法人化の判断

法人経営者の世帯は個人経営者より純金融資産が1,422万円多い。一人社長は統計に入らない

結論

総務省の令和6年全国家計構造調査(二人以上の世帯)では、法人経営者の世帯は年間収入1,400万円・純金融資産2,491万円、個人経営者の世帯は1,245万円・1,069万円で、純金融資産の差は1,422万円でした。ただし統計の「法人経営者」は家族以外の使用人が5人以上いる会社の役員で、一人社長は「民間職員」など会社員の区分に入ります。差の半分近くは負債が少ないことによるもので、個人事業の借入れは家計の負債に、会社の借入れは会社の負債に入るという数え方の違いも含まれます。

  • 使用人5人以上どうしで比べると、年間収入の差は155万円なのに、純金融資産の差は1,422万円。負債が662万円少なく、有価証券が586万円多い
  • 住宅・土地以外の負債は個人経営者382万円・法人経営者100万円。この区分には個人事業の開業資金・運転資金の借入れが入る
  • 計算エンジンでは事業所得1,200万円・配偶者ありの法人化の差は年15.0万円。資産の差は法人化の節税だけで説明できる大きさではない

社長の家は貯蓄が多い、という印象は数字で確かめられます。総務省が5年ごとに行う全国家計構造調査は、世帯主の職業別に年間収入と資産・負債を公表していて、その中に「法人経営者」と「個人経営者」という区分があります。ただし、この2つの区分は一人で働く人を指していません。まず区分の定義を確かめ、そのうえで規模をそろえて比べます。

統計の「法人経営者」は、従業員5人以上の会社の役員

全国家計構造調査と家計調査は、同じ職業分類を使っています。用語の解説の別紙1から、個人と法人の業主にかかわる区分を抜き出すと次のとおりです。

区分定義(要約)例示
商人及び職人独立して小規模(家族でない使用人4人以下)に事業をする業主理髪店主、大工、アパート経営者、個人タクシー運転手
個人経営者独立して個人組織で大規模(家族でない使用人5人以上)に経営する者大商店主、食堂経営者、不動産業経営者
法人経営者法人組織で家族でない使用人5人以上を雇用する会社・団体の役員社長、会長、取締役、監査役
自由業者個人で専門の技能や知識を内容とする仕事に従事する者弁護士、税理士、開業医、著述家、コンサルタント、デザイナー
民間職員民間の会社などに勤め、主に事務的・技術的・管理的な仕事に従事する者会社員、執行役員、医師、建築士、デザイナー

※ 総務省統計局「令和6年全国家計構造調査 用語の解説」別紙1 全国家計構造調査職業分類表から当サイトが要約

使用人が4人以下の会社の社長は、法人経営者に入りません。分類表には「使用人4人以下の会社の役員」という区分そのものがないため、仕事の内容に応じて民間職員などの勤労者に分類されると読むのが自然です。一人社長の家計は、統計の上では会社員の家計と一緒に数えられています。

このため「法人経営者の世帯の貯蓄は3,000万円超」という数字を、一人社長の平均として引用するのは誤りです。比べてよいのは、同じ「使用人5人以上」の線で区切られた個人経営者と法人経営者の組み合わせです。

職業別に並べると、法人経営者の純金融資産は平均の2.4倍

二人以上の世帯について、令和6年の調査結果を職業別に並べました。

世帯主の職業集計世帯数世帯主の年齢年間収入金融資産金融負債純金融資産
平均60,20058.8歳740万円1,723万円672万円1,052万円
民間職員13,79048.3歳909万円1,569万円1,059万円510万円
商人及び職人3,37060.1歳770万円1,564万円704万円860万円
個人経営者50055.2歳1,245万円2,680万円1,611万円1,069万円
法人経営者1,91059.3歳1,400万円3,445万円954万円2,491万円
自由業者85057.6歳837万円2,640万円637万円2,003万円

※ 総務省「令和6年全国家計構造調査」所得に関する結果・家計資産・負債に関する結果(e-Stat 表3-6・表4-6)から当サイトが集計。1世帯当たり平均。集計世帯数は概数。年間収入は2023年11月〜2024年10月、資産・負債は2024年10月末

法人経営者の世帯の純金融資産は2,491万円で、全世帯平均の1,052万円の2.4倍です。一人で事業をする人に近い商人及び職人は860万円で、平均を下回ります。

自由業者の2,003万円も目を引きます。弁護士・税理士・コンサルタント・デザイナーなど、法人化を検討する層が多く含まれる区分で、年間収入は837万円と法人経営者より563万円少ないのに、純金融資産の差は488万円にとどまります。負債が637万円と最も少ないためです。

規模をそろえると、収入の差155万円に資産の差1,422万円

使用人5人以上という同じ線で区切られた、個人経営者と法人経営者の内訳を比べます。

項目個人経営者法人経営者差
年間収入1,245万円1,400万円+155万円
うち勤め先収入268万円1,184万円+916万円
うち事業・内職収入893万円84万円−810万円
預貯金1,636万円1,791万円+155万円
生命保険など514万円530万円+15万円
有価証券517万円1,103万円+586万円
住宅・土地のための負債1,182万円802万円−380万円
住宅・土地以外の負債382万円100万円−282万円
純金融資産1,069万円2,491万円+1,422万円

※ 出典は上の表と同じ。差は万円に丸めた後の値で計算しているため、内訳の合計と一致しない場合がある

年間収入の差は155万円しかありません。法人経営者の収入は役員報酬なので「勤め先収入」に、個人経営者の収入は「事業・内職収入」に入るという、入る欄の違いが大きいだけです。

一方で純金融資産の差は1,422万円あり、その中身は2つに分かれます。

  • 負債が662万円少ない(住宅ローン−380万円、住宅以外−282万円)
  • 有価証券が586万円多い(預貯金の差は155万円)

個人事業の借入れは家計の負債、会社の借入れは会社の負債

住宅・土地以外の負債の差282万円には、数え方の違いが含まれています。用語の解説の別紙3は、「住宅・土地以外の負債」に個人事業に必要な資金(開業資金・運転資金など)の借入れを含めると定めています。

個人事業主が事業のために借りたお金は、本人の借金そのものです。家計調査の上でも世帯の負債として数えられます。会社が借りたお金は会社の負債で、社長が連帯保証をしていても、世帯の負債には入りません。

同じ理由で、会社名義の預金も世帯の資産には入りません。法人経営者の世帯の資産は「会社に残したお金を除いた、社長の家のお金」です。会社に利益を残している法人経営者ほど、統計上の世帯の資産は小さく出るはずで、それでも個人経営者より1,422万円多いという結果になっています。

住宅ローンの差380万円は、数え方では説明できません。年齢(個人経営者55.2歳・法人経営者59.3歳)が4歳違い、返済が進んでいることも一因と考えられますが、調査結果からは理由を特定できません。

法人化の手取り差だけでは、この資産差は生まれない

この資産の差を「法人化すると節税でお金が貯まる」と読むのは早計です。当サイトの計算エンジンで、配偶者あり・40〜59歳・東京の条件で個人のままと法人化を比べると、法人化による手取りの差(3期目以降・税理士報酬を引いた実質差額)は次の大きさです。

事業所得(青色申告特別控除前)個人のままの手取り法人化の手取り実質差額(3期目以降)
800万円520万円537万円−3.6万円
1,200万円753万円788万円+15.0万円
1,600万円958万円1,033万円+55.1万円

※ 経費200万円・東京23区・40〜59歳・配偶者あり(収入なし)・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準。法人化の手取りは最適な役員報酬のときの値

個人経営者の年間収入1,245万円に近い事業所得1,200万円では、法人化の差は年15.0万円です。1,422万円の資産差を積み上げるには約95年かかります。統計の差は、事業規模の大きさや年齢、借入れの数え方など、法人化の損得とは別の要因が重なった結果と見るべきです。

同じ調査の税・社会保険料の推計を職業別に並べ、計算エンジンの実額と比べた結果は職業別の税・社会保険料の統計の読み方にまとめています。

逆に言えば、統計上の「法人経営者は豊か」という数字は、法人化を判断する材料にはなりません。判断の材料になるのは、自分の所得で法人化したときに手取りがいくら変わるかという差額のほうです。所得別の差額は法人化の目安となる所得で整理しています。

家計調査では、法人経営者の集計は95世帯しかない

毎年の家計調査(貯蓄・負債編)も同じ職業分類で貯蓄を公表しています。法人経営者の貯蓄は増え続けていますが、集計世帯数は減っています。

年法人経営者 年間収入法人経営者 貯蓄個人経営者 貯蓄商人及び職人 貯蓄民間職員 貯蓄法人経営者の集計世帯数
2005年1,104万円3,195万円2,796万円1,800万円1,422万円179世帯
2010年1,116万円3,013万円3,367万円1,632万円1,420万円150世帯
2015年1,203万円3,220万円3,277万円1,730万円1,475万円150世帯
2020年1,263万円3,506万円2,040万円1,855万円1,591万円110世帯
2025年1,283万円3,671万円2,187万円1,927万円2,046万円95世帯

※ 総務省「家計調査(貯蓄・負債編)」世帯主の職業別 1世帯当たり貯蓄・負債現在高(二人以上の世帯)から当サイトが抜粋。集計世帯数が少ない区分は年ごとの振れが大きい

2010年と2015年は、個人経営者の貯蓄のほうが法人経営者より多くなっています。個人経営者の集計世帯数はさらに少なく、2025年は46世帯です。単年の家計調査の数字で個人と法人を比べると、結論が年によって入れ替わります。規模の大きい全国家計構造調査(法人経営者1,910世帯)を軸にするのが安全です。

一人で事業をしている人の所得の分布は、雇人のない業主と会社役員の所得分布と起業した人の28.7%が会社を選ぶ理由で、就業構造基本調査から集計しています。計算の前提は計算方法にまとめています。

まとめ

  • 全国家計構造調査の「法人経営者」は家族でない使用人5人以上の会社の役員。一人社長は民間職員などの会社員の区分に入る
  • 使用人5人以上どうしでは、法人経営者の世帯は個人経営者より年間収入が155万円、純金融資産が1,422万円多い(二人以上の世帯・2024年)
  • 純金融資産の差は、負債が662万円少ないことと有価証券が586万円多いことによる。個人事業の借入れは家計の負債に入り、会社の借入れは入らない
  • 事業所得1,200万円での法人化の手取り差は年15.0万円で、統計上の資産差は法人化の節税では説明できない
  • 統計上の平均ではなく、自分の売上と経費で、法人化したときの手取りの差を確かめるのが判断の出発点になる

よくある質問

一人社長は全国家計構造調査でどの区分に入りますか。

用語の解説の職業分類表では、法人経営者は家族でない使用人5人以上を雇用する会社・団体の役員です。使用人が4人以下の会社の社長は、仕事の内容に応じて民間職員や労務作業者などの勤労者に分類されると読めます。統計の法人経営者の数字を、一人社長の平均として使うことはできません。

法人経営者の世帯の貯蓄には、会社の預金も入っていますか。

入っていません。調査は世帯の家計を対象にしていて、金融資産は世帯が持つ預貯金・保険・有価証券などです。会社名義の預金や会社の借入金は、世帯の資産・負債には含まれません。

家計調査と全国家計構造調査で数字が違うのはなぜですか。

調査の規模と時点が違うためです。全国家計構造調査は5年ごとの大規模調査で、法人経営者の二人以上の世帯は約1,910世帯を集計しています。毎年の家計調査(貯蓄・負債編)は2025年で95世帯しかなく、年ごとの振れが大きくなります。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。