社会保険

社長の世帯の税・社会保険料は年396万円?統計の国保は所得に関係なく一律の推計

結論

令和6年全国家計構造調査(二人以上の世帯)では、所得に課される税・社会保険料は法人経営者の世帯が年396.3万円(年間収入の28.3%)、個人経営者の世帯が339.5万円(27.3%)です。社会保険料だけなら12.7%と6.6%で、法人のほうが2倍近く重く見えます。ただし数字は統計局の推計で、国民健康保険料は所得に関係なく1人当たりの平均額を当てています。計算エンジンで事業所得900万円・配偶者ありの国保を出すと年112.2万円で、統計の個人経営者の健康保険料・介護保険料39.3万円の約3倍です。

  • 統計の税・社会保険料は調査票で聞いた額ではない。国保は国民健康保険事業年報の1人当たり調定額を一律に当て、被用者保険は平均保険料率を勤め先収入に掛けた推計
  • そのため所得の高い個人事業主ほど、統計の国保は実際より小さく出る。事業所得900万円の国保は実額112.2万円、統計の個人経営者は39.3万円
  • 一人社長の会社負担分(役員報酬996万円で年132.4万円)は会社が払うため、世帯の統計には1円も入らない

全国家計構造調査は、世帯の年間収入だけでなく、そこから引かれる所得税・住民税・社会保険料の額も世帯主の職業別に公表しています。法人化を考える人にとっては「社長と個人事業主で、実際どれだけ負担が違うのか」を確かめられそうな表です。ところが、この表の社会保険料は推計の仕方に癖があり、個人と法人の比較に使うと結論を誤ります。

統計では、法人経営者の社会保険料は個人経営者の2倍

令和6年調査の「所得に課される税・社会保険料」(控除推計金額)を、職業別に並べました。

世帯主の職業年間収入所得税住民税公的年金保険料健康保険料介護保険料合計年間収入に対する割合
平均740.3万円28.9万円29.8万円50.0万円32.7万円3.9万円145.3万円19.6%
民間職員908.8万円33.2万円38.4万円77.8万円40.6万円5.2万円195.3万円21.5%
商人及び職人770.1万円51.9万円43.8万円29.7万円30.3万円2.4万円158.1万円20.5%
個人経営者1,245.4万円166.7万円90.8万円42.8万円36.5万円2.8万円339.5万円27.3%
法人経営者1,399.9万円141.1万円77.7万円111.3万円56.8万円9.4万円396.3万円28.3%
自由業者837.3万円69.5万円51.1万円31.3万円30.6万円2.1万円184.6万円22.0%

※ 総務省「令和6年全国家計構造調査」所得に関する結果 表3-6(e-Stat)から当サイトが集計。二人以上の世帯の1世帯当たり平均。税・社会保険料は統計局による推計額

使用人5人以上の事業どうしで比べると、法人経営者は年金保険料が111.3万円で、個人経営者の42.8万円の2.6倍です。社会保険料(年金・健康・介護)の合計を年間収入で割ると、法人経営者は12.7%、個人経営者は**6.6%**です。逆に所得税・住民税は、個人経営者のほうが38.7万円多く払っています。

この表だけを見ると「法人にすると社会保険料が倍になり、税金が少し減る」と読めます。前半はおおむね正しいのですが、個人経営者の側の社会保険料が実際よりかなり小さく出ている点に注意が必要です。

なお、統計の「法人経営者」は家族でない使用人5人以上の会社の役員で、一人社長は民間職員などに分類されます。区分の定義は法人経営者と個人経営者の世帯の貯蓄・負債で詳しく見ています。

税と社会保険料は、聞いた額ではなく統計局の推計

全国家計構造調査は、税や社会保険料の額を調査票で聞いていません。統計局の「年間非消費支出の推計方法」によると、世帯の収入や世帯員の構成から、世帯ごとに次の方法で推計しています。

項目推計の方法(要約)
所得税・住民税収入の種類別に給与所得控除などを引き、社会保険料・配偶者・扶養・基礎などの控除を引いて税率表を当てる。住民税も便宜上、当年の所得で計算。医療費・寄附金などの控除は使わない
国民年金(第1号)1人当たり保険料を当てる。第3号は負担なし
被用者年金(厚生年金など)被用者年金全体の平均保険料率を、勤め先年間収入に一律に掛ける
国民健康保険国民健康保険事業年報の被保険者1人当たり調定額(介護分を除く)を一律に当てる
被用者保険の健康保険職域保険全体の平均保険料率を、勤め先年間収入に一律に掛ける
介護保険(国保)国保加入者全体の1人当たり平均保険料を一律に当てる

※ 総務省統計局「令和6年全国家計構造調査 年間非消費支出の推計方法」から当サイトが要約

問題は国民健康保険の扱いです。実際の国保は所得割があり、所得に比例して上がって賦課限度額で止まります。統計は所得にかかわらず1人当たりの平均額を当てているため、所得の高い個人事業主ほど実際より小さく出ます。一方、被用者保険は勤め先収入に料率を掛けているので、収入に比例して増えます。

つまり、この推計は個人事業主の健康保険料を一律の額に固定し、会社員と役員の保険料だけを所得に連動させています。個人と法人を比べると、法人の負担が相対的に重く見える方向に偏ります。

実際の国保で計算すると、個人の負担は約3倍

当サイトの計算エンジンで、東京23区に住む40〜59歳・配偶者(収入なし)ありの個人事業主の社会保険料を計算しました。国保は令和8年度の特別区の料率で、所得割と均等割、賦課限度額を反映しています。

事業所得(青色申告特別控除前)国民健康保険料(世帯)国民年金保険料(本人+配偶者)社会保険料の合計事業所得に対する割合
600万円79.2万円43.0万円122.2万円20.4%
900万円112.2万円43.0万円155.2万円17.2%
1,200万円113.0万円43.0万円156.0万円13.0%

※ 経費200万円・東京23区・40〜59歳・配偶者あり(収入なし)・青色申告(e-Tax)/2026年(令和8年)分基準。国保は医療分・支援金分・介護分・子ども・子育て支援金分の合計

統計の個人経営者は、事業・内職収入が893万円です。同じくらいの事業所得900万円で計算すると、国保は年112.2万円になります。統計の個人経営者の健康保険料と介護保険料の合計39.3万円の約3倍です。

国保の負担が統計に表れないのは、国保の財政上の数字に原因があります。国保の加入者には年金生活者や所得の低い人が多く、1人当たりの調定額は所得の高い自営業者の実際の保険料よりずっと小さくなります。

一人社長の会社負担分は、世帯の統計に1円も入らない

役員報酬から引かれる健康保険料・厚生年金保険料は、本人と会社で半分ずつ負担します。統計が数えるのは世帯の支出なので、本人負担分だけです。

役員報酬(年額)本人負担会社負担本人負担の割合本人+会社の割合
600万円(月50万円)90.0万円92.2万円15.0%30.4%
996万円(月83万円)129.6万円132.4万円13.0%26.3%
1,188万円(月99万円)140.2万円143.0万円11.8%23.8%

※ 協会けんぽ東京支部・40〜59歳(介護保険あり)。会社負担には子ども・子育て拠出金を含む/2026年(令和8年)分基準。厚生年金の標準報酬月額は上限65万円

従業員を何人も抱える会社の役員なら、会社負担分は会社の経費として世帯の外の話です。しかし一人社長の会社では、会社負担分も自分の事業の売上から払うお金です。役員報酬996万円なら、本人負担129.6万円に会社負担132.4万円を足した262.0万円が、事業から出ていく社会保険料になります。

報酬が上がるほど割合が下がるのは、厚生年金の標準報酬月額に上限(65万円)があるためです。統計の推計方法の説明には、この上限への言及がありません。

一人社長の社会保険料が報酬ごとにいくらになるかは、一人社長の社会保険料はいくらかで等級表から一覧にしています。

個人と法人の負担を比べるなら、同じ物差しで計算する

ここまでをまとめると、全国家計構造調査の税・社会保険料は次の3点で、個人と法人の比較には向きません。

  1. 区分:法人経営者は使用人5人以上の会社の役員で、一人社長を含まない
  2. 国保の推計:所得に関係なく1人当たりの平均額を当てるため、所得の高い個人事業主の負担が小さく出る
  3. 会社負担:役員の社会保険料のうち会社負担分は世帯の統計に入らない

法人化で社会保険料が増えること自体は事実です。ただ、その増え方は「統計で倍」ではなく、国保と国民年金がなくなる分と、役員報酬の健康保険・厚生年金(会社負担を含む)が増える分の差し引きで決まります。役員報酬をいくらにするかで差額は大きく変わるため、自分の売上と経費を入れて、手取りが最大になる報酬額で比べてください。計算の前提は計算方法にまとめています。

まとめ

  • 全国家計構造調査(二人以上の世帯)の税・社会保険料は、法人経営者の世帯が年396.3万円、個人経営者の世帯が339.5万円。社会保険料だけなら年間収入の12.7%と6.6%
  • 数字は統計局の推計で、国保は所得に関係なく1人当たり調定額を一律に当てている。所得の高い個人事業主の負担は実際より小さく出る
  • 計算エンジンでは事業所得900万円・配偶者ありの国保は年112.2万円で、統計の個人経営者の健康保険料・介護保険料39.3万円の約3倍
  • 一人社長の会社負担分(役員報酬996万円で年132.4万円)は世帯の統計に入らない
  • 個人と法人の負担は、統計の平均ではなく、同じ条件で国保・国民年金と役員の社会保険料を計算して比べる

よくある質問

全国家計構造調査の社会保険料は、回答者が答えた金額ですか。

違います。統計局の「年間非消費支出の推計方法」によると、税・社会保険料は調査票で聞いておらず、世帯票と年収・貯蓄等調査票の項目から世帯ごとに推計しています。国保は1人当たり調定額を一律に当て、被用者保険は平均保険料率を勤め先収入に掛けています。

一人社長の社会保険料は、この統計のどこに入っていますか。

一人社長は職業分類で法人経営者ではなく民間職員などに入るため、その区分の数字に混ざっています。しかも統計に入るのは本人負担分だけで、会社が払う会社負担分は世帯の支出に入りません。

個人事業主と一人社長の社会保険料を比べるには、何を使えばよいですか。

国保は自治体ごとの料率と所得から、役員の社会保険は標準報酬月額の等級表から計算する必要があります。当サイトの判定ツールは、国保・国民年金と、役員報酬ごとの健康保険・厚生年金(会社負担を含む)を同じ条件で計算します。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。