか?

要件を満たせば併用できます。ただし2026年11月まではiDeCoが月2万円までで両方の合計は原則月5.5万円以内、12月以後は共通上限月6.2万円の範囲です。

企業型DCの事業主掛金は役員個人の給与になりますか?

企業型DCの事業主掛金は拠出時に加入者へ課税されず、会社側では全額損金算入されます。受取時は年金か一時金かに応じた課税があります。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。